表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/111

第08話 初めての魔物

 元々、装備無しで歩き回れる程度の森だったが、イリスの案内で進んだ道は更に楽なものだった。

 草が踏み分けられ、邪魔な枝は切り払われただけの獣道だったが、それでも十分だ。

 

 恐らくは、盗賊が整えたのだろう。

 道を作ると、アジトが見つかりやすくなると思うのだが、見つかっても構わないと踏んでいたのか、はたまた別な理由があるのかはわからない。

 

 途中の小川で休憩を挟みつつ、森を抜けたのはわずか1時間後のことだった。

 

 森を抜けると、見渡す限りの草原が広がっていた。

 もちろん手入れなどされているはずもなく、草の種類は一定ではないし。大小の石が転がってもいる。

 木もないわけではないが、視界の中にポツン、ポツンと入るくらいだ。遠くには、池らしきものや、川らしきものが見えている。

 

 イリスが肥沃だと語っていた意味がよく理解(わか)かる。

 

 森や洞窟周辺は日陰だったせいか、3月初旬の日本程度の気温だったが、日差しの下に出てみると、4月上旬くらいの気温に感じられる。

 それでも、上着を貸したままの今はかなり肌寒い。

 

 リュックの中に着替えが入っていないのか訊ねたのだが、襲ってきた男たちから荷物を奪ったときに、荷物を空けるため捨ててきてしまったとのことだった。

 

 何も全部捨てることはないと思うのだけど……

 

 少し歩いたところに、草が禿げて土が見えているだけの道らしきものがあった。

 整地されている様子はないが、人が歩き、馬車に踏みしめられて地面が固くなり草が生えなくなったのだろう。

 

 日本では到底見られなかった風景にひとしきり感心すると、気になっていたことを聞いた。

 

「魔物がいると聞いていたのだけど、森の中にはいないんだな」

 

 森の中には一応それらしき気配はあるのだが、洞穴の周辺や、今通ってきた道のあたりには一切いなかったのだ。それどころか、この近辺にもいない。

 魔力を持たない、小動物らしき気配はたくさんあるのに、魔物と思われる存在は、さほど数がなかったのも気になる。

 

「今通ってきた道や、アジト周辺は盗賊が狩り尽くしていますからね。それに、この森は魔物の領域からは少し離れていますから」

「魔物の領域って場所以外には魔物はいないのか?」

「後は、迷宮ですね。魔物は魔力を持ちますが。自分の力で魔力を生み出すことはできません。

 体内にある魔石の魔力がつきれば、そのままです。そのため、理由は様々ですが、何らかの理由で魔力がたまりやすい場所に魔物は集まります。

 魔物の領域と呼んでいるのは便宜的なものですね。そこから出てこないということはありませんが、遠く離れることは滅多にありません。魔力を持った生物を襲って魔力を補充するにしても、限度がありますから」

 

「なるほど。迷宮というのは?」

「迷宮は……説明するのが難しいのですが、次々と現れる次元の隙間のようなものです。

 殆どの場合階層になっていて、最下層にいる迷宮の主を倒すことで消滅させることができます。

 この迷宮なのですが、中で死んだ生き物を喰らって成長します。そのため魔物を生み出して中に入った生き物を殺そうとします。入り口付近は比較的弱い魔物が、奥に進むほど魔物は強力になります。迷宮の奥に進めば進むほど逃げられなくなりますからね。ちなみに、魔物の領域にいる魔物は迷宮から出てきてしまった魔物が、繁殖して増えたものだといわれています」

「なら迷宮に入らなきゃいいだけじゃ?」

「それはそうなのですが……魔物体内には生活に欠かせない魔石があり、また、いろんな事に使える素材を剥ぎ取ることができます。冒険者は迷宮に潜って、魔石や素材を集めるというわけです。すでに、魔石や迷宮産の素材はなくてはならないものとなってしまっていますので……

 更にいえば、亡くなってしまった人たちが身につけていた装備は、一定時間後に迷宮に吸収され、迷宮の中に出現します。それ以外にも、ごく希に強力な道具が現れることがあります。そういったものの中には、一生遊んで暮らせるような値がつくものもあり、それも拍車をかけてる感じですね。迷宮の主の討伐には国から少なくない報奨金が用意されている、というのもありますが」

 

 なるほど、一度上がった生活水準は、下げられないといった感じか。

 

 それに、魔物が迷宮から一切出てこないならともかく、出てきてしまうのも問題だ。だから、国としても迷宮の主に懸賞金をかけているのだろう。

 

 いくら魔物素材が必要といっても、次々と現れるんじゃあなぁ……

 

 次元の隙間ってのが気になるな。うまくすれば帰る方法が見つかるかもしれないな。

 

「危険かもしれないが、迷宮に入れば金に困ることはなかったんじゃないのか?」

「迷宮の殆どは国が管理しています。迷宮に入る許可が得られるのは、ランクD以上、一人で入るならC以上ないと入れてもらえないのです。管理されていない野良迷宮の場所なんて知りませんし……」

「ちなみに、今のランクは?」

「Fランクです。登録時はGランク、その後一つでも依頼をこなせばFランクとなりますが、私はまだ冒険者になったばかりですので……」

 

 最低ランクではないが、最底辺ランクというわけか。差がさほどないと考えればいいか……

 

 迷宮には行ってみるべきだろう。

 

 当面どころか、一生ホテル暮らしでも困らない金はあるけど、何があるかわからないからな。

 金を稼ぐ方法は必要だろう。

 

 それに、強くなるという目標にも合致しているからな。

 

 やはり、次元の隙間という話も気になる。

 

 とりあえず、俺たち二人で入るなら、Dランクでいいのか。

 

 難易度はわからないけど、街に着いてからの目標はできた。

 先の予定ができると、安心するな。

 

「当面の資金には余裕があるからな。ランクを上げて迷宮に行ってみようと思う。最初は赤字でも、俺たちなら、すぐに黒字になるだろう」

「はい。主様なら、すぐにAランクになるでしょう」

 

 とりあえず、Dランクで良かったんだけど……

 まぁ、詳しい説明は実際にギルドに行ったときにでもあるだろう。

 

「ところで、夕食について相談なんだが……」

 

 それよりも、夕食こそは味のあるものを食べたい。

 カ○リーメイトは最後の手段だ。

 俺は話を切り出した。

 

 

 

 †

 

 

 

 ウサギが空を飛ぶ。

 

 飛ぶというより、跳ねるといった方が正確だろうか。

 

 地面、空中に拘わらずぴょんぴょん跳ぶのだ。

 ――こちらに向かって。

 

 ──────────

 魔物名

  ホーンラビット

 レベル

  1

 スキル

  二段飛び(LV1)

  ハイジャンプ(LV1)

  突進(LV1)

  硬化(LV1)

 ──────────

 

 “夕食向けに手っ取り早く狩れる肉”ということでイリスに薦められたのが、このホーンラビットだった。

 

 二段どころかぴょんぴょん跳び回っているし、ホーンといいながらも頭に角が付いているわけではなく、耳が角のように硬くなりそれを武器につっこんでくるウサギだ。

 試したくはないが、当たれば串刺しだろう。

 

 ついでにいえば、サイズは中型犬くらいのサイズであり、かなりの大きさだ。

 そんなファンタジーウサギだが、俺にとっては初めての魔物だ。

 

 こちらへ向かってくるホーンラビットを躱しざまに首をはね飛ばし、ぴょんぴょん跳ね回ってこちらを(うかが)っているホーンラビットは、【飛剣】で首をはね飛ばす。

 こっちに向かって飛んでくるホーンラビットは、さながら火に飛びこむ夏の虫の如くだ。

 

 毛皮も取れるが、血抜きしやすいようにガンガン飛ばすのだ。

 首がない以外は綺麗なものなので、はぎ取れば毛皮も綺麗だろう。

 

 既に足下には30羽を超えるウサギが転がっており、皆一様に首から上がなくなっている。

 

 少し離れたところにいるウサギは、水の針を飛ばす魔術【ウォーターニードル】で頭を打ち抜かれた個体と、【飛剣】で首を斬り落とされた個体とで半々だ。

 こちらは、40羽ほどだろうか。

 

 別方向に少し離れたところにいるイリスの足下にも、同じようにホーンラビットが転がっている。

 俺は半ば作業のようになってきているが、イリスの方もこれまた似たような感じだ。

 

 さすがに、俺のようにぽんぽん首を飛ばせているわけではないが、首元を突き刺し、動脈を斬り裂いて手数を減らしながら戦っている。

 正直1匹でも夕食には多いサイズだが、毛皮剥いで血抜きをするだけでもかなり手間なのではないだろうか。

 

 次々とやってくるが、見えている範囲のホーンラビットが襲ってきているに過ぎない。

 が、しかし終わりは見えている。

 

 【飛剣】を実際に自分で覚えて使って見てわかったが、スキル名を唱えることで自動で発動させることもできるが、発動手順をなぞって自分で発動させることもできる。

 

 手軽さは、確かにない。

 

 しかし、わざわざ技の名前を叫ばなくて良いのはアドバンテージだろう。

 

 自前であろうと、自動であろうと、発動した術技の威力は変わらない。

 見えない補助はしっかり働いているようだ。

 

 ちなみに、魔術に関してもできそうだったが、現状魔術に関する知識がなさ過ぎるため不可能のようだ。

 

 盗賊から得た知識にしても、適性があり、スキルレベルが適正で、イメージと魔力の汲み出しと魔術名の発声がうまくいけば発動するとあった。

 この属性に対する適性は、スキルとは無関係のようだけど、【完全見取り】はそのあたりどうなのだろう。

 

 水と炎に関しては威力不足を感じることはないし、使う魔力の多寡(たか)によって威力の調節も出来ている。

 

「っていうか、まどろっこしいな」

 

 色々検証しながら戦っていたが、面倒になってきた。

 

 ダマスカスのシミターをアイテムボックスに格納し、代わりに両手に『鉄のショートソード』を取り出し、両手で【飛剣】を放つ。

 

 飛ばす斬撃の威力は弱まっているが、それでも、ホーンラビットの運命は変わらない。

 今までは途中で魔術を挟んだりして、効率が悪かったが、目に見えて効率が上がった。

 自力で発動できるだけ、剣術技の方が使い勝手がいい。

 

《スキル【二刀流】を習得しました》

《累積された経験を検知しました》

《スキル【二刀流】のレベルが上がりました》

 

 鉄のショートソードはやはり脆い。

 鋳造の量産品で、鉄の質も悪いからだろうが。

 魔力で保護していても、五体ほどで刃が欠け刀身も曲がってしまう。

 骨ごと斬っているのだから、仕方ないのかもしれないが……

 

 そもそも魔力の通りが悪いのも問題だ。

 飛剣を放つ反動でも剣に負担がかかっている。

 

 じいさんから貰った日本刀なら、いつまでも斬っていられるだろうけど、ないものは仕方がない。

 

 切れ味が鈍ってきたら、最後の一仕事とばかりにホーンラビットめがけて投げつけ、アイテムボックスから新たなショートソードを取り出す。

 まぁ、ショートソードだけで、300本はあるのだ。惜しくはない。

 

 

 

 ホーンラビットが襲ってこなくなったのは、ショートソードをちょうど20本消費したときだった。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ