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魔法石

トーヤの目が抉られてから2週間ほど経過した。あの後はずっと目元に布を巻いて隠し、授業を受けていたようだが、まるで見えているかのように魔導書を読み上げたり薬を調合したりできていたためいつしか誰も気にしなくなっていた。


不思議に思い夜空がどうやっているのか聞くと魔力で周囲のものを感じ取り見えていなくてもどこに何があるか把握できるようになっていたようだ。


「トーヤ」


夜空が授業を終えて荷物をまとめて出ていこうとするトーヤを呼び止めた。今日は午前中しか授業がないため午後は自由時間となっている。


トーヤは一旦手を止めて


「何?夜空。今日は用があるから急いでるんだけど」


と言って珍しくそわそわしている。夜空はすでに荷物をまとめたようで


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…明日でもいいから。急いでるときにごめんね」


と言って帰ろうとするとトーヤは


「いや、用事が終わってからでもいいならいいよ。夕方になるけど大丈夫?」


そう言って机の上を片付けすぐに帰れる状態になった。夜空はほっとしたような顔をして


「よかった。時間潰してるから終わったら手紙を飛ばして?私の話も長くないからすぐ終わるはずだし」


と言って薄いピンク色のかわいらしい便箋を渡そうとしたがトーヤに止められ


「いや、僕も持ってるから大丈夫。じゃあまたあとでね、夜空」


トーヤはそう話しそのまま教室を後にした。




トーヤは夕焼け色に染まる道を進み、塔の前で立ち止まった。目の前には二人の門番らしき青年。


「ん?ここは立ち入り禁止だ。なにか用か?」


背の高い方の青年が睨みながらトーヤに話しかけた。トーヤは気にしていない様子で


「用がないなら立ち寄りはしないでしょう。ここは他の建物と離れた場所にある」


と言いながら鞄から赤いリボンで纏められた金色の鈴を取り出した。10個ぐらいリボンにくくりつけてあり揺れるたびに上品な音色を奏でる。


「なにそれ。魔法でも使う気?」


背の低い方の青年は腰の剣を抜きトーヤに向けた。それは金色の剣で持ち手に宝石と花の彫刻があしらわれた美しい物だった。


トーヤは青年の警戒をよそに手に持った鈴をリンッと鳴らした。


「君たちは何も見ていない」


呟くようなトーヤの声。青年たちは鈴の音を聞いたときから動きを止め、トーヤの声で構えていた剣を納めた。トーヤは小さく安堵し、棒立ちになった二人の間を抜け塔の中に入っていった。




「ひーめー!」


塔の扉を閉め、昼過ぎなのに真っ暗の塔の中で叫ぶトーヤ。前は笑い声が聞こえてきましたが今回はなんの音も聞こえてこない。


「…?」


長い螺旋階段を上り、広間に出ると、いつもシェルバート姫が座っている場所に丸まるようにしてシェルバートが眠っていた。


「はぁ…姫、もう昼過ぎだ。さっさと起きろ」


トーヤは寝ているらしいシェルバートを揺らして起こし近くに座り込んだ。シェルバートがあくびをしながら起き上がる。


「ん…エバート。おはよう。しょうがないじゃない、あなた以外誰も来ないんだから」


ふふっと笑いトーヤの膝に頭を乗せた。甘えるような視線を投げかけ、空いていたトーヤの手を自身の頭に乗せる。


「見張りを欺くのは骨が折れる。今日だって補助の鈴が無かったら惑わせることができなかったと思うよ」


リリンッと鈴の音が広い部屋に響く。そしてシェルバートの頭に乗せられた手で頭を撫でるとくすぐったそうなシェルバートの声が響いた。


「まだ持ってたの?もう私の加護もなくなったんじゃないかしら」


姫は寝転がったまま話を続ける。時々トーヤが撫でる手を止めると催促するような動きを見せるため撫でることを止められない。


「そんなことないさ。姫の加護があるから、僕は苦手な魔法もうまく扱うことが出来る」


そう言ってトーヤは頭の後ろにあった結び目をほどき、目元を隠していた布を取った。


そこには以前のような不自然な窪みはなく、ただまぶたを閉じているだけのように見える。


「あら、その目どうしたの?シャルドネの匂いがするわ」


シェルバートがよく見ようと起き上がりトーヤの体に寄りかかるようにして顔を近付けた。


トーヤはまぶたを閉じたまま


「目玉を抉られたんだ。後ろから殴られて気絶してるうちにぐりっとね。顔は見れなかった」


と言って姫の髪をすくように撫でた。姫はむすりとしながら


「あなたの綺麗な瞳が見れないのはいやよ」


と言って閉じられたまぶたに優しく触れ


『新緑の瞳、写すはまばゆい世界。数多の呪いを退け、我が愛しき人に色鮮やかな世界を見せよ』


古い言葉のようだった。歌うように口ずさんだ言葉は二人の甘い雰囲気に溶け込むように響く。


そして、トーヤはまぶたを開き、美しい緑の瞳を姫に見せた。


「ありがとう。姫、やっぱり、再生してもまったく見えなかったのは呪いのせいだったんだな」


姫は不安げな顔でトーヤの頬をなで


「やっぱりあなたはシャルドネに狙われているのね。でも、私もなんとかできないか頑張るから。エバート…無茶しないで…」


成長していくトーヤの体を見つめる。今はシェルバートのほうが少し背が高いがすぐに追い抜かれてしまうだろう。そして彼は今までもこれからも必ず無茶をする。


それが自分のためだとわかっていても、傷ついて欲しくないと思ってしまう。


「シェルバート。僕を心配してくれるのは嬉しいけど、君を呪いから早く解放させたいんだ。ここにいるのも、僕にかけられた呪いもシャルドネを殺せばすべてが終わる。もう失敗はできない」


トーヤは頬を撫でていた姫の手に手を重ね、温かな体温に微睡む。姫は首筋に優しくキスをしトーヤを見つめ


「愛してるわ、エバート。あなたが何になっても、たとえ私を忘れてしまっても。あなたが私を想うように、私もあなたを助けたいと思っているのよ」


優しく抱擁し口付けを交わした。




公園に併設されたカフェで本を読みながら時間を潰していた夜空の元にトーヤからの手紙が届いたのは日が落ちてやがて夜になる間際の時間だった。


多少は温かくなったとはいえまだ冬なため寒く、コートを着ないと外に出たくない気温だった。


手紙には遅くなってしまった詫びと迎えにいくから今いる場所から動かないで欲しいという内容が書かれていた。


「カフェのなかでよかった…」


温かな紅茶を飲みながら待っていると、夜空の予想より早くトーヤがカフェに入ってきた。


「あっ…夜空。よかった」


店内を見回し夜空を見つけたトーヤが安堵しました。そのまま夜空と同じテーブルの席に座る。


「結構待たせちゃったね。ごめん。人と会う約束してたんだけどなかなか来なくってさ…これ以上夜空を待たせたくなかったからこっちに来たんだ」


トーヤはメニューをざっと見て店員にコーヒーを注文して鞄を空いている椅子に置く。


「あれ、トーヤの目ってもう治ったの?義眼とか?」


布をはずされて以前のように緑の瞳が見えていることに気付いた夜空が問いかけた。トーヤは


「ああ、眼球を一から作るのはさすがに時間がかかったよ。魔法で速くさせてたんだけど…。もう前と同じように見えるよ」


そう言って微笑みコーヒーを届けにきた店員にも礼を言った。


「……トーヤ。今日機嫌いいね」


夜空はめったに笑顔を見せないトーヤがいつもよりにこやかに接してきて少し驚いていた。


「そう?まあ、僕だっていつも仏頂面な訳じゃないよ。それで、話って?」


トーヤはあたたかなコーヒーを飲みながら夜空に話を促した。


夜空はそうねと思い出したかのように


「トーヤって過去の記憶があるんでしょ?ちょっと知りたいことがあって…もしかしたら知ってるかなって思ったの」


と質問をしようとしたが、ポーンという電子音のような音に遮られた。


「なに?今の音」


夜空の疑問にトーヤは


「……侵入者がいるみたい。まっ気にすることないよ。話を続けて?」


と特に異常事態ではない様子て続きを聞き出そうとしている。


「あ、うん。えっとね。不老不死ってどうすればなれると思う?」


夜空の質問にゆっくりとトーヤの顔から笑顔が消えた。


「不老不死…ね。それは夜空、君がなりたいのか」


さっきとは違い真剣な眼差しのトーヤは真っ直ぐにトーヤを見つめる。


「い…いや、違うよ。私じゃなくて…あの…」


言葉につまる夜空にトーヤは思案したあと


「ああ、小鳥姫か」


と一人で納得したような様子だった。


「えっ…?」


夜空はよくわかっていない様子でトーヤが


「小鳥姫…えっとたしか名前は雀だったかな?今はもう王家を継いでる?」


夜空は驚いてガタッと立ち上がった。他の国にはあまり知られていない自国の女王の名を告げられたからだ。


「なぜ…陛下の名を…?」


震える声で問いかける夜空にトーヤは


「そっか。彼女まだ諦めてないんだな。昔僕の魔法の研究が上手くいって有名になったときにね。茶会に呼ばれたんだよ。不死身の魔法使いってね」


昔馴染みを懐かしむように過去を振り返った。


「夜空。不老不死は僕も研究してたことがある。でも…」


トーヤの言葉を遮るように店の入り口から声がした。


「不老不死などただの人間には耐えきれませんよ」


凛とした女性の声でした。夜空が視線を動かすと入り口近くには真っ白い女性が立っていた。


肌は普通より白く血色もよくないようで幽霊のよう。髪は純白と表現できるほど真っ白で床に付きそうなほど長いのに真っ直ぐで絡まりがない綺麗なものだった。身に付けている洋服も白と水色のかわいいドレスで水色の瞳によく似合うものだった。


「初めまして。立花夜空。トーヤ・リンク。面白そうな話をしていましたね。不老不死?」


二人が座っている場所の近くまできた女性は微笑みながら二人を見つめた。美しい女性でしたが、纏う雰囲気は恐ろしいもののように感じた。まるで、実在する神様に会ったかのような。


「久しぶりだね。アヤメ」


トーヤが警戒しながら言葉を紡ぐ。バレないようにカバンに手を伸ばしているようだったが


「ええ。お久しぶりです。武器を持つのはおよしなさいな。私も無抵抗な人間には手を出しません」


アヤメと呼ばれた真っ白な女性はトーヤの鞄をひょいと取り上げた。


「トーヤ…知ってる人?」


夜空がトーヤに聞くと苦笑いをしながら


「知ってる人…だよ。この人…の旦那に何度か会ったことがあってね。アヤメ。今回も僕に用があるのか?」


と言ってアヤメに敵意のこもった視線を向けた。アヤメはふふっと笑い


「ええ。残念ながら今回も貴方に忠告しなければなりません。まあ予想はできていると思いますがね。トーヤ。あなたはこの学園を卒業する前に…死ななくてはいけません」


と言ってトーヤの頭を撫でた。驚く夜空をよそにトーヤは諦めたような表情でアヤメの手を払いのけ


「やはり、そうか。姫はどうなる?」


睨むような視線をアヤメに向けたがアヤメは気にしておらず


「姫…シェルバートの事ですね。彼女は…まだ分からないです。あなたの行動次第で変わるでしょう」


うーんと唸りながら答えた。困惑している夜空をみてアヤメは続けて


「…私はそろそろ帰ります。あまり長居はできませんし…旦那を島の外に待たせているので」


と言って鞄をトーヤに返して振り返り店から出ようとした。


「え?じゃあこの島にいるのはお前だけなのか?」


不思議そうなトーヤの声にアヤメは立ち止まらず


「ええ。彼がいると侵入者探知の警報がなりますから。ではさようなら」


と言って左手をひらひらさせて出ていった。


考え込むトーヤに夜空が


「ねえトーヤ。今のアヤメさんって何者?魔法使い?」


疑問を投げ掛けた。トーヤは少しの間の後


「アヤメは…僕も詳しいことは調べられてないんだけど…神様に、嫁いだ人だよ」


トーヤの言葉に夜空は信じられない顔をして


「神様?っているの?」


そういえば、トーヤが踊っていた廃教会にあった女神像は彼女に似ている気がすると思い出した。朽ち果てるほどの古い建物にある女神像に似ている人物にたった今であったのだ。


「いるよ。というより、妖精も龍もいるんだから神様もいるよ。幻想種以上に数が少ないし人前に姿を表さないし正体もばらさないから知ってる人は少ないけどね」


トーヤは冷めてしまったコーヒーを飲み干しアヤメに返して貰った鞄の中身を確認した。特に問題はなかったようだ。


「で、夜空。僕は不老不死になる方法は教えられない。呪いの類いだし僕のように失敗するかもしれない」


「失敗?ってことはトーヤも不老不死になろうとしたの?」


「……いいや。僕は不老不死の呪いのために魔力を弄られたんだ。一人分の魔力じゃ足りなかったみたいで何十人かの魔法使いの魔力を僕に集めた後不老不死の呪いをかけたみたい。残った魔力はあんまり言うこと聞いてくれなくてね…僕が行った魔法は失敗して記憶だけ魂に刻まれることになった」


そう言ってふっと微笑んだ。夜空が


「……さっきのアヤメさんは?トーヤがいた教会に彼女に似た像があったわ。彼女がモデルなんじゃないの?」


と、気になっていたことを問いかけた。トーヤはあーと思い出したような声を出し


「そういえばそうだね。あそこはシャルドネからの干渉が少ない場所なんだ。アヤメがね、僕が持っていた魔力を込められる魔剣を隠すために作った教会なんだって。だから彼女に似た像があるんだと思う」


と言ったあと、一度取り出すと僕では隠せないから緊急時にしか使わないけどね。と続けた。


「トーヤ。あなたは何と戦っているの?」


アヤメという謎の人物と知り合いだったり、死ななくてはならないと宣告されたり。彼が何をしようとしているのか、夜空にはわからなかった。


「何って、僕は姫を助けるために動いているんだ。……それを君は、どう思う?」


トーヤは問いかけまっすぐに夜空を見つめた。不安な気持ちを感じさせる弱々しい視線だった。


「どうって……姫って、誰のこと?……貝殻姫?」


夜空は以前貝殻姫が眠る塔にトーヤが入っていくところを見かけたことがあった。それも何度も。


「……そう、だよ。姫の名はシェルバート。強くて気高く美しい、姫様」


昔を懐かしむような、そんな表情だった。夜空は


「そう、なんだ。会ってみたかったな。おとぎ話や先生の話とは違うけど、私はトーヤを信じるよ」


と言って微笑んだ。その夜空の反応にトーヤは少し驚いたような表情を見せる。


「…僕の話を信じてくれるのか?姫を助けるつもりなのに」


トーヤの言葉に夜空は首をかしげた。なぜ、信じないと思っていたのだろうと。


「おとぎ話も先生の話も、伝え聞いたものでしょう?なら、過去のことを覚えているトーヤのほうが正しいわ。うそを言ってる様には見えないしね」


そう言って笑うとトーヤは神妙な面持ちで


「夜空……ありがとう。君に否定されたら、僕は……」


と言って夜空の手を取った。その手は、死人のように冷たく、体温を全く感じなかった。夜空が驚いているとトーヤは


「ナイヴィスにはすでに伝えてるんだけど、僕…体温が極端に低いんだ。シェルバートと…同じ時代を生きた僕とシャルドネの時代。その時に受けた魔法のせい。僕は姫を守るために、この呪いを受けた」


だから、トーヤはいつも厚着をしていたのか。と夜空は納得した。疑問に思い、何度か尋ねてみたが答えてはくれなかったのだ。


「普通は死んだら解けるんだけど、不完全な不老不死の魔法のせいで死んでからも継続して低い体温のまま。人に触れないといけないときは魔法で偽装しているから大丈夫」


そう言って手を離した。なぜ自分に話してくれたのかと疑問に思ったが、トーヤの次の言葉に思考が止まった。


「夜空、前から気になってたんだけど…夜空の中に別の魔法使いの魔力を感じるんだけど、それ、どうしたの?」


夜空は、そのことについて触れられるとは思っておらず、咄嗟に周囲を見渡した。幸い誰も近くにはいない。


「え…えっと…内緒にしてくれる?」


絞り出した声は自分でも情けないぐらいに震えていた。


「え?大丈夫。言いにくかったら言わなくていいよただの好奇心だから」


トーヤはあまり深く考えずに聞いたようで答えを今すぐ聞きたいわけではなさそうだった。


「あ…あのね。私兄弟がいたの。それで、その…故郷の儀式で、兄弟を殺し合うものがあるの。私の家がその儀式を兄弟たちでやらせて勝ち残ったものが当主になる。そこで私は、生き残ってしまった」


とぎれとぎれになりながら言葉を紡ぐ夜空を時折相槌を打ちながら聞くトーヤ。


「そうか。だから、夜空には複数の魔法使いの魔力が残っているんだね。魔力は殺した相手に宿るから」


トーヤの言葉に、夜空は首を振って否定した。


「違うの。私は誰も殺してないの。一番上の兄が、次々と殺していった。一番下だった私を囮にして。そして最後に、私の目の前で、亡くなったの」


夜空の告白にトーヤは何も言えなかった。


「兄が…言っていた。『これは蟲毒と言われる魔法だ。魔力を奪いながら殺し合っていき、最後に残った魔法使いに集約される。でも、お前は俺を殺す必要はない。いいか、俺から目を離すな』…そう言って兄は自殺して亡くなったわ」


トーヤはしばらく黙っていたが


「……夜空が望むなら、混ざっているお兄さんの魔力を夜空の魔力に変換できる。今まで以上の力を発揮できるようになるけど……」


と提案した。夜空はその言葉にしばらく考えていたが首を横に振った。


「兄さんたちの魔力は、私が持っていたい。儀式の間は狙われたし、怖かったけど…大切な、家族だから」


そう言ってほほ笑んだ。トーヤも否定はせず夜空の気持ちが落ち着くのを待った。


夜も更け、真っ暗になっているのでそろそろ帰ろうとトーヤは提案した。夜空はまだ話を聞きたそうだったが、今日は帰ることに同意した。しばらく歩き、見えてきた寮から誰かが走ってきているのが見えた。


「よかった!二人とも一緒にいたんだね!」


ナイヴィスが肩で息をしながら安堵した。隣のレイミーも安心したような顔で息を整えている。


「二人とも侵入者のアラーム聞いてないん?危ないんやから早く建物に入った方がええよ!」


夜空の肩を掴み抱き寄せるように寮に引っ張っていくレイミー。


トーヤも大人しくそれに続いて歩いていましたがふとなにかに気づいたように振り返った。


「…?トーヤ?」


1番近くにいたナイヴィスが振り返ったトーヤの視線の先を見つめる。


真っ暗闇。ぽつりぽつりと灯る灯りはいつも通りに見えた。


「離れろ!!ナイヴィス!」


急に叫んだトーヤの声に驚き、指示通り飛びずさり先に歩いていた女の子2人を庇うように防御体制を構える。


トーヤの声は女の子2人にも届いたようで各々武器を構えた。


何も起こらない。と思った瞬間だった。


ガラスが割れた時のような不快な甲高い音が周囲に響き渡った。


「……クソッ!!」


珍しく悪態をつき鞄から取り出していた長くて黒い杖で暗闇から現れた攻撃を防ぐ。


ギリギリと嫌な音を立てながらトーヤを斬りかかったのは真っ黒のローブのような服を纏った男だった。


フードを深く被っていて顔はよく見えない。


トーヤが杖で弾くと男はその反動で後ろに下がる。手には小さめのナイフを持っており、いつでも攻撃できるよう構えていた。


「あれが侵入者か!!」


ナイヴィスが叫び加勢しようと大剣を構えた。


「よせ!ナイヴィス!」


トーヤが制止したが遅かったようでナイヴィスは男に向かって突進するように踏み込み恐らく胴体部分に重い一撃を与えようとした。


しかし、大剣は空を切る様になんの感触もなく男をすり抜けた。


「引っ込んでろ!奴に攻撃は効かない!」


構えたまま攻撃する素振りを見せない男はバランスを崩したナイヴィスをじっと見ているかのようだったが顔の向き以外動かさない。こちらの動きを待っているかのように。


トーヤが駆け寄りナイヴィスと男の間に割り込み地面を棒で強く叩いた。


カーーンッ


普通の金属が石を叩いた時の音が鳴った。ナイヴィスに聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟くように詠唱を始める。聞いたことの無い言語なのに、どこかで耳にしたことがある気がする言語だった。


トーヤと同じ授業を受けていた夜空だけは、魔導書に使われる言語と同じものだと気づいた。


男は何度か足を引き抜こうともがいたが上手くいかなかったようですぐに諦めた。


トーヤは諦めた様子の男を確認し、鞄から魔力供給用の小瓶を取り出し中身を一気に飲み干した。


その小瓶の中身はすごく値の張る物だがそれを知る者は誰もいない。


「…こいつが身につけているローブは『宵闇の風』と呼ばれる物だ。剣で切ったり弓で撃ってもすり抜ける効果がある。魔力のみで動く物にだけ攻撃が通る」


トーヤが強引にローブの襟元に棒を入れ力いっぱいローブを引き剥がした。おそらく手で脱がそうとするとすり抜けてしまうからだろう。


「久しぶりだな、アレク」


どこか諦めの混じるため息と共に姿を現した男に再会の言葉を掛けた。


男の容姿は20代後半でまだ幼さの残る顔立ち。


ローブを脱がされた衝撃で外れそうになった眼鏡を直すような動作をしている。サラサラの茶色の髪からまるで猫のような動物の耳がのぞいている。時折風に揺れ、ぴくぴくと動くことからそれが飾りではなく本物であることをうかがわせる。


「……久しぶりだにゃ。師匠」


まるで声変わり前の少年のような声だった。


「にゃ?」


警戒していたナイヴィスは拍子抜けしたようで剣を収めトーヤに説明を求めるような視線を向ける。


トーヤはもう一度ため息をつき


「こいつはアレックス・クーデルホーク。北の大国…の王子様ってとこかな」


と簡単な紹介を済ませ土の拘束を解いた。アレクと呼ばれた青年は飛び跳ねながら足の具合を確かめ


「師匠なら僕の攻撃にゃんてへっちゃらだと思ったにゃ。だから奇襲したんだけどにゃ…意味なかったかにゃ?」


へへっと人懐っこい笑みを見せる。王子らしいものは胸についた半透明の豪華なブローチぐらいで服装は質素なものだった。


「なんの用だ。お前の弟なら元気にナンパしてたぞ?」


はぎとったローブをアレクに返却し用件を問う。事前に島に許可を取っていれば警報はならない。許可を取る時間がないほどに急いでいたのだろうか。


「エミリオは正直どうでもいいにゃ。僕が師匠に会いたかったのは…最近師匠の魔力を感じる妙薬が出回っていたのにゃ。師匠、また何かやっているのにゃ?」


真剣なまなざし。アレクの問いかけにトーヤは


「僕じゃないよ。残念ながら、ね。にしても手が早いな…僕の目を使った薬ってそう簡単に作れるものじゃないはずなんだけど……」


と言ってアレクに鞄から取り出した小さなガラスの破片のような石をアレクに投げ渡した。宝石を割って切り出したもののように見えたが手が切れるほど鋭いものではないようだ。


「これは?なにかにゃ?」


アレクも見たことだないもののようで月の光に照らしたり重さを確かめるように投げてみていると


「それ、魔法石?」


夜空がトーヤの陰から警戒するようにアレクの手の中のものを見つめた。夜空が今までに見かけたもので一番大きな魔法石。


「そう。純度が高いものを作るのは骨が折れたよ。そろそろその魔法石の効力が切れるころだと思ってたから作っておいたんだ。これで運命の神から逃げられる」


トーヤの話を聞いたアレクはうれしそうな顔でトーヤに礼を言いながら胸に付けたブローチを外し手に持った魔法石をブローチに押し当てた。


魔法石は溶ける様にブローチの石と一体となり、もともとブローチについていた石も先ほどとは段違いで色が濃くなったように見える。


「ありがとうにゃ!じゃあついでにほかの情報も教えちゃうにゃ!」


ブローチをいそいそと胸に付けなおし誇っているかのように胸を張ったアレクは


「シャルドネの情報にゃ。やっぱりこの島が一番魔力を感じるにゃ。それで侵入したついでに測定してみたら…女子寮からの反応が強かったにゃ!僕の予想では女子生徒にシャルドネが潜んでいる可能性が高いにゃ!」


と言って寮を指さしふふんと得意げな表情を見せた。


「いたぞ!侵入者だ!」


遠くから大人の声がした。おそらく警備を行う者たちの声だろう。


「やば!じゃあにゃ!師匠も危ない橋はわたらないほうがいいにゃ!さらばにゃ!」


アレクはローブを羽織りトーヤたちが声をかける間もなく駆け出しあっという間に姿を消した。


「女子生徒……ね」


トーヤのつぶやきは誰にも聞こえず。その場にいたほかの三人は変な侵入者だったなと思うくらいでした。




「だから!もっと純度の高い魔法石が必要なんやて言っとるやろ!?」


いつもは浮足立った男女が立ち寄る静かな店。冬のクリスマスに繁盛するアクセサリー店だが、今は時も過ぎ春。客足も落ち着いたのか今は焦るように店主に迫るレイミーしかいない。


「で、ですから…この間お見せした魔法石が一番魔力の多い魔法石なんです…もうあれより純度が高い魔法石はここにありませんよ……」


涙目で申し訳なさそうに答える店主はレイミーの迫力に気圧されていた。だから、新たな来店を知らせるベルの音に反応する速度も速かった。


「こんにちは。……ど、どうしたの?僕、何かした?」


いつもなら微笑みながら挨拶を返す店主が助けを求めているかのように来店したトーヤを見る。レイミーもトーヤがアクセサリー店に来店するとは思っていなかったようで驚いている。


「トーヤ?なんでこないなところに来たんや?好きな人でもできたんか?」


男性はあまりアクセサリーをつけない。着けても魔力の増量のための魔法石がついているものや単純におしゃれのために購入する男性もいるがトーヤは装飾品を好まないためレイミーは無縁の人物だと思っていたようだ。


「え?なんでそうなるの?僕は納品に来ただけだよ」


トーヤはカバンから小さめの箱を取り出した。それは金の装飾が角に施されている見ただけで高価だとわかる箱だった。それを見た店主が


「ああ!助かるよトーヤ君。君の加工技術は最高だ!最近は君が加工した魔法石を指名する生徒も出てきてさ!売り上げもうなぎのぼりだよ!」


と嬉しそうに近況を報告しながらその箱を受け取った。代わりにかなり価値の高い金貨を何枚もトーヤに渡した。


「そうなの?まあ売れてるならいいか。また欲しい魔法石があったら教えて?多少融通きくから」


その金貨を財布にしまいながら次の話を始めようとした。しかし、レイミーが話に割り込んできた。


「トーヤって魔法石の加工ができるんか?」


レイミーが不思議そうに問いかけた。魔法石の加工は一部の人間にしかできないと言われている。魔法石は固く、土壌から出土されることが多いものだがその石をアクセサリーに加工することは極めて難しい。


「……ちょっと、ね」


トーヤは謙遜するように苦笑しながら答えた。その答えに店主が反応する。


「ちょっとどころじゃないよ。ほら、これ見て」


と言って今受け取ったばかりの箱を開ける。中は青い布地が張られたクッション状になっており、その上に一つの大きな魔法石が鎮座していた。色は透明で先ほどの金貨と同じぐらいの大きさ。加工した後ということもありそれは美しく光を屈折させ輝いていた。


「すごい…めっちゃ綺麗やん!」


魔法石は出土した後外側の土を落とした後そのまま杖に埋め込んで使用されることが多い。だからこの魔法石が宝石のように綺麗なカッティングを施されていることにレイミーは驚いた。


「ほかの加工業者もうまく球状に加工する者や立方体にする者もいるけどトーヤ君のは宝石のように加工してくれるからね。アクセサリーに使いやすくて助かるよ」


彼が来てからデザインを練るのが楽しくて仕方がないんだ。と店主は答えた。普通の宝石を使ったアクセサリーも多く扱いむしろそちらの方が主力商品だ。が、魔法石を使用した装飾品は上流階級の魔法使いに高く売れるため外せない販路らしい。


「あんまり多く作れないからな。買い取ってくれる店があって助かった。魔法石は高いから」


トーヤの言う通り魔法石はすごく高価なものだ。宝石のように色が付いたものが多いがまれに透明の物も出土する。それは他と段違いで中に込められた魔力が多いと噂だ。


「君の魔法石ならいくらでも買い取りたいぐらいだ!そうだ、レイミーさん、彼に注文したらどうだい?彼なら君の求める魔法石を持っているかもしれないぞ?」


店主の提案にトーヤは何のことかと首をかしげ、レイミーがなるほど!と納得したようにトーヤの手を取り


「あたしな、魔法石が必要なんや!それもそれなりに純度が高い…防御魔法が使えるような魔法石が……!」


と訴えかけた。トーヤが困惑していると横髪をかきあげ、隠れていた耳を見せた。そこには薄い黄色の魔法石がはめ込まれた金のピアスが装着されていた。


「それ、かなり強い防御魔法が施されてるな。それより純度の高い魔法石か?」


魔法石から感じ取れる魔力から何の魔法のために付けているのか察したトーヤは彼女のピアスに触れる。


ピクリと震えたレイミーは自身に向けられた真剣なまなざしに少し動揺しながら頷いた。


「これ、どこで手に入れた?」


撫でるように金のピアスに触れるトーヤ。その瞳は懐かしむように細められた。


「え…北の大国で買い付けたと聞いたんやけど…それがどうかしたん?」


レイミーがくすぐったそうにトーヤの手に触れるとようやくトーヤがピアスから手を離した。


「いや、知り合いが作ったものに似ていたからな。あいつが作ったものなら技術は確かだ。良い目を持ってるな」


過去を思い出したように静かに笑い少し悩むような仕草を見せた。


「トーヤ君、次の依頼はこれだ。話の続きは店の外でやってもらえるかな?」


店主はそう言って小さめの紙をトーヤに渡した。どうやらレイミーと話し込んでいるうちに次の依頼をまとめたらしい。そして店の外に入ろうか迷っている女の子がトーヤたちがいるため入るのをためらっているらしい。


「ああわるかったな。レイミー場所を移そう。じゃあな、出来上がったらまた持ってくる」


トーヤはそう言って店を出る。その後ろをレイミーがついていく。


「なあ、話す場所、あたしが指定してもええ?」


喫茶店ででも入ろうと探していたトーヤにレイミーが提案した。トーヤは特に決めていなかったためその提案を飲み、レイミーの案内で次の店に向かった。




「では、ごゆっくり」


店員が注文された商品を持ってきて扉を閉めた。レイミーが指定した店は完全個室の店で店員がドアを閉めることで外とのつながりが窓のみとなる部屋だ。


「で、どうしてここに?ここ、完全防音の部屋じゃないか。内緒話でもするの?」


トーヤの問いかけにレイミーが頷いた。そして自分の鞄から紙とペンを取り出し、何かを書き出した。


『誰にも聞かれたくない話なの』


と、きれいな字で書いてあった。


トーヤは何か事情があると察し、カバンからハンドベルを取り出した。それは銀色で、細かな彫刻が施された高価そうなベルだ。


『トーヤ・リンクとレイミー・ナイリス以外の魂、思念を遮断せよ』


リリンとハンドベルを鳴らしながら詠唱を行った。魔法が発動したのを感じレイミーが身構える。だが、トーヤが発動させた魔法はレイミーには害のないものだった。


「そのピアス、外してみて」


トーヤがテーブルにハンドベルを置きながら指示を出した。レイミーは何のことかと思いながら恐る恐るピアスを外した。


「な…なんや、これ」


レイミーは驚愕の表情をしながらこぼれるように言葉を漏らした。トーヤはレイミーの疑問に


「今の魔法は君の悩みの種に聞かれないようにするものだよ」


と言ってコーヒーを口に運んだ。レイミーは信じられないと肩を震わせながら


「だ、誰もいない、何も聞こえない…!!あんなにいっぱいいたのに!」


少し、涙ぐんだ。トーヤはそんなレイミーを見つめ


「大変、なんだな。死者の声が聞こえるって」


と言って目を細めた。その表情は過去を思い出しているかのようだった。


「なんで、知ってるの?死者の声が聞こえるって」


零れ落ちる涙をぬぐいながらレイミーは不思議そうにした。自分は話したことがなかったからだ。


「今までも、君と同じ人と話したことがあるからだよ。これも、そのために入手したものだ」


トーヤはそう言ってハンドベルの持ち手を撫でた。


「な、なあ、そのハンドベルでどうにかできるんか?ずっと、うるさいんや…声が、声が聞こえるんや。あんたを、殺せって。トーヤを殺せって」


涙があふれる。レイミーはずっと脳内に響いてくる誰のものかわからない言葉を聞いて生きてきた。その声に抗うために魔法石のついたアクセサリーが必要だと。


「残念だけど、この魔法は僕じゃないと発動できないみたいだ。それに、ここみたいに閉鎖した空間でしか発動できない。根本的な解決はできないよ」


自身を殺せと言われ続けていると言われたというのにトーヤは平常そのものだった。


「トーヤ、どうしたらいいんや…。あたしはもう……魔力が奪われていってるような気がするんや…自分の魔力が、使えなくなっていくような感覚が……」


レイミーの話にトーヤは心当たりがあった。ずっと話すべきか迷っていたけれど。


「レイミー。一番君の近くにいるのはシャルドネだろう。僕を殺せと囁いているのも」


トーヤの言葉にレイミーが固まる。まさか、と。


「なんで、シャルドネのこと…」


震える声でレイミーが言葉を絞り出した。シャルドネはかなり昔に生きた魔法使いだ。その名前は本の上にしかなく、レイミーがシャルドネと共にいると予想されているとは思っていなかった。


「君には話してなかったけど、この学園にいる人間すべての鑑定を行っていた。シャルドネとシェルバート姫が生きたあの時代にどんな名で生きていたのか」


トーヤはそう言って机の上に古い羊皮紙を広げた。その上には魔導書と同じ文字で書いており、レイミーには所々しか理解できない。


「これが君の名前。そしてこれが君の魂が当時の名だ。シャルドネ、……シャルドネ・ミリ・ルノワール。君が魔力をうまく扱えなくなったのも、死者の声が聞こえるのも、シャルドネの影響だ。彼女は死してなお…僕と僕の姫に固執していたから」


レイミーは何も言うことができない。トーヤはちらりとレイミーの顔色を窺ったが、話を続ける。


「今は僕の魔法でシャルドネを遠ざけている。君の魔力をすべて奪われた時、君の自我がなくなり完全にシャルドネに乗っ取られる」


目を伏せたまま言葉を紡いだ。レイミーは一度顔を上げたが、すぐにうつむいてしまった。


「……なあ、トーヤ。お願いがあるんや」


しばらくの沈黙を破ったのはレイミーだった。机の上に置いていたピアスを自分の耳に戻しながら


「このピアスよりもあたしを守ってくれるものが欲しいんや。それと」


トーヤをまっすぐに見据えた。その瞳には確かな決意が宿っている。


「あたしが乗っ取られて、シャルドネになってしまったらあたしごと、殺したって」


レイミーは微笑んでいた。トーヤにすべてを任せるように。


「なん…で……」


トーヤは悲痛に顔をゆがませた。レイミーが声をかけるよりも先に


「初めて、シャルドネが乗っ取る前の人格と話せたのに…なんで、なんで死のうとするんだよ。レイミー…」


トーヤは頭を抱えてうつむいてしまった。初めての反応にレイミーが困っているとトーヤは顔を上げた。零れ落ちた涙をぬぐいながら


「僕がそうならないようにしてやる……!もう…シャルドネの好きなようにはさせない!!」


決意を叫んだ。初めてあらわになったトーヤの感情に驚くレイミーの頬にトーヤが優しく触れた。


『生命の源よ。エバート・ルイ・ガルシアの名のもとにレイミー・ナイリスに加護を与えよ』


トーヤの詠唱は歌うように紡がれた。レイミーにその言葉の意味は理解できなかったが自分の中の魔力を少し取り戻したような感覚があった。トーヤは手を放して微笑みハンドベルを手に取る。


「もうすぐ結界が解ける。僕を気に入ってるらしい水の神からの加護を少し移した。多少は乗っ取られる速度が落ち着くはずだ。僕のことはシャルドネやほかの死霊には漏らさないほうがいい、分かった?」


トーヤの言葉にレイミーは頷いた。トーヤはレイミーの頭を撫で


「じゃあな。ピアスができたら送る」


と短く言って伝票を拾い上げて部屋を出ていった。




一人残されたレイミーの頭に、自分と同じ声が響く。


『彼とどんな話をしていたのですか?』


レイミーのシャルドネに対する印象は嫉妬に狂うお姫様という感じだ。人の気持ちを理解できず、ことあるごとにトーヤやほかの男を殺せと叫んでくる。今の声だって、声に怒りが滲んで聞こえる。


「あんたには聞こえなかったんやな。別に大した話はしてへんで」


レイミーは誰もいない部屋で髪を梳きながらさっきの話を思い出す。シャルドネに悟られてはいけない。


『私を抜きにして内緒話ですか?ああ…彼は恥ずかしがり屋さんですものね…。かまいませんわ、さあ早く彼を殺しなさい。さあ、早く』


急かすシャルドネの声を無視して氷が解けてしまったジュースを飲み干し店を出た。トーヤの姿はどこにもなかった。


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