フられタヌキのヨヨ丸はタヌキヨイショ楽園で今日も癒やされる
この物語はフィクションであり、実在する人物、キャラクターまたはタヌキとは一切関係ありません。
僕は雄ダヌキさんに酷いフラレ方をした『フラれ狸のヨヨ丸』だ。
僕が雄ダヌキさんと出逢ったのは、タヌキ大の食堂だった。
雄ダヌキさんは、僕より二つ上の先輩だ。
偶然だったのだろう。決して運命ではなかった。
きっかけは何気ない会話だったと思う。どんな音楽が好きとか。そんな理由。
話の中で、雄ダヌキさんは、『僕は問題を抱えたタヌキさんを言葉で殺してしまった』と悩んでいた。
僕は問題を抱えた狸を差別しない『雄ダヌキさんの優しさ』にいたく感じ入り、雄ダヌキさんに猛アプローチをかけることにした。
まず僕は、『問題を抱えた狸の中では、賢いって言われてるんですよ。医者のお墨付きです』と、雄ダヌキさんに事あるごとに知性をアピールした。タヌキの世界では賢い雌はモテるからね。
でも、うーん。イマイチ反応が薄いな。
だったら、まずは馴れ馴れしい呼び方からだ! 僕は方言で馴れ馴れしく雄ダヌキさんを呼び、一気に雄ダヌキさんとの距離を詰めた。
また、メールで雄ダヌキさんに僕の好きなところを挙げてと言った。事あるごとにくっついた。
あくる日、雄ダヌキさんは言った、ヨヨ丸は変態だ。普通の雌ダヌキは毎夜迫ってきたりはしないって……。
ひどいや。
雄ダヌキさんは僕がビッチだと周りに言いふらしたんだ。
雄ダヌキさんの真意を問いただすために、僕は30秒おきにリネを送りまくった。けれども、返事は来なかった。
彼は、いきなり僕と距離をおいた。
こんなフラレ方ってあるだろうか? ねぇ! こんなフラレ方ってありますか?
その日、僕は泣いた。大泣きした。
見知らぬ大人の男たちが、大人の女達が僕を慰めてくれた。そのことには多少感謝してあげている。
だけど、男に女が迫ることは、どのタヌキたちも夜ごとやってるって聞いたよ?
毎日迫って、なにがいけないの?
僕は間違ってない! 正しいことじゃないか!
迷惑だって感じたなら謝るけどさ。この対応はちょっと女々しくありませんか?
大人の男なら小娘の戯言に目くじら立てないんじゃないですか? 影で僕のことを『耳障りの良い言葉にすれば、芯のあるメンh○』だってバカにしてさ。
僕は『悪いことがあるなら謝るから』って言いながら、悔しいのでちょっと雄ダヌキさんを小馬鹿にするフレーズを入れつつ謝った。雄ダヌキさんは大人の男なのに子供に目くじら立てて女々しいですよねって。
謝ったっていうのに……。
雄ダヌキさんは謝らない。
許せない。僕は謝ったのに。
一回送った謝罪文に返事がないと焦燥感に苛まれる。
僕だけ色々謝って。悔しい。許せない!
悔しいから、『他人に謝れず上から目線の女々しいクソ野郎には一生幸せは訪れないだろう』ってポエムを書いて送った。送ってやった。
そうしたら……。
なぜか、BANされた。
思えば僕は子供の頃から『女らしくしなさい』の意味がわからなかった。ちょうどいいや。フられて悔しい思いをしたことだし、今日から僕は『男』ってことにしよう。最近TSものとか流行ってるしね。
僕は振られて悔しい雌人格を切り離した。今日から僕は男に生まれ変わったのだ。
僕は、僕をフッて傷つけるかも知れない怖い大人の男と、諭してきてうるさい上から目線の大人の女を切り捨てて、年下の女の子だけを侍らせることにした。年下の女の子はイエスしか言わないから素晴らしい。
今日から僕は男に塩対応になるんだ。
そうして楽園ができた!
下から目線の年下の女の子だけが侍ってヨイショしてくれる! なんてすばらしい! ここは僕の楽園だ!
僕は下から目線の年下の女の子だけが侍ってヨイショしてくれる楽園で、今日も癒やされている。
後日、僕はフラれた影響からか、別の雄ダヌキに厳しくあたってしまうということを僕の担当医師に話した。
担当医師は、辛いなら気にしなくていんじゃね? といった。
ビビリな雌狸とはこういうものなのだ。差別って言われるのが怖くて見当外れの質問をして担当医師から都合のいい回答を引き出すような……。
もちろん僕は悪くない。
僕がこうなったのは僕をフッたり、謝らないやつのせいなのだ。
ねぇ、雄ダヌキさん。
モニターの向こうには心の通った人間がいるってことを分かってください。そして僕とは関わらないでください。僕はモニターの向こうのあなたたちに一切配慮しないで女々しさを小馬鹿にしてやりたい放題自由にやるけど。
あとあと、差別をやめるのって難しいから、僕には関わらないでください。僕は差別し放題するけど。
そうそう、今日、雄ダヌキさんのように自家発電したよ!
んん~っ。雄ダヌキさんよりはやーい!
ヨヨ丸
自分の思う『自分像』を皆が受け入れてくれるとは限らない。
人から自分がどう見られているか。客観的に見てどう見えるか、それを知ることは大切だ。
僕は、周りを振り回す。
ヨヨ丸。