SS20 「年下の彼女」
性行為が出てきます。
これくらいならRー15くらいかな、と判断しました。
興奮したという方がおられましたら、ご連絡いただければ幸いです。
主人公の境遇がどこまで自分に近いかはノーコメントの方向で。
他の作品もそうですが、本当のジャンルはファンタジーですね。
三十歳目前になって女性経験が全くないことに遅まきながら危機感を抱いて、ある女性を紹介してもらうことにした。知り合いの知り合いという信頼性の欠片もないつてだったが、教わった連絡先にかけると本当に女が出た。ひどく快活な若い女の子の声だ。
「基本のお金が5万円、ホテル代は払ってね。時間は2時間で、それ以上は延長料金になります。……後はご要望に応じてかな? 貴方、特殊な趣味ある?」
「……いえ、普通でいいです」
「普通に?」
「……ええ」
「じゃあ、普通で」
受話器の向こうから楽しげな笑い声がこぼれてきた。用心して公衆電話からかけたのが気まずく思えるほど楽しげな声だ。僕が戸惑っていると、今日は時間があるとかで、さっさと待ち合わせ時間と場所を決めてしまった。
こうも矢継ぎ早に話が進まなければ、やめにしていたかもしれないが、待ち合わせ時間に間に合うには急がなければならなかったので、慌てて家を出た。
絶対に騙されていると思っていたが、待ち合わせ場所に本当に女の子がやってきた。ショートカットの小柄な子だ。ある公立大学の一年生だという話だが、もっと若いと言われても信じるだろう。なんにせよ、僕よりかなり若いことは確かだ。おまけにとても可愛い。猫のような瞳で見つめられた時、背筋を冷たい何かが走りあがった。
「ごめんなさい。少し遅れちゃった。時間はホテルに入ってからだから、安心してね。さ、ホテル行こうっか?」
女の子は僕の手をとって引っ張った。会話と同じく、行動も早い。
「あの……」
「何? ……あ、やっぱりやめにするってのはなしよ。キャンセル料はもらうけど」
「いや、そうじゃない」
「じゃ、行こうか。今日は急がなきゃいけないんだ」
女の子はせわしなく僕の手を引っ張った。僕は黙って頷いた。
そう言えば、女の子の手を握るのは小学校の遠足以来だ。
やっぱり、騙されているんじゃないろうか?
ホテルのロビーで手続きをしている彼女の後姿を見ながら考えた。
部屋に入ったら、怖い男達がいて、身包みはがされるとか、後で法外なお金を請求されるとか。
……何より、彼女の後姿はあまりに魅力的で、本当に抱けるのだと信じられなかった。
ローライズのジーンズとタイトなTシャツの隙間から覗く白い肌がなまめかしい。
「この時間は安いね」
彼女は言った。彼女にはホテル代を含めて6万円を渡してある。
「……お釣りはいいよ」
お釣りを返そうとした彼女に言った。生活が楽なわけではないが、見栄も張りたい。
「本当? その分、サービスするね」、と彼女は札を財布にしまった。
「あの……」
「何?」
「実は初めて……なんだ」
「そうなんだ」、と彼女は軽く首をかしげた。
「じゃあ、優しくしてあげるね。私、そういう人には何人も会ってるから、慣れてるし。大丈夫、ちゃんと全員、男にしてあげたから」
彼女は僕にキスをした。ひんやりとした唇の感触。
「これも初めて?」
「……うん」
「やったね」
戸惑う僕に微笑み、彼女は部屋に行こうと言った。
この日、僕が初めて体験した項目は膨大な数に上る。印刷物や画面越しにではなく女性の裸を見たのは初めてだし、触れたのも初めてだ。女性と一緒にお風呂に入ったのも始めてだし、ベッドで寝るのも初めてだった。男性として振舞えるか不安だったが、彼女は僕の操作法でも知っているかのようだった。ただ、あまりに手際の良さに、僕の感覚は置いてきぼりで、実感もなかった。
「初めてだったら、そんなものだよ。スポーツだってそうでしょ? 練習して経験積まなきゃ楽しくなれないし。……じゃ、残り時間は練習しようか?」
彼女は腰の下に枕を置いて、僕を招き入れた。いざ自分が主導権をとることになると、上手くいかない。彼女は優しかったが、年下の女の子に腰の動かし方をアドバイスされるのは、複雑な心境だった。
4回目だったこともあるが、終わったときには汗だくで、体が動かせなくなった。
「ご苦労様。結構、気持ちよかったよ」、と彼女が倒れこんだ僕に微笑む。
「こんな大変なこと、みんなやってるんだな」
「これからは貴方もしなくちゃいけないってわけ」
「……大人になるのも大変だ」
そうなんだよ、と年下の彼女は僕に言った。
いつの間にか眠ってしまい、目を覚ますと彼女の姿は部屋になかった。
数日後、どうしても会いたくなって連絡先に電話したが繋がらなかった。