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番外編 クリスマス

「くりすますって何?」


夜空の独り言のようにつぶやかれた疑問から話は始まる。夜空の育った国ではクリスマスを祝う行事がなかったようだった。冬は年越しの準備で忙しく、雪の降り積もる今頃の時期は掃除にいそしんでいるだろう。


「なんや、知らんの?クリスマスはなぁ、大切な人に贈り物をする日なんやでー!」


レイミーが得意げに疑問に答えた。彼女はクリスマスが楽しみらしく、雑誌を読みながら特集ページを夜空に見せる。贈り物に最適な品を紹介しているらしい。


「正確には、神様の誕生日を祝う、宗教的なお祭りだけど…この島では、ただプレゼントを贈る日って感じになってるかな」


ナイヴィスが補足の説明を続ける。起源はすでに風化されているようで雑誌にはただ贈り物を贈りあうことぐらいしか書いていなかった。


「ええやんかー!楽しい方がいいやろ?好きやろ?テンション上がるやろー!?」


レイミーが嬉しそうに笑いながら夜空の服やアクセサリーの趣味を聞き出していった。ナイヴィスも夜空の好みが気になるのでそっと聞き耳を立てている。


「うわ…熱いね、レイミー。イベント、好き?」


トーヤが若干引いた様子で手元の分厚い本のページをめくる。小難しい内容の本なため最初に興味本位で内容を聞いたナイヴィスはすでにトーヤの本に触れないようになった。


「当たり前やろ!楽しんでなんぼや!なぁなぁ!私らもプレゼント贈りあわへん?」


レイミーが興奮した様子で提案した。行事ごとが好きなレイミーは皆で贈り物を贈り合いたかったようだがトーヤは本を閉じ


「面倒だから…僕はパス」


と言って立ち上がった。レイミーは


「あ…!ちょいまち!なぁ!どこ行くん!?」


と、トーヤを引き留めたがトーヤは歩き出して


「部屋に戻るよ。生憎、僕には贈るような人がいないからね」


と言って寮のある方向に歩いて行った。発言通り自身の部屋に戻るらしい。


「行っちゃったね…。ナイヴィスは、誰かに贈るの?」


トーヤの背中を見ながら夜空がナイヴィスに問いかけた。特に意識したものではなかったが、ナイヴィスが顔を赤くして動揺したためつられて夜空も少し赤くなる。


「あ!?俺は…あー…秘密」


ナイヴィスが咳ばらいをしながら濁すように答えた。レイミーはその返答に納得いかないらしく


「なんやー煮えきらん男やなー!そんなんじゃもてへんでー?」


と言いながらナイヴィスを肘で小突く。からかわれてると感じたナイヴィスが


「な…!バカにすんな!俺、結構モテんだからな!」


と言ってビシッとレイミーを指さす。レイミーは楽しそうに笑い


「ほー?なら今まで何人に告られたんや?ゆーてみー?」


と挑発した。ナイヴィスはウッとたじろぎ


「……そんなん数えてねぇからわかんねぇよ。多分…15人ぐらい…?」


と思い出すように答えた。レイミーは肩をすくませ


「曖昧やなぁ~。あやふやにされた女の子が可哀想やわ~」


と言ってからかうように大げさなリアクションをする。


「この学園に来てまだ9ヶ月だぞ?名前も覚えてねぇ子から告られたって印象に残んねーよ」


ナイヴィスが弁解するように吐露した本音は二人を納得させるものだった。入学してから日がたっているものの授業も難しいものが多くついていくのがやっとのことの生徒も多い。そんな中で告白を受けても詳しく覚えていなくても仕方がないように思われた。


「レイミー。ナイヴィス。話がずれてるよ。誰にあげるかは置いといて、プレゼントは何がいいの?」


夜空の声にレイミーとナイヴィスがハッとする。


「あぁ、ごめんごめん。そうやな…実はあたしもよう知らんけど、ブレスレットが、一般的らしいで?」


レイミーが夜空の疑問に答えた。雑誌の中にもブレスレットが一際大きく取り上げられていた。


「あー。だから街に大量に売ってたのか。あとは、お菓子かな?社交辞令であげる人には、お菓子をあげるんだってさ。店のお嬢さんが言ってた」


ナイヴィスが街で遊んだ時に聞いた情報を教えてくれたがレイミーは


「あんたのナンパ情報なんか知らんわぁー。夜空、次の休みにでも買いに行く?付き合うたるで?」


と言って夜空を誘ったが


「……いや、一人で大丈夫。お小遣いもまだあるから平気だし、一人で見たいんだ」


夜空はそう言って微笑んだ。


「なん…やて…」


断られると思わなかったレイミーがショックを受けている。ナイヴィスも断られると思っていなかったがショックを受けるレイミーが珍しく


「フラれたな…」


といった。肩を震わせ笑いをこらえながら。


「ナイヴィスが言える話やないやろ!?」


レイミーは頬を赤くしながらナイヴィスに怒る。


「レイミー、落ち着きなよ。レイミーが嫌なわけじゃないから。ね?」


夜空のたしなめるような声にレイミーの怒りも落ち着く。


「楽しみだね、くりすます」


詳しく理解できていない夜空だったがレイミーの浮足立った雰囲気にのまれ、少しクリスマスが楽しみになっていた。




クリスマス当日。


「ん…」


レイミーが目を覚ますと夜空はすでに目覚めており服も外出着に着替え終えていた。


「おはよー、レイミー。今日が、クリスマスなんでしょ?」


夜空はレイミーが起きたことに気が付き今日がクリスマスであることを確認する。


「あ…おはよー。そうやで。ちゃんと準備しとるん?」


レイミーは服を着替えながら問いかける。夜空がどこかへ買い物に行っていたのは知っていたが贈り物を用意しているかまでは知らなかった。夜空はクローゼットの中に隠しておいた袋を取り出し


「バッチリだよ!はい、これはレイミーの分だよ」


と言って小さな薄い箱をレイミーに手渡した。この島の中では有名なアクセサリー店の箱だ。ふたを開けなくても中身がわかるように蓋が透明になっているため中身が黄色の石があしらわれた銀色のブレスレットだとすぐにわかる。


「え…?あたしにブレスレットくれるん?」


驚いた表情を見せるレイミーに夜空はクスリと笑う。


「何で驚いてるのー?当たり前だよ。友達じゃん」


夜空の言葉にレイミーは瞳を潤ませて抱き着く。


「よかったわぁ…。あたしだけブレスレットあげるってなったら辛いもん。ありがとうなぁ。はい、夜空にも」


ひとしきり夜空を抱きしめた後レイミーは机の引き出しから夜空と同じ箱を取り出した。デザインは違うものの同じくブレスレットだった。


「やった!ありがとうレイミー。大切にするね!」


夜空の嬉しそうな笑顔につられほころばせたレイミー。


「いえいえ!じゃあ私いくわぁ!みんなにお菓子配んねん」


レイミーはそう言って大きな袋を肩に担いだ。社交的なレイミーはすでに多くの友人がいるようでその子たちにお菓子を配り歩く予定らしい。


「いってらっしゃい。夕方には戻るんだよー?」


夜空はそんなレイミーをうらやましく思いながらも、ブレスレットを贈ってもらえたといううれしさでいっぱいになっていた。透明な蓋の中には琥珀のような色の石がはめ込まれたハートのモチーフが付いたかわいらしいデザインのものだった。


「分かっとるわ!行ってきます!」


レイミーはそう言って元気な笑顔を見せ部屋を後にした。




「師匠!今、時間ええですか?」


レイミーが元気よく部屋の扉を開ける。部屋の中にはレイミーに弓を教えているリン・メイシャンがいた。手元の書類を机に乗せため息をつく。


「かまいませんが…あなたのその妙なイントネーションはどうにかなりませんか?」


リンはレイミーの言葉に慣れずできれば標準的な言葉使いに直してほしかった。しかしレイミーはバツが悪そうに笑い


「これは癖なんて仕方あらへんと思います。それよりもこれ!クリスマスプレゼント、受け取ってくださいます?」


と言ってリンの髪の色に似た赤い宝石の入った小さな花のペンダントを贈った。ネックレスはプレゼントに珍しいが駄目なものではないことは調査済みだ。リンはとても驚いた顔をしていた。


「まぁ…珍しいですね。てっきり、嫌われてるものだと…」


礼を言いながらペンダントの入った箱を受け取る。普段厳しく接している生徒から物をもらうことなどありえないと思っていたようだった。


「何でですか?師匠にはすっごくいろんなことを教わってるんですから、感謝してます!」


元気いっぱいに笑うレイミーにリンもつられて微笑む。


「…教え子からクリスマスプレゼントを貰ったのは初めてです。ありがとう」


リンは少しためらいながらもレイミーの金色の髪を撫でた。まるで愛しいわが子を撫でるような慈愛に満ちた撫で方をされレイミーが頬を赤くする。


「い…いえ!喜んでいただけて何よりです!では、また次の授業で!」


パッとリンの手から逃れ部屋に入ったときと同じく走るように扉から出ていった。リンは手に残る柔らかな感触を思い出しながら


「ふふ…またね」


と言っていつもの業務に戻っていった。




そのころ、夜空は困っていた。


「あー…どうしよう…男子寮なんて入ったことないし…でも、トーヤとナイヴィスにあげたいし…」


場所は男子寮の前。手に持ったブレスレットの入る紙袋を仲のいいトーヤとナイヴィスに渡したいが、一度も踏み入れたことのない建物に臆してしまっている。


「仕方ない、別に入っちゃいけない訳じゃないし、部屋も聞いたことあるから…大丈夫。うん」


幸いにも以前部屋の番号と位置を聞いたことがある。人に尋ねながら行けばつくだろう。

そう思いながら男子寮の中に足を踏み入れた。




男子寮は石鹸の香りがした。時々すれ違う生徒に道を尋ねながら歩いて行ったが答えてくれた生徒の顔が妙に生やさしくて気恥ずかしくなる。告白か何かだと思われたのだろうかと夜空は少しブルーな気持ちになる。こんなことなら先に約束をしておけばよかった。


悶々と悩むうちに二人の部屋にたどり着いた。部屋の居住者を知らせるプレートにも二人の名前が書いてある。


「うーん…ここで、合ってるよね…。プレートにも、ちゃんと書いてあるし…。直接渡すのも恥ずかしいし、ドアノブにかけとこ。あれ?誰かの袋がぶら下がってる…。ま、いっか。分かるようにメモ入れて…よし、帰ろ。明日話せばわかるし」


すでにドアノブに紙袋がかかっていたことに少し疑問を感じたが、トーヤもナイヴィスも女の子からモテるので好いている女の子からの贈り物だろうと結論付けた。邪魔というわけでもないし、自分が持ってきたものと一緒にドアノブに託しその場を後にした。




「は~。やっぱいっぱい貰えて幸せだわ~」


トーヤの要望で本屋へ買い物に行っていたトーヤとナイヴィス。その道中でどこから嗅ぎつけて来たのか普段遠くから思いを寄せている女の子たちからプレゼント攻撃を何度か受けていた。ナイヴィスはすべての贈り物を笑顔で受け取り、トーヤはすべての想いを断っていた。


「よかったな。盗まれないように気を付けろよ」


自分は購入した本だけ持って隣にいるナイヴィスに注意する。ナイヴィスはお菓子だけでなく男性用のアクセサリーももらっていた。オレンジ色の夕日に照らされきらきらと輝いている。


「盗まれるわけないじゃん!ブレスレットには大抵名前が刻まれてるからすぐにばれるし!盗んでも意味ねーよ!」


アクセサリー屋は箱とアクセサリーに名前を刻むサービスを行っていた。そのためほとんどの客が相手の名前を刻んでいる。


「そーじゃなくて…」


トーヤが言葉を続けようとしたが、足元を走る小さな生物に気を取られた。大人の手のひら程度の大きさで、穂都のような外見、その背中には薄い膜のような羽が生えている。


学園が保護、管理している幻想種『フェアリーテイル』だ。絶滅したと思われている種類の動物でこの島で管理されているもの以外に生存確認の取れなかった生物が幻想種と呼ばれている。


「きゃきゃきゅきょー!」


フェアリーテイルは人間のように見えて、習性はカラスのように光物を狙う。ナイヴィスの持っていたきらきらと光るアクセサリーの入った袋を奪い取り、人には追い付けないスピードで走り去っていった。


「あ…!!待てよコラ!」


ナイヴィスはいきなり奪われて茫然としていたが、すぐに走って追いかける。だが、フェアリーテイルは素早く、見失ってしまった。


「ほら…光り物を狙う妖精だよ。昨日注意を受けただろ?」


トーヤは不注意だったナイヴィスを指摘した。肩で息をするナイヴィスとは対照的にトーヤはケロッとしている。同じぐらいの距離を走っていたはずなのに。


「先生の話なんか聞いてねーよ!ちょ…トーヤ!探すの手伝ってくれ!」


荷物量の差なのかとも思い特に気にせず助けを求める。だが、トーヤは首を振った。


「は?嫌だよ。あの妖精なら百年桜の根本が根城だ。一人で行きな」


踵を返し寮のある方角へ向くトーヤをナイヴィスが止める。


「待てって!一人で妖精相手にするとか面倒じゃねーか!」


フェアリーテイルはすばしっこく、魔法をうまく使えないナイヴィスではかなりの時間がかかってしまうだろう。だから、できれば一人で探しに行きたくなかった。


「だからやだ。僕は先に帰ってるから…ま、頑張って」


特に表情を変えずそのまま寮に帰っていったトーヤ。小さくなっていくトーヤの背中に


「丸投げすんなよ、手伝えよー!!」


ナイヴィスは抗議の意味も込めて力強く叫んだ。




「はぁ…暗くなっちまった…。何であんなにしつこいんだよ妖精は…」


体中に小さな傷を作り疲れ果てたナイヴィス。ようやくたどり着いた男子寮に予想外の人から声をかけられた。


「あ、ナイヴィス!」


「夜空!?何で男子寮に!?」


夜空の声に驚いたナイヴィスは持っていたプレゼントを少し落としてしまう。驚いたナイヴィスが可笑しかったのかくすくすと笑いながら


「ちょ…ビックリしすぎだよー。二人にプレゼント届けに来たんだよ。ドアノブに引っかけといたからよろしくね」


と言ってすべてを拾い終えるとナイヴィスとすれ違った。もう届け終わって帰るところだろう。


「そっか…ありがと。またね、夜空」


ナイヴィスが手を振ると夜空も嬉しそうに手を振り返した。


「うん。ばいばい!ナイヴィス!」



「…………よっしゃ!!」


夜空が見えなくなった後。ナイヴィスは誰にも聞こえない声で喜びを表した。




「…ただいま、どう?新しい本は当たり?」


ナイヴィスが帰ると部屋ではトーヤがソファに座り買ったばかりの本を読んでいた。すでに読み終わったものは包装が破かれ机に積まれている。


「おかえり。なかなか面白いよ。調査不足なのか間違っているところも多いけど。それより、ブレスレットは回収できたか?」


読んでいる途中だった本を閉じ、机の上に置く。ナイヴィスは貰い物のお菓子を開けながら


「まーな…。くそ…トーヤがいればもっと早く済んだのに…!」


恨めしそうにつぶやいてトーヤに袋を差し出した。


「僕は面倒なことはしないよ。……その袋、なに?」


トーヤが問いかけるとナイヴィスは


「……夜空からと、もう一つはお前宛みたいだ。…宛名以外は見てないから安心しろよ」


と言ってブレスレットの入った箱と小さめの紙袋をトーヤの目の前に置いた。


「さんきゅ。夜空から…まさか、ブレスレット貰えるとは、思ってなかったな」


夜空からの箱を開ける。中には鮮やかな緑色の宝石の入った銀色のブレスレットが入っていた。


「ん?そうだな!」


手首に似たようなデザインのブレスレットを装着しながら上機嫌に答えるナイヴィスにあきれたように


「もう着けてるし…。そんなに嬉しいの?」


と、トーヤが問いかけた。ナイヴィスは頬を染めながら


「当たり前だろ。…好きなんだから」


トーヤはナイヴィスの言葉に耳を傾けながら夜空からのブレスレットを箱に戻す。そしてもう一つの紙袋には、袋自体にトーヤ宛と示すタグが付いており、中にはメッセージカードと指輪が入っていた。


「青春だね…。っと…もうひとつは…………はぁ!?」


メッセージカードを読んで、驚きのあまり立ち上がったトーヤ。それに吃驚してナイヴィスが動揺する。


「いきなり立ってどうした?ビックリした…」


はーと言ってお菓子とアクセサリーを片付けに向かうナイヴィスを見送りながら、再びカードに目線を戻す。


「…悪い。何でもない……」


嫌な汗が背中に伝うのがわかる。この指輪に、どんな思いが込められているのか、想像することすら恐ろしく思う。


『シャルドネ・ミリ・ルノワールより、愛をこめて』


短くそう、記されていた。



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