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23「魔術の才能」

しれっとジャンルを歴史に戻しました。

よろしくお願い致します。


「ヤマオさんならそう言うと思った。なに、きっと大丈夫さ。ヤマオさんの『鷹』も良い宿り神だからさ」



 そう言った天狗に向けて、


「鷹と言えばなんですが、私もヨウジロウの竜の様にその姿を見たいんですが――」


 カシロウが言い終わらないうちに、


「ごめん、それも無理」


 食い気味に天狗がそう返した。



「僕の両掌をヤマオさんに向けるとヤマオさんは覗けないんだよね、位置関係的に」


「鏡を使っては?」


「連中、鏡に映んないんだよ」



 そうですか……、と肩を落としたカシロウながら、気を取り直して再び口を開いた。



「鷹の姿はとりあえず良いんですが、現実問題として私ももはや二十八、私の『武』は既に限界のところまで来ているのではないかと……」



 先程と打って変わって自信なさげにそうカシロウが言う。


 天狗が具現化させた『白虎』と、ヨウジロウの『竜』を目の当たりにした今、自分の『鷹』に当然興味はあるが、魔術すら使えぬ自分ではどうせ(たか)が知れる、それがカシロウの正直な思いだった。



「何言ってんの。二十八なんて鼻垂れ坊主だよ。僕なんてもう三百歳近いけどね、それでも去年の僕より今の僕の方が強いよ。ぜーんぜんまだまだ成長できるよぉ」



 いつも通りの『軽さ』でもってそんな事を天狗が(のたま)うが、カシロウの耳にはやけに説得力を持って届いた。



(確かに、この天狗と呼ばれる老爺は間違いなく強い。今こうしていても、攻め込む隙は見当たらない)



 キリリと表情を引き締めたカシロウ。



「ご指導頂けますでしょ――」



 カシロウが言い終わらないうちに、唸り声と共にバチンと太腿を叩かれた。



「うー! うー!」



 見るとヨウジロウが膳台を見詰めて唸っていた。



「……誰のせいで苦労していると……」


 大袈裟に肩を落としたカシロウを、


「あはははっ! 泣く子と空腹には勝てないさ。良いからヨウジロウさんにご飯をおあげ。勿論僕に出来ることはしてあげるからさ」


 天狗が明るく笑い飛ばした。



(かたじけな)い。よろしくお願――」


「うー! うー!」


「分かった分かった! やるやる!」



 匙で掬ってヨウジロウに粥を与える。



「うー♪ うー♪」


「そうだろうそうだろう。米は冷めた方が甘味がよく分かるんだ。良し良し、食え食え」


「うー♪ うー♪」






● ● ●


 カシロウ親子はもう二日ほど里長宅で静養し、体の回復に努めた。


 その間、ヨウジロウの昼寝の時間を使って、カシロウも鷹の力を感じられる様に、天狗から宿り神についてのレクチャーを受けた。




「さぁ、白虎の神力(しんりょく)をヤマオさんに移すよ」


「はい。お願い致します」



 場所はあの、里長の自慢だった庭。


 天狗が淡く光る右手でカシロウの胸に触れると、その淡い光がカシロウの胸へ、スゥっと潜り込む。



「どうだい? 何か感じるだろう?」


「……いえ、コレと言って特には……」


「え? ほんと? ……あ。これじゃダメだ」



 天狗の視線が地面へと落ちる。

 その視線を追ったカシロウが見たものは、カシロウの足元を濡らすように淡く光る(神力)溜まり。



「全く抵抗せずに受け流したらしいね。面白い宿り神だなぁ」


「どうなる予定だったんです?」



 地面に染み込む様に消え去った白虎の神力を見送ったカシロウが聞いた。



「それはまだ秘密。もっかいやろう」


 先程よりも強く右手を光らせた天狗、再びカシロウの胸に触れて神力を移した。



「さぁ今度はどうかな? こんだけ移せばさすがに全部は受け流せないと思うんだけどな」



「…………う」



 いくらか鷹が受け流したのであろう、白虎の神力がバシャバシャと音を立てるかのように足元で跳ねる中――



「……ぅ、ぅぅう」



 唸るカシロウが両手、両膝を地に着いて――



「…………うぉえぇぇぇ」



 ――堪え切れずにキラキラと吐いた。




「良し良し、成功成功」



 そう満足そうに頷いた天狗を、えずくカシロウが恨めしそうに見遣(みや)った。


 カシロウの吐瀉物(キラキラ)が、足元に溜まっていた白虎の神力と混ざり合いつつ再び地に染み込む様に消え去った。



「……今のは何なんですか? 物凄い不快感でしたが……」


「その不快感をもたらしたのが、ヤマオさんの『鷹』さ」


「不快感が……、私の鷹?」



 カシロウ、当然訳が分からない。



「神力ってのは他者のものは相入れないのさ。だから僕の神力を放り込むと、ヤマオさんの宿り神が反応・抵抗する、抵抗すると不快感が伴う。そんなもんなのよ」


「……はぁ、そんなものですか」


「ま、連中喋んないし白虎に教わった訳じゃないからね。色々試してみて、どうやらそうみたい、って感じで納得してるだけだから」



 カシロウもとりあえずは、天狗の軽さを見習って納得した事にした。



「なんとなく納得はしましたが、さっきのアレでは鷹について良く分かりませんでした」


「そりゃそうさ。だから何回かやるから。ほら、次行くよ」





「うぉえぇぇぇぇぇ」







 それを二日の間に何度か繰り返し、カシロウもぼんやりとだが、何か異質な、しかし異質でありながら、温かみを感じる何かが体内の奥の奥に居ることを感じた。


 その異質な何かは、一度(ひとたび)その存在を感じてみると、自分に力を与えてくれる様な、例えるなら『もう一つ心臓がある様な』、何となくそんな想いをカシロウは抱いた。



「つい先日までは感じなかったこの力、もしや私は魔術が使える様になったのではありませんか?」


「いや、ごめん無理。どうやらヤマオさんと魔術とはホント縁がないみたいなんだ」



「え、そうなんですか?」



 カシロウは二度の御前試合を剣だけで優勝してみせた。


 魔術など使えなくとも、と普段から強がってはいるものの、実は幼い頃から魔術に強い憧れを抱いていた。


 己れの剣に加えて魔術が使えれば、と何度夢想したことか。



「実はね、魔術ってあれ、消費するエネルギーは自分の魔力だけど、魔術そのものは宿り神の力なんだよね。(ちまた)で信じられてる様な、精霊の力なんて無いの」


「では私も鷹を感じられる様になったんですから――」



 チッチッチ、と立てた指を左右に振った天狗が言う。



「宿り神を感じなくたって使えるんだよ。使える人は最初(ハナ)っから。だからね、魔術ってのは本人と宿り神の才能なんだ」


「ならば、私と鷹には……」



 立てた指を今度はカシロウにビシッと向けて――



「才能がない!」



「なんと! 酷い!」

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