平凡な女子高生が死にかける話
はてさて困ったことになった。ここはどこだろうか。
上からは葉に透けて緑色に彩られた光や木漏れ日が降り注ぎ地面はしっとりと湿った土が敷かれている。周囲には大きな木々が立ち並び上を見上げればピィピィと鳴き声を響かせて鳥が飛んでいる。
今しがた自分は学校へ登校中だったはずなのだがこれは一体全体どうなっているのか。状況もろくに確認できぬままのっそりと起き上がると髪からはさりと葉が落ちる。キョロキョロと自分の持ち物を探すと、「あぁ、あった」自分の通学リュック、自転車が転がっている。のそのそと自電車を起き上がらせると再び呆然とする。少し幸いなのはテスト後で授業も何もなかったためバックの中はほぼカラでとても軽いということだ。しかし全くもって意味がわからない。こんな突然周囲が一変するなど。誰かに聞こうにも誰もいない。
ここにいても何も情報はつかめないとゆっくり歩き始める。こないだ壊れたローファーの代わりに履いてきたシューズがサク、サク、と葉を踏みしめる。どう見たって森の中だ。
「全くもって分からぬ。だが我々は受け入れるしかないのだ。……だっけ?」
こないだのテスト範囲である有名な小説の主人公のセリフをボンヤリと口に出す。なんか微妙に間違ってないこともないが同じなのだ、心境が。どうしようもない。そう、どうしようもない。彼女は根っからの諦め体質でそれをいつも通り受け入れようとした。しかし
「いや、無理だろ。これを受け入れるとか……」
彼女はここまでの現象にあっさり順応するほど異常なことに慣れてなどいなかった。いや、いないだろう普通。受け入れきれずただぼーっとノロノロ自電車を引きながら歩く。
「あっ!そうだ!!」
思い出したように胸ポケットをまさぐるとスマートフォンを取り出した。慌ててマップを開き自分の現在地を調べようとするが狂っているのか海の上にいたと思ったら突然イギリス、そのままインドへ移動し突然北極に切り替わるなど全く使えなかった。LINE、Twitter、電話、メール、と外部への連絡を取ろうとするが「くそっ!圏外とか!」彼女は舌打ちして再び外部への連絡を試みようとするがその瞬間サッと真っ黒になる画面。
「はっ!?え?なんで?」
電源を入れようと右上のボタンを長押しすると画面には赤く表示される充電不足のマーク。しばらくおいて再び彼女のスマートフォンは無言を貫いた。今度は何度ボタンを押そうとその手のひらの板が何かを表示することはなかった。充電器もない。この時点でこの文明の利器はただの無駄な板と化した。
「はぁ!?嘘だろ!だって充電したばっかで……!まだ90%もきってなかった!!!」
彼女はイライラしたようにスマホをバックの中に入れ直す。使えないものを胸ポケットに入れても邪魔なだけだ。イライラと再び歩き出すが余りの何もなさにそのイライラもだんだん不安感へと近づいてくる。
「くそっ……どこだよぉここ……」
先ほどからの怪奇現象に彼女は半泣きで歩き続ける。やがて森は開け大きな原っぱに出た。
「あ……れ……?」
しかし、そこには犬のような狼のような群れが休息を取っていたらしく突然紛れ込んできた異物に一斉に振り返る。
「あ……」
その狼、異常だったことは毛並みが「赤」だったのだ。見たことない凶暴性溢れる狼に「どうして日本に狼が」や「殺されるかもしれない」など考える暇もなく彼女はとっさに自電車に乗って反対方向へ漕ぎ出した。それをスタートの合図にするかの様に一斉に狼も走り出す。
先ほどまでの道は微妙に坂道になっていたらしくどんどんと自転車はスピードを上げる。彼女の息は犬のように早く額からは恐怖心から汗が玉のように吹き出た。たまに何度かペダルから足を踏み外し足をぶつけたり擦ることになっても痛みなど感じなかった。時折触れる葉や小枝がピッと自分の肌を切っていくのにすら気づかなかった。とにかく遠くへ。この狼のいないところへ。
サッと再び森が開け目に突然太陽の光が入り込んできた。とっさに彼女は目をつむった。つむってしまった。ゆえに気づかなかった。目の前に回り込んできた狼が待ち構えていたこと。そしてその先に道は続いていないこと。しかしその不運はすぐに幸運へと変わった。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!!!!!」
坂道を下ってきた自転車はあまりに彼女がペダルを回しすぎてチェーンが外れ言うことを聞かなくなっていた。言うことを聞かない自転車を止めようと体重を後ろにかけると前輪が上がった。上がった前輪はそのまま狼に衝突し狼は「ギャウンッッ!!」と情けない声を出して跳ね飛ばされた。そのまま止まらぬ自転車は崖の下へ。絶叫をあげながら彼女はとっさに自転車から手を離した。ドンっっと鈍い衝撃が彼女を襲う。「ぐっは!!」肺から強制的に全ての空気が押し出されヒュッ、と喉がなる。体はそのままゴロゴロと転げやがて止まる。向こうでは人の慌てた声が聞こえてくる。しまった、一般人にぶつかったか。人がいることに安堵しながらも他人にぶつかったとあれば、それもあんな勢いで。死人は出ていないだろうかと慌てて痛む身体を引きずって起き上がる。それと同時にチャキっと音を鳴らして首元にひんやりとした何かが当たる。顔をあげればお世辞にも綺麗とは言えない姿形をした男たちが自分を取り囲んでいた。首元には鈍色に輝くナイフ。
「てめぇ、何もんだ?」
「よく俺らの車パァにしてくれなぁ!あぁ!?嬢ちゃんよぉ!!」
もしかして自分は黒塗りの車にでもぶつかってしまったか。一気に彼女から血の気が消え失せる。それと同時にヴグルルル、バウワゥ!!と狼の鳴き声が上がる。
「ちっ、こいつワーウルフ引き連れて来やがってたか!」「逃げるぞ!」「このガキは?」「ほっとけ!どうせねらってんのはそっちだ!」「積荷は!」「……ちっ!囮にしろ!商品も大事だが命あってこそだ。」
男たちは馬に乗って大きな倒された馬車を置いて去っていった。ちょっと待って!叫ぼうとしたが口からはせきしか聞こえない。さっきの衝撃で声が出ない。しまった。狼がまだ追いかけてきた。男たちは去って行ったが狼はまだいる。自分も逃げなければ。痛む身体を引きずって積荷の方を見ると自転車はひしゃげた形でカラカラと車輪を回しているだけだった。
「あぁ…くそが…自転車ぶっ壊れてんじゃんか。買い換えてもらったばっかなのに…ママに怒られる…」
自転車はあのざま。自分の身体は痛みを訴えていて、そうでなくとも狼から走って逃げるなど不可能だ。自分に何が起きたのか。ここは何処なのか。自分はこんなわけのわからない死に方をするのか。体から力が抜けそのまま地面に倒れこむ。何もわからないまま死ぬ。彼女はゆっくりと覚悟を決めるように目を閉じた。
初投稿です。これであってるかな。