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前世の名

季節が過ぎ、雪も積もる冬になった。積もった雪の高さは足首程度。


坂があるわけではない平坦なこの島では転ぶ人はあまりいない。


「さむー!」


寮の扉を開けた夜空が叫ぶように寒さを訴えた。


その隣にいるレイミーも笑いながらマフラーを強く巻き直す。


「寒いなぁ…。あ、でもほら」


レイミーは嬉しそうに息を吐いた。その息は、煙のように真っ白。


「白くなっとる。ドラゴンごっこできるでー!がおー!」


はしゃぎながらパタパタと雪の上を歩く。ぎゅむぎゅむと、雪道独特の音がした。


「元気すぎー。それにドラゴンの息は紫色だよー」


呆れたような夜空の声。


ここ数日雪が降っているので寒いのは分かっていたが、夜空が雪を見るのは久しぶりだった。


島では雪が珍しく、積もることは滅多にない地域だからだ。


「なんやー!夜空雪嫌いなん?」


レイミーの問いに長靴を気にしながら歩く夜空は


「あんまり好きじゃない…。雪も寒いのも…」


と言いながら寒さに震え小さくくしゃみをした。暖かいご飯が美味しいのは嬉しいけどね。


そう、付け足して。




朝の、澄んだ空気が学園を包む。


この寒い朝、なぜ二人が寮を出たのかと言うと、雪見祭があるからだ。


雪見祭は五年生以上の人がステージ発表をしたり出店をやったりするお祭り。


小遣い稼ぎにもってこいのイベントで、自由参加だが不参加な人はあまりいないほど、人気の行事。


「トーヤたち、もう来てるかなー」


夜空とレイミーは、トーヤとナイヴィスと待ち合わせをしている。


祭りは四人で回る予定になっているからだ。


待ち合わせ場所にはすっかり傷も治ったナイヴィスと、今まで以上に防寒着で着膨れしているトーヤがいた。


「あ!夜空!レイミー!」


夜空たちに気づいたナイヴィスが嬉しそうに手を振る。


トーヤは震えながら元気なナイヴィスを恨めしそうに見つめていた。


「おはよー!トーヤ、さすがに着すぎじゃない?」


夜空がトーヤに何枚着てるのか尋ねた。


「はよ…。あー…6枚ぐらい?」


指を折りながら数える。帽子も飛行士が被るようなもふもふとした帽子で垂れ耳のような布を巻いて耳も防御している。完全防寒なはずなのに、まだ寒そうに震えていた。


「服着すぎやでー…。お前は南国の人かいな!」


レイミーが突っ込むとトーヤははぁと、ため息をついて言った。


「それ、ナイヴィスにも言われた…」




校舎からは、騒がしい声が聞こえる。出店者が忙しそうに騒いでいるのだろう。


「めんどくさ…」


ぶるりと、震えるトーヤ。


「トーヤ、なんで来てくれたの?」


夜空が疑問に思い、聞いた。


冬の間はトーヤが外に出たがらないと聞いていたので断ると思っていたようだ。


「なんか、悪い予感がしたんだ。…それに、お前たちと遊ぶのは好きだから」


悪い予感、というのが気になったが思いがけないトーヤの言葉にドキリとした。


「そう…なんだ…!」


高揚感に包まれ、浮き足立つ夜空。


トーヤはあまり心情を表に出さないので、どう思ってるのかあんまり聞いたことがなかったから。


「二人ともー!バトルやっとるでー!参加せん?」


レイミーとナイヴィスが最初に見つけた店にもう入っていた。


参加者がバトルをし、勝者に景品がもらえるイベントのようだ。


「私たち回復科だよ?」


サポートするための魔法ばかり習っているので、戦闘訓練をしたことがない。


「へーきだよ!魔導書を持ってたら防御壁できるから多少は跳ね返してくれるから!」


レイミーがエントリー用紙を記入しながら答える。ナイヴィスも書いてるのでやる気満々の二人。


「トーヤもやろーぜ!」


ナイヴィスの声にトーヤは夜空を見つめてあきらめたようにふっと笑い夜空の決定に任せる、と言った。


「私たちもやる!」


夜空が元気よく手をあげ、トーヤはため息をついて、仕方ないなという笑顔を見せた。


だが、問題はチーム分けだ。レイミーは夜空と組みたがり。ナイヴィスも夜空と組みたがったのだ。


一人無関心だったトーヤは、


「ナイヴィスと夜空、レイミーと僕って分け方は?」


と、提案する。ナイヴィスと夜空は近接攻撃と回復役となっているのでバランスはいい。だがレイミーとトーヤは弓使いと回復役のため、近距離で攻撃ができないので不利になると予想された。


「僕も多少接近戦もできるからこれが有利にできるんじゃないの?」


トーヤがそう言ったので、他にいい案が出ず、トーヤの言ったチームに分かれることになった。


「バトルは午後からになります。汚れてもいい服装に着替え、またこちらにいらしてください」


受付のお姉さんがにっこりと笑顔を見せた。お姉さんに出場料を払い四人は手を振って店を出た。


店に入った時よりも賑わっている廊下を見ると、まだ祭りはこれからだと思える。


「なんか屋台でも行こうぜ!俺射撃やる!」


ナイヴィスが元気にトーヤを誘い、トーヤもまんざらでもない顔で


「たくさん景品とった方が勝ちな。僕も射撃、得意なんだ」


やる気満々のようだった。


レイミーと夜空は顔を見合わせ、二人に気づかれないように笑った。




トーヤとナイヴィスは二人で射的屋に入り数分で出てきた。その間に夜空とレイミーは近くの食事屋台で小さめのお菓子を買い食べながら待っていた。両手に景品を抱えておりナイヴィスは誇らしげな表情をしていてトーヤはムスッとしていた。


「トーヤが負けちゃったの?」


夜空が勝ち誇った顔のナイヴィスに問いかけた。機嫌のいいナイヴィスは鼻唄を歌いなから


「俺の方が多く景品貰ったからな。まあ、トーヤの方が使えるものを取ってたんだけど」


そう言って夜空に、可愛らしいぬいぐるみを渡した。なんの魔力も込められていない、ただのうさぎのぬいぐるみ。


「え?くれるの?」


夜空の好みだったらしく受け取ったうさぎをぎゅっと抱き締めた。


その姿にときめいたらしいナイヴィスは赤くなる顔をそらし、


「うん。俺はいらないし。夜空がよかったら、だけど…」


尻すぼりになりながらもちらちらと夜空の様子を見ている。


「……ありがとう!」


夜空は逸らされた顔を無理にでも合わせ、目を見てお礼を言った。


それだけでぼんっと音が出るほどに赤くなるナイヴィス。


「よかったなー」


にやにやしたトーヤがナイヴィスをからかう。


「よかったね、夜空」


レイミーも笑いながら夜空が持つうさぎを撫でた。




いろんな屋台を廻ったり、イベント会場を転々としているとあっという間にお昼を過ぎていた。


午後に予定が入っているのは最初に見つけた戦闘ゲームと、技を披露する隠し芸大会。


どちらも人気が高いらしく、参加者は多いようだ。


先に行うのは、隠し芸大会の方。指定された場所に向かうと普段は魔法の試し打ちを行うための部屋で、今だけ観戦できるよう二階が解放されており、生徒が騒ぎながら部屋の中心を眺めている。出番が先の夜空とレイミーがぽつんと丸太のみ置かれた部屋の中心の柵の中に入る。


「レイミー…緊張してきたよー!」


夜空がレイミーの手を取り緊張をほぐそうとした。レイミーも同じくそれなりに緊張しているようで


「だ…大丈夫やって!てっぺん狙ってるわけやないんやから楽しんだらいいだけや!な?」


震える声を必死に隠そうとします。この隠し芸大会のチーム分けは男女で分かれることになった。


戦闘ではなく、二人の技のコンビネーションや有効性、美しさなどが審査対象となるらしい。


審査をするのは先生たち四人。上級生の指導担当なのか夜空たちはまだ話したことのない先生たち。


前のチームは失敗してしまったらしく、高い評価は貰えていなかった。


自分達も失敗してしまうのではないかと不安になってしまうが、勇気を出して一歩、踏み出した。


「さあ!次は三年生の二人組だ!どちらも初参加らしいから暖かく迎えてくれ!立花 夜空!レイミー・ナイリス!」


アナウンスが流れ観客席にいる生徒たちから期待のこもる拍手が響き渡る。


二人は緊張をかき消すように、互いに手を握る。


「なんか…恥ずかしいな…」


夜空がレイミーにだけ聞こえる声で呟いた。レイミーは苦笑いするように小さく笑い、


「目立ってなんぼや。気にせんでええ」


と言って握っていた手を離し、上に挙げた。


技の開始の合図。


レイミーは弓を構え、夜空は魔導書を開いた。


夜空は魔導書に書かれた呪文を読み上げ、レイミーは弦を引いた。




パァァンッと高い音が響き、矢が、放たれた。


放たれた時は一本であった矢が、二本、四本と増殖していき、その間に蔓のような植物が生えて巻き付き、網のようなものが完成していく。その網は早いスピードで組みあがりながら攻撃対象であった丸太に絡みつく。その網は蔦のように葉と美しい花を咲かせ、やがて枯れ落ちた。花が咲いた場所に風船のように黒く丸い実が実り、夜空が短い呪文を唱えると、端の方から次々と爆発していった。


轟音と白い煙に包まれる会場。


視界が晴れたときには、丸太は木っ端微塵に吹き飛んでいた。


技が成功し、自然と頬が緩む二人。


練習をしたことがなかったため、うまくいくか不安だったが技は成功したようで喜んだ。


「終了!では審査の先生方、採点をお願いします!」


アナウンスを行っていた女子生徒が、柵を乗り越え、二人のもとへ走った。


夜空とレイミーにインタビューするつもりのようだ。


「お疲れさまでした。夜空・レイミーペアは、初参加ですよね。今回の技はどんなものですか?解説をお願いします!」


女子生徒が時間稼ぎをするように話しかける。


先生たちの採点が終わるまで、インタビューは続くようです。


「矢が増えていったのはあたしの弓の能力です。それで、蔦が延びていったのは夜空の技です」


レイミーが答え、夜空がレイミーの矢筒から矢を取り出し呪文を唱えると、矢からメキメキと蔓が延びていきました。その蔓は黒い実が実る。


「黒の実には爆薬が詰められています。対象物に絡み付き、爆発する仕組みです」


成功してよかったと、夜空は笑顔で話した。




次は、トーヤとナイヴィスのペア。


「続きまして!ナイヴィス・ランニリア、トーヤ・リンクのペアだ!こちらも初登場だ!」


女の子達の黄色い声援が聞こえてくる。ナイヴィスもトーヤも、女の子からの人気が高い。


ナイヴィスは女の子に笑顔で手を振り、トーヤはめんどくさそうにため息をついた。


それだけで、声援はいっそう大きくなった。


「そこのレディーたち!少し静かにしてくださーい!」


アナウンスの女子生徒の声に、少し声援が押さえられた。騒いでいる女子生徒たちは上級生に逆らう気はないようだ。


「女の子たちにかっこいいとこ、見せないとな」


ナイヴィスが明るく笑いながらトーヤの背中をたたく。だがトーヤの反応は冷たいもので、


「早く終わらせるぞ。…注目されるのは嫌いなんだ…」


と言って、右手を高く上げた。開始の合図。


「開始の合図は俺だろ?…ったく……」


ナイヴィスは肩をすくめ、地面に大剣を突き立てた。


ボコボコと、地面が沸騰したかのように泡がたち、熱い湯気を出し始めた。熱気にあてられたのか対象物である丸太の端が、チリチリと燃え始める。


その時、美しい歌声が、会場を包んだ。少年の声で、悲しげなラブソングが歌われていく。所々に、聞き取れない歌詞が含まれていることから、昔の歌ではないかと推測された。


丸太についた火種はどんどん燃え広がり、最後には炭になるまで燃え続けた。


ナイヴィスが地面から剣を抜き取り、今度は力一杯降り下ろした。


美しい歌声で歌っているのは、トーヤだ。歌はサビに入ったらしく、いっそう強く、美しく響きわたる。

剣自体は空振りしたが、衝撃が地面をえぐるように進んでいき、炭のようになった丸太を大きな音と主に破壊した。


「終了!では、採点をお願いします!」


女子生徒はまた豪快にフェンスを乗り越えた。毎回飛び越えているが辛くはないようだ。


「お二人とも人気ですねー!ずばり?人気の秘訣は?」


女子生徒はまずナイヴィスに問いかけた。


「うーん…紳士的に、接することかな?」


ナイヴィスはそう答え、観戦していた女の子たちに手を振った。とたんに黄色い悲鳴が聞こえてくる。


「では?トーヤさんはどうですか?」


女子生徒がトーヤの前にマイクを向ける。トーヤはめんどくさそうに


「知りませんよ…。向こうが勝手に騒いでるだけです…」


と、答えた。会場から黄色い悲鳴と、男からの禍々しいオーラが溢れていく。


「ではでは?今回の技は見事でしたね!解説をお願いします!」


お姉さんは話題をそらし、技について聞いていく。


「俺が剣の力で地面から火種を作って燃やし、炭になって崩れやすくなったところに衝撃を与えただけですよ」


ナイヴィスが大体の説明をしてトーヤがそれに続く。


「僕は歌でナイヴィスの力を強化してただけなんで、あんまり手伝ってないです」


トーヤはそう言いましたが、謙遜と言っても過言ではないだろう。ナイヴィスだけが木を燃やすとしたら、倍以上の時間がかかる。それを数分で炭になるまで燃やし、破壊することができたのはトーヤが強化魔法を使っていたからだ。




「では!次のグループです!……」


インタビューも終わり、トーヤとナイヴィスが夜空達のところに帰った。


「二人ともお疲れさま!凄かったね!」


夜空がキラキラした目で話を聞きたそうにしていますが、トーヤは無表情のまま


「僕、気になることがあるから出てる。結果発表までは戻るから…」


と言って会場から出ていってしまった。


「…なんやあれ?ナイヴィス!すごいやんか!あんなん出来るなんてなんで今まで言わんかったん?」


レイミーが興奮したように詰め寄りナイヴィスもまんざらでもない顔で、


「いや…あれはトーヤのお陰だって!アイツの強化がなかったらできない技だよ。何でもできるやつだとは思ってたけど…」


と答え、トーヤが出ていった出入り口を見つめる。ナイヴィスにもトーヤがどこに向かったか見当がつかないようだ。


「上位だったらいいね」


夜空が楽しそうに笑い、二人も頷いた。


三人は、うまくいった嬉しさで結果発表を待ち望んでいた。




「このあたりで、いいか」


トーヤは周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。使われていない教室のようで、よそから運び込まれた机と椅子が乱雑に積まれている。


すべての窓と出入り口の鍵を閉め、ズボンのポケットから透明な石を取り出す。それは魔法石と呼ばれるもので、魔力の込められた石である。小さく呪文を唱え手のひらから落とし、カーンと高い音が鳴った。同時に、この部屋を包み込むように結界の魔法が張られたのをトーヤは感じ取った。


『魂の名を、我に示せ』


古臭い羊皮紙を取り出し、手をかざして詠唱を行った。羊皮紙に刻まれるようにこげ茶色の文字がひとりでに刻まれていく。それは魔導書と同じ文字で描かれトーヤが魔力を注いでいくと次々と刻まれていく。


「………」


その文字が刻まれていくうちにトーヤは途中で手を止めた。目当ても文章が見つけられたようだ。


「レイミー・ナイリスは、シャルドネの生まれ変わり。のようだな」


魔力を注ぐのを止め、文字を読んでいく。何人かの名前が書いてある。


そのうちの一つ、レイミーの名が刻まれた箇所をなぞる。レイミー・ナイリスと描かれた隣にトーヤにとって因縁の相手の名前が刻まれていた。『シャルドネ・ミリ・ルノワール』と。魂の名とは、前世の名前である。


「……案外、近くにいるものだな」


トーヤは静かに苦笑し入学した時を思い出す。島に入り次第怪しまれない程度に入学してきた魔法使いを観察していた。中でも夜空とナイヴィスとレイミーが魔力の多い子供だったためトーヤは自ら接触し、その人柄を感じていた。


レイミーがシャルドネだとしても、すぐに害があるわけではない。シャルドネは魂の保持者の魔力を徐々に奪い精神をのっとっていく。そのため、今はまだシャルドネが動ける状態だとは思えない。


「ん……?あれ、これ…」


トーヤはレイミーの名のすぐ近くに夜空の名前が刻まれているのを見つけたのだ。その隣に刻まれた名を読んで自然と顔が緩んだのが自分でもわかった。その名は自分がエバートであったとき、姫との間に授かった愛しい娘の名だった。


「お前…こんなところにいたんだな」


進んで探していたわけではない。でも、思いがけない出会いにゆるむ顔を手で覆う。だが、前世の記憶を持っていることも魂の名という存在も知っている魔法使いは少ない。このことは口にしないで行くべきだろうとトーヤは決意した。名残惜しそうに今はもういない娘の名を指の腹でなぞり、小さく呪文を唱え羊皮紙を燃やした。




結界を解いて鍵をすべて元に戻し、教室を出た。ここは他の場所と違い物置状態の教室が多いためか人通りが少ない。生徒の中でも幼い方のトーヤが一人で歩いていると、時々迷子かと声をかけられるほどだ。


「い…いやだ!離せよ…俺は関係ないって言ってるだろ!?」


突然大きな叫び声が聞こえ、驚いたトーヤは声がした方を向く。そこはトーヤがいた教室と同じく物置にされた部屋で怯えた様子の生徒と胸ぐらをつかんでいる生徒の二人だけしかいなかった。


「言い逃れしようってか!?あ?てめぇがシャルドネ様を信仰していないって情報が来てんだ!」


荒々しく叫び脅すように叫ぶ生徒はシャルドネを信仰と言えるほどに心酔しているようだ。そして怯えている方は


「シャ…シャルドネ様は偉大な方だとは思うが神様じゃないだろ!信仰なんてするかよ!?」


そう言って胸の十字架を握りしめた。彼には信じている神様がいるようだ。怒っていた生徒は苛立ちながら呪文を唱えた。途端に怯えていた生徒がその場に倒れこむ。


「お前の…魔力。シャルドネ様のために使ってやるよ」


荒い息を整えながらくっくっくと笑いトーヤが様子を見ていたドアとは別のドアから出ていった。十分に離れたのを確認してから教室の中に入る。


「……大丈夫、か?」


倒れている生徒は辛うじて息はしているものの意識を失っているようだった。普段なら感じられる他人の魔力もこの生徒からは微弱にしか感じ取れない。さっきの生徒が奪ったのだろうか。残念ながら今のトーヤの所持品でこの生徒を救うことができないと理解していた。


「……すまない」


トーヤはその後倒れている生徒がいると通りがかった教師に事情を説明し後を任せた。生徒は命に別状はないようだが魔力が枯渇しているため数日寝込むかもしれないとは言われた。




トーヤが三人の友人のもとに戻る頃にはすべての技の披露が終わったようで結果発表待ちの生徒と野次馬が多く部屋に集まっていた。


結果は二組とも10番台に入っていて、景品の薬草をいくつかもらえた。


「よかったなぁ!三年で上位ってすごない?」


薬草を普段触らないレイミーはとても嬉しそうにしている。


「あんまりはしゃぐなよー。転ぶぞ」


トーヤのやる気のない忠告に夜空とレイミーは笑いながら従う。


「次はバトルだよね?そういえばトーヤ、さっきどこ行ってたの?」


バトルは、汚れてもいい服装で、と指定されていためみんな体操服を着るつもりだ。


この学園の授業では戦闘が多いため、服が破れることもしばしば。


なので、申請すれば新しい体操服が無償で貰えるようになっている。


「どこ…というほどじゃないよ。嫌な予感、外れればいいなって、思ってただけだから」


トーヤは夜空の質問に答えなのかわからない微妙な回答をした。本当は前世の名前を調べるために一人になったのだが、トーヤはそのことを伝える気はないようだ。


夜空は意味がわからず首をかしげましたが、追求しても意味がないと思い話を止めた。


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