お題小説【送り状】【閉鎖】【波紋】
企画への二回目の参加、そして二回目の投稿です。
よろしくお願いします。
帰宅すると机の上に朝には無かったはずの封筒が乗っていた。淡い水色にグラデーションで波紋が描かれ、その水面に漂い舞う花びらが箔押しされている美しいデザインにしばし見惚れる。裏を返して差出人を確認しようと試みるも、そこには一文字も書かれてはいなかった。あるのは表に記された私の名前とこの家の住所という、郵便物を届けるために最低限必要な情報のみだった。
「お母さん、これいつ届いたの」
この手紙を受け取ってくれたのであろう階下にいる母に、声を張り上げて問う。
「仕事から帰ってきてポスト見たら入ってたから置いといた」
簡潔な答えに礼を返しつつ封を丁寧に切る。中から出てきたのは封筒とお揃いの柄の美しい便箋と、ペラペラの送り状だった。首をひねりつつ説明を求めて、整った美しい文字が並ぶ便箋の文字列を目で追う。
読み終わっても意味が理解できなくて、というと語弊がある、言葉の意味は理解できたが脳が内容を受け入れられなくて、私はもう一度始めから文を辿った。抜粋するとつまり送り主が伝えたいことはこうだ。
『五月一日を以て心臓管理部百三十七課が閉鎖することになったので、引き続きの生存をご希望の場合は同封した送り状に必要事項を御記入の上、指定の場所へお送りください。四月末日までにこちらで送り状が確認できなかった場合は、心臓の運営業務を停止させていただきます』
何なんだ心臓の運営業務とは。心臓は私の身体の一部であり意識的では無いにしろ私が自力で動かしているわけだ。自分で摂取したエネルギーを利用して筋を収縮させて動いている。それを得体の知れない何処ぞの誰かさんが動かしてあげていますなどといきなり言い出されても。これはただのいたずらだ。はぁ、とわざと大きな声を伴う溜め息を吐いて、便箋と送り状を簡易シュレッダーにかけた。封筒も切り刻もうとしたが、折角綺麗な柄だからと引き出しに仕舞いこんだ。
暗闇の中の封筒には美しい波紋が広がり、花びらを揺らしていた。
閲覧ありがとうございました。