第05話 イリス
少し短めです
――と思っていたけど、盗賊とはいえさすがに斬り捨てたまま放置していくのは気が引けるな。
アジトの中に放り込んだ後、火をつけて火葬にするか。
外だと延焼して森林火災が怖いからな。
洞穴の中なら、酸素がなくなってすぐ消えるだろう。
「ん? なんだこれ」
死体の胸のあたりに、セラミックのような板が乗っている。
洞穴に入るまではなかったはずだが……
板を見ると、盗賊たちのステータスが記載されていた。
といっても記載されているのは、名前、種族、職業、年齢、レベル、犯罪のみだ。
まぁ、これも何かの役に立つかもしれないし、持っていくか。
そのセラミック板ことステータスプレート(アイテムボックス調べ)をアイテムボックスに入れると、手早く洞窟に死体を放り込む。
幸いと言っていいのかわからないが、自分が人を殺した忌避感や、死体を見た不快感などはなかった。
【精神耐性】のおかげだろうか?
さて、早速火を……と思ったが、【索敵】に反応があった。
【索敵】は【気配察知】とかぶっているように思えるが、気配の有無に関係なく敵性の存在を検知するスキルだ。
傷つける意思そのものに反応するようなので、【気配遮断】を使用したとしても、攻撃意思がある限りは索敵に引っかかる。
レベルが低く接近されているのが悔やまれる。
恐らくは、盗賊の残党だろう。
「さっきは、俺がこの洞穴から出てくるところを次々と斬ったんだったな……今度は逆か……」
恐らくこちらのことは既にバレている。
今更こちらの気配を消しても、意味はないだろう。
愚痴りながら、洞穴から飛び出す。
俺が飛び出すと同時に草むらからナイフが飛んでくる。
気配を消して、初撃で仕留めにくるか……
良い腕だ。盗賊にしておくのはもったいないくらいだな。
だが――投げつけられた投げナイフを、シミターの峰で軽く叩いてそらす。
カンッ
という軽音と同時に、ナイフが飛んできた方向に突進する。
重心をぶらさず、前後の体重移動だけで高速の移動を可能にする足運び。
構えは、剣を横に構え身体で隠す、霞の構えだ。
刀が実際に振られるまで、間合いを悟らせない。
そして俺は、意識の合間さえ縫えば、地球時代の身体能力でも、瞬間移動したかのような動きを見せることができる。基本にして、足運びの奥義だ。
というか、じいさんの技は、基本動作がそのまま奥義になっている技が殆どだ。
それを、上昇した身体能力に任せて使うのだから、俺自身も驚くほどの動きだ。
レベルが上がったし、【身体能力強化】スキルのおかげもあるのだろうが。
敵は既に見えている。
驚いたことに、体型からみるに女だろう。
顔を隠しているせいか、【真理の魔眼】が働かないようだ。
ステータスが見えないから不安?
そんなばかな。
俺は元々、そんなものがない世界から来たのだ。
【真理の魔眼】に頼らずとも、構え、立ち居振る舞い、気迫、そういった情報から相手の情報を導き出す。
まったく、人間は一度便利になると堕落すると聞くが、事実らしい。
投げナイフを牽制にして飛び出そうとしたのだろうが、虚を突かれたのは相手のようだ。
それはそうだろう、気がついたら目の前に敵がいるのだから。
慌てて剣を振り下ろすが、見え見えのテレフォンパンチだ。
急停止し一度間合いを外して剣を躱しながら、剣に魔力を込める。
威力を上げ、剣の劣化を防ぐためだ。
そしてそのまま、もう一歩踏み込み、敵を斬り飛ばした。
俺の剣が敵を斬り裂くとともに魔力の斬撃が飛び出し、さらなるダメージとともに敵を吹き飛ばしたのだ。
新事実。
魔力は、飛ぶようです。
《剣術技【飛剣】を習得しました》
叩きつぶすようだった鉄の剣のときとは違い、今度は革鎧ごとばっさりと切り裂いた。
さすがに返り血を浴びるが、仕方ないだろう。
後でジャージにでも着替えよう。
木にたたきつけられ、ドサリと前のめりに倒れるのを見て、残心。
十中八九は即死だろう。
さすがに、女性を斬るのは抵抗があるなぁ。
仕方ないこととはいえ。
ふむ。どうやったらステータスプレートが出るのかしらないが、ステータスプレートと装備を回収したら、盗賊と一緒に焼こう。
恐らくだけど、死後しばらくしたら出るとかそんな感じだろう。
ステータスプレートは胸のあたりから出るようだし、まずは仰向けにしないとな。
「意外と(?)軽いな」などと失礼なことを考えながら起こすが、軽鎧や、服こそばっさり斬られているが、その下にあるはずの切り傷、いや、斬り傷の一切が消えている。
よくよく見れば、俺の返り血も綺麗になっているようだ。
呼吸は安定していて、気を失っているだけのようだ。
よくわからんけど、無事なら無事でとりあえず覆面でも剥いでおくか。
「おお」
目の覚めるような美人だった。
いや、美少女かな?
銀髪も、肌もまともに手入れをされていないようで、薄汚れてはいるが、洗い流すだけで、輝くほどに美しい銀髪と透き通る肌を見せてくれるだろう。
なにせ、汚れているだけなのだから。
目をつぶっているため、まつげの長さがよくわかる。
特徴的なのは、頭に付いている犬耳だが……
犬耳か。あの犬顔盗賊の娘か何かだろうか。
一応、見ておくか。
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名前
イリス
種族
獣人(狼族)
職業
冒険者
年齢
16歳
レベル
13
生命力
1200
魔力
150
力
260
体力
260
敏捷力
400
知力
32
精神力
55
スキル
剣術(LV2)
体術(LV2)
投擲(LV2)
気配遮断(LV1)
隠密行動(LV1)
忍び足(LV1)
称号
銀狼、駆け出し冒険者
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あれ?
なんと、盗賊じゃなかったのか。
これはむしろ、俺が盗賊だと勘違いされて襲われた感じだな。状況から見て間違いないだろう。
とすると、なぜか死んではないようだし結果オーライかな。
これはむしろ、死んでなくて良かった。
美少女で良かった。
いかにも盗賊です! といった風貌の男だったら確認せずにとどめを刺していたかも知れん。
これは、死んでたらさすがに寝覚めが悪い。
っていうか、俺に賞罰付いてないだろうな?
慌てて確認したが、問題ないようだ。
正当防衛だからな。
暴れられると面倒だし、武装を解除して手足でも縛っとくか。
鎧はまぁいいだろう。
ばっさり切り裂かれて、少々目のやり場に困るが。
武器だけアイテムボックスに入れて、剣帯を使って手足を縛る。
しばらくすると、どうやら目を覚ましたらしく、騒ぎ出した。
「おお、起きたか」
縛っているのは手足だけなので、立ち上がることは無理でも、座ることくらいはできる。
腹筋と背筋を駆使して起き上がった、イリスを見下ろしながら話しかける。
「くっ、殺せっ」
瀬戸さんに言わせたい台詞ナンバーワンだとか、クラスの誰かが豪語していたな。
なるほど、雰囲気は似ているかもしれない。
このイリスという少女の方が美少女度は高いが。
「まぁまぁ、君はここの盗賊を捕まえに来た冒険者ってことで大丈夫?」
「何を生ぬるい。盗賊は、生死不問。わざわざそんな手間をかけるものか」
殺して大丈夫かちょっと不安だったけど、大丈夫らしい。命軽いな、盗賊。
「そうか……でも、残念だけど、ここにいた盗賊はもういない。俺が倒したからね。まぁ、残党がいるかもしれないから、その情報は欲しいけどね」
言いながら、先ほど倒した盗賊のステータスプレートをみせてやる。
「す――」
「す?」
「すみませんでしたああぁぁぁぁ!」
イリスは、手足が縛られているというのにも係わらず、器用に飛び上がり、謝罪の言葉を述べたのだった。
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■改稿履歴
賞罰→賞にあたる物は「称号」へ、罰に当たる物は「犯罪」へと変わりました。
飛剣習得時の地の文に、
俺の剣が敵を切り裂くとともに魔力の斬撃が飛び出し、さらなるダメージと共に敵を吹き飛ばしたのだ。
と言う文を追加。
イリスの称号が間違っていたので修正しました。
旧:
駆け出し賞金稼ぎ
新:
駆け出し冒険者
・イリスのステータスから、術技の項目を削除しました、
・戦闘シーンを少し加筆。