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33「人を斬ったことはない」


「そうだな。真面目に考えてはみたが難しいな」


「配下にはしてくれねぇのか?」


「お主は配下にせよと言うがな、私だってリストル様の配下な訳だ。ロクに扶持(ふち)も出してやれん」



 ただでさえ今の私は穀潰しなのだ――、そう小さく呟いたカシロウの声は誰にも届かなかったよう。



「フチ? フチってのは何だ?」


「あ? ああ、給料の事だ。給料が出せなくては配下とは言えまい」



 ちなみにハルと、フミリエの家で家事を行っているハルの母、この二人の給料はトクホルム家当主であるカシロウが出している。


 いくら魔王国幹部の下天であるとは言え、湯水の如く金を使える訳ではないのだ。



「金なんていらねぇ! だから配下に――」


「そこでだ。お主らを私の()()としよう。そしてトザシブで職を紹介する、時には共に飯を食い、困ったことがあれば助け合う。そんな関係ではいかんか?」



 顔を見つめ合う三人の元山賊ども。


 三者三様の可笑(おか)しな頭髪を見てカシロウの頬が少し緩む。

 自らの頭髪(ちょんまげ)を棚に上げた訳でなく、自分は可笑しな頭と一切思っていないカシロウである。



「願ってもねぇ。オラっち達は真っ当(まっとう)に生きる姿をオメエに見せる為に捜してたんだ。それで頼まぁ」


「ああ。こちらこそよろしくな」



 再び頭を下げた元山賊どもの肩に手を置いて、カシロウがそう返した。



「すまんなハル。これではオーヤ嬢を連れていくのはちと難しいな」


「あ、いやオーヤの事は良いんでやすが、大丈夫でやすか? 改心したっつっても山賊でやすよ?」


「ま、大丈夫だろう。根はそう悪い者どもではなさそうだ」



 カシロウ様の友人がこんな連中なんてな問題あると思う云々(うんぬん)とハルがブツブツと言い募る。



「この者どもが私の友人ということはだ。私の()()であるハルの友人でもあるという事だ。よろしく頼むぞ、ハル」


「……な!? あっしの事を親友と言いなすった!?」


「私はそのつもりだが? ハルは違ったか?」


「めめめ滅相もない! ああああっしもそうありたいと常日頃――」


「なら問題なかろう。よろしく頼むぞ」



 ははぁっ、と頭を下げたハル。


 頭を下げたハル越しに、カシロウとヨウジロウの視線が合って、お互いにニコリと微笑み合った。



「ならば自己紹介でござるな! それがしはヤマオ・カシロウの子、ヨウジロウ、十二歳! よろしくでござる!」


「カシロウ様の従者であり、ししし親友のハル! よろしく!」



 二人に続いて元山賊どもも自己紹介を済ませた。



 向かって右の髪を剃り上げている方がナッカ、左の髪を剃り上げている方がマッツ、真ん中を前から後ろに剃り上げている親分がケーブ、それぞれ氏はなく、三人ともに人族である。



「ところでチョンマゲ」


「チョンマゲはもう止せ。カシロウで良い」


「おお、そうけぇ。じゃカシロウ――



 ギラリとハルが睨む。

 たとえ友人でもカシロウは下天、呼び捨てを従者であり親友であるハルが許すはずもない!



 ――様。そこのヨウジロウ……坊っちゃんは、あの時泣いてた赤児かよ?」



 再びハルに睨まれたケーブが慌ててヨウジロウに坊っちゃんをつけた。



如何(いか)にもそうだ。大きくなっただろう?」


「……やっぱあの胸ん中にゃ赤児がいたのけぇ」


「なんだ? 泣き声が聞こえたんだから当然だろう?」


「いやそれがよ。泣き声が聞こえるまではパンパンに金の入った胴巻(どうまき)(腹に巻きつける財布)だと思ってたんでぇ」



 そう言ったケーブが肩を竦ませながら、赤児だと知ってたら早々に引き上げてたんだがよぉ、と続けた。



「ほう? 赤児連れなら見逃してくれたのか?」


「ヴォーグ以外はな。アイツは人を斬るのが好きだったからよぉ」



 このケーブが率いた山賊集団、元々は孤児が集まった人を殺めない(ゆる)い山賊だったのだが、腕が立つ事から仲間になったヴォーグだけは違った。


 人を斬る事に魅入られたヴォーグは、金も奪い命も奪った。



「気さくな面白い奴だったんだがよぉ。どっか狂ってやがった。アイツは殺されてもしょうがねぇよ」



 ツツっと前に進み出たヨウジロウが、


「その節は誠に申し訳なかったでござる」


 そう言って頭を下げた。



「あん? なんで坊っちゃんが謝るんでぇ?」


「ヴォーグ殿を斬ったのはそれ――」



 慌ててカシロウがヨウジロウの口を塞いで手を振り言う。



「気にしないでくれ。こっちの話だから」



 ヴォーグを斬ったのはヨウジロウ、その事を知っているのはあの場にいたカシロウ、天狗、それに話を聞き及んでいるハル、さらにヨウジロウ。


 加えてカシロウから片時も離れることのないトノ。


 そのトノがカシロウの肩から頭を出して何事か告げた。



『……………………』


「……()()()()()人を斬った事はありませぬから……」



 そう小さくカシロウが返した。






● ● ●



 カシロウ達に元山賊の三名を加えた一行は、順調にトザシブへの道のりを歩いていた。



「あっちのよぉ、遠くに森があるの知ってやがるかよ」


 ケーブが東を指してそう言った。


「お主らが木こりをしていたという魔獣の森だな。確かに見える」



 トザシブから東へ歩いておよそ十日程の距離、魔獣の森と呼ばれる広大な森が南北に広がっている。


 東の隣国、人族国家・聖王国アルトロアとの国境に位置するが、深い森である事と広大過ぎる事、さらに驚異度の大小様々な魔獣が多数生息するため通り抜ける者は絶無であるとされている。



「バカ、冗談言うんじゃねぇ。見える訳がねぇだろ」


 そう言ったケーブに、「ウケなかったか」とカシロウが返した言葉には、特に触れずにケーブが話を続けた。



「そのオラっち達が木こりやってた森だ。つっても森の中までは全然行かねぇがよ。おっかねえ魔獣がわんさかいやがるからよぉ」


「魔獣……、天狗山にはいなかったでござるな」


 ヨウジロウがハルに小さな声でそう言った。



「それがどうかしたか?」


「ここんとこ魔獣の森がおかしくってよ」



 魔獣の森のこちら側、ディンバラ領内にブンクァブという町がある。

 そう大きくはないが、魔獣の森で林業に従事する者、南の鉱山で働く者、それぞれが休日に羽を伸ばしに訪れる事でそれなりに賑わっている町。


 

「たまになんだがよ、この二年くれぇかな、ブンクァブ近くまで魔獣が出やがるんでぇ」


「なに? 大事(おおごと)じゃないか」


「その通り、最初は大事だった。今は魔王国軍がそこそこ常駐してやがるから平気なんだがよぉ、物々しくって居心地(わり)いんだ」



 そこまで大物(おおもの)の魔獣は現れないらしいが、小物の魔獣だとしても侮れない。

 小物魔獣の代表格である角兎(つのうさぎ)が相手でも、普通の者ならば命に関わる程である。



「魔獣って見たことないんでござるが、どんなでござるか?」


「まあ、そうだな。分かりやすく言えば普通より体の大きな、魔術を使う獣だ」


「魔術でござるか!? そうでござるか……、魔術は人の特権ではないのでござるな……」



「そう、そこだ。魔獣というのは、宿()()()()()()()()なんだ」

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