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02 初めての仕事。




 私はゲームも好きだ。特にファンタジー要素強めのゲーム。RPGとか。

 これは、初歩的なクエストだ。

 それと同じことだと私は言い聞かせて、地図を頼りに都を下りた。

 古風な海外を思わせる景色だから、珍しくて眺めてもいる。特に注目されることはなかった。

 私の今の格好は、ハイネックのニットと黒のコルセットベルトをつけている。そして藍色のスキニーパンツ。動きやすい方だから、これで大丈夫だろう。

 地図は、都の外を指していた。

 当然か。都の中に畑を作れていたら、モンスターに荒らされてもいない。

 街の外は、森だった。それも大木の森だ。迷いそうだと思いつつも、地図をしっかり見て歩いた。

 そして辿り着く。小さな畑には、ちゃんと作物らしきものがあった。小さなトマトみたいな実がなっている。それに、若々しい植物が並んでいた。レタスかキャベツかな。

 畑の中を歩いてみれば、掘られた形跡があることに気が付いた。本当に荒らされているようだ。

 畑を出て、足跡を辿ってみる。

 ガサガサと茂みが揺れて、私は剣を抜いた。何が飛び出すのか。緊張で、剣の柄を握り締めた。

 茂みから飛び出したのは、モンスター。鼻が引っ込んでいて、鋭利な牙が並んだ口を大きく開けて、私を襲った。反応出来ず、押し倒される。

 けれども、グッと剣に重さを感じた。牙が私の顔を引き裂くことはなかった。どうやら、剣が偶然突き刺さったみたいだ。

 カッと黒い光が瞬いたかと思えば、ポトンとお腹の上に落ちてきた石。

 ギルドの受け付けの人が言っていた。モンスターを倒せば、石になる。それを届ければ、討伐依頼を完了と説明してくれた。

 石は、クリスタルのようだった。受付嬢はクリスタルって呼んでいたっけ。ちょっと黒ずんでいるけれども、透けてしまいそう。サイズは掌に収まるくらい。

 それを持って、立ち上がる。まだいるかもしれないと、少しの間その辺を歩き回った。けれども、荒らされた畑に残っていた足跡は一つ分だということを思い出して、街に引き返そうとする。

 けれども、バキバキと木が折れるような音が響いてきて、私は立ち止まった。

 やめればいいものの、私はついその音のする方へと歩み出してしまう。

 好奇心は猫を殺すとは、よく言ったものだ。

 そこにいたモンスターは、さっきのモンスターよりも三倍はあった。

 恐怖で足が竦む。でも、そんな場合ではなかった。モンスターは私に気が付き、「ガオオオ」と吠える。ビリビリと空気が震えて、鳥肌が立つ。息が臭い。それに突き動かされるように、地面に飛び込んだ。

 ジャリッと、掌が擦れた。

 でも痛がっている場合ではない。

 突進したモンスターを振り上げた剣で、叩き付けるように斬り付ける。黒い血が吹き出した。

 私はその感触に顔を歪める。最悪な感触だ。モンスターと言っても生き物だから、心地が悪いのは当然だった。

 モンスターは怒る。これも当然だ。

 石にするには、確実に仕留めなきゃいけないみたい。

 地面を駆けて、モンスターの横に移動する。思い切って、突き刺す。

 そうすれば、また黒く光を放ってモンスターの巨体が消える。私はよろけた。


「……ふぅー」


 私は一息ついて、石を拾う。さっきより三倍の大きさだ。

 金貨の袋に、なんとか詰め込んだ。紐をきつくベルトのところに結んでぶら下げた。

 そうだ。カバンが必要。買おう。

 店を探すのには、苦労した。すっかり陽が傾いてしまう。

 腰につけるポーチ鞄を購入して、ギルド会館に駆け込んだ。クリスタルさえあれば換金してくれるようで、二つとも金貨に換えてもらった。

 それから賑わう食堂の中に入って、食事をする。


「アンタ、さては今日が初日だね」


 チキンとサラダを運んできてくれた膨よかな女性の亭主が、言い当てた。

 お腹がペコペコな私は、固まる。落ち着きなく周りを見回していたからだろうか。


「はい」

「しょげんなさんな! 心機一転、頑張りなさいな!」

「はい……」


 元気に笑いかける女性の亭主に、私は力なく笑って見せた。

 そうね。しょげてても仕方ない。心機一転して頑張らなくては。

 私はチキンの足を掴んで、かぶりついた。お腹を満たさないといけない。

 お酒を「歓迎の印」と称して渡されたので、笑顔で「ありがとう」と伝えた。正直酔いたい気分ではなかったけれども、拒否は失礼なので、ゆっくり飲んだ。実はビールは苦手なのだが、仕方ない。

 食べ終わったら「ご馳走さま」と亭主に伝えて、アパートの部屋に戻った。

 鍵を閉めて、ベッドにダイブする。

 大きなため息をついて、明日必要なものを買わなくちゃと考えつつも、眠りに落ちた。




 翌朝は、筋肉痛で目を覚ます。ちょっと太ももと腕が筋肉痛だ。

 起き上がって、バスルームに入って顔を洗う。うがいをして、歯磨きを買わなくちゃと頭の中のリストに加えた。寝癖は撫で付けて直す。

 街の散策を兼ねて買い物をした。

 服も買ったものだから、大荷物になってしまう。でも、満足だ。

 その日はクローゼットに服をしまい、部屋を整えてまた食堂で食事を済ませた。

 シャワーを浴びたあとは、軽く筋トレ。

 翌朝、筋トレをしてから、ブラウスを着た。その上からコルセットベルトをウエストにつけて、黒のズボンを穿く。ポーチをつけて、剣を片手にギルドに向かう。

 ギルド会館で特定のモンスターの依頼を受けて、捜しに都を下りる。

 遠くまで歩いた。沼を横切った先に、蛇がいる。それも巨大な蛇だ。今回の依頼の標的。間違いではないだろう。こんな大蛇が、複数ここら辺にいては困る。

 私は視認される前に、飛びかかった。

 やっぱり切るなら、頭だろう。

 とぐろを巻いた蛇の身体を踏み付けて、真っ直ぐ頭を両断しに行った。

 結構高く飛んだが、ダンと二本の足で着地する。

 大蛇の姿は跡形もなくなり、黒ずんだクリスタルだけが落ちた。


「ふぅ」


 剣を納めて、一息つく。

 すると、後ろから衝撃を受けた。私の身体は、地面に転がる。


「うぐっ」


 もう一匹、大蛇がいた。その体当たりを受けたのだ。

 剣を手放してしまった。早く拾おうと立ち上がって、走り出す。けれども、長い身体が邪魔して、行く手を阻んだ。

 大蛇は「シャー!」と威嚇した。私はそれに臆せず、身体を乗り越えて剣を拾う。でもまた体当たりをしてくる。今度は木に叩き付けられた。


「っは!」


 息を吐き出す。長い身体が、ギシッと押さえ付けてくる。

 耐え切れず、すぐに剣で斬りつければ離れた。

 ぐったりしてしまうけれども、すぐに駆け出す。

 振られた尻尾をスライディングで避けて、剣先を顔に突き立てた。

 グッと押し込んだ感覚がした直後、フッとそれは消える。

 ボトン、と落ちるクリスタル。私は剣を立ってて身体を支えながら周囲を確認。


「……いない、か」


 もうモンスターはいないとわかり、胸を撫で下ろす。

 痛いと背中を伸ばして、クリスタルを拾いポーチに入れた。

 それから、トボトボと剣を支えに来た道を引き返す。

 そこで、子犬みたいな「クゥンクゥン」と鳴る声を耳にした。ほぼ同時に白い光の玉が鼻を掠める。見てみれば、沼にはまってしまった緑の生き物がいた。

 尻尾は狐みたいにもっふりしていたけれど、顔は子犬に近い。


「……まじか」


 見て見ぬ振りなんて出来るわけもなく、私は周囲の確認をしてから、剣を納めて沼からその子犬のような生き物を救出した。

 沼から出れば、光の玉は消えている。


「……なんだったのかしら、今の光」


 トリップした神殿にいる妖精か何かかと思っていたけれども、違うみたいだ。


「ほら、泥はなるべく取ったわ」


 手を汚してしまったけれども、ちゃんと手足の泥を拭った。

 これでちゃんと歩けるだろう。

 にっこりと笑いかけてみたけれども、大人しくしている子犬の生き物は動かなかった。首を傾げる。でも私は満身創痍だから、そのまま帰ろうとした。

 すると、トコトコと後ろをついてきたのだ。


「……」


 足を止めて振り返ると、緑の生き物はピタリと足を止めた。

 エメラルドの瞳が、私を見上げる。


「……」


 歩き出せば、トコトコと追ってきた。


「……まじか」


 アパートは、ペット可かしら。



 

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