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01 異世界転移。




ハローハローハロー

「野良の戦士」というタイトルを書く夢を見たので、正夢にしてみたら、長くなりそうです!

楽しんでいただけたら幸いです!







 気が付けばそこは、神殿のような場所に私はいた。

 神秘的な白で輝く柱が四つ並んだ四角形の祭壇のようなところに、私は座り込んでいる。白い光の玉が周囲に浮いていて、目が眩みそう。

 そもそもかけている眼鏡が、邪魔に思えた。外してみれば、しっかりと見える。視力が回復したみたい。


「こちらにお越しください」


 そう声をかけられた。

 女性だ。ブラウンのふっくらした長髪。私と同じくらいの二十代。

 格好は、ウエイターのような黒い服だった。


「ここはあなたの住んでいた世界とは異なる世界です。名をキャルークス。この国はステデッレと言います。残念ながら、帰る方法はありません。しかし、そんなあなたに住む場所を提供しますので、ご安心ください。仕事も紹介します。文字は読めるでしょうか? こちらからお選びください」


 それは事務的な対応。どうやら異世界から人間が来ることは珍しくない。むしろ、あることが日常らしいこのキャルークスという世界は、対応がスムーズだった。

 そのことに唖然としてしまう。

 紙を差し出してきた彼女は、淡々とした。同情心は微塵も表していない。

 もう二度と元の世界に帰れないと言うのに、故郷に帰れないと言っておいて、全然同情の欠片も持っていなかった。

 しかし、そうなのだろう。いちいち気の毒に思っていられない。それほど彼女はトリップ者に会ってきたのかもしれないし、仕事と割り切っているのかもしれない。

 どちらにせよ、その対応に私は苦しさを感じられずにはいられなかった。

 けれども、元々弱音が吐けない質の私は、それを受け入れることしか出来ない。

 帰れないという事実を受け止めて、これから生きるために見知らぬ土地で働かなくちゃいけない事実と向き合った。

 渡された紙に書かれていた言葉は、ちゃんと読めた。彼女の言葉を理解できる辺り、トリップのオプションのように言語を理解出来る魔法でもかかっているのだろう。

 内容は、求人広告のようなものだった。ここは王都らしく、「王都一の食堂」と書いてある。食堂のウエイトレスやらの接客業から、よくわからない討伐退治の依頼まで。

 私は接客業をしていたから、その大変さをよく知っている。だからもう一度新たに見知らぬ世界でやるのは、気が重かった。だから接客業は却下。

 残された選択肢から、黙々と考え込むけれど、あまり彼女を待たせてしまうのも悪いと気が付いて討伐退治を選んだ。


「これ……何の退治ですか?」

「これを選ぶのですか……?」


 トリップ者の受付嬢ーー私が命名ーーは、怪訝そうに眉を潜めて私を改めてじっと見てきた。私には荷が重いと言いたいのだろうか。


「過酷な仕事になります。モンスターと呼ばれております。作物を荒らす小さなモンスターから、人間を食らう大きなモンスターを討伐する仕事です。職業名は【冒険者】。倒すとクリスタルになります、クリスタルから誕生する怪物なのです」


 本好きの私は、王道だな、とちょっと心を躍らせた。

 接客業の方が圧倒的に楽だろうけれど、モンスターを見てみたい私はそれにしようと決める。

 こう見えて、高校までは運動は得意だった。身体能力は高いのだ。最近運動をしていないけれども。


「あとから仕事は変えられますか?」

「はいもちろんです」

「ではとりあえず、狩人の仕事をします」


 受付嬢が、なんだか好奇ような目を向けてきた。

 モンスターと戦うなんて物好きだと思ったのだろう。


「では武器や防具はこちらで支給できるものをお使いください」


 でも私の決定を変えるようなことは言わず、やっぱり事務的な対応で、控えていた男性に言って私を案内させた。

 武器が揃っている倉庫のような部屋に連れていかれる。

 壁にずらりと並ぶ剣や金棒。大きな手裏剣みたいなのも飾ってある。中央のテーブルの上には、銃からボーガンがあった。ずっと手に握っていた眼鏡を置いて、銃を持ってみる。重い。反動とやらが相当きそうだ。

 ボーガンなんて、ちゃんと当てられるかしら。そこが問題。

 ここは無難に、接近戦で戦える剣にしておこうか。

 数多くある剣の中からしっくりくる剣を選ぼうとしたら、白い玉の光が一つ、私の鼻先を掠めた。それを目で追っていれば、一つの剣にまとわりつくようにふわりとふわりと漂う。

 私はなんとなくその剣を取ってみた。思ったよりは軽い。それに剣身は細め。白い刃に、私の顔が映る。黒髪の短いボブ。瞳はダークブラウンの丸目。中性的で年齢がはっきりしない顔立ちの自分と見つめ合ってから、カチンと鞘に納めた。長さは私の足くらいある。元々身長は低めなのでしょうがない。

 だから、十代に見られてしまうのだ。

 ああ、受付嬢は私が十代の小娘だと思って心配でもしてくれたのだろうか。こう見えてしっかり二十代を超えているのだけれど。


「これにします」


 防具は重そうなものばかりだったので、遠慮する。

 次に案内されたのは、討伐依頼を受け付けるギルド会館というところだった。

 今までいた建物から出ると、大きな城が聳えている。それが真っ先に目に留まった。振り返れば神殿って感じの建物だ。扉は大きく柱が並んでいる。長くて広い階段を降りて、色取り取りの淡い壁の建物が並ぶ道を進み、ギルド会館に到着。一際大きな建物だった。

 男性はギルドの受け付けが、終わるまでついてくれる。


「王都インゼーラのギルド会館にようこそ。初めてですね」


 冒険者がつけるという銅色の細いリングを渡された。腕輪だ。冒険者の名刺代わりだという。これはただのリングではなく、冒険者の安否を知らせることもできるらしい。そして緊急時には招集を知らせるために熱を帯びることもあるそうだ。

 レベルに合わせて、リングは変わるのだという。初心者や低レベルの者は銅色。次は銀色、中レベル。最高は金色のリング。

 先ずは作物を荒らすモンスター討伐を引き受けた。

 それから案内されるのは、私の住居。そのためについていてくれていたと理解する。ギルド会館よりも、さらに坂を下った先のアパートとわかる建物。アーチ型の窓がずらりと並ぶ橙寄りの茶色い壁。中に入れば、同色の塗装。ドアがいくつか並んでいて、私は三階の一番奥の部屋の鍵を与えられた。

 一緒にこの世界の金貨が詰まった小さな袋も渡される。

 これで当分は持つらしい。お礼を伝えれば「仕事ですので」と返された。

 そうね。仕事ですものね。

 男性を見送って、部屋を見回す。簡易ベッドにダークブラウンのタンス。クローゼットに、トイレ付きバスルーム。一人暮らしには、十分な広さだった。


「……はぁ」


 一息ついて、私は頬をつねってみる。つねられた感覚がした。痛いってほどはつねらない。それだけで十分、夢ではないと理解出来るからだ。

 剣を抱えたまま、私は壁際に蹲る。

 涙は出なかった。泣くために蹲ったわけじゃない。

 別に……ただ……。

 失望していただけだ。異世界トリップには、もうちょっと希望的なものを抱いていた。だって読んできた小説や漫画には、もっと夢や愛があったもの。

 逆ハーレムを望んでいるわけではないけれど、もう少し楽しみを抱くような出来事があってもいいではないか。

 なんて思っても、受付嬢の事務的対応を思い出すと、やっぱり失望感が酷い。この世界では、普通のことなんだ。異世界から来た人なんて、珍しいわけではない。好奇から好意を抱くような展開もないのだ。

 ドラマチックもロマンチックも、何もない。それが現実だ。


「はぁ……行くか」


 右腕につけたリングを見て、私はまた息を吐いて、立ち上がる。剣を握って、ギルドでもらった地図を持って、モンスター討伐に行くことにした。

 ドアを閉じた部屋に、光の玉が浮いていたことも知らずーー。



 

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