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誘拐

「あーーー!!!!」


今日は1日休み。しかし特に予習が必要な授業はなく、暇を持て余したナイヴィスとトーヤは部屋で積み木を積み上げる遊びをしていた。下の方から抜いて上に置いていく遊びだがナイヴィスもトーヤもうまく積み上げていき立ち上がって積んでいく高さまで積み上がっていた。


だが、突然開かれた扉の音にびっくりしたナイヴィスが高く積み上がった木を大きな音とともに崩してしった。ナイヴィスの肩に止まっていたガラスの鳥がピチピチと鳴き、飛び立った。


「はい、ナイヴィスの負けね。風呂掃除よろしくー」


トーヤが笑いながら言って来訪者が誰なのか開かれた扉の方を確認した。


「ちょっ…トーヤ!今のはノーカンだろ!って…誰?」


ナイヴィスが抗議しながらトーヤの視線を追ったが入ってきた2人組は知らない人のようだ。


「トーヤ・リンク18歳、ナイヴィス・ランリニア17歳の2人で間違いないですね」


片方の男が手元の紙束を捲りながら確認を取ってきた。


トーヤとナイヴィスは学園に入学してから7年が経過した。トーヤが春生まれなので既にナイヴィスより1つ上になる。


「そう、ですが」


トーヤが少し警戒しながら男達を観察する。簡易的だが部屋の扉には鍵と結界の魔法がかけてあった。簡単には解けないはずと思っていると


「この2人はこちらで預かりました。返して欲しければ迷いの薔薇園に来なさい。では」


男は2枚の写真を取り出し、近くにいたトーヤに渡し部屋から出ていった。


写真にはすやすやと眠っている夜空と、その夜空に抱きつくように眠るレイミーの姿が写っていた。


「はぁ!?なんだよこれ!?」


ナイヴィスがトーヤの手から写真を抜き取り凝視しましたが暗いのかどこにいるか分かるようなものが写っていなかった。


「……ナイヴィス、戦闘服は届いた?」


戦闘服とは上級生たちが使う白色の制服で2人も注文していた。ほぼオーダーメイドで注文からかなり時間がかかるため手元に届くまでの時間は個人差がある。


「え?あぁ昨日届いたらしいから受け取ったよ。まだ試着してないけど…それがどうした?」


ナイヴィスの答えに首を傾げながら


「いや、僕のはまだみたいだからな…。とりあえず今すぐ着て、夜空とレイミーを助けに行こう。見当はついてる」


と言って自室のクローゼットから黒地に金の刺繍が施された豪華なコートを取り出した。ナイヴィスはそのコートに見覚えがなかった。


「何そのコート。戦闘服…じゃ、ないよな。普通は白地に青色の刺繍だし」


ガラスの鳥は邪魔にならないよう机の上にあった止まり木に降り立ち、ナイヴィスも封がされたままだったダンボールからビニールに包まれた白い服を取り出す。コートからシャツ、ズボン、下着まで1式揃っているので今着ている服を脱いでいく。


「昔、アレクの国の軍にいた時に作ってもらったコートだよ。女物だからサイズ合わないけど緊急時用に持ってきてよかった」


トーヤは既に着ていた茶色のコートを脱ぎ袖を通そうとしたが


「あれ…」


腕は途中でつっかえてしまいトーヤはコートを着ることが出来なかった。


「女物のコートなんて着れないだろ。お前だって鍛えてるんだから」


ネクタイをうまく結ぶことが出来ずリボン結びで済ませたナイヴィスは軽く体を動かして着心地を確かめていた。


「そうか…同じぐらいの身長だったから着れると思ってたよ。羽織るだけでも大丈夫でしょ」


トーヤはそう言って肩にかけ、胸元についていたブローチで下に着ていたシャツと固定した。これで激しく動いてもずれ落ちることはないだろう。


「ナイヴィス。試しに触ってみて」


トーヤは右手を差し出し手のひらを広げる。ナイヴィスは以前触った時死人のように冷たかったのを思い出し警戒するが、触れた肌は少し冷たい人肌程度だった。


「ちょっと冷たいけど普通の体温だな。これがそのコートの効果か?」


「あっいや他にも魔法で防御力を上げてるんだ。1番効果が分かりやすいのが体温の上昇でさ。多分他の人がこれを着ると風邪引いた時みたいになると思うよ」


よかった、と言って鞄からいつもの長くて黒いシンプルな杖を取り出し


「ナイヴィスも大剣以外は置いていくといいよ。どうせ没収されるから」


と言って鞄は机の上に置き棒はズボンとベルトの間に挟んで固定した。その姿だけ見ると短めの刀を腰に刺しているように見えた。


「没収ってなんだ?これはただの誘拐事件じゃないってことか?」


と言ってもトーヤと違いナイヴィスは補助の道具を持っている訳では無いため立て掛けてある大剣と特注の剣を納めておくためのホルダーを体に装着した。腰につけると接地してしまうので背中に装備できるようにしている。


「そ。毎年この時期…いや、夏の休暇の間にすることが多いから今年はちょっと早いね。詳しくは歩きながら話すよ。迷いの薔薇園は行ったことないでしょ?案内する」


ナイヴィスが準備出来たことを確認しさっさと行こうと急かすトーヤ。なんだかんだトーヤも2人のことが心配なんだなと分かり笑みが零れるのを抑え先を行くトーヤのあとを追いかけた。




「ん…あれ…」


薄暗い空間で目を覚ました夜空。周囲を見渡しましたがすぐ近くしか見えない。


腹部に暖かいものを感じ下を見ると抱きつくようにレイミーが寝ていた。規則的な寝息が聞こえるが時々うなされている。


「あっ起きた?えーーっと…夜空ちゃん、だっけ?」


夜空は知らない人の声だった。女性の声だが姿は暗くてよく見えない。


「私はリスタ。最上級生で薬学とが専門だよ。…ここって…どこだか分かる?真っ暗で何も見えないんだけど…」


夜空は光を探したが所々天井にある亀裂から光が漏れているだけで覗くには高すぎる位置だった。


「ごめんなさい、分からないです。天井から光が見えるので外はまだ日が出てるのかも…」


何となく植物のような匂いがするためおそらく外だと夜空は予想する。


「夜空ちゃん。暇だし恋バナでもする?」


退屈そうなリスタはふふっと笑いそう言った。夜空はびっくりして


「へっ!?えっどうして恋バナ?」


と狼狽えているとレイミーが窮屈そうにモゾモゾと動いたので1度深呼吸して落ち着きました。


「いやー夜空ちゃんを知ってたのはさ、私1押しのイケメントーヤ君とナイヴィス君の友達だからなんだよねー!まさか直接話す機会ができるとはねー。で、どうなの?付き合ってる子いるの?」


興奮したような口調のリスタは近づいて表情が分かるほど夜空に近づいた。柔らかそうな髪と明るい雰囲気の美女だ。


「えっイケメン…トーヤとナイヴィスが…」


夜空は入学当初からトーヤとナイヴィスと一緒にいたため特に気にしていなかったが2人は女子から人気で影ながら見惚れている生徒が多いようです。


「まさか気づいてなかったの?もったいない…あんなイケメンそうそういないよ…?トーヤ君はクールだけど困ってる人がいたら気まぐれで助けてくれたり?魔法の知識量もすごいしね。ナイヴィス君は優しく明るく元気で女の子の相手が上手いし?単純に強い!この前の模擬戦優勝争いしてたんでしょ?すごいよね!」


興奮したような口調で夜空を圧倒するリスタ。夜空はたじろぎレイミーに助けを求めたが一向に目覚める気配がしない。


「ねえねえ!夜空ちゃんはどっち?どっちの方が好き??」


さらに詰め寄るリスタの恋バナにどう逃げるか考えを巡らせる夜空だった。




「で、結局何のために夜空とレイミーは攫われたわけ?」


先導するトーヤに問いかけるナイヴィス。トーヤは足を止めず


「あー。えっとね、毎年夏季休暇に非公式のギャンブルが開催されるんだ。金持ちとギャンブル好きのために人気の生徒を戦わせて勝敗で賭けをする。僕も何度か参加したけど賭ける側だったからな…」


ナイヴィスは学園内で賭け事など聞いたことがなかった。


「そんなことが…じゃあトーヤも戦うのは初めてか?」


内情を知っているなら勝率が上がるかと思ったがトーヤも初めて戦うようで頷き


「そ。開始は日没と同時だからそれまでに着けばいい。そんなに遠い場所じゃないからすぐ着くよ」


と言っている間に薔薇園が見えてきた。温度調節のためか空気を遮るドーム状のガラス張りの建物の中にあるようで入口が見当たらない。


つなぎ目のないドームに驚きながら近づいていくと1人の少年が見えた。少年は2人の気配に気付き


「名前は?」


と小さな声で問いかけた。


「僕はトーヤ・リンク。こっちがナイヴィス・ランリニア。運営から連絡は来てる?」


トーヤが慣れたように少年に答え、少年はコクリと頷き


「開始までまだ時間はある。中にいるものと適当に話してて」


と言ってガラスの壁に触れた。


触れた場所からガラスが薄くなっていき、最終的には人が1人通れるぐらいの大きな穴が出来上がった。


トーヤが空を確認する。夕暮れだががまだ空は明るく、日没までに時間があるように見えた。


「行こうか、ナイヴィス」


腰に差した黒い杖の存在を確かめるように撫で、先導するように中へ入っていった。


ナイヴィスも背中の大剣の重みを感じつつ後に続いた。




「でもトーヤ君もナイヴィス君も恋人がいるって噂があるのよね」


リスタがふーとため息をついて呟いた。先程まで詰め寄られていた夜空は彼女の言葉に疑問を持つ。


「え?恋人…ですか?」


夜空は見当が付かなかった。誰かと付き合ってるという話は聞いたことがなかったから。


「そう。二人とも好きな人がいるからって告白を断ってるみたいよ。ふらっと誰かに会いに行ってるらしいけど誰も真相には近づけてない感じかなぁ」


二人に好きな人がいるという話も初耳だった。トーヤは女の子に興味なさそうな態度だったしナイヴィスは誰にでも仲良く接し特に仲がいいのも夜空とレイミーのみで夜空はほかに好きな人がいるなんてと唸る。


リスタが話を続けようとすると、急に明るくなる。まぶしくて二人とも目をつむり、レイミーも光から逃れるように夜空に抱き着いた。


「なに、これ」


先に目が慣れてきたリスタが目の前の光景を見て驚いた。そこには心配そうにのぞき込むナイヴィスと険しい顔つきで見知らぬ青年と話すトーヤの姿がみえた。まるでガラスにさえぎられているような光景ですぐそこに存在しているかのように見えた。


「ナイヴィス!」


夜空が叫んだが、ナイヴィスは身動き一つしない。どうやらこちらの声は聞こえていないようだ。そして向こうの声も聞こえない。


「これ、壁に映像が映し出されている…?ただのガラスじゃない…武器もないんじゃ壊せないし…」


リスタがナイヴィスの顔をなぞるように触れ、壁を調べ始めた。確かに壁は存在している。


夜空もレイミーも武器らしいものは持っていない。リスタも悔しそうにしているので武器は持っていないのでしょう。自力でここから出ることはできないようだ。




「これ、本当に映像だけか?まるでこの中にいるみたいだ」


大きな立方体の前でナイヴィスが言った。立方体は白く、石でできているかのような質感でだが、青年が呪文を唱えると光り始め、一面に囚われの夜空たちの姿を映した。


「ええ。テレビのようなものです。実際はこのバラ園のどこかに隠していますので制限時間内に見つけ出してください」


青年はトーヤたちに写真を手渡したときにいた人物で柔和な雰囲気だが有無を言わせない威圧感も兼ね備えた人物のようだ。


「この島ってやっぱおかしいよな。テレビがあったり電球がなかったり。島の外では人間が銃と飛行機と戦車で戦争してるのにいまだにここは絶滅した幻想種とほのぼの暮らしなんてさ」


トーヤは夜空たちに怪我がないのがわかってほっとしながら青年に話しかけた。青年は困った様子で


「私に言われても……すべてはシャルドネ様の御心のままに、ってことですかね」


と言って肩をすくめた。トーヤはピクリとまゆを動かしたが誰にも気づかれていない。


「あーあ。早く始めない?僕もうやる気なくなっちゃうんだけど」


嫌な気分を晴らすように大きめの声で青年に話すトーヤ。青年も早く始めたそうに手のなかの時計を見つめたが


「まだ日没まで時間があります。それに最後の参加者が来ていない。今年は三人で競い合ってもらう予定なんです」


少しイライラしているようだが冷静に、周囲を見渡す。バラ園はそう広いわけではなく、生垣の中に入らなければ向こう側まで見渡せるほどだ。


「レイミーがずっと動かないんだけど大丈夫?死んでない?」


映像の三人を観察していたナイヴィスがはらはらとした声で問いかけました。青年は


「眠っているだけです。三名の体調チェックはこちらで行っていますのでご安心を。異常があればすぐに中止して回復魔法部隊に向かわせます」


と言って時計をズボンのポケットにしまった。どうやら時間が来たようだ。


青年が始めようかと思ったとき、ガラスの壁から一人の女の子が入ってきた。息を切らし、肩で息をしているが、その瞳には怒りの炎が宿っている。


「やっと!やっと見つけた…!ここね!ここが迷いのバラ園ね!」


歳はトーヤたちよりも下だが、誰もが知る有名人だ。かわいらしい顔つき、女の子らしい体、高めの声、フリフリのドレスのようなワンピース。


「メアリー・リーメントですね。これで参加者はそろいました。始めましょうか」


女の子の姿を確認した青年はにっこりと微笑みマイクを取り出した。棘のついた蔦がまとわりつくようなデザインでうまく持たないと怪我をしてしまいそうな代物だった。


「ただいまより!人気生徒三名と縁深き乙女たちによるギャンブル戦を開始いたします!」


大きな声でマイク越しに叫んだ青年。そして今までどこにいたのかと問いかけたくなるほど多くの鳥が一斉に羽ばたいた。鳥にカメラらしきものが取り付けてあることからあの鳥を経由して賭けを行う生徒まで映像を届けるのだろう。


「乙女たちが囚われているのはこのバラ園のどこかにある木の中です!制限時間はありませんが全員が倒れる前に見つけてください!賭けを行う皆さんは事前の説明の通り誰が最初に乙女たちのもとへたどり着くか予想してください。掛け金は配布した端末よりお願いします!」


大声で叫ぶ青年。ここには青年とトーヤとナイヴィスとメアリーしかいないため一人で叫んでいるようにも見える。メアリーは訝しげにトーヤとナイヴィスをにらんでいたが、ナイヴィスの近くに設置されていた立方体に気づき駆け寄る。


「あぁ……リスタさんにレイミーさん…夜空さんまで……」


どうやら囚われている全員と面識があるようだ。心配そうな表情で立方体に触れる。


「全員同じ位置からバラ園に入っていただきます。バラ園の中に入るとこちらの声は聞こえませんしバラ園の中での会話もこちらは録音していないので聞こえません。映像だけですね。なのでキャラを気にせず口汚く罵り合って構いませんよ」


青年の声でメアリーはハッとなって彼を睨んだ。この元凶はお前なのかと。青年は特に気にすることなくそのまま話を続ける。


「バラ園に入ると自動で転移され、バラ園の中のどこかに転移されます。体力か魔力のどちらかが尽きる直前には自動でこのスタート地点に転移されます。転移が働いた時点で失格となります。何か質問は?」


にっこりと微笑む青年。メアリーが納得いかないかのように叫んだ。


「私の友達ばかり狙うだなんて…!なんでこんなギャンブルに参加しなきゃいけないのよ!早く返して!」


どうやら詳しく知らず友達の危機に駆け付けただけのようだった。着の身着のまま、のようで普段から持ち歩いているであろう武器、自身の身長ほどの長さがありそうな槍を手に持っていた。それと小さめのポシェットも持っていたが中には魔法を使うときの補助道具が入っていたらしく青年に回収されていた。


「こちらはギャンブル終了まで預からせていただきます。あと、参加しなければならない理由ですよね。簡単です。あの子たちを救いたいでしょう?助けたいでしょう?人質なんですよ、彼女たちは。おとなしく従っていただいた方が楽なんですがね」


はははと乾いた笑いをみせる青年。よく笑う人のようだが、その根底に何かしらの思惑がありそうな微笑みだった。メアリーは口惜しそうに歯ぎしりをしてバラ園の入り口らしき茂みに向かう。早く助けに行きたいのだろう。


「トーヤ・リンク。あなたの武器は魔導書のはずですが、そんな杖のみで大丈夫ですか?場所を教えていただけたら取りに向かわせますが」


青年の疑問にトーヤは答えるのを少しためらったが、


「……この杖も、『始まりの大樹』から切り出されたものです。鑑定、してみますか?」


と言って腰から抜き取り、青年に渡す。鑑定とはどんな素材でできているか調べるための魔法で、慣れれば簡単に行える魔法だ。そして、始まりの大樹とは、魔力の宿る果実を実らせる大樹であり、一番最初の魔法使いはその大樹の果実を食べたことにより魔法使いになったといわれている。


その始まりの大樹の幹を使って多くの魔法使い用の道具が作られており、このギャンブル大会ではその始まりの大樹を原料に使う武器しか持ち込んではいけない。トーヤと夜空の魔導書、レイミーの弓、ナイヴィスの大剣などがそれにあたる。


「そう、ですね…念のため。では、失礼」


差し出された杖に触れ、魔法を使った。鑑定結果は周囲にはわからないが、何も言わずトーヤに返したため原料は始まりの大樹で間違いなかったのだろう。


「勝利条件は?」


ナイヴィスが短く問いかけた。青年は失念してましたと答え


「初めに囚われている乙女に触れたものが勝者になります。協力するもよし、敵対するのもよし。戦争というわけではないので死亡されては困りますが、蘇生用の秘薬もこちらで準備しております」


と言って笑顔を見せる。言葉にはしないが、早く始めてほしそうな空気を醸し出している。


「いくぞナイヴィス。先に言っておくがここのバラは幻覚作用がある。怪しいと思ったら信じるな。特に、僕とかな」


まだ不安の残っていたナイヴィスだが、トーヤに止められ、ともにバラの生垣に向かう。入り口は狭く屈まないと入れないほどだ。


「では!行ってらっしゃいませ」


青年の笑顔に押され生垣の中にメアリー、ナイヴィス、トーヤの順で入る。不思議なことに生垣に入った途端、入った人の姿が見えなくなっていき、最後には青年だけになってしまった。


「さて、あとは監視するだけですかね」


右手を胸の高さまで上げ、ふっと横に振る。何もないはずの空間にモニターのようなものが現れ、バラに囲まれた三人の姿が映し出された。画面は四分割されており、一人ひとり見るためのものと賭けの結果を見るための画面になっていた。


「へぇ。一番人気はメアリーですか。まぁ彼女、かわいいですものね。今回のギャンブラーは男が多いのかな?次点でナイヴィス…まあ途中変更も可能ですしね。今回も面白くなりそうですね」


ふふっと笑う青年。青年には誰が掛け金を出しているのか把握することはできない。ほかの生徒が行っているからだ。彼も掛けることができるが、誰に掛けたか知るのは配当金を計算する生徒と掛けた生徒自身のみだった。




「あれは……!!」


リスタの驚愕するような声が狭い空間に響いた。映し出されている壁に張り付くようにして司会の青年の手に握られた薬瓶を注視している。


「どうかしたんですか?」


夜空がレイミーを撫でながら問いかけました。リスタが確信したかのようにうなずき、きちんと座りなおす。


「あれ、蘇生魔法特化型高位魔法薬かもしれない。あ、ごめん難しかったね。平たく言えば死んだ人をよみがえらせるための秘薬だよ。でも、禁止されてるはずなんだけど…」


作るのも、売るのも、使うのも禁止だよ。とつぶやくように続けた。なぜあんなところに、という顔だった。


「なんで、禁止されてるんですか?生き返るといっても、亡くなってすぐとかじゃないと効かないんでしょう?」


夜空の問いかけにリスタはうーんと唸る。言ってもいいか迷っているようだ。


「……材料がね、人間の一部なんだ。だから、禁止してるの」


リスタが小さな声で夜空に教えた。ヒッと短い悲鳴が響く。


「一番多いのは魚人族の血液と獣人族の髄液。それに悪魔族の爪と天使族の羽、緑眼族の目玉と龍の鱗。以上が主な材料よ。他にも一般的な人間の体も使ってるって噂よ。詳しいことはわからないわ」


特殊な特徴を持った人種ばかりだった。それに、龍は世界的にも珍しく、目撃情報すらここ何年も出ていない幻想種でありあの薬を作るにはどれほどの犠牲が出たのかと考えてしまう。


「そ、そんなものなんであんな普通の生徒が?」


声が震える夜空。リスタが答えようとすると、レイミーが目を覚ましたようで夜空の膝から起き上がり、眉間にしわを寄せてうーと唸る。かなり機嫌が悪そうと夜空は感じ取った。


「よ…ぞら……。ここ、なんか、やばいねんけど…。どこ?めっちゃ、やばい」


レイミーが目をこすりながら夜空にもたれかかる。機嫌だけでなく、具合も悪そうだ。


「レイミー、体調悪い?もう少し寝とく?ここはどこかはわからないんだけど…」


夜空が頭を撫でながら気遣ったがレイミーは頭を振って辞退した。


「大、丈夫。でも、早く離れたほうがええで。ここ、いっぱい、おる」


うつろな瞳で夜空の服をギュッと掴んだ。背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、夜空はなにが?と問いかける。レイミーは深いため息をつき、


「死霊や。ここで、何度も誰かが死んどる。攻撃するような奴はおらんけど、早く逃げろって、何人かは言ってる」


と夜空の嫌な予感を肯定するかのような事実を突きつけた。幽霊が見えるレイミーには、この空間の中で死んだ幽霊がうようよいるのが見えたのだろう。


「どうやったら、いいのかしら。武器は取られてるし、私の薬が入った鞄もない。何ができるの……」


リスタは早くもあきらめムードだった。レイミーも目覚めたばかりであまり状況はつかめていないが、ここが異常な空間であることは本能的に察知していた。


「この部屋、魔術結界かもしれない」


夜空がポツリとつぶやいた。レイミーとリスタが夜空を見る。


「魔術結界って、あの?魔術?」


「そんなん余計にどうしようもないやん。魔法やったら解読できるかもしれんのに…」


魔法は、魔力を消費して魔法を使う。それに対して、魔術は事前に用意した機材に特殊な油をいれ、稼働させることで発動させる魔法に似た別の技術。魔法は魔力を消費するので魔力を持った人間にしか扱えないが魔術は機械と油さえあればだれにでも使える。


「一回、トーヤと先生に魔術の解除方法を聞いたことがある。うまくできるかわからないけど……やってみる」


夜空は決心したように床に右手を触れた。そして


『偉大なる魔術をもたらしたアイリスト・フィル・ライドエリス。かの者に続けし魔術師たちの英知の結晶を我に示せ』


と長い詠唱を唱えた。一般的な詠唱は一言二言なのでレイミーとリスタは驚いている。


そして、空間そのものが青白く光り、光が落ち着いてくると夜空が背中を預けていた壁一面に光る文字が浮かび上がった。画面の反対側の壁だ。


「い、今のって古代詠唱魔法?なんで夜空ちゃんが知ってるの!?しかも魔術結界が反応した!?魔術に魔法は効かないはずなのに!!」


リスタが興奮気味に夜空に詰め寄った。興奮するリスタに驚きながらも


「前に教えてもらったんです。詠唱はこれしか知りません。トーヤが覚えておいて損はないよって言って……魔術はもともと魔法使いが開発した技術で、構成さえ理解できれば解除できるって言ってたんです」


と答えた。そして、今の詠唱が、魔術の構成を目視するための魔法であると説明を続けた。


「ふーん。なんや、すごいな。幽霊たちもすごいって言っとる。ここが魔術でできたものって気づいてなかったみたいや」


幽霊からの称賛は思ってもみなかったらしく苦笑いしか返せない夜空だった。


「構成を目視できても、理解ができないかもしれない。私はどうにかならないかいろいろ試してみるから、二人は外の風景に注意してて。画面が切り替わってバラ園の中を映してるみたい」


夜空は文字の描かれた壁に手を置いて集中する態勢に入った。残されたレイミーとリスタは顔を見合わせて


「すごいわね、夜空ちゃん。それにトーヤ君も。私リスタ。よろしくね、レイミーちゃん」


リスタが自己紹介をした。慌ててレイミーも


「自慢の友達や。もちろん、ナイヴィスもすごいで?知ってるみたいやけど私はレイミー。よろしくなリスタ」


年上に敬語を使っていないが、リスタは気にしない性格のようで、そのまま画面を見つめた。


バラ園にはトーヤ、ナイヴィス、メアリーがそれぞれ違う位置に立っているようだった。四分割された画面は、三人の様子と、現在地の示されたバラ園の地図が表示されている。


バラ園は迷路になっているようだった。


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