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124「ヨウジロウの意識を」


「歴代神王にずっと巣食ってる()()宿()()()の名がイチロワなんだ」


「イチロワが……宿り神?」


「そうなんだよ。トノと同じ様に自我のある、でもトノの様には宿主にも触れられない、実体のない宿り神さ」



 天狗が簡潔にイチロワの事を話す。


 イチロワとは、過去数百年に渡って神王に宿り続ける宿り神。

 神王が代替わりを経たとしても、新たな王を宿主に替え、神王国を神王国足らしめる存在だと。



「ラシャさんに頼んでさ、二人で行ってきたんだよ神王国」



 先日お宿エアラを訪れた際、天狗の不在を教えられた事を思い出したカシロウは納得がいった。


「急な用事とは神王国へ行ってらしたんですか」


 相変わらず王城に空いた大穴を見詰めてわなわなと震えるラシャ・シュオーハは、魔王国の外交を担う男。


「きちんと手順を踏んでさ、神王に謁見までしてきたのにね、その神王の中に居ないんだもん」



 そう言って天狗は、ヨウジロウへ向けていた視線をトビサへ遣り、そして再びヨウジロウ(イ チ ロ ワ)へと向けた。



「まさかトビサさんの左腕に出張(・ ・)に出てたとはね」


『ふは。まさか貴様を欺ける日が来るとはな。長生きはするものだ』



 二人にだけ分かる因縁があるらしいと、カシロウにもそれは分かるのだが、長々と話をしている場合ではないと口を開く。



「天狗殿! そんな事よりヨウジロウとトビサを!」


「うん、分かってる。ラシャさん、そんな穴なんて見詰めてないで、トビサさんの腕を頼むよ」


 大穴を見上げ、修繕費用が幾らになるか、どこへ賠償させるべきか、外交を担う男らしい独り言をぶつぶつと続けていたラシャ。


 我に返ってトビサに駆け寄って言う。


「治癒術は得意だが……、私では繋げられませぬぞ!」


「それで良いよ。と言うかね、あの時も繋いじゃいけなかったんだ」



 トビサの左腕はかつて、一時トザシブを騒がせた辻斬り、神王国の勇者ダナンに斬り飛ばされた。


 そしてそれを、カシロウの望みに応える形で天狗が繋いだ。



「――! まさか、そのあの時のダナン殿の黒い神力……、しかしあれは私が――」


「そう、きっかり一分(いちぶ)(≒六ミリ)、ヤマオさんは僕の言った通りに斬ってくれた」


「ならば何故!?」


「ごめん、完全に僕の失態だよ。たぶん……いや、きっと骨に小さな種を詰め込んでたんだ」



『ご明察。老いたとは言えさすが魔王の(いぬ)、しかしアレに気付けんようでは、老いは隠せんようだなぁ、ふはは』


 かつての天狗にどれ程の煮え湯を飲まされたのか、会心の笑みを向けてそうイチロワが笑う。


「ホント、僕も耄碌(もうろく)したもんだよ。トビサさんにもヤマオさんにも謝らなくちゃね」



 それを聞いたラシャ、恐る恐る呻くトビサの腕へと治癒術を行使しつつ言う。


「その種とやらはもう入っておらぬのか!? このまま癒して良いのだな!?」


「平気だよ――」


 そう言った天狗はいきなり跳び、斬り飛ばされたトビサの腕を、神力を籠めた足で勢いよく踏みつけて消滅させた。


「――種があったのこっちみたいだから」


『バレておったか。しかしもう今更だな。ふははははは』



 ヨウジロウの姿でペロリと舌を出し笑ったイチロワが続けて言う。


『お前たちは後だ。とにかく過去の遺恨を晴らさねばな』



 イチロワはキッと視線を上げ天井を睨み、そしてまた不敵に笑う。


『ふは、見えん。全く忌々しいジジィだ』


「誰がここを作ったと思ってるのさ。この忌々しいジジィだよ? そんな簡単に覗かれるようにはしてないさ」


 そして天狗はカシロウへ言う。


「少しで良いからヨウジロウさんの意識を取り戻させて欲しいんだ。そうすれば僕がなんとかするから」


「ヨウジロウの意識を……。承知! 何としてでも!」



 イチロワにヨウジロウを取られ、何をしてでも絶対に取り返すと決意を固めるカシロウだったが、何をどうすれば良いかさえ分からなかった。


 そのカシロウに、意識を少し取り戻せさせすれば良いと天狗が言う。


 ならば殴ってでも取り戻すと、カシロウが拳を握ってヨウジロウ目掛けて駆け出そうとしたその時。



『見えんがどうせあの辺りだろう――』



 そう言い残してヨウジロウが跳び上がり、地下牢の天井をぶち破って姿を消した。


「――な……」


「ヤマオさん、追うよ! たぶん魔王の間!」



 天狗の読みはピタリと当たっていた。


 ヨウジロウは一息に二つ三つと天井をぶち破り、二白天とウナバラの三人だけが居た魔王の間へ。



 突然、ボガンと音を立てて床から現れたヨウジロウへ向けて言ったのはウナバラ・ユウゾウ。


「おぃヨウジロウ。お前どういうつも――、……誰だ、オメェ?」


 そして腰の刀に手を伸ばし、腰を落として構えて見せた。



『魔王の部下には優秀なのが多いな。羨ましいわ』


「どうやら先ほどの轟音と揺れはお前のせいらしいな。名乗れ、何者だ」



 やや上へ視線を上げて何かを考える素振りのヨウジロウの姿をした何か。

 不意に視線を下げてこう言った。


『何を言うでゴザルか、ソレガシはヨウジロウでゴザルよ』


「そりゃぁさすがにもう無理だろう」



 言うと同時、ウナバラは抜く手も見せずに居合を飛ばす。

 先日ここでカシロウとの立ち合いの際に見せた神速の居合に光の魔術を乗せたオリジナルの居合。



『いきなり危ないじゃないか、でゴザルぞ』


 少しも危なげなく、それを手で掴んで砕いたヨウジロウ。


『お前らは後だ。(くび)り殺してやるから、とにかく魔王を出せ』


「……ほう? ヨウジロウに扮した誰かさんは、ウチの魔王様を御所望か」


「ならんぞならんぞ! ユウゾウ、この者をビスツグ様に会わせる事は絶対にならんぞ!」


 二白天の一人グラスがそう叫び、もう一人のブラドは油断なく魔術を練り、作り上げた魔力の玉をヨウジロウ目掛けて投げつける。


 ヨウジロウのすぐ近くで破裂した魔力の玉が、半透明の壁を作り出してヨウジロウを四角く覆った。


 そこへ、ヨウジロウが空けた床の穴からカシロウが跳び出し、僅かに遅れて天狗が普通に扉を開けて入ってきた。


「おぅ、ヤマオに天狗殿。とりあえずブラド翁の結界で捕らえたが、一体こいつはなんなんでぇ?」


「そやつは紛れもなくヨウジロウですが、中にイチロワが――」


『捕らえた、と言ったか? こんなもので我が捕らえられると思うとは、舐められたものよなぁ!』



 ヨウジロウの体が淡く光ったかと思う間に、膨れ上がった神力が何かの姿を成してゆく。


 それはどんどんと膨れ上がり、遂には結界を中から破壊、さらには壁も、その外の壁も天井も破壊して膨れ上がった。



「みんな! とにかく外に出るよ! このままじゃ全滅しちゃう!」


 天狗の号令に従ったカシロウらは、壊れた壁から王城の外へと飛び出して、ジャボンジャボンと水音を上げて、次々に堀へと飛び込んで王城を見上げた。



「なんとまぁ……こりゃ大変だなぁオイ」



 冗談めかしてウナバラがそう言うが、冗談で済む雰囲気ではなかった。



 シャカウィブでタロウが出したそれと較べて倍ほどもある竜が、魔王の間の辺りで鎌首を持ち上げていた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 普段出番があまりないから忘れてたけど、他の十天ってカシロウより序列上なんだよね… これは彼らの活躍が見られる?れる? そしてやっぱり頼りになる天狗ぅ!
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