それぞれの行く末
「あれが貝殻姫の塔?」
上空から見えるのは草原とぽつんと一つだけ建っている塔。入り口近くに設置されたテントがいくつか見えた。
「そう。あのテントなんだろう?前見に行ったときはなかったのに」
夜空が不思議そうに首をかしげた。数えてみると五つほど。誰かが忙しなく移動しているのも見える。
「魔力を感じる。多分、あのテントに先生たちがいるんだと思う。どうする?」
ナイヴィスが夜空に意見を聞いた。夜空はうーんと唸る。
「先生が私たちの味方をしてくれるとは限らないよね。シェルバート姫に何かしようとしてるのかもしれないし。近づかずに塔に入る方法ってあるかな?」
まだ空を飛んでいるナイヴィスたちは誰にも見つかっていない。ナイヴィスはふわりと塔の屋根に近づき
「この羽と角を出してる間は誰にも見えないから大丈夫。近くの窓から入ってみよう」
と言って一番高い位置にある窓に触れた。その窓はガラスがはまっておらず、ただ壁に穴をあけただけのものだが、夜空を中に入れることはできた。
内側は脆く所々崩れかけ、今にも崩壊しそうな広い部屋になっていた。下へと続く階段が見えることからここへは階段を上ってくるのだろう。
そして、部屋の中央に光り輝く、大きく透明な石のようなものが見えた。
「ナイヴィス、入れそう?」
夜空はすっと入れたがナイヴィスには少しきついようで小さく折りたたまれた羽が窮屈そうに窓枠に引っかかっている。
「やばい…引っかかって…いたた…」
夜空も抜けるのを手伝い引っ張ってようやくナイヴィスも中に入れた。バランスを崩したのか床にたたきつけられるように落ちてしまったが。
「大丈夫?」
夜空が差し出した手を取り、立ち上がったナイヴィス。ナイヴィスも部屋の中央の透明な石を見つけた。
「だ、大丈夫。それよりあれ、なんだ?……氷?」
不思議に思った二人は石に近づいた。近づくと肌に冷気が当たるのを感じ、氷でできているとすぐにわかった。
「ヒッ……!!な、ナイヴィス!中に人がいる!!」
夜空は気が付いた。氷の中に、女の子が閉じ込められていることに。
「な!?うそだろ!?」
ナイヴィスも目を凝らすと見えた。氷の中で眠るように時を止めたままの女の子。
薄い金色でふわふわしてそうな長い髪とかわいらしい雰囲気の黄色いドレスを身にまとった、自分たちと同年代か年下に見える女の子だった。
「あれ、シェルバート姫?」
夜空が零したようにつぶやいた。ナイヴィスは
「え?あの貝殻姫がこの子だっていうのか?何年も前の人だろ?まるで……まるで、生きてるみたいだ」
と言って首をかしげた。ナイヴィスはシェルバート姫を見たことがない。賭博の時に姿を見せたが、ナイヴィスはトーヤを探して別の場所にいたから。
「生まれは何千年も前だけど、まだ生きてるわよ。辛うじて、だけどね」
突然知らない声が聞こえ、二人が振り返った。壁に寄りかかるようにして立っているのは、氷の中に閉じ込められている子と同じ格好をした女の子だった。開かれた瞳は夜空とナイヴィスを興味深そうに見つめている。
「初めまして、私はシェルバート・ルイ・ルノワール。あなたたちは、夜空とナイヴィス…だったかしら?」
警戒するような表情のまま、自己紹介をした女の子は、夜空の予想通りシェルバート姫そのもののようだ。
「……ルノワール?確かに、私たちの名前は合ってるけど、どうして知ってるの?それに、どうしてシャルドネと同じ名前?」
夜空が湧いて出た疑問を口にしていきます。シェルバートはくすくすと笑い
「知りたがりなのね。嫌いじゃないわ。シャルドネとは姉妹になる。義理のね。あの子、当時の王と結婚して王家の名を名乗るようになったのよ。シャルドネ・ミリ・ルノワールってね」
と答えた。夜空がトーヤから聞いた話とも一致している。
「あなたたちのことはエバートから聞いているわ。お友達、なのでしょう?彼、嬉しそうだったわ」
エバートがトーヤの昔の名前だと夜空は思い出しました。夜の保健室で、教えてもらったこと。
「トーヤ…エバートは今、学園長に追われてるの。いずれここに来るんじゃないかって思ってたんだけど、外には先生たちがいっぱい集まってて…どうしたらいいと思う?シェルバート姫」
戦好きの姫なら何かいい作戦を思いつくのではないかと予想したが、シェルバートは悲しそうに笑い首を振った。
「残念。エバートが追われてるのは知ってるわ。だって、私がエバートを守るように姿を現したもの。関係があると思われても仕方がないわね」
諦めの混じる言葉に夜空は視線を落とした。シェルバートの足には、バラのツタのような痣と、痛々しく紫に変色した足首の痣が見える。その原因は乱暴に繋がれた鉄の鎖だろう。
「この鎖はシャルドネの洗脳を受けていない者しか外せないの。だから、私はここから出られない」
じゃらりと音を立て、足を動かしたシェルバート。夜空はシェルバートの言葉にハッとなり
「私!洗脳防止魔法を小さいころに受けて洗脳にかかってない!」
兄たちの遊びが功を奏したような気がした。シェルバートはあまり期待してないのか
「ホント?じゃあ悪いけど、解除を手伝ってくれないかしら?詠唱は教えるから」
と言って手招きした。ナイヴィスも夜空のそばを離れないようにしてついていく。
「私の言葉に続けて。いい?『永遠の時の流れに抗い永久を求める罪深き罪人を解放せよ。生きることは罪ではなく、ただ幸福のためにあらんことを。すべてを守り、すべてを救い、すべてを浄化し愛しき人を救済するために』」
シェルバートの詠唱に続けて夜空がまねをしていく。すると、ひらひらと舞い落ちるように光の羽根が舞い落ちてきて、鎖に触れた瞬間、パリンッと音を立てて鎖が割れた。
「す…すごい!!エバートでも壊せなかったのに…!」
シェルバートは感極まったのか大粒の涙をこぼした。
「これでトーヤを、救えるのか?」
ナイヴィスの言葉にシェルバートは頷いた。
「エバートには私から魔力を供給してるの。だから、彼の魔力が尽きることがなくなる。それに鎖が外れたことでこの島への魔力供給量がなくなるわ。それだけで、シャルドネを混乱させることができる」
氷に捕らえられた私の体をどうにかしない限り、魔力は奪われてるけどねと言って自分の足で歩き、氷に触れた。それはぎこちない歩き方で久しぶりに長い距離を歩いたのだろう。
「この氷が解けたら、私は生きていけないでしょう。だって」
シェルバートは振り返り、愛おしそうにナイヴィスと夜空を見た。まるで、わが子を見つめる母親のように。
「私たちは、もう死ぬつもりなのだから」
生きることをあきらめた瞳だった。夜空とナイヴィスが否定しようと口を開いたが外から大きな音が聞こえ、慌てて窓枠の外を見た。
もう日が落ちかけており、草原が赤く染まっていく中、黒い液体を滴らせながら歩く一人の人間。
顔は判別できないが、緑色のマフラーを巻いた少年は間違いなくトーヤだった。
「僕が魔術道具を使うと思わなかった、君の判断ミスだ」
時間は少しさかのぼり、トーヤはシャルドネを紫色に光る縄で縛りあげていた。シャルドネが持っていた弓は弦が切れ、矢もすべて折れてしまっている。所々にある切り傷から滴る血液は墨のように真っ黒だった。
「卑怯…ですわ…わたくしが魔術を知らないからって…!」
いろんな魔法の詠唱を行いながら抵抗するシャルドネだったが、魔法は何も発動しなかった。
「知ろうとしなかった、の間違いだろう。魔術は単体では魔法に劣るが複数組み合わせて発動させれば君を拘束することぐらいできる」
教会のいたるところに怪しげな機械が置かれていることに今更ながら気づいたシャルドネは悔しそうに舌打ちをした。魔法の研究ばかりでほかの技術に時間を割いている暇がなかったからだ。しかもシャルドネは体を乗っ取る必要があるためトーヤよりも動ける期間が少ない。
「わたくしを拘束しても無駄ですわよ!いつだってこの魂から抜け出せる!!」
シャルドネはなにかの呪文を唱えたが、やはり魔法は発動しなかった。
「なぜ…?前回は簡単に抜け出せたのに…!」
トーヤは今までも何度かシャルドネを捕まえていた。しかし、いつも肉体だけを置いて魂のみでどこかへ抜け出されていた。そして、新たに乗っ取った体でいつの間にか殺されていた。
「残念だったな。レイミーが協力してくれたんだ。『あたしがもし、シャルドネに乗っ取られたら、離れられないようにしてほしいんや。そしてあたしごと、殺したって』ってな」
ずっと前の話だ。レイミーからもっと性能の高い魔法石を使った装飾品を作ってほしいと依頼された時に同時に頼まれたこと。もともとつけていたピアスと似た色の魔法石を使ったピアスを贈る時に魔法を付与しておいた。
「レイミー……わたくしが離れていた時になんてことを…!!」
もがきながら縄から逃れようとするとバランスを崩したのか横に倒れる。トーヤは手に持っていた剣をシャルドネの首筋にあて、
「さあ、終わりの時だ。お前の心臓を触媒にすれば俺の呪いは解ける。この呪いも、シェルバート姫の氷も解ける!」
ようやくここまで来た。失敗はできない。焦る気持ちを抑え、確実に急所を狙う。
「エバート…わたくしは。あなたを愛していますわ」
甘えるような声。トーヤは狙いを変えることなく
「そうか。僕はお前のこと、なんとも思ってないよ。姫のために、お前を殺すだけだ」
そう言って、シャルドネの胸に剣をつきたてた。
「レイミー!!!」
テントから出てきた女性の叫ぶような呼び声に、つられて何人かが出てきて黒く染まった少年とその腕に抱かれて息絶えている少女を見て悲鳴を上げたり驚愕の表情を浮かべたりしている。
最初に叫んだリン・メイシャンは、レイミーを指導していた教師だ。
「なぜ変化の魔法が解けているのです!!!」
そのままずかずかとトーヤに近づき腕の中の少女の手を取る。少女は今までのきれいな金髪ではなく、赤毛でそばかすの目立つ素朴な雰囲気の少女だった。
「よく、この子がレイミーだとわかりましたね」
トーヤがつぶやき、後ずさったメイシャンはしまったと後悔を浮かべた顔で
「私の子です。わからないわけないでしょう」
と言って、一度離した手をまた取り、顔を近づけ
「お前を救ってやれなかったのですね。願わくば、次の人生が幸多き人生でありますように…」
静かに、涙を流した。周囲に何事かと集まってきた教師たちがいることにも気づかずに。
「トーヤ・リンク。お前を拘束するよう学園長から命令が出ている。来てくれるな?」
杖を手にした教師はメイシャンを刺激しないようトーヤに伝えた。しかしトーヤは首を振り
「まだ、やることがある。残念だが、僕は牢獄で死ぬ趣味はないんでね」
とって呪文を唱えた。転移魔法。前回よりも発動が早く、教師が抵抗するよりも早く転移し、メイシャンが急に手の中から消えた腕を探すように顔を上げた。そして、襟元から赤い石がはめられた金のネックレスが揺れる。
「そこで待ってなよ。僕はもう、疲れたんだ」
トーヤは塔の入り口の前に立っていた。教師たちは捕まえようとしたが、透明な壁があるようでトーヤに触れる前に壁に姿を打ち付けた。
「待って!!レイミーを返して!!」
メイシャンの悲痛な叫びにトーヤは悲し気な笑顔を浮かべるだけで、そのまま塔の中に入っていった。
「トーヤ!!」
夜空とナイヴィスの声が重なった。トーヤは二人の声に安心したのか、ふっと笑みをこぼした。
「エバート。よく戻りました」
トーヤはシェルバートの声がした方を向いた。氷と、その前にたたずむシェルバート姫。
「ああ。ようやくだ、やっと、ここまで来た」
ぽたぽたと黒い液体を滴らせながらトーヤは氷の近くまで行き、腕の中の少女を氷に背中を預けるようにして座らせる。
「夜空、ナイヴィス。悪いけど、外に出ていてもらえるかな。先生たちが怖いだろうけど、魔術結界を何重かに貼ってある。丸一日は持つはずだ」
トーヤがシェルバートの隣に立って笑った。その微笑は優しいものだが、どこか決意を感じさせるものだった。
「……わかった」
ナイヴィスが何かを感じ取り、夜空を連れて階段を下りていった。
「ナイヴィス…二人を置いて行って大丈夫なの?死ぬつもりなんじゃ…」
不安げな夜空を連れて降りていくナイヴィス。繋がれた手をギュッと握り
「二人の決断は、二人だけのもの、だと思う。俺たちがどうにかできるものじゃない」
振り返らずに、答えた。二人が望む結果を得られることを願いながら。
夜空とナイヴィスが塔から出る音が聞こえ、二人は微笑みあう。
「やっと、終われるのね」
シェルバートが言った。
「やっと、終われるのさ」
トーヤが笑う。
両手の指を絡ませ、口づけを交わし、そのまま二人は詠唱を始めた。
『わが名はエバート・ルイ・ガルシア』
『わが名はシェルバート・ルイ・ルノワール』
光が集まるようにふわふわと漂い始める。
『わが愛は繰り返される時の中で』
『わが愛は永遠に続く時の中で』
時々交差する視線に微笑みながら。
『ただ一人の愛しい人を何度でも探し出し』
『ただ一人の愛しい人を何時までも守り続け』
愛を確かめるように。
『シェルバート・ルイ・ルノワールを愛し続け、ここに終わることを祈る』
『エバート・ルイ・ガルシアを愛し続け、ここで終わることを願う』
こつんとおでこを合わせ、互いの体温を感じた。
『すべての罪を背負い、この身の終焉と共にすべてを解放することを誓う』
『すべての罰を受け止め、この身の終焉と共にすべてを償うことを誓う』
二人は、ついばむようなキスをして微笑む。
『愛しき人にどうか、幸福を』
同じ言葉を、重なり合うように、歌うように。
二人は微笑みながら、光に包まれその場に倒れこんだ。
夜空とナイヴィスは塔の外に追い出されて何時間か経過しました。外はすっかり暗くなり、テントに明かりがつき始めていた。
「ねぇ、トーヤは丸一日、結界がもつって言ってたよね?」
夜空が隣に座るナイヴィスに声を掛けた。ナイヴィスは疲れた様子で
「ん…言ってたね…」
と短く答えた。そして、元気な腹の音が鳴る。
「まさか結界が外からも内側からも物を通さないなんて…」
夜空もため息をついた。魔術結界は教師たちを阻んでくれるが、自分たちも外に出られなかった。前回いつ食事をしたのか、あまり思い出せない。バラ園から帰還してまともな食事を行っていない。
「どうすんだよ~…。このまま餓死とか辛すぎ…」
二人とも食べ物を持っていない。魔導書と、大剣のみ。
は~と大きなため息をついていると、空からピーーーと鳴き声が聞こえた。
「ん…?あれ、あの鳥!」
空から降りてきたのは、オレンジ色の半透明の鳥と、一回り小さい青色の半透明の鳥だった。
ぴちぴちと鳴き、足でつかんでいた包みを地面に置いて何も言わずにナイヴィスを見つめた。何かを言いたそうな瞳だったが、特に鳴いたりはせずに飛び立った。
「なんだろ、これ…」
包みを開くと、中には果実がどっさり入っていた。どれも調理せずに食べられるもの。
「やった!餓死は免れたよ!ありがとう鳥さん!」
小さくなっていく鳥の影に飛び跳ねながら礼を言う夜空。
空腹を満たすように二人で分けながら食べていくとナイヴィスが空を見上げ
「きれいな月だな」
とつぶやいた。夜空がナイヴィスを見ると、透明な角が月明かりに照らされ、きらきらと輝いていた。
「…ナイヴィスと、一緒にいるからいつもよりきれいに見える」
夜空は微笑んで答えた。ナイヴィスの言葉が想いを告げ、夜空が受け取る言葉を紡いだのだが、その真意を探るものはどこにもいない。
「ここにいるのが、夜空でよかった」
ナイヴィスが、とんと肩を寄せた。ほんのりと、赤くなっていることに夜空も気づいていた。
「私も、ナイヴィスと一緒にいれてよかった」
ナイヴィスの肩に頭を預け、空を見上げた。
星と月は、静かに二人を見守っていた。
一夜明け、周囲が明るくなったころ。夜空は目を覚ました。
「あ、起きた?」
ナイヴィスはすでに目覚めていたようで眠そうに目をこする夜空を見ていた。
教師たちは夜通し魔術結界の解除を行っていたようだがまだ破られていない。
「何をしている!!結界を破るのに何時間かけるつもりだ!!」
聞こえてきた怒鳴り声にびくりと夜空が肩を震わせた。学園長、フィルコ・リン・ルノワールの声だ。
「こんなもの!魔法を当てればすぐだ…!離れなさい!!」
苛立ちながらフィルコは魔導書を開いて何かしらの呪文を唱え始めた。
ナイヴィスと夜空が破られるかもしれないと立ち上がり警戒態勢に入ったが、塔の中から大きなものが落ちるような大きな音がして、振り返る。
「なに、今の音…」
夜空が不安になりながらつぶやく。塔の内部は高いところにシェルバート姫の氷がある広間しかなく、その下は壁沿いにらせん状に設置された階段があるのみで音が鳴るようなものは何もない。
「まさか、床が抜けたとか?」
ナイヴィスのつぶやきにまさかーと軽く返事をした夜空だったが、不安になり塔の扉を開けた。
昨日までほこりが舞うだけのただの石造りの部屋だったのに、今はせき込むほどほこりが舞っている。
「ウッ…ごほっ…けほっ……」
二人がせき込みながら目を凝らすと、予想通り床が抜け落ちたようだった。
中心でトーヤと、赤毛の少女とぐっしょりと濡れたシェルバート姫が倒れていた。おそらく氷が解けたのだろう。
赤い血がどくどくと流れ水たまりを作っていく。それは赤毛の少女からあふれる黒い液体と混ざり、マーブル状に広がっていった。
「夜空!トーヤとシャルドネの体、なんかおかしい!!」
ナイヴィスが叫び、夜空も注目すると、二人の体から結晶のようなものが浮き出るように形成されていくのが見えた。そして、背後でガラスが割れるような音が聞こえた。
振り返ると、フィルコが狂気を感じさせる笑顔で立っているのが見えた。結界が、破られてしまったのだ。
「てこずらせおって……ただの近衛兵と悪名高き姫の分際で……!!シャルドネ様はどこだ!!」
ナイヴィスは怒鳴り声に危機感を感じ塔の扉を閉め、夜空を守るように一歩前に出て武器を構えました。その後ろで夜空も魔導書を開く。
「シャルドネは死んだ!!エバートもシェルバートも!」
ナイヴィスが叫ぶ。あの高さから何もせず落ち、あれだけの出血をしているならだれも生きてはいないだろう。
「死んだ?……ならば、魔法血石を回収せねば…!相当量の魔力をため込んでいるはずだ!」
フィルコの声に夜空はハッとした。体から形成されていた結晶は赤黒く、魔法血石と同じ色だ。
魔法血石は死んだ魔法使いの遺体からできると、夜空は気づいてしまった。
「魔法血石を学園長に渡したら、何をされるか…!」
魔法血石は使用者を狂気に導き、自我を喪失させる。そして強力な魔力を扱えるため、高値で取引される。
「夜空。あと、どれくらい戦える?」
ナイヴィスの声で思考を止めた。そうだ、学園長を止めなければと視線をフィルコに戻した夜空。
「丸一日、余裕。ナイヴィスは?」
二ッと笑いナイヴィスに強化魔法をかけた。ついでに、教師たちが入ってこれないよう、結界の魔法も準備する。
「俺も丸一日、余裕だ。二人で、守ろう」
みなぎってくる熱量に体を任せ、剣を構えた。




