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97「この父に任せておけ」


「大丈夫。あとはこの父に任せておけ」


「ただな、トノが眠ってしまったゆえ、その兼定を貸してくれ」


 そうヨウジロウに告げたカシロウは、ヨウジロウから受け取った兼定(二尺)を帯に差した。

 そして二人に背を向けてイチロワの操るクィントラへと向き直り、唖然とした顔で言った。



「……本当にクィントラか? 面影が一つもないじゃないか」


『マぁ、しょうがあるマい。此奴(こやつ)の器では我が神力が溢レルのは必然ダ』



 顔も体も、元のクィントラと同じところは一つもない。

 髪色さえも、人族特有の真っ黒い髪。



『ノコのコやってきた訳ダが、そのスカすカの神力でどうスるつもりダ?』


「お? やはりバレたか?」



 イチロワの言う通り、カシロウに残された神力は微々たるもの。

 初めての試みだったトノによるカシロウの操作、さらに慣れない神力での治療、トノの神力は枯渇寸前で眠りに落ちた。


 例えトノが起きていても、鷹の目までしか神力は使えない状態である。



「しかし、それでもなんとかせねばならぬし――、なんとかなるだろうと思っているよ」



 カシロウはそう言い兼定(二尺二寸)を抜き、そのまま右手にだらりとぶら下げた。


 イチロワもまた、サーベルを抜いて眼前に立てて構えて言う。



『根拠ガ無いよねェぇ。でもマぁ別ニ? オ前はいらヌし、死んで後悔セよ』



 お互い同時に突っ込んで、一合二合、ジャリンジャリンと刃を合わして跳び離れた。


 驚いた顔はイチロワ。

 あの全身が赤くなる身体強化を使っていないカシロウに対し、クィントラの肉体の限界まで積んだ(・ ・ ・)イチロワ。


 先ほどまでトノに操られていたカシロウでさえ、赤くなる身体強化『鷹の翼』を使っていたはず。


 『素』のカシロウなぞ相手になるはずがない。


 イチロワの考えではそうなっていたし、実際そうなるはずだった。



「何を驚いた顔をしている。お主の剣技自体はクィントラに毛が生えた程度、先ほどの勇者Bやダナン殿に比べれば何ほどの事はない」


『……ダナン? あぁ、アいつカ』


 一瞬キョトンとしたイチロワだったが、ニヤリと笑って続けた。



『ソうかも知レんがナ……、オ前には決め手ガなかロうよぉォ!』



 イチロワは叫びながら踏み込んで、サーベルを真っ直ぐ突き入れる。


 しかしカシロウ、一つも慌てずに右手にぶら下げた兼定(二尺二寸)を振り上げてそれを弾き、素早く振り下ろして肩口から脇腹へかけ袈裟に斬る。



『ほぉぉラ、全く効カナぁぁい!』



 斬り裂かれたそばから傷口が埋まってゆく。

 すでにクィントラの体は継ぎ接ぎだらけ、でっぷりした体に加えてひん曲がった顔、さらには皮膚さえも元通りの所はほとんどない。



「ああ、そうだな。お主の取り憑いたクィントラを斬るには決め手がないな」


『だぁロォぉ? だカらもう諦めテ死ねよぉぉ!』


「でもまぁ、やりようがない訳でもない」



 カシロウは兼定(二尺二寸)に血振りを一つくれ、廊下からこちらを窺うヨウジロウらを見遣って言う。



「トノが私を動かしていた時も戦いは見ていた。目を覚ましてからもヨウジロウらとの戦いの最後を見た」


『ソれが?』


「さらに今のお主の体を見て確信した。お主は倒せる」


『――根拠が無ァァい!』



 クィントラの全身から多数の神力の刃が飛び出した。

 それぞれがカシロウの全身を襲うように襲い来る。


 腰に差した兼定(二尺)も抜いて、カシロウはそれを叩き斬る。


 ほとんど全てを斬り伏せたが、幾つかは浅くカシロウの体を斬り裂いた。


 それでも怯む事なくイチロワを睨み付け、


「お主は私が斬る」


 カシロウがそう言って二刀を構えた。



『オ前には出来ぃィィん!』


 イチロワは再び神力の刃を噴出させ、同時にサーベルを構えてカシロウへ突き入れた。



 カシロウは深く集中し、殺到する神力の刃の中から致命のものだけを選び出して斬り捨てる。


 ヨウジロウが幼い頃、幾度も斬り裂かれたあの日を思い出し、筋肉で挟んで砕く事もする。


 それさえ出来ぬものは甘んじて受けて血を吹き上げながら、


「お主の弱点はこれだろう?」


 サーベルを二尺二寸でかち上げて、ギョッとするイチロワの顔をチラリと見遣り、容赦なく二尺をクィントラの胸目掛けて斬り上げた。



『……オま――っ! まさか気付い――っ』



 クィントラの胸に掛けられた首飾り、中央の石がパァンと音を立てて弾け飛んだ。



『――く、クソがぁァァぁぁ! このマまでは、このマまでは憑依が――っ!』



 バシュゥゥゥと勢いよく神力が抜ける音が響き、クィントラのパンパンに膨れた腹が幾らか萎んだ頃、どうやら抜けきったようで音が止んだ。



 立ったまま気を失っているかの様にクィントラは動かない。



「……父上? 話しても平気でござるか?」


 廊下からこちらを窺うヨウジロウ、全身から血を流しつつもクィントラへと警戒を解かないカシロウ。


「そこから近付かなければな」


「どうして首飾りだと?」


「あぁ、それがな――」



 カシロウはイチロワが現れた時も、トノとイチロワとの戦いも、タロウとヨウジロウの戦いの最後も見ていた。


 カシロウは当初、浅くはあったがクィントラを袈裟に斬った。トノもクィントラの腹を裂き、胸を突いた。


 どうやらタロウやヨウジロウも腹や肩口から脇腹へ、さらに顔も斬った様子。

 (いびつ)に皮膚を引っ張って修復した後を見れば、それは容易に知れる。



 イチロワが現れた時、ブーツ、サーベル、首飾りが輝くと共に、クィントラへイチロワが憑依した。


 そしてヨウジロウとイチロワの最後の攻防、ヨウジロウが突いた兼定(二尺)を、イチロワはわざわざ腕を上げてそれを防いだ。


 ヨウジロウの剣は、継ぎ接ぎのない胸元、首飾りをかすめる軌道を進んでいた。



「……それだけでござるか?」


「ん? ああ、それだけだ。最後に剣を合わせた時に確信したんだが、根っこはそれだけだ」


「違ってたらどうしたでござる?」


「どうだろうな? まぁ、『任せろ』と言った手前な、なんとかしただろうさ」



 ヨウジロウへそう言いながら、二刀を両手にぶら下げて、油断なくクィントラを見詰めるカシロウ。


 そしてどうやら、クィントラが意識を取り戻した。



「お帰りクィントラ。気分はどうだ?」






今週も読んで頂きありがとうございます。

次回は週明けを予定、

またのお越しをお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[一言] 弱点が有ったでござるか…ほっとしたでござる。 次話、クィントラは如何に? 見物でござるなぁ(笑)
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