第20話 称号と工房
いつもの倍くらいの長さでお送りしております。
都市セーレには四軒の教会がある。
どの教会も太陽の女神を祀ってはいるのだが、副神として祀られている神が違う。
商業区にある教会には商売と豊穣の神 ジエビスが、工業区にある教会には、酒と鍛治の神 ヘファイソーマと、知恵と工芸の神 エーテナが、中央区には、守護と道祖の神 ジゾーと子宝の神 セイドナが、そして、冒険者ギルドのほど近くにある教会には、戦争と英雄の神 オディアと、魔術の魔法の神 トートが祀られている。
まぁ、奇をてらう必要性もないので、冒険者ギルド近くの教会に向かうことにしよう。
そうして訪れた教会は、壁面が正方形の正立方体の上に、窓が一定間隔で並んだ円柱が乗り、更にその上に同じく窓が一定間隔で並んだ大福が乗ったような形をしている。
中に入ると、思わず声を上げそうになった。
すべて吹き抜けになっており、上部にあつらえられた窓からは、光が燦々と部屋を照らすはずだが、部屋全体はやや薄暗い印象だ。
それもそのはず、窓から取り入れられた陽光はすべて集約され、奥にある女神の像とその左右にある一対の像をスポットライトのように照らしている。
ちょうど入り口から一直線に奔るスポットライトは、直線上のホコリを照らしそれがキラキラしていて一層幻想的だ。
背もたれが透かし彫りになっている木製のベンチが、スポットライトを避けるように部屋の左右に分かれて等間隔で配置されているが、その椅子に座っているのは数人だけだ。
全体的に石材でできているように見えるが、継ぎ目のない一枚岩の大理石に見える床から伝わる感触はリノリウム床に似ている。
壁や柱も、触ってみると違う感触がするかもしれない。
人の目があるからしないけど。
「ようこそ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
声をかけてきてくれたのは、若いシスター……ではなく、人の良さそうなおばあさんシスターだ。
おおざっぱに表現するならば、いわゆるシスター服なデザインの服を着ている。
十字架は持っていないし、頭にはフードではなく帽子をかぶっているしで、細かい点は色々違うけど。
ただ、帽子に関しては他のシスターを見てみると、どうやらフードを被っているシスターと、帽子のシスター両方いるようだ。
更に言えば、帽子を被っているシスターは比較的年配の人が多いようだ。
「俺とこの娘の称号の更新に来ました」
「称号の更新には大銅貨一枚以上のご寄付を賜っておりますが、大丈夫でしょうか?」
大銅貨以上なら大銅貨一枚ずつで良いですか?
とか聞けたら楽なんだろうなぁ。
イリスが前回更新したときは、大銅貨一枚だったらしい。
強い。
まぁ、お金が無かったらしいし仕方ないよな。
「すみません、実はこちらでお世話になるのは初めてでして……相場を教えて頂けると嬉しいのですが」
「ああ、他国の方でしたか。そうですね。冒険者の方は、頻繁に更新に来られる方が多く、そういった方は皆さん大銅貨一枚をお納め頂くことが多いですね。商人の方に多いのですが、寄付が多いほど、良い称号が付くと信じられている方は、多めにお納め頂くようですね」
信じられている方は……か。
なんつーか、正直者と表現するべきか、バカ正直と表現するべきか悩む人だな。
「では、すみませんが大銅貨1枚ずつでお願いします」
そう言って、大銅貨を二枚取り出して渡す。
「はい、ではこちらにお越しください」
シスターの案内で、奥の部屋へと連れて行かれた。
部屋全体は清潔感があり、更に奥にはもう一枚ドアがあり、背もたれのない長いすがいくつか並べられていて、さながら病院の待合室のようになっている。
他にもいくつかドアがあったため、同様の部屋がいくつか用意されているのだろう。
案内をしてくれたおばあさんシスターは立ち去り、代わりにやってきたのはフードを被った、若いシスターだった。
フードに覆われているが、丁寧に切りそろえられたその美しい金髪も、美しい双玉も隠すには至っていない。
紺色のシスター服はまるで彼女の紺色の瞳に合わせて作られたかのようだ。
イリスも相当美人だけど、この子も相当だな。
「ごきげんよう。本日担当をさせて頂きます、マリナ・デルリオと申します」
「藤堂 恭弥です」
「イリスです」
「トードー キョーヤ様ですか、アシハラ風のお名前ですね。もしかすると、トードーが御家名でしょうか?」
「そうですが、藤堂は呼びにくいと思うので、恭弥でいいですよ」
「いえ、そういうわけには……トードゥ様?」
「藤堂ですね」
「トウドゥ様。やはり、アシハラの言葉は発音が難しいですね……」
「藤堂」
「トウドー様……」
近くなってきた。
「あの、そろそろ称号の更新の説明をいただけませんか?」
イリスのツッコミごもっともである。
「ええと、申し訳ありませんでした。
お連れの方が入ることができるのは、この部屋までとなり、称号の更新は奥の部屋でお一人ずつ行なって頂きます。どちらが先にいたしましょうか?」
「じゃあ、俺からでいいか?」
と一応イリスに確認をして、俺から先に称号の更新を行なうことにする。
俺の場合、更新というか、初めてなんだけどな。
奥の部屋に入ると、女神像のミニチュア石像がポツンと飾られ、小さな丸椅子が設えられただけの部屋だった。
「それでは先に、今の称号を確認されますか?」
「あーそれなんですが、実は称号の更新は初めてなんですよ」
「そうなのですね。それでは、このままいきましょう」
引かれるかとも思ったが、実際のところは教会がない村とかもあるだろうし、珍しいことではないのかもしれないな。
「掛巻も畏き太陽の女神の廣前に諸々の新たなる加護有らむをば与え給へと白すことを聞食せと恐み恐も白す。『称号更新』」
マリナさんから光が放たれ、俺を照らす。と同時に、【神聖魔術】スキルレベル2を習得した。
いつの間にか俺の手に握られていた羊皮紙にどんどん文字が浮かんでいく。
・次元を越えし者
・人を超えし者
・精霊の寵愛
・スキルコレクター
・武神の卵
・英雄の卵
・賢者の卵
・魔人の卵
・銀狼の主
・一人前冒険者
・駆け出し賞金稼ぎ
・ウサギの天敵
なんかいっぱいあるな。
称号を得たおかげだろうか?
身体から力が溢れるようだ。
「どうでしたか? 称号は出ましたか? 最初ですし、2つか3つ程だと思いますが……」
いや、それどころじゃない。12個もありますよ?
「お見せした方が良いですか?」
「どちらでも構いませんよ。お見せ頂ければ、称号について相談にものることができます。もちろん、内容については他言いたしません」
「あーまぁ、今回は大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って、羊皮紙をポケットに入れ(るふりをしてアイテムボックスに入れ)ようとして、ふと気がつく。
・太陽の女神ソーレティアの加護
・月の女神ルーネティアの加護
・太陽の女神ソーレティアの寵愛
・月の女神ルーネティアの寵愛
なんか称号が増えているのですが……
何食わぬ顔をして、アイテムボックスに羊皮紙をしまい込み、イリスがいる部屋に戻る。
「終わったぞ。交代だ」
「はい。ではいって参ります」
と、サクッとイリスと交代する。
椅子に座って待っていると、程なくしてイリスが出てくる。
ああ、しっぽがぶんぶん振られている。
きっと、いい結果が出たんだろうな。
必要があればこの後、同行者の間で称号を見せ合ったり、シスターに称号を見せて相談に乗ってもらったりするわけだけど、俺にはステータスとヘルプという強い味方がいる。
称号を見せて、その効果を質問する必要はないということだ。
メニューのレベルを上げたおかげでイリスのステータスも見ることができるので、イリスについても別段相談する必要はない。
メニューを開くには、「メニューオープン」と言う必要があるので、人前ではやりにくい。
イリスには、宿で称号の効果を教えると約束して、納得してもらった。
俺を尊敬する眼差しが、痛い。
そういうわけで、マリナさんと最初に案内してくれたおばあちゃんシスターに礼を言って、早々に辞去する。
「じゃあ、次は武器防具だな」
「はい。ですが、私は鍛冶師についてはあまり知らないのですが……」
「まぁ、冒険者ギルドで紹介してもらってもいいんだけどな。それだと面白くないだろ? せっかく得た伝手は使わないとな」
恐らくだが、冒険者ギルドで薦めてもらえるような店は、ギルドに広告費としていくらか支払っているはずだ。
もちろん、おかしな店を薦められることはないだろうが、俺の求めるモノとは少しずれる。
広告費を支払うような大きな工房は、多くの職人を雇い入れているはずで、ある一定のクオリティは担保しているが、それ以上を求めることは難しいだろう。
【錬金】や【錬成】を使って作った武器は、【鍛冶】で作った武器と比べて性能が劣るらしいが、恐らくそれは科学知識が足りないからだ。
ということは、俺が作れば性能の良い武器を作ることができる。
中途半端な性能の武器なら、自分で作った方が強いに決まっているのだ。
まぁ、工房で鉄を売ってもらえそうなら、購入して一本作ってみるつもりだ。
盗賊の所で見つけたインゴットはまだ未鑑定の金属のままだが、どう見ても鉄やら銅やらはなかった。
というわけで、俺が求めるのは、科学知識が通用しなさそうなファンタジー金属や、今後迷宮で手に入れるであろう素材を使って完全オーダーメイドで作ってくれるような工房だ。
はてなマークを浮かべるイリスを連れて向かった場所は、アールさんの店だ。
完全に畑違いだろうが、職人の横の繋がりというモノは案外バカにできないものだ。
良い情報を教えてもらえるだろう。
「――というわけで、良い工房があれば教えて頂きたいのですが……」
「そうですねぇ。アシハラの武器を作れる職人にはちょっと心当たりはないのですが……いえ、正確には一人有名な方がいるのですが、どういうわけか、今は包丁やらスコップやらしか作っていないようなんですよね」
そう言いながら、何件かの工房を紹介してくれた。
紹介してもらったところを色々回った結果、ピンと来るところはなかった。
家族経営の個人工房に絞って紹介してもらったおかげで、得手不得手があり、一部工程を外注している工房ばかりだった。
そうして最後にやってきたのは、アールさんの幼なじみがやっているという工房だ。
バルガムス工房。
家族経営の小さな工房ながら、4兄弟が鍛冶、木工、革加工、彫金とそれぞれの工程を担当している為、全体的なレベルが高い工房とのことで、元より第一候補だった。
ちなみに、アールさんが鞄の金具を発注しているのもこの工房だそうだ。
ドアを開けるとカウベルが鳴り、中から背の低いひげ面白髪頭の老人がぬっと出てきた。
鍛冶仕事のせいだろうか。身体は引き締まった筋肉で覆われ、肌は何度も火ぶくれをおこしたせいで浅黒く硬そうだ。
「……らっしゃい」
「アールさんの紹介で来たのですが……」
「……アールの奴が……? ……なんか知らんが、気に入られたみたいだな」
気に入られた? 大量に買い物したからだろうか。
と、疑問符を浮かべていると、
「……ああ、別に一見さんお断りみたいな、お高くとまった工房でもないがな、うちは初級者向けの武具は扱っていないからな。中級者向け以上の武器が殆どというわけよ。言っちゃあ悪いが、普通ならお前さんたちみたいな若い連中には、過ぎたものばかりだ。駆け出しの冒険者に支払えるような金額の武具は置いていないし、よしんば買えたとしても、まぁ色々厳しいだろうな。
……だから、アールから見てお前等なら大丈夫と思える何かがあったんだろうよ」
「そりゃそうだろう、たった一日でCランクにまで上がった優秀なルーキーだよ。その二人は」
奥からもう一人、老父が出てきた。
やはり兄弟なのだろう。非常によく似ている。
スキルを見るとそれぞれ、鍛治師兼武器職人と、革加工職人兼防具職人のようだ。
今まで回った店も得意分野はスキルレベルが3から4と高かったが、ここはそれより更に高く、両方とも5だ。
経験は貰えないけど、一応収集だけはしておくか。
「……ああ、例のバカ共をとっ捕まえたっていう、子供の冒険者か。なるほど、アールが気に入るわけだ。なら、希望を言ってくれ」
子供って……一応、18歳なんだけどな……俺。
「俺は、本当は刀がいいんだが、アールさんからはないとあらかじめ聞いているから、切れ味重視のサーベルが1本と、短めの曲剣を2本。後はできる限り軽い鎧と、マント、それにいいブーツがあれば見せて欲しい。予算は、相場がわからないので、色々見せていただけると嬉しいです」
「私は、レイピアと、軽鎧をお願いします」
「……わかった、ちょっと待っててくれ」
「お嬢ちゃんの方は、ブーツは要らないのかい?」
「はい。これがありますから」
「んーそれじゃあ、ちょっとした水場を通ると水が浸みてこないかい? いいのがあるからついでに持ってきてあげるよ」
そう言って、もう一人も奥に引っ込んでいった。
まぁ、持ってきてもらってよさげならそれも買えばいいだろう。
先に戻ってきたのは、武器職人の方だ。
「……刀は、【武器作成】スキルの他に【刀匠】スキルが必要だから、俺には作れないが、客から買い取った物があるから持ってきた。あとは、今うちにある物の中で、希望に合致している物を全部持ってきた。
……一応値段順で並べているが、こっちが一番安く、金貨1枚、こっちが一番高く大金貨5枚だ。
刀は、大金貨2枚だ」
一番安くて100万円、一番高くて5000万円か。
そして出してもらった刀は、刀というより、合口だった。
2000万だそうだが……さて。
──────────
・名称
霞の合口
・詳細
魔力を注ぐことにより、魔力の刀身を伸ばすことができる。
・材料
*****
・使用スキル
*****
──────────
抜く前の見た目は普通の合口。いわゆるドスだ。
性能的に見て、どちらかというと暗器として優秀な武器だな。
とりあえず抜いてみると、鎺(刀身が鞘から抜け落ちないようにする為の金具)しか無い。
鞘は、15cmくらいの長さはあるのに……
「……そいつは、魔力を注ぐことで刀身を伸ばすことができる刀だ。魔力を見ることができなければ、見えない刃に斬られる。
……うっかり伸ばしすぎると店が壊れるからな。試すんなら、外で切っ先を上に向けてやってくれ」
お言葉に甘えて、裏庭を借りて試してみる。
余剰魔力を注ぎ込んだだけで、野太刀程度の長さに伸ばせるようで、ある程度までは切れ味も調節できるようだ。
称号を得たおかげだろうか? 魔力の扱いが楽になった気がする。
《スキル【魔力操作】を習得しました》
おお、久しぶりのアナウンスだ。
レベルが上がらないのは、今まで俺がやってきていたのは魔力を纏うことだけで、それを操作しようとしたことがなかったからだろう。
恐らくだけど、これで魔術の威力調節ができるようになるはずだ。
おっと、今は霞の合口の検証だ。
今度は余剰魔力ではなく、体内の魔力を注ぎ込んでみても、同様に扱える。
これは称号のおかげなのか、【魔力撃】の延長だからか、武器のおかげか、はたまた【魔力操作】のおかげか……そこまではわからないが、とりあえず扱うのは問題はなさそうだ。
鞘走りが使えないから居合いは無理だろうけど、抜いて伸ばせば普通の刀としては使えそうだな。
伸び縮み自由の見えない刃が普通かどうかは別として。
何より素晴らしいのは、魔力がつきない限り折れず曲がらず良く切れることだな。
まぁ、基本はこれを使うとして、後の武器は予備と、手数が必要なとき用だからな。
そこそこの物でいいだろう。
サーベルは、ミスリルを黒曜鉄で挟み込んだもの。
芯材にミスリルを使用しているため魔力の通りが良く、刃先もミスリルとなるため、魔力撃の威力が増し、長切れする。
さらに、黒曜鉄は硬く丈夫なので曲がりにくいため、仮に刃が欠けてしまっても叩きつぶす使い方が可能だ。
ただし、少し重量のある作りとなっているが、俺にとっては大して変わりはない。
取り回しを考えなければ、ツーハンドソードでも問題はないだろう。
ショートソードは、同じくミスリルを黒曜鉄で挟み込んだ物と、ミスリルを黒曜鉄で挟み込みさらにミスリルでメッキして魔力伝導率を上げた物を購入することにした。
で、イリスはというと、ライトウエイトミスリル製の剣をチラチラしながら、ダマスカス製の剣を手にしている。
ライトウエイトミスリルと大げさな名前が付いているが、実のところただの合金で、値段的にも一番安いダマスカス製の剣に金貨1枚足せば買える。
「こっちの方が良くないか? 軽いし、魔力変換での攻撃もこっちの方が威力上がるだろ? この上だと、いきなりミスリル製になってしまうけど、それよりも、ライトウエイトミスリルの方が断然軽いから、イリスの身体能力もこっちの方がいかせると思うんだけど」
「そうですね、主様にそう仰って頂けるならこちらにします」
そう言いつつも、しっぽはぶんぶん振られている。
わかりやすい奴め。
「おまたせしました。今うちにあるもので、要望に添うのはこれだけですね。
まず、こちらのマントは迷宮産の物で、自分が持っている属性攻撃をすべて無効化しますが、それ以外の属性攻撃には無力です。まぁ、普通の人が持つ属性は多くて1個から2個ですからね。エルフなんかだと違いますが、彼等はどちらかといえば魔法の威力を上げるような物を好みますから。いってみれば売れ残りの商品なので、お安くしますよ。うちはあまりマントを常備していないので、マントはこれだけです。
で、鎧ですが、一応すべて軽銀製で揃えてみました。
胸当てや、腰当て、ファールカップなど部分部分で購入可能ですので、好みに応じて使用して頂ければ」
俺は胸当てと手甲を、イリスは胸当てだけを買うことにした。
もちろん、男女でデザインは違うので、ペアルックというわけではない。
「で、ブーツですが、これは、レッサーケルピーという水中に住む馬の魔物の革を使用していまして、非常に硬く、見た目も良いだけではなく、優れた防汚性、防水性を持つブーツです」
そういって出てきたのは、いわゆるコードバン製のブーツだ。
履いてみると、外は鋼のように硬いのにも拘わらず軽く、中は柔らかだ。
イリスに用意されたのは、同じ素材で作られたロングブーツだ。
「いいんじゃないか? 似合ってると思うぞ。汚れにくいなら迷宮探索のときにも便利だしな。一緒に買っていこう」
「ありがとうございます。それでは、合計で400万リコのところを350万リコ。大金貨3枚と金貨5枚でいかがでしょう?」
「値引きすぎでは……?」
「有望な冒険者への投資ですよ。それに、迷宮産の武具は高価ですからね、損はしていないのでご安心を」
「……まぁ、今後贔屓にしてくれりゃあ、それでいい」
「そうですか。では、迷宮で素材を見つけたら、色々お願いすると思いますが、よろしくお願いしますね」
「……そのときまで、死ぬなよ」
心から心配してくれるのがわかり、少しほっとしてしまう。
「ありがとうございます。あ、それと、鉄を少々譲って欲しいのですが」
「いいけど、何に使うんだい?」
まぁ、そうなるよね。
「錬金の訓練に使うので……」
「……鉛の方が効果が高いけど、良いのか?」
「そこら辺は、企業秘密で」
「企業……? まぁ、スキルの鍛錬方法は、秘密にするのが普通ですからね。無理して聞くつもりはありませんよ。ちなみに、お譲りするのは問題ないですよ。インゴット一つで、鉄貨6枚でいかがですか?」
インゴット一つは、約1kgだ。
50kg分くらいを譲ってもらうことにする。
それで全ての買い物が終わる。
手早く支払いを済ませ、辞去することにする。
「ありがとうごさいました!」
「……またこい」
結局、心優しい職人の工房を離れたのは、昼を大きく過ぎた後だった。
昼過ぎからの予定は初めから決まっていた。
「丁度いい時間だな。広場で果物を買いつつ向かうとしようか。まぁ昼食は、屋台で買い食いすればいいだろう」
「はい。承知しました」
短いやり取りの後俺たちは、セレンさんのもとへと向かった。
エセ祝詞は、作者が適当に作ったものですので、色々間違えてると思います。
──────────
■改稿履歴
旧:
鉄貨3枚でいかがですか?
新:
鉄貨6枚でいかがですか?
旧:
抜いてみると見た目は普通の合口。いわゆるドスだ。
新:
抜く前の見た目は普通の合口。いわゆるドスだ。