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第21話 お見舞いと初めての武器作り

 中央広場の露店で軽い食事と果物を購入した俺たちは、冒険者ギルドが経営する治療院に来ていた。

 

 用件は、奴隷の女性があの後どうなったか聞くためだ。

 

 複製したセレンさんの知識によると、数日は安静にする必要がありそうなので、昨日の今日では話を聞くことができないかもしれない。

 

 明日以降は迷宮に行くし、見舞いに来るなら今日くらいしかないんだよな……

 

 さて、この世界では、魔術治療を(おこ)なう施設が治療院、薬などを使用して魔術以外の方法で治療する場所が病院となっている。

 そのため、多くの治療院では入院設備を持たない。入院が必要な場合は、治療院で治療した後改めて入院設備のある病院に運ばれる。

 

 だが、流石にギルド経営の治療院ともなると入院設備を持っているようだ。

 

 治療院の一階部分は、個人経営の内科病院に近い作りをしている。

 入ってすぐの所に、待合室と受付があり、ドアの先に治療スペースがあるといった作りだ。

 

 また、二階と三階は男女に分かれた入院スペースとなっていて、個室はなく大部屋のみだ。

 

「すみません、治療ではないのですが――セレンさんはいらっしゃいますか?」

 

 冒険者カードを見せながら受付のお姉さんにお願いすると、さほど待たされることなく、セレンさんが現れた。

 

「あらあら、いらっしゃい。今日はどうされましたか?」

 

 相変わらずの、Vッぷりだ。

 

「昨日の今日ではありますが、お見舞いに」

 

 そう言って、先ほど買い求めておいた果物の盛り合わせを見せる。

 

「まぁまぁ、これはご丁寧に。治療は一通り終わりましたが、まだ目を覚ましていませんわ。今は、3階で入院中ですから、男性の方は……」

 

 ああ、大部屋しかないから男は入れないのか。

 

「なるほど、そういうことでしたら……これはお渡ししておきますので、日持ちする物を選んできましたから、起きたら食べさせてあげてください」

「優しい……ですのね?」

「まぁ、知り合いが病気で入院していたら見舞いくらいは」

「うふふ、では、そういうことにしておきましょうか。では……困ったことがあったら、いつでもこちらへおいでなさいな。(わたくし)も、知人としてお力になりますわ?」

 

 本当に特別な意図なんかはないんだけどなぁ……

 まぁ、力になってくれるというのなら、ありがたく頷いておこう。

 

 治療院に世話になるような事態なんて、是非とも避けたいけど。

 

 そんな俺の心情を察したのかどうかはわからないが、セレンさんは妖艶に微笑み、

 

「お仕事以外の相談でも、大丈夫ですからね?」

 

 そう言って、うふふと笑う。

 

 からかわれているのだろうが……どうもペースが掴めない。

 決して、Vのおかげではないと思う。

 

 じゃあ何かと聞かれると、答えられる自信はないのだけど。

 

「まぁ、今日のところは無事に治療ができたことがわかればそれで。お忙しいところ、時間を取って頂きありがとうございました」

「いえいえ、無事に回復しましたら、改めてこちらからもご連絡いたしますわ」

「はい、それでは……」

 

 そういって、治療院を辞去する。

 

 まぁ、何にせよ治療は成功したようだし、胸のつかえが取れたな。

 

 

 

 †

 

 

 

 宿に戻ってきた俺は、早速【錬成】と【錬金】を使って刀を作ってみることにする。

 

 イリスにはその間、明日の迷宮入りに必要なものを買いに向かってもらっている。

 回復ポーションやら毒消しやら、迷宮から一瞬で離脱できる転移結晶などだ。

 

 

 武器スキルや、魔術スキルに術技があるように、【錬成】や【錬金】等の生産系スキルには、サブスキルという物が存在する。

 術技のように後から覚えるわけではなく、最初からスキルに付属している力だ。

 

 例えば、【錬成】の魔術付与などがそのサブスキルにあたる。

 

 生産系スキルを覚えるには、このサブスキルに該当する技能をまんべんなく修行する必要性がある。

 

 アールさんが持つ知識では、【錬成】や【錬金】で武器を作ったとしても、【鍛冶】で作った物には遠く及ばないということになっている。

 ファンタジー金属や魔物素材の中には、【鍛冶】だけでは手も足もでない物もあるようだが、それでも一切【鍛冶】を使用せずに加工することはあり得ない。

 

 だが、特性もわからないファンタジー金属はともかく、鉄なら地球の科学知識を使って【鍛冶】スキル無しでそれなりの物が作れるはずだ。

 

 

 というわけで実験だ。

 目標は、日本刀を作ることだな。

 

 何年かに一回は、長期休みを利用してじいさんの友人である人間国宝指定の刀匠の下に出向き、刀鍛冶を見学させてもらっていた。

 

 そのときの経験からいうと、刀を一本作るのには約一ヶ月ほどかかる。しかし、これも【錬金】を使えば省略できるはずだ。

 

「まぁ、先ずはダメ元でやってみるのが良いだろうな」

 

 そうつぶやいて、インゴットを取り出す。

 

 鉄鉱石から採れる鉄には不純物が多く含まれるため、本来は砂鉄を精錬するのが良いのだが、残念ながら今はこれしかない。

 

 ということで、インゴットから鉄以外の不純物を取り除いてやる。

 これは、【錬金】を使えば簡単に作ることができる。

 

 正確に言えば分子の存在を知らないと、殆ど不純物を取り除くことはできない。

 このあたりが、科学知識がないと難しいところだ。

 

 その代わり、科学知識と【錬金】スキルが組み合わされば最強だ。通常ではあり得ない、100%鉄を作ることができる。

 

 たしか、超高純度鉄とかいうらしく、この状態になると、非常に粘り強く、錆びず、酸に溶けず、低温にも強くなるはずだ。

 

 ただし、超高純度鉄は粘り強い分だけ、硬度がそう高くはない。

 これでは、折れず曲がらずよく切れるというわけにはいかない。

 

 日本刀には大きく分けて、すべて玉鋼で作る方法と、炭素量が少なく粘り強い鉄を、炭素量が多く硬い玉鋼などで包む作り方がある。

 折れず曲がらずよく切れる特性があるのは、後者の方だ。

 

 確か、玉鋼の炭素含有率は、1~1.5%程で、炭素含有量が一定の物ほど等級が高い。

 そこから折り返し鍛錬を経て、0.8%程度にまで炭素含有量を落とす。

 

 このあたりは、普通に製鉄するよりも、【錬金】を使った方がよりよい物ができる。

 何度もいうが、科学知識があってこそだけどね。

 

 空気中の二酸化炭素から炭素を分離し、超高純度鉄に均一になるように混ぜる。

 これに、さっきインゴットから取り出したクロム、ニッケル等を少量添加する。

 

 で、この状態から焼き入れをすることによって、鋼がマルテンサイトとかいう組織を形成して硬くなる……と。

 その組織構造を知っていれば、直接作ることもできるだろうけど、流石に知らないので、普通に焼き入れをすることにする。

 

 既にすべての添加物が均一になっているので、折り返し鍛錬は省略し、【錬金】をつかって超高純度鉄を包み込んだ玉鋼を日本刀の形に整形していく。

 

 鉄の必要分量の切り出しは、【錬成】と【料理】のサブスキルである、【目分量】で正確に重量を計測できるので便利だ。

 

 しっかりとしたイメージがなければ、まともな物にはならないが、10年以上毎日見て触れてきて、その作り方さえ何度もこの目で見たのだ。

 

 何の問題も無く、整形を完了させ、その上から超高純度鉄でメッキをする。

 

 とはいえ、まだ完全に刃は付いていない状態だ。

 

 この状態で、焼き入れを終わらせる。

 

 炭素がない超高純度鉄部分には何の影響もないため、刃紋はない。

 

 更にこの状態から、鋭い刃をつけて……

 

 完成!

 

 【錬金】で成分分布を確認してみると、イメージしていたものと若干違う物ができたようだ。

 

 それに、鍔も柄もないので振ってみることはできないが、若干バランスが悪そうだ。

 まぁ、これくらいなら、【錬金】で修正できるレベルだとは思う。

 

 まぁ、最初からうまくいくとは思っていない。

 

 

 

 

 そうして何本か作るうちに、納得できる物ができるようになってきた。

 

 50kgの鉄を使って、作ることができた刀は、20本だった。

 

 【真理の魔眼】で見てみると、

 

 ──────────

 ・名称

  無銘の刀身

 

 ・詳細

  銘が刻まれていない刀身。

 

  鉄や鋼を使用した刀の中では、最高峰の切れ味と耐久性を誇る。

 

  柄がないため、このままでは使用できない。

 

 ・材料

  鉄・鋼

 

 ・使用スキル

  【錬金】

 ──────────

 

 となっている。

 

 

 日本刀一本作るのに、玉鋼が10kg必要と聞いていたような気がするけど、今回の場合は折り返し鍛錬済みの状態まで、【錬金】で持ってきているからな。

 そのおかげだろう。

 

 20本作った中で一番出来の良いものを選び、銘を刻み、残った19本はバランスの調整をしてアイテムボックスに放り込む。

 

 銘が刻まれると、『新月の刀身』となった。

 

 天下五剣の三日月宗近は、三日月型の刃紋が多く見られたとしてつけられたという。

 それにあやかって、刃紋が一切ないこの刀を新月としてみた。

 

 思ったより苦労なく作れたのは嬉しい誤算だったな。

 

 余った鉄を使って、鍔を作る。

 装飾のセンスはないので、家で使っていた物と同じデザインだ。

 

 後は、柄と鞘だけだ。

 

 これは、あらかじめ広場の露店で買っておいた木材と、デスシャークという海の魔物素材を組み合わせて作る。

 

 木材は、バルガムス工房で買っても良かったのだけど、バルガムス工房では、共柄にするか、ライトウエイトミスリルか、魔物の角や革を使った鞘や柄が主流で、鞘に木を使うことは殆どないそうだ。

 そんなわけで、バルガムス工房では「木材は杖や矢に使用するものしかない」と言われ手に入れることができなかった。

 

 譲ってもらえそうな木材の中で一番安いモノでも、トレントと呼ばれる木の魔物から切り出したものしかない。

 

 魔力伝導率の高いトレント材で杖を作れば、中級者でも十分使えるほどの杖となり、矢を使えば魔力を乗せた攻撃の威力が増すようになり、上級者でも使用するほどの矢になるらしい。

 

 魔力伝導率がいいのなら、柄にすると良いのではないか? と思って聞いてみたところ、「……それなら、共柄にした方が、魔力伝導率は上がる」とのことだった。

 

 矢でも、飛距離とコストさえ考えなければ、すべて同一の素材で作った矢の方がより魔力を乗せやすいらしい。

 

 まぁ、買うことはできるにせよ、値段が高すぎる。下手をすれば、刀より鞘の方が高くなってしまう。

 

 そんなわけで、露店で残りの素材を揃えたのだった。

 

 錬金があれば、木材の加工もお手の物だ。

 金属ほど自由に形を変えることができるわけではないが、切り出したり表面加工したりといった簡単な加工は、問題なくできる。

 

 鞘を作った後、柄の制作に入る。

 木の形を整えた後、表面にデスシャークの革を貼っていく。

 

 その上に、目貫(めぬき)という、暗闇の中で刀の上下を知るための飾りをつけるのだけど、これまた俺にはデザインセンスがないため、日本で使っていた物と同じにする。

 

「これで、端を金属で補強してっと」

 

 柄紐は、盗賊のところから持ってきた布を適当に【錬金】で紐にして使う。

 木の上にデスシャークの革を張ったおかげで、紐が滑ることはない。

 

 よし! 刀の完成だ!

 

 

 ──────────

 ・名称

  新月

 

 ・詳細

  刀匠の力ではなく、稀代の錬金術師によって作られた刀。

  鉄や鋼を使用した刀の中では、最高峰の切れ味と耐久性を誇るが、特殊効果はない。

 

 ・材料

  鉄・鋼・ホオノキ・デスシャークの革・アラクネーの織布(しょくふ)

 

 ・使用スキル

  【錬金】

 ──────────

 

 宿の中なので振り回すわけにはいかず、慎重にバランスを確認する。

 

 問題はないようだ。「稀代の錬金術師」という表示がちと気になるが。

 

 明日は出かける前にギルドの修練場に寄って試し切りをしてから、迷宮に出かけよう。

 

 

 

 主人公は簡単に作っているように見えますが、普通は魔力がもちません。

 

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