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どうぶつキッカー

作者: 深川 火鼠

 一角ウサギのハンゲツが「ライオンをぶっ飛ばしに行こうぜ」と言いました。


 ジャガーのコジマが断ったので、「どうして」と訊ねると。


「だって、僕おなじネコ科だし……」


 妙に律儀なコジマです。


「うるせえ。行くと行ったら行くんだ。それでも親友か。タマついてんのか」

「ついてるけど、大きくはないよ」

「大きさは訊いてねえんだよ。ついてるんなら付き合えって。野郎、オレたちを舐めてやがる」

「ベロ大きいもんね」

「だからベロの大きさも関係ねえし舐めてるってのはそういうことじゃないの」


 森を抜けるとライオンのユーゴのナワバリ。先月までハンゲツが仕切っていた場所です。


「ユーゴのタマは大きそうだね」

「おまえは大きさにしか興味ねえのか。そんなこと言ったらオレなんてプチトマトだぞ」

「プチトマトみたいに取れるの?」

「取れてたまるか」


 ようは中身です。

 一角ウサギは小さくても強いキック力を持ち、多くの獣を従えてきたのです。


「あの野郎。よくも、あんな卑怯な手段で」


 木の洞を寝床にしているユーゴを見つけると、ハンゲツは唸りました。


「わあ、ハンゲツ。だめだよ。紳士的にいこう」

「解ってるよ! おいユーゴ! もう一回勝負しろ!」

「あん? おお、ハンゲツか。こいつはどうも。今日も小せえのに声がでけえ」

「タマは小さいよ」

「おまえは黙ってろ! 勝負しろユーゴ! ナワバリは返してもらうぜ」

「ははぁん。わしに舐められっぱなしじゃ引けないってことか。上等じゃ。チビのくせに」

「一角ウサギは相手がでけえからってイモ引くような根性無しじゃねえ」

「タマは小さいけど」

「コジマ、おまえは審判だ」


 いいよ、とコートの真ん中に座ったコジマが、ボールを持ってきます。


「1オン1ね。先にシュートを決めたほうが勝ち」


 勝負の方法は当然――サッカーです。


「行くぜ! 一角ウサギの力を見ろ!」


 キックオフ。と同時に、ハンゲツは相手ゴールへ向かってシュートを放ちました。

 必殺の一撃。一角ウサギは小さいが強いキック力があるのです。


「そう来ると思ったよおチビさん」


 ユーゴはネコ科特有の敏捷さを発揮し、開幕と同時に背後――自ゴールへ向かっていきます。

 ハンゲツのシュートを、ゴールに入る手前で叩き落とすユーゴ。


「ほれ、これでどうだ? わしはここで寝転がっているよ。ネコだけに」


 ゴール前で巨大な身体を横たえたユーゴ。なんとゴールより大きい。


「くっ……卑怯だぞ!」

「まあゴールネットが小さいからね」


 サッカーはゴールされなければ負けない。ゴールより巨大な身体でガードすれば無敵。完璧な作戦です。ルールが雑とか言いません。獣なので。


「この! この!」


 どこか隙間がないかとキックを繰り返すハンゲツ。

 ボールは弾かれるばかり。


「この! この!」


 隙間を作ろうとキックを繰り返すハンゲツ。

 ユーゴの身体はびくともしない。


「お、いい球だのう」


 シュートを受け、ユーゴは正面に転がったボールを器用に弄ぶと、


「そらっ!」


 一気にドリブルの姿勢に入りました。


「しまった! 追いつけねえ!」


 度重なるシュートで疲れたハンゲツは、必死に走ります。

 けれどあと一歩届かない。


「わあ! 頑張れハンゲツ! もうすぐ追いつくよ!」

「その前にわしが決めるさ!」


 コジマの応援もむなしく、ユーゴは大きな体でボールを蹴飛ばしました。

 しかし、かろうじてシュートはゴールの角に当たって、弾かれます。


「やっぱりネットが小さいと狙いづらいな。ま、わしはまた戻るから構わんがね」


 失敗したというのにへっちゃら。ユーゴは自身のゴールまで戻っていきます。

 対するハンゲツは、ぜえぜえと息を切らし、転がったボールを拾う。疲労困憊です。


「うう、負けちゃダメだよハンゲツ」

「解ってるよ……でも、アイツ、またゴールを塞いでやがる」


 小さいゴールのおかげで助かったものの、小さいゴールのせいでシュートも決まりません。


「はっはっは。わしの大きさとおまえさんの小ささじゃ勝負にならん。ほれほれ、またいい球をくれよ」


 このままではまた体力を消耗するだけ。


「いいタマ。あ、そうだハンゲツ! タマだよ!」

「なに? ……そうか!」

「ふん、チビがどうあがこうが無駄だ」


 ふんぞり返ったユーゴとゴールに向かって、ハンゲツはドリブルで駆け込んでいきます。

 その角度が、急に変わりました。


「なに!?」


 ユーゴの尻尾側へ回り込んだハンゲツは、


「くらえデカタマ野郎!」


 渾身のシュートを、ユーゴの『タマ』へ叩き込みました。


「ぎょえええええええええ!?」


 たまりかねて飛び上がったユーゴ。ボールはたまたまハンゲツの元へ戻りました。タマだけに。


「これが一角ウサギの魂の一撃だ!」

「タマだけにね」


 そのままゴール。ジャガーのコジマが「やったー!」とジャンプし、親友へ駆け寄ります。


「たまには僕も役に立つでしょ」

「タマだけにな」


 二人は笑い合って、すっかり大人しくなったユーゴに向き直りました。


「うう……たまらん」

「「タマだけに」」


「くそう、わしを倒すとは、チビもやるじゃないか」

「大きさだけじゃねえ。中身が大事なのさ」

「仕方ねえさ……わしはナワバリから去るよ」

「いいや、ユーゴ。ここはオレのナワバリだが、おまえだってここにいりゃいい」

「ハンゲツ、いいのか? おまえさんをチビと言ってバカにした、わしがいても」

「そうだ。一角ウサギはそんなことで追い出すほど小さい器じゃねえ」

「中身がある男は違うなあ。タマはプチトマトだけど」

「うるさいぞコジマ」


 寛容なナワバリの主に、ユーゴは感服し、それ以来三匹は仲良く暮らしました。


「ところでこのサッカーでナワバリを争うというのは、なぜ決まったんじゃ?」

「僕は好きだけど。紳士的だし」

「ん? そんなもん、流行ってたからに決まってるだろ」


 一角ウサギは脳も小さいので、小難しいことは考えないものなのです。

短編でした。

ほんわかした話を、しこたま書いてみたくなったのです。タマだけに。

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