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プロローグ

真っ白な部屋。床は白いタイル張りで、10歳程度の子供達と、少しの大人がザワザワと騒いでおり、床には透明な棺がいくつも並べてある。その棺は透明なはずなのに、中身は一切見えず、空の棺が並べてあるようだった。


今、ひとつの棺の蓋が、小刻みに揺れ始める。


近くにいた、天井の明かりを青く反射させる黒髪と、新緑のように鮮やかな緑色をした瞳を持つ男の子が、蓋の揺れに気づき、近づいていった。揺れは大きくなり、やがて蓋がずれて横に滑り落ち、ゴトリと、鈍い音を立てる。


棺の中には、困惑した表情をしている少女が横たわっていた。焦げ茶色の髪を肩の上で切り揃え、髪と同じく、黒に見間違えるような深い茶色の瞳を持つ少女。少女は、薄茶色のセーラー服を着込んでおり、すぐ近くで様子を見ていたらしい男の子に尋ねる。


「ここはどこですか?」


男の子は、瞳の色と似ているマフラーをつけており、空調が効いているはずの部屋なのに他の人よりも防寒具を着こんでいるように見えた。


「ここはシャルドネという魔法使いが作った魔法学園。君は、魔法使いに選ばれた…らしい」


少女の問いに男の子は答えた。ゆっくりとした落ち着く声。

少女は、体を起こし、棺に触れると


「キャッ…!?冷たい…?」


驚きの声をあげ、触れてた右手を引っ込めた。


棺は冷気を帯びていて、冷たくなっていた。まるで、氷のように。


男の子は両手を差し出し、少女を棺から出る手助けをした。


「この棺は氷でできているんだ。蓋がしまっていると“氷の魔女”の加護で冷たくないんだけど、蓋が開くと、加護が切れて冷たくなってしまうんだって」


男の子が、説明してくれた。少女は、男の子の手を取り、棺から出る。


「“氷の魔女”って何ですか?」


少女の疑問に、男の子は小さなため息をつき、


「いずれ、先生から説明があると思うけど…この学園を作った、シャルドネ・ミリ・ルノワールが、“氷の魔女”って呼ばれている存在だよ」


と答えを教えてくれる。


少女は、なるほど。と言いながらあまり理解ができていない。後から説明があるならその時に質問でもすればいいと考えている様。少女がすることがなく、男の子の隣にただ立っていると、後ろからチョイチョイと誰かが服を引っ張ったのを感じた。


振り替えると、同い年くらいの金髪の女の子が立っていた。青色の瞳と、白い肌は、お人形のように綺麗だと夜空は感じた。薄ピンク色のふりふりのエプロンドレスも似合っている。


「素敵なお洋服やなぁ…あんた、どこの人?」


女の子の口からは、かなり訛りの強い言葉が紡がれた。


少女は、女の子の訛った言葉を理解するのに時間がかかったが、答える。


「私は立花 夜空。東の小国から来ました。どうぞよろしくお願いします」


女の子は少女…夜空の着ている薄茶色のセーラー服に興味を持っている様。


「初めて見たわぁ…かわえぇなぁ…羨ましいわぁ…。あ、あたしはレイミー・ナイリス。よろしゅうに~」


女の子はレイミーと名乗り、夜空の手を取って握手する。夜空は、不思議な話し方をする人だなぁと思いながら、彼女に微笑んだ。


そのあと夜空は、部屋の隅でレイミーと会話しながら時間を潰すことにした。




大人達が声をあげたのは、一時間程立ってからだった。


「魔法使いとして選ばれた子供たち!私たちに着いてきなさい!」


大人たちは教える側の人間なのだろうが、魔法使いっぽくない普通の服装が多いため、夜空はなんだか本当にここが魔法使いの学校なのか疑問に思ってしまう。


「ついて来いやってー。行かへん?夜空ちゃん」


レイミーは立ち上がって夜空を手招きする。夜空もレイミーと一緒に大人たちに着いていった。




連れてこられたのは大きな教会のような場所だった。横長の椅子がいくつもおいてあり、正面には少し高くなっている段差がある。幼い少女の像を中心に後ろには大きなパイプオルガン。壁には綺麗な植物の彫刻と素敵なステンドグラスがある。荘厳な空気が漂うが神聖な場所ではないのか神父や修道女のような人はいなかった。


「綺麗なところだね、レイミー」


夜空が隣にいるレイミーに声をかける。レイミーはキラキラした瞳で周りをキョロキョロと見回している。


子供は椅子に座りなさい。場所はどこでもいいが4人は座りなさい!あと静かに!」


大人が叫ぶように言ってまわる。子供たちはザワザワと騒いでいたので仕方ないのだろう。


「だって。レイミー、一緒に座ろう」


夜空が提案するとレイミーはあまり聞いていなかったようで空返事をしながら夜空のとなりにストン、と座った。話が始まるのを待っていると、夜空の隣に誰か座った気配がした。


金髪で、横髪を青いピンで止めた少年だ。瞳は緑色で、服装はシャツにリボンタイと半ズボン、サスペンダーと貴族の子を彷彿とさせるものだ。少年はそわそわとしながら夜空に話しかける。


「は…はじめまして。俺はナイヴィス・ランニリアです。……君は…どんな名前なの?」


少年はナイヴィスと名乗り、薄く頬を染めながら夜空に質問を重ねた。夜空は、少年を不思議に思いながら


「私は、立花 夜空。初めまして、よろしくね」


と言って握手した。ナイヴィスは一層顔を赤くしながらも、夜空の手を大事そうに握る。


「……さっきぶり。僕、わかる?」


ナイヴィスの隣には、あのマフラーの男の子が顔をのぞかせた。夜空が首肯すると男の子は


「僕はトーヤ・リンク。よろしくね、夜空」


と言ってひらひらと手を振った。表情は崩さず、クールな顔のまま。


夜空も振り返したところで、大人達が高くなっている段差に集まり始めた。子供たちの整列が終わったのだろう。大人たちは壇上に一列に並び、真ん中の人が前に出る。


白髪混じりの茶色の髪をオールバックにした男性で、ダンディーな雰囲気が漂う。彼の着るパリッとした燕尾服も似合っている。


「新入生諸君!君達は“魔法使い適性検査”に合格した未来ある子供だ!私は学園長のフィルコ・リン・ルノワールだ。これから10年間、君たちの面倒を見る教員方ともどもよろしく頼む!以上!」


叫ぶように言い放ち、踵を返して一人右側にあった木製のドアから外に出た。他の大人は何も言わず列を崩したかと思うと子供たちの誘導を始めた。


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