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エピローグ

戦場と化してしまった塔周辺に一人の女性がたどり着いた。その女性は白と表現されるほどに真っ白の髪、真っ白のドレスを身にまとい水色に輝く瞳を携えた美女だ。


「もう、始まっているのですね」


白い日傘を閉じて塔に向かって歩き始めた。何人かの教師が彼女を止めようとしたが、触れることも魔法を当てることもできなかった。


「無駄なことすんじゃねぇよ、クソガキども」


彼女の肩に乗りあくびをする真っ黒の猫が、教師を一瞥して、少年のような声で喋った。女性は


「こら、フォーチュン。関係ないものに話しかけてはなりませんよ」


と優しく叱り歩みを進めた。日は沈みかけ、夕焼けに染まる草原。塔の周辺はナイヴィスと夜空と、フィルコの戦闘の痕跡で荒れ果てていた。


「久しぶりですね、立花夜空」


夜空の張った結界をあっさりと越え、微笑む女性。彼女が誰か、夜空は思い出した。


「あ、アヤメさん?どうしてここへ?」


以前トーヤに会いに来ていた女性。前回とほぼ同じ格好だが、今回は黒猫を連れている。


「また、死期を伝えに来たのですよ」


肩で息をするフィルコとナイヴィスを見た。二人はびくりと震え間合いを取り、ナイヴィスは夜空を守るようにして立ち、フィルコはアヤメに向かっていく。


フィルコが投げた短剣はあっさりとアヤメをすり抜け、地面に突き刺さった。


「フィルコ・リン・ルノワール。お前は今、ここで死ぬ運命です」


アヤメが手を前にあげ、手のひらを上に向けた。その上に、肩から移動した黒猫が乗る。


「お前が生き残ると手にした魔法血石を使い戦争を仕掛けるのだろう。人間相手に。愚かだ」


黒猫が諭すように話す。猫がしゃべるのを初めて見たフィルコは驚愕の表情を浮かべたが、


「何が死ぬべきだ…!何もできない人間など何の価値もない!!」


キッとにらみ、魔法を使いアヤメを攻撃した。 指先に火の粉が集まり小さな火の玉が出来上がってかなりのスピードでアヤメに向かって行ったが、アヤメに触れる前に消火されたように消えていった。


アヤメは茫然とするフィルコの肩に手を置いた。


「それを判断するのはあなたではなく、神であるフォーチュンのみです。潔く死になさい」


アヤメが言葉を紡ぐと、フィルコは意識を失うようにその場に倒れこむ。それから微動だにしないことから、意識を失っていることは確実なのだろう。


「お前たちが、夜空とナイヴィスか。エバートとシェルバートが世話になったな。何かしてほしいことはあるか?フォーチュンは神だから大抵のことはできるぞ?」


フォーチュンと名乗った黒猫は女性から離れ、ナイヴィスとトーヤの前に来て座る。


神が、黒猫であること。そして今、その神が願いをかなえてやると言っている。二人は顔を見合わせ視線を交わし、頷いた。


「エバートとシェルバート姫の魔法血石化を消してほしい。二人の死を誰にも壊させないでほしいんだ」


ナイヴィスが代表して答えた。フォーチュンは尻尾をゆらゆらと揺らしながら


「そんなことでいいのか?わかった。アヤメ、行くぞ」


と言ってアヤメに抱き上げてもらい、塔へ近づいていく。


「夜空、ナイヴィス。二人はもう、永遠の命も、繰り返される記憶も、失うことでしょう。でもそれは、二人が望んだこと。あなた方は、二人の願いを助けたのです。ありがとう」


二人の前で微笑んだアヤメ。それだけ言ってアヤメとフォーチュンは、塔へ入っていった。


「……これで、終わったのかな」


夜空がつぶやいた。ナイヴィスもふーとため息をつき、


「これで、終わったんだろう」


と言って大剣を地面につきたてた。


塔の中から魔力が放出されていくのを感じる。そしてその魔力は空に広がっていくように、溶けていった。




塔からアヤメとフォーチュンが出てきて、夜空とナイヴィスが中を確認すると結晶化していた遺体は何事もなくそのまま倒れているだけだった。漂う血の匂いにむせ返りそうになる。


「結晶化してない。二人はただの人間として、息絶えたことになる。これでいいか?」


フォーチュンが二人に問いかけ、夜空とナイヴィスは頷いて肯定した。


「さあ、次へ行きましょう、フォーチュン。北の大国が大戦の準備をしているようです。止めなければ」


アヤメの言葉にフォーチュンはにゃあとだけ答え、おとなしく抱き上げられた。


「私はより人間が生き残るように、人を殺していきます。一人が死んで、二人が生きる。あなた方は元々死ぬ予定でしたが、生き残るのも悪くないでしょう」


アヤメはそう言ってほほ笑んだ。


「もう二度と、私と会わないことを願っています。それでは」


アヤメはフォーチュンを連れて立ち去っていった。夜空は緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込む。


「大丈夫か?夜空」


ナイヴィスも隣に座り込み、夜空の頭を撫でたが、彼も疲弊しているのかあまり力は残っていないようだ。


「平気。早く島から出よう。先生たちはもう、襲ってこないだろうけど」


教師たちは茫然としたものや、フィルコに駆け寄ったものもいたが、息絶えてるのを確認したらすぐに周辺の補修作業に入った。もう夜空たちと、争う気はない。


「シャルドネもシェルバートもトーヤも終わりを迎えたんだ。だから、もう大丈夫」


夜空の言葉に、ナイヴィスは頷いた。


日が落ちて暗くなった空には、放出された魔力が月明かりに照らされ、オーロラのように光り輝いていた。




「あら、駆け落ちかしら?若いっていいわねぇ」


朝日が昇りそうな時間。夜空とナイヴィスは島を出ようと海辺に来ていた。物資の連絡船が行き来する港があり、そこから船で島を出ることができる。この時間なら人がいないと思っていたが、声をかけてきたのは以前夜空と会ったことのある海の管理人である男だった。


「……駆け落ちじゃ、ないです」


夜空が警戒しながら答える。一晩明かしたとはいえ夜空もナイヴィスもすでに戦えるほど魔力は残っていない。管理人が魔法を使えるという噂は聞いたことがないが、彼の表情からただでは通してくれないかもしれない。


「あら、残念ね。それより、この子があなた方に話があるんですって」


男は小脇に抱えていた布の塊を地面に置いた。抱えている状態ではよくわからなかったが、それは嫌そうに服の乱れを直す人形だった。ピンク色のドレスと造花を沢山付けたヘッドドレスがよく似合っている金髪の人形だ。


「夜空、ナイヴィス。私は姫によって作られた人形です。姫に近づく生徒を監視するために作られました」


人形は機械的な抑揚のない声で話を続ける。ナイヴィスは初めて見たようで興味深そうにしゃがんで近くで眺めている。


「姫が亡くなったと、嘘をついてごめんなさいね。お詫びと言っては何だけど、貴方たちの枷を外しに来たの」


人形はそう言って夜空に近づき手に持っていた魔導書に触れる。


『始まりの大樹より生まれし同胞よ、真実の姿を示せ』


人形は姫と同じ声を出して詠唱を行った。詠唱が終わると、重かった夜空の魔導書は小さな杖に姿を変えた。


「え…?これ、どうして……」


魔導書の変化に驚く夜空。手の中には銀色の一つの杖が握られていた。自分の手のひらと同じぐらいの長さの杖で装飾は特についていない。


「それが本来の姿です。シャルドネによって魔導書としてこの島から持ち出せないように枷をかけられていたため私が外しました。あなたの剣も行いますね」


人形はナイヴィスの剣にも触れ同じように詠唱を行った。ナイヴィスの剣は姿こそ変わらないが、青く色が変わった。光が多い場所ならば美しく光り輝くだろう。


「私はもうすぐ動かなくなるでしょう。姫様がお亡くなりになりましたので。でも、それでよいのです。私も長く生きすぎた。もう、よいのですよ」


人形は微笑んだ。そしてそのまま、剣に触れていた手が力なく落ちる。先ほどまで生き生きと表情を変えていたのに、まるで、ただの人形のように。


「付き合ってくれて、ありがとうね。どうしても、貴方たちに会いたいってきかなかったから」


男性が人形を抱き上げた。大切な宝物を抱えるように。


「貴方たち、島から出たいのでしょう?私が手伝ってあげるわ。さあ…船に乗って」


男性の声に頷き、一番小さな船に乗る。自分たち以外乗れそうにない小ささの船だ。


「この学園が変われるのかはわからないわ。でも、それはあたしたち大人がしていくことよ。貴方たちは好きに生きなさい。それで…」


男性がエンジン部分に魔法をかける。稼働する音が静かな港に響く。


「暇になったら、遊びに来なさいな。きっと、あの姫と騎士に誇れるような学園に変えてみせるから」


シャルドネが死んだことで、彼女の洗脳魔法が切れた。すでに洗脳されていた人も正しい歴史をすでに理解しているらしい。男性の微笑みは、晴れやかなものに見えた。


男性は進みだす船を港に残り見送った。腕の中の人形は何も言わないが、彼の決意を喜んでいるようにも見えた。




「そうか。ナイヴィスは島の外に出たか」


監視を行っていたオレンジ色の鳥に報告を受ける。トワイライトは学園の屋根の上に座り島を見渡していた。洗脳が解けても学園の教師たちは教師らしく生徒をまとめようとしていた。塔に眠るシェルバート姫、トーヤ、レイミーの遺体も無事回収され、いずれ大地に眠ることとなるだろう。


「僕もどこかに行こうかと思ったが、お前たちがいるからな」


トワイライトは笑い、自身の周りを飛び回る透明な鳥や動物に魔力を分け与える。


「まあ…きれいな方ね」


いきなり知らない声が聞こえ、周囲の動物を背に集め警戒する。声の方には女の子がいた。金髪と紫の瞳のかわいらしい雰囲気の女の子。15歳、ぐらいに見える。


「エミリー?どうしたの?」


もう一人、女の子を心配してか同じ色の女の子が姿を現す。どうやら窓から出て来たらしく、近くの屋根にある出窓からカーテンが揺れているのが見える。


「きれいな羽根ね。龍姫族?いや、角の形状が違うかな…」


最初に顔を出したエミリーがトワイライトの羽根や角に興味があるようだ。


「龍姫族ではないよ。僕は…」


ふと、自分の名を答えていいのかと思った。トワイライトという名は自分を育ててくれた女の子の名だ。


今までは彼女と同一の存在になったため特に考えていないかったが、自分は龍であってトワイライトではないのだ。ナイヴィスの初恋の記憶を奪ったとき、自分の記憶も同時に消えたのは自分がトワイライトと同じだったからだ。


「僕は龍だよ。君に、僕の名をつけてほしいな」


記憶を奪う龍は、人の感情に興味がある。文化にも、歴史にも。だから人間の姿をして人間に近づくのだ。


「私に?龍って…」


「龍がまだいるなんて…」


二人とも驚いている。それもそうだ。ナイヴィスの話だと龍はもう人前に出れるほど数が多くないらしい。自分も学園のものに見つからなければここに来なかっただろう。


「僕にも名があったけど、過去に会った子から貰ったものだから。僕、人間と仲良くしてみたいな」


シャルドネの鎖は魔力を奪う。鎖を砕くための力が足りなくてずっと森の中にいたがナイヴィスの記憶を奪った関係で魔力は十分に戻っている。もう魔力を奪う鎖もないし十分生存できるだろう。


「……私、エミリー。こっちがリスタ。よろしくね、龍のお嬢さん」


エミリーが自己紹介した。お嬢さんと呼ばれ、自分がトワイライトと同じ姿だということを思い出す。どうせなら、本来の姿になるべきか。


「僕の姿、見せるね。本当は秘密だからほかの人には見せちゃだめだよ」


トワイライトの姿は軽くて動きやすかった。だから彼女の姿のままだったがどうせなら龍らしい姿を見せるのもいいだろう。


龍は自身の変化の魔法を解いた。少女の姿を捨て、鱗に包まれた肌と長い一本の角。瞳は宝石のような硬質的で瞼がなければ瞳と分からないだろう。髪も大きめの鱗が被われているだけで体毛らしきものはない。


人間と同じような人型だが大きな羽で人外だとすぐにわかるだろう。


「僕も、この学園に入ってみるさ」


手伝ってほしいと、龍は笑う。後ろに控えていた透明な動物たちは龍のそばから離れない。


「わかった。君の名はまた今度決めてもいい?」


エミリーがふふっと笑い龍の手を取った。龍の固い鱗の手は驚くほど固かった。


「もちろん。僕も変わりたいから」


龍の表情は硬いままだった。でも、エミリーには笑って見えた。




「なぜトーヤ・リンクを見逃した!!」


それほど広くない部屋にミアの声が響く。胸ぐらをつかまれたアカルトは悲痛に顔をゆがませる。ミアがこれほど怒るのは久しぶりだ。自分の中で洗脳されていたという認識がありトーヤを襲ったのも洗脳によるものだと理解していた。


だが、ミアは妄信と言うほどシャルドネを信じていた。おそらく心の中でまだ混乱があるのだろう。


「ミア嬢、もうトーヤを追う必要はないでしょう。シャルドネの命令を聞く必要もない。そうでしょう?」


アカルトは諭すように話す。ミアはまだ納得がいかないような顔だ。


「そうじゃない。私はお前が私の命令を聞かなかったのが嫌だ」


ミアの吐露した本音にアカルトは驚いた。確かに今まではミアの命令を最優先していたからそんな不満を漏らされるとは思っていなかったのだろう。


「ミア嬢、いえ…ミア。僕はあなたの命を守るように動いたのです。トーヤ・リンクとあれ以上戦えばこちらが死んでいたでしょう。魔法血石が使えなかったですし」


アカルトの意見に黙り込むミア。あの時は喉をつぶされ、ミアは何もできなかった。


「それでも…アカルトは、まだ私のものか?私を、愛してくれているか?」


素の口調で問いかけられるとついドキリとしてしまう。アカルトは赤く染まる頬を手で覆い隠す。


「当たり前です。僕は、あなたのものですよ」


アカルトが答えるとミアは覆っていた手に優しくキスをした。アカルトが驚いて手を離すと今度は無防備に開かれた唇にミアの唇を重ねた。


「ん!?ミア様!?」


逃げようとするアカルトの服を掴んで引き留める。ミアもアカルトと同じぐらい顔を赤くしていた。


「これだけやっても分からない?」


不満そうな顔だ。混乱するアカルトの頭ではミアの望む答えが出せなかった。


「行きましょうか、アカルト。ついてきなさい、私のかわいい狂犬」


諦めたかのようなミアの顔に少し悲しくなった。彼女の問いに答えられなかった。


「仰せのままに、ご主人様」


彼女の差し出す手にキスをする。複雑そうな表情をする彼女は他の反応を望んでいたのだろうが、アカルトには他の答えを出せなかった。




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