第48話 敵の正体は?
今回は少し短めです。
魔力によって視力が強化され、劣飛竜たちの姿が克明になっていく。
それに合わせて劣飛竜に騎乗している騎士からは、【竜騎乗】スキルを複製することができた。
どうやら、【竜騎乗】スキルは後方で控えている騎士数名のみが所持しているようだ。
竜に乗って突撃させるとか、突風を起こす程度のことであれば、俺がアスドラにやっていたように【調教】スキルで命令すれば可能だが、【竜騎乗】スキルは、【調教】スキルのように、口頭で命令することなく竜を操ることができるようになるスキルみたいだ。
このスキル……アスドラにも有効なのか?
今は、アスドラが勝手に俺の気持ちを汲み取って行動してくれているが、【竜騎乗】があれば、それが確実なものとなりアスドラの負担も減るだろう。
さて、「敵」の確認だけど……
幸い……と言って良いのか迷うところだけど、劣飛竜たちも、それに乗っている騎兵たちも、俺たちのことは意識の埒外のようだ。
やはりこれは……完全に巻き込まれただけだな。
宣戦布告をしているのは、見た目からして性格の悪そうな男だ。
【重力魔法】の威力に酔っているため、余計にそう見えるのかもしれないが、鷲鼻、オールバック、口ひげと、海外映画の悪役そのものの見た目だ。
騎兵たちは一様に同じ装備を身につけているが、何名かは豪奢な装備を身につけている者がいる。
この男もその内の1人だ。
恐らく、その身なりから推察するに、この中で一番か二番目に地位の高いのがこの男だろう。
しかしながら、【重力魔法】を使ったのはこの男ではない。
劣飛竜は、騎兵1人につき1体のようだが、1体だけそうではなく、2人で騎乗しているものがいる。
その片割れが、【重力魔法】の術者だ。
……その存在自体は索敵スキルで確認できているが、この位置からでは、直接は見えないな。
そうこうしている内にも、アスドラは移動を続けているため、徐々にその姿が明らかになっていく。
【真理の魔眼】を発動させつつ、視界に入るのを待つ。
片割れは、一般兵と同じ装備でありながら、【竜騎乗】スキルを持っているという以外に特筆するべき点はない。
まぁ、女性であることは、少し意外だったが。
そして、もう片割れのステータスは……
いや――
確認する必要なんてなかった。
そう、ARウインドウの氏名欄にある「南 咲良」の文字を確認するまでもなく、そこには幼なじみの姿があった。
そして、魔力によって強化、拡張された視力が、彼女の首に取り付けられた黒色の首輪――隷属の首輪を見つけ出してしまう。
なるほど、なるほど、ゲルベルン王国に召喚された勇者は、咲良だったというわけか。
こうして宣戦布告に巻き込まれても、王女救出作戦を優先させるつもりだったが、こうして知人を巻き込まれたとあっては、話は別だ。
ここでやつらを全滅させて咲良を救出して、それから王女を助ければいいだろう。
「よし。とりあえず、あそこにいる(咲良以外の)連中は全員殺そう」
意識はしていなかったが、心の声が半ばほど漏れたらしい。
ここには、俺とシンシア、それにアスドラしかいないため、何の問題もないはずだったが……
しかし、それを見過ごせない者がいたのは、誤算だった。
「ちょっ、ちょーっと待ってください! キョーヤさん!!」
「ヤスナか。どうしてここにいる?」
国境近くの街クルムシェにいるはずのヤスナが、慌てて飛び出してきた。
「ゲルベルン王国が、ハインツエルン王国へ宣戦布告するって情報が、仲間から入ったんで、慌てて追いかけてきたんですよ。
私には【影魔術】がありますからね。1人なら、これくらいは何でもないですよ! 幸い劣飛竜が沢山影を作ってくれましたしね! まぁ。途中からは、アスドラの影に入ったままでしたが……」
影魔術で隠れられてしまうと、【気配探知】で探ることはできない。
さらに、ヤスナには敵意がないので、【索敵】にも引っかからない。
「そうか。ちょっと今から、俺はやることがあるからな。もうしばらく影に隠れていろ」
そう言って、シンシアへの魔力供給を強め、刀を抜く。
【風魔法】と【重力魔法】で墜落させて、各個撃破だな。
シンシアには、アスドラを守りつつ、砲台になってもらおう。
「いやいや、ちょっと待ってください。ここで、あの勇者ごと全滅させられると、困るんですよ!」
「大丈夫。咲良は殺さない。アイツは、俺の知り合いだからな」
「なら、なおさら駄目ですよ! 今、勇者を連れ出したら隷属の首輪で殺されちゃいますよ!?」
そうだった。
冷静でいる気がしていたけど、そうではなかったようだな。
反省しよう。
こうしている間にも、咲良は【重力魔法】を放ち、城壁を破壊していく。
だが、冷静になって見てみると、不思議なことに被害があるのは壁だけで、人死には出ていないようだ。
完全に操られているわけではないのか、何らかの意図があってそうしているのか……
奴隷魔術の特性を考えると後者の可能性が高いな。
操られているとはいえ、覚悟もなく十字架を背負わせることにならずに済んで良かったと思う。
俺がこんなことを考えるのも、おかしな話だとは思うけどね。
異世界召喚の魔法に組み込まれている、“隷属”が奴隷魔術と同じかどうかによって変わってくるが、あの首輪を見る限り似たようなものだろう。
奴隷魔術に使われている、『コントラクト』をその主以外が書き換えるには、
1.主がいない状況にして、主従部分を書き換えた後、『コントラクト』をかけ直す
2.主従部分を書き換える主が許可を出し、主従部分を書き換え後、『コントラクト』をかけ直す
3.神聖魔術を組み合わせた特別な術式で、無理矢理書き換える
とこの3つの方法がある。
三番目の方法は、恐ろしく手間と時間がかかるため、今回は使えない。
主を殺して主不在の状態にするか、主を脅して奪い取るかというのが現実的な方法だろう。
どちらにせよ、先ずはその主を何とかする必要があるというわけだ。
「ヤスナ。お前、咲良の主が誰か知っているだろう?」
「私がゲルベルン王国にいたときの主なら、知っています。変更されている可能性がゼロではありませんので、確実にそうだとは言ませんが……」
「その口ぶりだと、変更されている場合の見当もついているな?」
「はい、そのどちらも、限られた人間しか知らないでしょう」
ヤスナは、真剣な表情で頷いた。
俺から目をそらすことなく、嘘ではないと必死に伝えようとしているかのようだ。
「なら……」
「お教えしますが、今回はアレを見逃すと誓ってください」
なるほど、そう来たか。
俺としても、今すぐに助けることができないのなら、ヤスナの提案に乗るのはやぶさかではない。
「わかった、受け入れよう。ただし、王女の救出と合わせて、咲良の救出も行うが構わないな?」
「はい」
報いを受けさせるのは、その後だ。
首を洗って待っていろ! ゲルベルン王国!!
と、俺が内心で決意表明をしていると、
「今日はここまでだ!」
だの、
「次は、我が国の真の恐ろしさを――」
だのと言いながら、劣飛竜たちは引き上げていった。
結局、徹頭徹尾こちらに気付くことはなかった。
索敵能力が残念すぎる。
「よし、ヤスナ。キリキリ吐いてもらおうか」
「話します! 話しますから!! ここだとゆっくり説明もできませんから、少し移動しましょう。予定通り、ヴァルバッハへ移動して、そこでお話ししましょう」
「アスドラは1人乗りだぞ?」
鞍のサイズを変えるか、もう1つ鞍をつければもう1人くらい乗ることができるだろうが、ここにあるのは、1人用の鞍だ。
無理矢理乗れたとしても、子供くらいだろう。
ヤスナには無理だ。
「私は影に潜っていますから、大丈夫ですよ!」
移動時間中ずっと潜り続けるつもりだろうか?
まぁ、ヤスナが可能だと言っていて、それで良いというのであれば、そうするか。
「わかった。それじゃあ、アスドラ。出発するぞ?」
「ぐるるぅ」
アスドラの返事と同時に、ヤスナは影に潜り込んでいく。そして、それを確認したアスドラはまたゆっくりと歩を進め、徐々に加速を始めたのだった。
■改稿履歴
旧:
「はい」
新:
「はい、そのどちらも、限られた人間しか知らないでしょう」
情報が足りなかったので、追記しました。




