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32「現れた彼ら」


 朝食も済ませ、鍋釜や食糧などの必要な物を三人で振り分けて、それぞれが背に負ったところで天狗が口を開いた。



「ありゃ、そんなに食糧いる? 走ってきゃ一日二日じゃない?」


「ハルもいますから。十日ほどかけてのんびり歩いて帰る予定なんです」



 天狗の里とトザシブの距離は、普通に歩けばおよそ十日の距離である。

 であるが、今のカシロウならば走り続けで丸一日、ヨウジロウでも恐らく二日は掛からない。



「あ、そうかハルさんか。ハマグリの神力、引き出せるように練習しとけば良かったね」



 その天狗の言葉に再びハルがいじけた顔をしたかと思いきや、驚いた顔で声を上げた。



「え? あっしもそんなの出来たんですかい?」


「そりゃ出来るさ。ヤマオさんもヨウジロウさんもそれずっとやってたんだから」



 しまった! と指をパチンと鳴らして悔しがる素振りのハルだったが、


「出来るってのは『練習が出来る』って意味だからね? ハマグリの神力を使いこなせるかどうかと、使う程の神力があるかどうかはやってみなきゃ分かんないんだから」


 勘違いさせない様に天狗がすぐさま言い募る。



「それは重々承知でやす。カシロウ様が何事か苦労されていたのは見ておりやしたから」


「ま、また機会があれば練習見てあげるよ。僕も今度トザシブ行くつもりにしてるから」




 そこで話を切り上げて、見送りに来ていた里の面々に別れを告げてトザシブへ向けて歩き始めたカシロウ一行。




 行く手を阻む者どもがいる事も知らずに――






● ● ●


「旅立ちにはもってこいの日和でやすねぇ」



 足取りも軽く森の中の小道を行く一行。

 里の出入りを阻む仕掛けを抜けて幾らか行った頃、ハルが明るい声でそう声を掛けた。



「それより良かったのか?」


「何がでやす?」



 とぼけた表情でハルが問う。



「見送りに来てた娘さんだよ」


「……ああ、オーヤの事でやすか」



 里に一人で住む娘、オーヤ・インゴ。

 素朴な容姿ながら働き者の真面目な娘。


 二人は恋仲という訳ではないらしいが、ハルがここに住んだ七年の間、お互いに気になっていた事を里の皆が知っていた。



「その事でカシロウ様にお話がありやす!」


「お、おお、なんだ、なんでも言ってくれ」


「いつの日か、オーヤをトザシブへと連れて行くと約束したんでやす。そして…………しゅ、しゅしゅ祝言(しゅうげん)を――」



「……なんだと? 祝言だとぉぅ!?」



 滅多に怒りを見せる事のないカシロウが、歩を止めてワナワナと震えつつ、声を荒げてそう言った。


 ひっ、と声を漏らしてハルが恐る恐る口を開く。



「あ、あの、そのでやすね……、トザシブに戻っ――」


「何故もっと早くに言わん! 私とお前の仲ではないか、水臭いぞ! 今から戻って一緒に連れて帰ろう!」



 問うておきながら、続くハルの言葉なぞ聞いていないカシロウだった。



 カシロウは常々憂いていた。

 現在ハルは八つ下の三十二歳、人生で最も充実する日々であろう年頃に、たとえ主従であっても自分の都合で、七年もの間を共に天狗の里で過ごしてくれた。


 いつかハルに報いねばと、常日頃心の片隅に抱いていた。



 なのにハルに、共に人生を歩もうとする相手が出来ていたことに気付いていなかった。


 いや、気付こうとしていなかった。


 そんな自らに腹が立ってしょうがなかった。



「トザシブに戻ってでやすね、元の生活に戻って、しっかりと迎え入れられる様に覚悟と段取りを、でやすね、お袋にもきちんと話をして――」


「偉い! 偉いぞハル! さすがはハルだ!」


「偉いでござるぞハルさん!」


「そ、そうでやすか? なんか、照れちまいやすね」




 ――そんな和気藹々(わきあいあい)とした一行を、突如巨大な炎弾が襲った。



『……………………』



 カシロウの背から顔だけ出したトノが(くちばし)をパクパクと開いて何事か告げた。


「承知!」



 そう言うや否や、カシロウが鯉口を切りつつ振り向きざまに兼定(二尺二寸)を抜き打った。


 ザフンと音を立てて霧散する炎弾。



「威力は上がっているがそれだけだ。成長が見られないんじゃないか? どうだ、山賊親分?」



 右手に持った大刀をそのままダラリとぶら下げて立つカシロウがそう言うと、少し離れた前方、木の影から頰被り(ほおかぶり)の薄汚れた男が三人現れた。



「久しぶりだなぁチョンマゲ」


「ああ、久しいな」



 ハルとヨウジロウも腰に差した木剣(ぼっけん)を抜き、カシロウの両側に並ぼうとするのをカシロウが視線で制した。



「私の客だ、下がっていてくれ。油断するなよ」



 コクリと頷いて大人しく下がった二人を見遣り、再び視線を戻すと山賊親分の周りに大小様々な火の玉が浮かんでいた。



「成長が見られんとは言いやがるぜ。これを見ても同じ事が言えるかよぉ!」



 先ほどの牛ほどもあった炎弾とは違い、大きくても人の頭ほど、小さいものは握り拳ほど、併せて二十ほどの炎弾が我れ先にとカシロウ目掛けて殺到した。


 ふむ、と一言呟いたカシロウが素早く左手で兼定(二尺)も抜き払い、大小の二刀を以って迎え撃つ。



 大きめの炎弾を大刀で斬り払い、()()()()()()()小さめの炎弾を脇差で斬る。


 流れる様に二刀を振るい、目を凝らさねば分からない()()()()()炎弾をも全て、瞬く間に叩き斬った。



「……マジか。極小炎弾まで……」


「すまん、訂正する。この繊細な魔術操作、大いに成長しているらしいな」


「けっ! 一歩も動かずに捌かれちまっちゃ褒められても嬉しかねぇやぃ!」



 そう言った山賊親分の顔は、隠そうとしても隠しきれないニヤニヤが貼り付いていた。



「まだやるか? まだやると言うのであれば、骨の二、三本は覚悟してもらうぞ」



 そう言ったカシロウが、二刀の峰を返して威圧する。

 峰打ちならば手加減なしで打ち込めるぞ、と。



「……オラっち達はよ。敵討ちの為にオメエを探し続けてた訳じゃねえんだ。話を聞いてくれるか?」


「聞こう、話せ」



 チチンと鍔鳴り二つ、カシロウが二刀を鞘に納めて腕を組んだ。

 なんだか様子がおかしいと、ハルとヨウジロウもカシロウの側へと歩み寄る。

 



 山賊どもは並んで地面に座り、話し始めた。



 彼らはこの十二年、下天の十位ヤマオ・カシロウに「真っ当(まっとう)に生きよ」と諭されて以来、悪事は働いていない。


 魔王国ディンバラの東端、魔獣の森の入り口付近で木こりの仕事で日銭を稼ぎ、少しの余裕が出る度にカシロウを探し回っていたらしい。



「頼む! オラっち達をオメエの配下に加えてくれ!」


「襲っといて何言ってんでぇ!」



 そう言ったハルに、


「そいつぁ違う! チョンマゲならあんなのなんて事ねぇに決まってる、逆にアレにやられるぐれぇなら配下なんて願い下げってなもんだ」


 開き直った様子の山賊親分がそう返した。




「私を試したという訳だな」


「……言い方はアレだが、まぁその通りでい」



 突然三人の山賊は頭から被った布を取り、額が地面につくほどに頭を下げた。



「頼む! 配下にしてくれ!」


「うーん……、ってお主らその頭はなんだ?」



 山賊親分の頭は額から後頭部にかけて襟足まで、一人の山賊の頭は右半分が、さらに一人は左半分が、三者三様に髪の毛が無かった。


 ボッサボサの薄汚い髪だが、三人とも毛の無い部分は綺麗にツルツル。



「……失敗したんでぇ。オラっち達もチョンマゲにしときゃ配下入りがスムーズかと思ってよぉ」


「……まさかその頭で十二年か?」


「まさか! 三日前に黒装束の男からよ、チョンマゲが二、三日の間にここを通るって聞いたからよぉ。その日の晩にやったらこの有様よぉ!」



 顔を見合わすカシロウ一行。



「ディエスさんでござろうか?」


「そうでやしょうね」


「絶対に面白がってるな、あのバカ」




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