雨の日の魔法屋
雨の日、魔法屋はいつも休みだ。
風景をぼやかせる糸のような雨が降る日。
僕は相棒の蘇芳色の傘を開いて、魔法屋の平屋を訪れた。
からり。引き戸を開ければ、シンとした灯りもない暗い室内。
人の気配はない。
魔法屋は当然いない。
僕は気にせずに中に体を入れて、傘をたたみ、後ろ手に引き戸を閉める。
勝手知ったるなんとやら、暗くとも日中だから、うっすらと見える床や家具を頼りに裏戸まで辿りつく。
からり。二回目の音を響かせれば、まるで灰色の薄膜のような雨の中、平屋の裏庭の中心で長椅子に横たわる人影。
傘を開いて近づけば、その人物と豪奢な長椅子が、雨の中一滴も濡れていないのが見て取れる。
その輪郭にぼんやりとした橙色の光をまとわせたその人は、僕の足音に気が付いているだろうに、閉じた瞼はぴくりともしなかった。
「や、やぁ、魔法屋」
少しどもってしまう僕の言葉で、魔法屋はようやく漆黒の瞳を覗かせた。
「・・・何。今、わたくしが何を行っているのか、分からないのかしら」
幼い語気の強い声。
一見眠たげにも見える流し目で、僕を低い位置から睨めつける。
長椅子にしな垂れた姿は気怠い空気を醸し出し、普段は着物の下に隠されている細い足が、惜しげもなく太ももまで晒されていた。
雨を掴むかのように、長く垂れた袖で見えない手を空へと伸ばす。
「魔法屋、そ、その、頼みがあるんだけど」
「見て分からないかしら。今日は雨。だから仕事は休み」
「う、うん。でも、魔法屋に良いお土産を持ってきたんだよ」
魔法屋は、興味を引かれたように顔もこちらに向けた。
彼女の紅茶色の長い髪がゆら、と揺れる。
闇を凝らせたような漆黒の目が、さあ、見せてみなさい、と促す。
僕は着物の懐に手を入れ、いくつかの石の中から、覚えのある形のものを取り出した。
握った手のひらを開けば、親指の爪くらいの大きさ、磨きのかかっていない原石のまま、けれど透き通った青の中に雨音がかすかに囁く輝石。
「・・・まあ、雨石じゃない!」
にわかに明るくなる声色。
やっぱり魔法屋が喜ぶと思ったんだ。
僕はその輝石を魔法屋に渡した。
彼女はまじまじと掲げて眺めた後、おもむろにその小さな口に入れてしまった。
「うん・・・日の明るい青空から降った天気雨・・・遠い日の夏の昼・・・良い物をくれたわね。それで? 依頼は何かしら?」
彼女は体を起こす事もなく、高慢に僕を見上げる。
僕は一つ肩をすくめた。
魔法屋の偉そうな態度はいつもの事。
機嫌のよくなった彼女に傘を揺らしてみせる。
「相棒が、こ、壊れかけてきてさ」
輝石掘りには欠かせない、僕の人生の相棒の傘だけれど、道具の定めかな、使えば壊れてしまう。
「また傘の修理? それなら傘屋に持っていきなさいよ。何故あなたはいつもわたくしに頼むのかしら。わざわざ魔法屋のわたくしに・・・」
途端に顔を歪める魔法屋。
僕は笑いをもらしてしまう。
「雨避けなら、き、きみの魔法が一番だから」
「ふーん・・・。まぁ、いいわよ。こんな上物の雨をもらっておいて断るなんて無粋ですもの」
垂れた袖を僕に一振り。
傘の内側に目を向ければ、ほつれかかっていた雨避けの加護がみるみる張り巡らされていく。
ほら、やっぱり魔法屋の魔法が一番だ。
「あ、ありがとう」
「お礼は結構よ。この程度じゃもらった雨の半分にもならないもの。また別の依頼があったら来なさい。残りの報酬分、魔法を施してあげてもよくってよ」
つんと澄ました魔法屋に、僕はほんわかした気持ちでうんと頷いた。
『雨の日の魔法屋』~Fin.~
コンコルドは『輝石掘り』です。
髪は漆黒。
瞳は浅葱色。
内気な性格で、傘を使用します。
仲がいいのは『季節菓子職人』、悪いのは『水晶調律師』。
追加要素は『獣耳』です。
→内、「輝石掘り」「内気な性格」「「傘を使用」を採用。「獣耳」は入れられなかった・・・。
ネクロは『魔法屋』です。
髪は紅茶色。
瞳は漆黒。
高飛車な性格で、雨を使用します。
仲がいいのは『恋文代筆屋』、悪いのは『遠距離通信士』。
追加要素は『背が低い』です。
→内、仲の良い・悪い以外を採用。でも「背が低い」はあまり表現できなかったかも・・・。
コンコルド×ネクロ
「雨石」・・・輝石の一種。雨の記憶、風景が輝石になったもの。雨を使う魔法屋の大好物。飴みたいに食べる。