表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

トーヤの逃亡

「今回は死亡者なしですか。平和に終わって何よりです。…そんな怖い顔しないでくださいよ」


マイクを片手に青年が姿を現した。声が聞こえるや否やナイヴィスとトーヤがそれぞれの武器を構える。


「二人を助けたのだからもう用はない!帰らせてもらおう」


キッとにらみ怒りをあらわにしたトーヤが叫んだ。普段あまり怒らないトーヤが珍しく、ナイヴィスも驚いた表情をしている。青年は悪びれることなくマイクを構えなおし


「まぁまぁ、結果発表だけでも聞いていってくださいよ。ちなみに掛け金の変更は幻想バラの檻を破壊した時で確定となります!もう変更はできませんのでご了承ください~!」


と言って格好つけて上にあげた左手でパチンと音を鳴らした。その音に呼ばれるように彼の手に飛んできた二羽の鳥がぴちぴちと鳴きどこから持ってきたのか、彼の頭上に大きな布を広げた。


そこに映像が投影され、トーヤ、ナイヴィス、メアリーの名前と数字が描かれた。


「まずは三位!変化の術で惑わせましたが二人の洞察力を侮っていたようですね!メアリーちゃんは三位です!」


メアリーの名とともにどどん!と大きく数字も表示される。これが掛け金なら小さな家が建つほどの金額だ。


「次に二位!惜しくもタッチの差!カメラ判定が必要なほどに接戦でしたが、トーヤ君は二位です!」


画面が切り替わり、どどんとトーヤと数字が表示された。先ほどのメアリーよりは少ない金額だったが、それでもかなりの金額が賭けられていたようだ。


「最後は堂々の第一位!!冷静にメアリーちゃんの変化を見破り!友人と協力し!囚われの乙女を助け出し!最初に触れたのはナイヴィス君です!!拍手~!」


いつの間にか増えた鳥が器用にパンっとクラッカーを鳴らしひらひら紙吹雪が舞い落ちる中一人テンションの高い青年は楽しそうに拍手をした。他の誰も拍手をしないため、一人分の拍手だけが響く。


表示された金額はけた違いに多く、三人の中で一番多く賭けられたのが彼だと一目でわかった。


「おー。人気じゃん。ナイヴィス」


トーヤが特に気にしてなさそうにナイヴィスを茶化す。あまり勝敗や掛け金には興味ないようだ。


「複雑な気分。それよか早く帰りたい」


ナイヴィスはふあぁとあくびをして腕を組む。メアリーが薄着なのを気にして上着を貸してしまったため彼はシャツとベストのみになっている。初夏なので寒くはないが、夜に薄着でいると風邪をひいてしまうだろう。


「掛け金の配当は後日行います!さぁ、ナイヴィス君!賞品を渡しましょう!」


手招きをしてナイヴィスを呼び寄せる青年。怪しみながら近づくと、青年は二つの小さな箱をナイヴィスに渡した。


「これは縁結びの指輪です。好きな人に渡すと恋が叶うそうですよ?」


ふふっと笑い片方の箱を勝手に開けた。中には赤黒い石がはめ込まれた銀色の指輪が入っていた。


へーとあまり関心のなさそうなナイヴィスはトーヤに片方の箱を投げ渡し


「どう思う?」


と短く問いかけました。トーヤは箱を開け中の指輪を取り出し観察した後


「……魔法血石だ。縁結びというより、悪縁結びだな。好いてる人間を無理やり縛り付けて何になる」


パキリと力の込められた指輪は儚くも壊れてしまった。ナイヴィスが残った箱も開け、中の指輪を壊す。


「これは手厳しい。ま、これにて終了です。皆さん保健室に連れていきますね!」


大げさに肩をすくめた青年はパンパンと手をたたいて生徒を呼び、参加者たちを保健室へ連れていくよう指示を出した。




保健室に運び込まれた六人。レイミーとリスタは問題なく寮に戻り、夜空は少し熱っぽかったのでそのままベッドで眠ることに。メアリーとナイヴィスとトーヤはベッドに横たわるとすぐに眠り込んでしまい、検査は明日行うことになった。


トーヤの隣のベッドで寝かされた夜空は、無意識のうちレイミーの言葉を思い出した。シャルドネ。エバート。シャルドネはともかく、エバートはあまり知られていない名前だった。


「あなたは、誰なの?」


夜空の声が静まり返った保健室に響く。


「シェルバート姫の、何なの?どうして、シャルドネを拒むの?」


バラ園に現れた姫の姿は、映像でも見ることができた。声はさすがに聞こえなかったがレイミーとリスタが騒いでいたため夜空も気になって作業を中断して映像を見ていたのだ。


「本当は、シャルドネが諸悪の根源なの…?」


夜空の問いかけにこたえるものはいない。そう思って夜空がおとなしく寝ようとしたその時


「君には、洗脳が効かないみたいだね」


トーヤの声が聞こえてきた。夜空が驚いて起き上がる。


「洗脳?じゃあ、みんな洗脳されてるの?」


トーヤは目を閉じたまま答えているようだった。


「そう。シャルドネの洗脳魔法。生まれてから言葉を発するまでに防止魔法をかけないと自動的にシャルドネの都合のいいように改変された歴史を覚えるようになる」


トーヤの答えに夜空は身に覚えがあった。赤ん坊のころに兄たちが遊び半分で一番下の夜空に洗脳防止魔法をかけ、両親に叱られた話を聞いたことがあったからだ。


「お、お兄ちゃんの…おかげ?」


震える声で絞り出した声。自然とこぼれる涙を慌てて袖でぬぐう。


「シェルバート姫はおてんばなお姫様だった。自ら戦場に赴き剣をふるい、詠唱魔法で味方を鼓舞し勝利へ導いた。僕は、エバートは、そんな姫を殺そうとしたんだ」


トーヤが過去を語り始めた。夜空のすすり泣く声とゆっくりと昔を懐かしむように語る優しい声が部屋に響く。


「エバートの暗殺は失敗し、シェルバートはなぜかエバートを近衛兵にしてそばに置いた。いまでも、僕にはなんでそんなことをしたのかわからないよ。その後姫はエバートの求婚を受け、王位継承権を放棄し平民として生きる道を選択した。他にも兄弟がいたから、その者たちに任せるつもりだったんだろう。そして、王位を引き継いだ弟君に嫁いだのが、シャルドネだ」


シェルバートとエバートと、シャルドネの関係性。学校で教えられていたものとはシェルバートとシャルドネの立ち位置が逆だと気づいた。


教えられていた物語は、王家の姫だったシャルドネが王に嫁いできたシェルバートに王家から追い出され、シャルドネを恨み邪悪な姫になってしまったと。シャルドネは学校を開き、魔法使い育成に力を入れていたが、志半ばで病に倒れてしまい、シェルバートは王家の騎士によって捕らえられてしまったと言われている。


「シャルドネは権力を使いシェルバートを殺しにかかった。なぜそこまでシェルバートを恨んでいたのかわからなかったが、何度も暗殺者や呪いを送り、シェルバートは自殺してしまった。この氷の呪いも、その時に姫の代わりに受けたものだ」


トーヤが淡々と物語をつづる。夜空は落ち着いてきたのかぽふりと寝なおし、トーヤの話に耳を傾ける。


「そのとき、シェルバートが死んでいれば、話は終わっていた。死ななかったんだ。ナイフで胸をついても、喉を切っても、毒を飲んでも。やがてシャルドネの手のものに捕らえられ、実験台にされ続けた。今ではすっかりこの島の動力源だ。この島の魔力で動いているものはすべて、姫の魔力を使って動いている」


話す声は次第に震え、姫がまだ生きていることを証明していた。夜空もこの島の魔力源は無尽蔵だと疑問に思ったことがあったが、不死身の魔法使いを使っているとは思わなかった。


「そんな…」


非人道的なことが自分のすぐ近くで行われていただなんて。夜空はショックを隠し切れない。


「僕の転生の魔法は、もうすぐ切れる。これが、最後のチャンスなんだ。夜空。回復しきったら僕はシャルドネを殺しに行く。邪魔は、しないでくれよ」


決意をあらわにするトーヤ。心の内を明かしてくれたうれしさよりも、トーヤが背負っているものの重さに、夜空は返事を返すことができなかった。


夜空の中で、シャルドネはレイミーなのかもしれないと、疑惑がわいてきている。確かめる方法はない。


「どうしたら、いいの……」


布団をかぶり、誰にも聞こえないように吐露した夜空の弱音。友人同士が敵だなんて、運命は残酷だと。


眠れない夜は、無情にも過ぎ去り、さわやかな朝日が部屋に差し込んだ。




次の日、自然な目覚めで目を覚ましたナイヴィスが体を起こすと、お見舞いに来てくれたらしいレイミーとリスタが駆け寄った。


「あ!ナイヴィス!大丈夫?」


レイミーの問いに答えようとしたが、体がだるく、眠気が強いようで


「いや、体調は、よくない。すごい眠い」


普段はきっちり睡眠をとり睡魔に襲われることがほぼないナイヴィスにとって寝起きでもこんなに眠いのは初めてのことだった。


「魔力が少ないからじゃないかしら?かなり消耗してるはずよ。ほら、これ飲んで寝てなさい」


リスタが差し出す無色で透明な小瓶。以前トーヤが飲んでいた魔力を回復させる薬と同じものだった。


ナイヴィスは警戒しながらも差し出された瓶の中身を確認し、口をつける。少し果物の味が強い薬のようだった。


「トーヤ君と夜空ちゃんにも飲ませたいけど、まだ目覚めないのよね…」


リスタはナイヴィスが飲み干した空の瓶を受け取り、心配そうにため息をついた。


「二人はまだ目覚めてないのか?というより、俺はどれだけ寝てたんだ?」


ナイヴィスが周囲を見渡した。すぐ隣にトーヤが寝ており、その向こうに夜空とメアリーが寝ているようだった。


「あ、一晩だけよ。と言っても、もう夜だからそろそろ一日ぐらいね。メアリーもさっき目が覚めたから、同じものを飲ませておいたわ。体に不調がないなら、そのまま寝ておくことをお勧めするけど……」


リスタの勧めにレイミーも頷いて同意を示す。しかしナイヴィスは


「いや、ちょっと寮に戻るよ。鳥がそばにいないと不安になる」


と言ってベッドから降りて服装を整える。端が焦げたままなので寝かされてから着替えは行っていないのだろう。


「鳥?鳥ってあのガラスの?私もついていってええ?」


レイミーがついていきたそうにしていたがナイヴィスは断った。男子寮に女の子を連れていけないからだろう。


「ついでに着替えてくるよ。というより、俺はもう平気だからそのまま部屋で寝るし心配しないで?明日の朝、様子見に来るよ」


立てかけてあった大剣を背負い微笑んでレイミーを安心させるナイヴィス。本当は倦怠感がまだ残っているが、ここを離れたい思いの方が強いのだろう。




寮の自室は出かける前とさほど変わりなく、暗闇が広がっているだけだった。明かりをつけ、止まり木にとまっていたガラス製の鳥に


「ごめんな、寂しかったか?」


と話しかける。鳥はかわいらしく鳴いてナイヴィスの肩にとまりナイヴィスの頬にすり寄る。ナイヴィスは鳥に


「お前のご主人さまに会いに行く。連絡を任せられるか?」


と問いかけ、服を脱ぎ始めた。鳥はぴちちと鳴き肩から飛んで窓辺に降り立つ。ナイヴィスは窓を開け飛び立った鳥を見つめ


「覚悟を、決めないとな」


独り言をつぶやき、備え付けの風呂場のドアを開いた。




「覚悟はできたか?また会えてうれしいよ、ナイヴィス」


にっこりと微笑むトワイライト。美しく真っ白い鳥のような羽と黄金のふわふわの髪。長い一本の角が幻想的に夜の月の光に照らされていた。ナイヴィスが放ったガラスの鳥はふわりと肩にとまり鳴いて甘える。


「ああ。約束だ。君に捧げよう」


ナイヴィスは涼しい夜であるのに薄いシャツと短いズボンしか身に着けていなかった。そっと、トワイライトが浮かんでいる泉へ足を踏み入れる見ただけではわからなかったが、深そうな泉は意外にも浅く、足首までの水たまりのようだった。


「……さぁ。君の羽と角を見せて。僕がどの程度力を分けるか判断するから」


目の前まで迫ったナイヴィスに優しく微笑みかけ頬を撫でるトワイライト。その瞳は優しいものだが、好奇心に満ちていた。ナイヴィスは薄手のシャツを脱ぎおでこをトントンと叩き部分的だった変化の魔法をすべて解いた。


半透明な青の幼く小さい二つの角。そして、蝙蝠のような透ける薄い膜の張った小さな羽だった。


「君ぐらいの年なら曲がって渦上になるはず。ついでに羽ももっと大きい。よし。大体わかったから始めようか」


トワイライトが角と羽を触りながら確認し、着ていた薄いワンピースを脱ぎ捨てた。下着はつけておらず、幼くも美しい少女の裸体だった。


ナイヴィスは覚悟を決めた表情で頷き服を脱いでいった。細いが男性的な体にトワイライトは


「思っていたよりしっかりしているな。じゃあ、どの喪失から行く?」


密着し、体を確認するかのようになで、問いかけた。されるがままのナイヴィスは


「童貞と処女。その後に記憶の喪失。察しの通り性行為の経験はないからな。お前に任せる」


と言ってトワイライトの頭を撫でた。初めて会ったあの日から何度かナイヴィスはトワイライトに会いに行っていた。そして、本来の力を取り戻すために、性行為の最初と、初恋に関する記憶をトワイライトに捧げるのが条件になった。


「わかった……安心しろ。痛くないようにしてやる。龍は種も卵も持たないし、媚薬も用意しておいた。君に、最高の時間を約束しよう」


甘い香りのする蜜を口に含み微笑んだトワイライトはそのままナイヴィスに口移しで飲み込ませました。


甘く、痺れるような味のするその蜜はナイヴィスの思考力を奪い、目の前の幼い少女を優しく、襲わせました。




蹴破ったかのような大きな音をたてながら開かれた扉の音に夜空は目が覚めた。起き上がると、メアリーもけだるげに起き上がるのが見え、レイミーとリスタが驚いてるのが見える。窓の外は朝日が昇り始めたころのようで空が白んでいた。


「失礼。トーヤ・リンクはこちらかな?」


最高学年の生徒に守られるようにしながら入ってきたのは、学園長のフィルコ・リン・ルノワールだった。物腰や口調は柔らかなものだが、どこか、急いでいるようにも感じ取れた。


「……トーヤ君なら、そちらに」


リスタが唖然としながらトーヤが寝ているベッドを指す。フィルコはその答えに頷き、最高学年の生徒に目配せをしてベッドのそばに向かわせた。


生徒は警戒しながら掛布団をはがすとすやすやと寝たままのトーヤがいた。


「ト、トーヤ」


ただならぬ雰囲気に夜空が名前を呼ぶ。丸まるように寝ていたトーヤはパチリと目を覚まし、眠そうにしながら


「うるさいなぁ。僕になんの用?」


ふああと間の抜けたあくびをしながらベッドわきに立てかけてあった黒い杖を手に取った。フィルコたちは警戒しながら


「君はシェルバート姫とどんな関係なのかな?」


問いかける。トーヤはため息をついて寝癖を乱暴に直しながら


「どんな関係ってねぇ…ご想像にお任せするよ」


めんどくさそうに杖で金属製のベッドのフレームを強く叩いた。キイインと甲高い音が鳴り、その場にいたものが耳をふさぐ。その間にトーヤは短く呪文を唱えふっとわいてきた光に包まれた。


「転移魔法です!!捕らえなさい!!」


フィルコの声に耳をふさいだ生徒がハッとしたように自身の武器を手に取ったが、攻撃を開始するよりも早くトーヤは姿を消した。


「くっ…早く居場所を突き止めなさい!シェルバート姫を野放しにできません!」


フィルコは荒々しく白髪の量が増えた茶髪をかきむしり生徒に指示を出した。あわただしく生徒が出ていく中で黙っていたリスタが


「トーヤ君が、何かやったんですか?」


恐る恐る問いかけた。フィルコはハッとしたように優し気な微笑みを見せ


「あぁ、気にしないで大丈夫ですよ。かの悪名高きシェルバート姫を守護しているようなのでね。シャルドネ様のため、早々に拘束しておくべきと判断しまして。では、失礼」


と言って最後に部屋を出ていった。残された女の子たちは気まずそうに顔を見合わせた。


「トーヤ君…大丈夫かな…」


リスタがつぶやき、手の中の小瓶をそっと机に置いた。おそらく目が覚めたら飲ませるつもりだったのだろう。


「わからん…。シェルバート姫なんてもう死んでるはずやろ?なんで守る必要があるんや」


レイミーの言葉に耳を傾ける夜空とメアリー。メアリーは直接目の前に現れたシェルバートを目の当たりにしているため


「生きてる、のかも。あんまり覚えてないけど…。でも、あんなに魔力が多いのってシェルバート姫ぐらいだよね…」


ギュッと布団を抱き寄せ、急に現れたシェルバート姫の姿を思い出す。美しく、凛としていてあふれ出る魔力に圧倒されていたメアリーは姫が恐ろしいもののように見えた。


「……私、探しに行く」


夜空が決心してベッドから出た。乱れていた衣服を直し、体の調子を確認する。何も持っていなかったので夜空の私物はここにはない。


「え?やめた方が…危ないんじゃない?学園長が動いてるんだし……」


メアリーが制止した。リスタも首肯し同意を示す。


「……夜空は、ナイヴィスを探しに行きや。私がトーヤを探しに行く」


レイミーが夜空の意図を汲み自分も探しに行くと言った。夜空はレイミーがシャルドネと関係があるかもしれないという疑念を抱いたままだったが、判断材料が少ないためその提案を飲んだ。


「わかった。トーヤなら……寮か、個人倉庫だと思う。番号は375番」


夜空がトーヤの行きそうな場所を教えた。個人倉庫は生徒個人の資産を保管する倉庫で中に誰かいるか確認するだけであれば番号さえ知っていれば受付に調べてもらえる。本当は他にも候補があったが、夜空は教えなかった。


「夜空、よく他人の個人倉庫の番号覚えてるな…了解!じゃあナイヴィス見つけたら手紙出してな!」


レイミーは不思議そうにしながらも教えられた場所に向かうため部屋を出ていった。


残されたリスタとメアリーが夜空を見つめる。


「ナイヴィス君なら寮で寝るって言ってたわ。…それで、なんで個人用の倉庫の番号、覚えてたの?」


不審そうな視線。夜空も苦笑いしながら


「トーヤから、魔法石ならもっていってもいいよって倉庫に入れてもらったことがあるの。その時に、いろんな道具を見せてもらって…いつでも入っていいって言われたから番号も覚えてたの」


初めてトーヤの倉庫を見せてもらったときはびっくりしたのを夜空は思い出した。人が入れるか入れないかぐらいの大きさの部屋に見たことがない道具がいくつか保管されていた。麻の袋に無造作に詰められたきらきらと色とりどりの光を放つ透明な宝石たち。どの宝石からも魔力を感じ中に入っているものがすべて魔法石であることが肌でわかった。彼は多くの魔法石を所持しその一部を夜空に分け与えていた。


「私行くね。トーヤが学園長に探されてるって教えないと…」


ナイヴィスが寮にいるなら女子寮に寄ってから探しに行こう。魔導書がないとうまく魔法が発動できない。


夜空はそう考えながら走るように足を進めた。




「はぁ…はぁ……。ここにはいない…」


男子寮で訝しげな目で見られながらも肩で息をし、後ろ手に扉を閉めたのは夜空。自分の魔導書を回収し、急いで男子寮のトーヤとナイヴィスの部屋にたどり着いた。しかし、夜空はすでに二人の荷物が回収されていることに気づき、出遅れたことがわかった。ナイヴィスが他にどこに行くのか。


「森、かな」


後をつけていなかったが、ナイヴィスがよく森に向かっていることを知っていた。何をするために行っているのか聞いたことがあったが、はぐらかされ詳しいことは知らない。


ここから森までの道のりに、以前トーヤが踊りを踊っていた廃協会もある。寄ってみるかと思案しながら不審がる男子たちの視線に逃げるように寮を後にした。


寮から出ると、一羽の鳥が飛んできてふわりと、差し出された夜空の手に乗った。それは薄いオレンジ色の半透明のガラス製の鳥。ナイヴィスがいつも連れている鳥より一回り大きく、尾がレースのようにふわふわひらひらと風に揺れとても美しい鳥だった。


「誰かの使い?ナイヴィス?」


トーヤが同じものを作れることを知っていたが、この鳥が誰のものなのかはわからない。鳥はふわりと羽ばたいて、導くように優雅に飛び回った。


「お願い。ナイヴィスとトーヤを知らない?二人を探してるの」


夜空の願いに、オレンジの鳥はぴーーーと長く鳴き、飛んでいく。見えるところで止まり、夜空が追いかけてくるのを待っているようだった。


「あなたについていくわ」


急がないといけない。早くしないととはやる気持ちを抑え飛んでいく鳥を追いかけた。




ぴちぴちと鳴く鳥の鳴き声に目を覚ましたナイヴィスは体を起こした。森の木漏れ日を感じ、空を見上げると木の葉の間から柔らかな日差しが漏れているのが見える。あくびをしながら周囲を見渡すと、自分は泉のすぐそばで眠っていたらしく、体に掛けられていた薄い布を肩に掛けた。驚いたことに他に服を着ていない。


「起きたか。果ててそのまま眠るとは思わなかったよ」


隣で笑うような楽しげな声が聞こえた。トワイライトはいつもの薄手のワンピースを着ており、普段と変わらない様子だった。


「あー、ごめんね。昨日のことあんまり詳しくは覚えてないんだ。気持ちよかったけど」


ナイヴィスは昨晩の甘い時間のことをあまり覚えていない様子だった。トワイライトは少し寂し気な視線で


「そうだろうな。強い薬を使ったから記憶に残らないんだろう。ついでに君の初恋の記憶もいただいておいた。なかなかマニアックな初恋だな」


眠っている間に残っていた記憶の喪失を行ったことを告白した。ナイヴィスの初恋は、村に飾られていた一枚の肖像画の少女だった。唯一の龍姫族の男の子に嫁入りしたまだ幼さの残る美しい少女。


「へぇ。よく覚えてないしいいや。それより、俺の服知らない?寒くはないけどさ」


ナイヴィスは脱ぎ捨てた自分の服がどこにもないことに気が付いた。ただの布だけでは森の外に出ることができない。


「知らない。と言いたいところだが、どうやら森の精霊がお前の匂いを気に入ったようでな。代わりのものを用意したからそれを着てくれ」


トワイライトが立ち上がり、手をたたくと泉の中から一式そろった服が出てきた。濡れているかと思われたその服は意外にも洗い立てのような手触りで、サイズもナイヴィスの体にぴったりのものが用意されていた。


「ありがとう。なんか、君が着てる服と似てるね。じゃあ俺、もう行かないと」


デザインはいつもナイヴィスが着ている服と似ていたが、装飾や柄の雰囲気がトワイライトのものとよく似ている。そして、背中が開いたデザインだった。


その服に着替え立ち去ろうとするナイヴィスに、トワイライトは無意識に袖をつかんで制止させた。


「…?どうかしたのか?」


不思議そうなナイヴィス。トワイライトも。


「あっ……いや、なんでも、ない。また何かあったら頼ってくれてかまわない。僕はいつも、ここにいるから」


言葉に詰まりつつも、微笑みを見せたトワイライト。ナイヴィスは首をかしげながらも


「うん?君はいつもここにいるの?服、ありがとな。俺はナイヴィス。またな」


と言って青い小鳥を肩に乗せ、森の中へ入っていった。まるで、初めて会ったかのような自己紹介を残して。


「ナイヴィス。僕は、お前を助けてあげたい程度は好きだよ。ハイトラとトワイライト以来、かな」


いなくなったナイヴィスの姿を頭に浮かべ、誰もいない森の中でつぶやいた。ナイヴィスの初恋は、肖像画に描かれたトワイライトの姿だった。本人は覚えていないみたいだが。今のトワイライトの姿は、ハイトラに嫁となった少女と同じ姿。龍として捕らえられ、ここに拘束されてからいくらか年月が流れ、何度か人間に会うことはあったが、力を分けたいと思うほど気に入るものはいなかった。


「ナイヴィスの行く末ぐらい見守ってやろうか。この程度の拘束で僕を捕らえられると思っているのは笑えるけどね」


美しい白い羽を広げ、羽ばたいた。森の木の葉の間を抜けると久々に直接浴びる明るい太陽の光に目を細める。足に絡みつくような鎖型の拘束魔法は割れるような音を響かせ解除された。トワイライトには効かない魔法だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ