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第17話 二日目の終わり(後編)

 宿に戻り夕食に舌鼓を打った後(味はかなり良く、針子のお姉さんには感謝しきりだ)、お待ちかねのお風呂とシャワーだ。

 指の先から水を出す『ティア』を温度調節をして入れればいいだけなので、簡単なお仕事だ。威力と温度を調節したウォーターボールでも良いけど、失敗したときが怖いからな。

 

 水の温度は常温から変化させる度合いによって、魔力消費が増える。

 その割に、温度の可変幅はさほど高くはなく、最低で5度くらい最高で60度くらいだ。

 それでも、お風呂に入れるなら十分だ。

 俺好みの42度で完璧に入れてやる。

 

 

 

「イリス、どうする? 先に入るか?」

「主様を差し置いて、先に入るわけには参りません」

 

 まぁ、そう言うだろうとは思った。

 なら、お言葉に甘えて、一日ぶりの風呂を堪能させてもらおう。

 

 

 †

 

 

 イリスは今、俺と入れ替わりで風呂に入っている。

 交代するときにお湯を張り替えておいたら、なぜかガッカリしていたけど……地雷の予感しかしなかったので、無視しておいた。

 

 さて、すっかり放置していた【SP操作】だ。

 本当は昼に一度宿に入ったときにやる予定だったが、しっぽの件があったのですっかり忘れていた。

 

 他にも条件があるかもしれないが、SPはレベルアップとともに増えることがわかったので、とりあえず使ってみることにする。

 

 問題は、何を上げるか? だ。

 魔術や武術系のスキルは正直今のままでも困っていない。

 術技も全然試してないしな。

 

 ところで、説明にレベル毎の説明書きがされているスキルは、レベルアップで機能追加されるスキルだ。

 サンプル数は、【限界突破】と【真理の魔眼】だけだけど、恐らくそれで間違いないだろう。

 

 で、俺の【完全見取り】は「一度見たスキルや、術技を収集、習得することが()()()」という説明文だが、実際は俺の意思に関係なく勝手に収集して習得してしまう状態だ。

 収集、習得することが()()()だけなら、そうしない選択肢もあるはずなのに、それがない。

 

 ということは……だ。恐らく、レベルが低く制御が利いていない状態なのだろう。

 これは、レベルを上げることによって制御できるようになる可能性がある。

 

 これまでの検証と、メニューでの説明文でなんとなくわかってきたことだが、経験も何もなくただスキルだけがステータスに記録されているだけの状態が『収集』、経験ごとスキルを複製した状態が『習得』の状態なのだろう。

 

 ステータス上で分けて書いてくれればこんな面倒な調査は必要なかったのかもしれないが……まぁ、【完全見取り】における『収集』の状態というのは、この世界的に例外中の例外なのだろう。だからこそ、メニューでもうまく表示できていないと。こういうことだろう。

 メニューのレベルアップで改善するかもしれないが、今のところは諦めるしかない。

 

 あと、『習得』これもなかなかにやっかいだ。

 得られる経験はまさに玉石混淆(ぎょくせきこんこう)といえる。

 

 武術系のスキルなら、まだ日本で培った経験で取捨選択できるが、魔術は一切の知識がなく、得られた知識や経験が事実なのかどうかすら判断が付かない。

 が、じいさんの武術は、古代からいろいろな武術の長所や技を取り入れながら作られてきた武術だ。

 当代継承者としてこれに魔術を加える。というのを目標にしてみよう。

 とすると、魔術の正しい知識を授けてくれる人が必要だな。

 

 どっかに転がっていないものか……

 

 と、【完全見取り】を上げるのはすでに確定しているが、その前に【SP操作】を上げることにする。

 【完全見取り】も【SP操作】も使用するSPは20だ。

 ちなみに、俺が今持っているSPは425で余裕があるといえる。

 調子に乗って使いすぎると、後で後悔しそうなのでさじ加減が難しいけど。

 

 レベルアップしてみると、やはり機能が増えた。

 増えた機能は、こんな感じ。

 

 ──────────

 レベル2

 

 スキルレベルを下げてSPに変換できる

 ──────────

 

 うーん。

 SP消費減少。みたいな効果を期待したがそれは無理そうだな。

 SP消費減少があるなら、「スキルレベルを下げてSPに変換できる」機能を使って、上げて下げればSPが増えることになってしまう。

 

 いや、上げるときと同じポイントが貰えるとはどこにも書いていないか。

 その場合は、消費減少や、変換率向上なんて機能が増えるかもしれないのか。

 

 ちなみに、レベル3に上げるためには、30ポイント必要だ。

 もう一回上げてみるか。

 

 で、増えた機能は、

 

 ──────────

 レベル3

 

 SP変換率向上(50%→75%)

 ──────────

 

 だった。

 

 これは次こそは! と、もう一度レベルを上げたら「SP変換率向上(75%→**%)」とかになるパターンだな。

 その場合はやはり、SP消費減少は諦めるか、出たとしても効果は少なくなるだろうな。

 そうしないとやはり、変換、再使用でSPが増える状態になってしまう。

 

 

 SP操作はひとまずこれで置いておこう。

 

 さて、本命の【完全見取り】のスキルレベルを1つ上げてみることにする。

 

 増えた機能は、

 

 ──────────

 レベル2

 

 スキルや術技の収集および習得の是非を、決めることができる。

 現在の設定は、

 

 【収集】自動(オート)

 【習得】自動(オート)

 

 設定は、コンフィグで変更可能。

 ──────────

 こんな感じだ。

 

 で、コンフィグをみると、「オート」「オート(都度確認)」「マニュアル」の中から設定できるようになっていたので、収集だけをマニュアルに変更する。

 

 両方マニュアルにしようかとも思ったが、今日の【闇魔術】のようなこともある。しばらくはこのままで良いだろう。

 都度確認も、大量の魔物を前にした場合大変なことになりそうだし。

 

 次のレベルに上げるには、【SP操作】と同じ30ポイント。

 まぁ、レベル3で揃えておくか。

 

 ──────────

 レベル3

 

 発動を確認した、レアリティ10のスキルを収集可能。

 但し、スキルレベルは1で収集される。

 ──────────

 

 おお、レアリティ10のスキルを覚えられるようになったみたいだな。

 収集だから、経験は手に入らないだろうけど、レベル1で収集してくれるなら、齟齬が起こらなくて良いな。

 

 

 さて、次に上げるのは、【メニュー】だ。

 これは、自力でのレベル上げ方法が思いつかない。

 メニューを開け閉めすればレベルが上がるのか?

 

 何となくだけど、それは違う気がする。

 というか、【SP操作】以外で上げる方法がないと感覚が告げている。

 

 ちなみに、【メニュー】もレベル2に上げるために必要なSPは20だ。

 

 増えた機能はこんな感じ。

 ──────────

 レベル2

 

 ・アイテムボックス(レベル2)

  アイテムボックスに検索機能追加

 

 ・ステータス確認(レベル2)

  仲間のステータスを確認できる

 ──────────

 

 アイテムボックスの検索機能は、アイテムを探す機能ではなかった。

 本などの文字が書かれているアイテムの中身を、全文検索する機能だった。

 が……今俺のアイテムボックスにある検索対象は、『父からの手紙』しかないのだった。

 

 ステータスには、イリスのステータスが増えており、ステータスを確認することができるようになっていた。

 このステータスは、【真理の魔眼】と違って恐らく【隠蔽】が通用しない。

 少なくとも、俺のステータスは隠蔽されていないからな。

 

 そして、メニューもレベル3に上げる。

 必要なSPは30だ。

 

 ──────────

 レベル3

 

 ・ログ機能の追加

 

 ──────────

 

 

 見てみると、メニューに「ログ」と書かれた機能が追加されている。

 基本的には、脳内に流れるアノ(母さんの声の)アナウンスの内容だけど、【完全見取り】でスキルを習得した情報も載っている。

 

 ああ、確か完全見取りでスキルを習得したときのアナウンスを切ったんだっけか……?

 

《累積された経験を検知しました》

 とだけ表示されていて、レベルが上がっていないのは、経験が足りなかったんだろうなぁ。

 もちろん、表示されていないものもあるけど。

 

 まぁ、武術以外の修行なんてしたことないからな。仕方ないか。

 

 どうしよう、アナウンス戻そうか?

 

 いや、収集は任意に変えたし、自動で発動する習得時は経験が入ってくる感覚でわかるからアナウンスは要らないな。

 

 あとは、【真理の魔眼】をレベル3にしてみることにする。

 【真理の魔眼】をレベル3にするために必要なSPは、12だ。

 

 増えた効果は、

 

 ──────────

 レベル3

 

 アイテムの情報を見るときに、より詳しい情報を見ることができる

 ──────────

 

 とこんな感じのものだ。

 

 試しに、ランタンを見てみる。

 

 ──────────

 ・名称

 普通のランタン

 

 ・詳細

 汎用品のランタン。

 魔石ではなく、精製した油を使用する。

 

 ・材料

 ガラス、鉄

 

 ・使用スキル

 ガラス工・鍛冶

 ──────────

 

 材料と使用スキルが見えるようになったようだ。

 

 ふむ、これなら……

 アイテムボックスから、魔寄せの香を取り出して見てみる。

 

 ──────────

 ・名称

 魔寄せの香

 

 ・詳細

 焚くと興奮状態の魔物を呼び寄せる魔法薬。

 迷宮で使用した場合は、追加の効果として、迷宮の魔物生産を促進させる。

 

 ・材料

 サンダルウッド、魔物の血液

 

 ・使用スキル

 錬成

 ──────────

 

 イリスからは普通の店では売られていないと聞いているが、これで自分でも作れそうだな。

 魔物の血液はホーンラビットの血液があるので、サンダルウッドなる物を手に入れれば良いだけだ。

 

 こうなったら、【限界突破】も上げてみるか?

 今まで得てきたスキルレベルから、何となくレベル5が最高かと思ったけど、これもSP操作で上げることができるようだ。

 必要なSPはなんと、54。

 残りSPは283、ついに200台に突入だ。ここで、54ポイントは正直尻込みする数字だ。

 どうするか……

 

 

 †

 

 

「主様、お風呂頂きました」

 

 【限界突破】のレベルをもう一つ上げるか悩んでいたけど、決めきる前にイリスが風呂から出てきてしまったようだ。

 俺はサクッとウインドウを消してイリスに向き直った。

 ちなみに今の操作で、俺のSPは229になった。

 

 ……得た機能は、スキルレベルの全制限解除だった。

 

 ああ、俺って奴は……限界突破なんて、こんな序盤に必要なスキルじゃないってわかっているだろうに……

 

 今日買ったばかりの、ネグリジェを着ている。

 といっても、いわゆる普通のネグリジェ――つまり、ワンピースのパジャマだ。

 そもそも長袖だし、布地が透けているわけでもなければ、裾も長い。

 全体的にゆったりと作られているので、体型もわかりづらくなっている。

 そもそも、ベビードール的なすけすけネグリジェなんて売っていなかったわけだけど。

 

 いや、残念じゃないよ?

 

 それでも、濡れそぼった髪と上気した肌は、否が応でもイリスが可愛い女の子であることを認識させられる。

 

「おう、ゆっくりできたか?」

「はい、初めてお風呂という物に入りましたが、気持ちの良い物ですね!」

「イリスの育ったところにはなかったのか?」

「はい。私がいたところは基本的に水浴びだけで、たまにお湯を使って身体を拭くことがあるくらいですね。ですが、ミレハイムとは違い水の温度が高めかつ一定ですので、幾分楽でした。ミレハイムでも、貴族でもない限りは家に風呂を置いている家は少ないと思います。宿にしてもない所の方が圧倒的に多いです。私が泊まっていたところにも、もちろんありませんでしたし」

 

 なるほど、本当に良い宿を紹介してもらったんだな。

 ありがたいことだ。

 

「あの、主様。言いつけ通り、洗浄ソープを使って髪と身体を洗って参りました」

 

 ──────────

 ・名称

 洗浄ソープ

 

 ・詳細

 洗浄の力が込められた魔法薬。

 使用した場所の汚れを落とし、清潔にする働きがある。

 使用後は洗い流す必要がある。

 

 ・材料

 水

 

 ・使用スキル

 【錬金】【錬成】【生活魔術】(クリーニング)

 ──────────

 

 俺が初めて【錬金】【錬成】で作った魔法薬だ。

 材料はなんと水だけ。

 【錬金】で水にやや粘性を与え、【錬成】で【生活魔術】の『クリーニング』を付与した液体だ。

 どういうわけか、キチンと泡立つ。

 

 粘性を与えなかった場合は、洗浄薬に変わり、泡立ちはなくなる。

 

 もちろん、イリスに使ってもらう前に自分で先に試している。

 

 実際のところ、『クリーニング』は水浴び程度の汚れ落とし効果しかないが、洗浄ソープは『クリーニング』以上の洗浄力があるのだ。

 これを使わない手はなかった。

 

「うん。綺麗になったじゃあないか」

 水浴びはしていても、どこか薄汚れた印象のあったイリスだが、銀髪は更にその輝きを取り戻し、肌はその白磁のような白さを取り戻している。不健康さが一切存在しない神秘的とも言える白い肌は、今は薄らと(べに)をさしている。

 

 湯上がりで上気しているためか、それとも……?

 

 っていかんいかん。

 俺が流されてどうする。

 

「こっちに来い。髪の毛を乾かしてやろう。『ブリーズ』」

 【風魔術】のドライヤーだ。音は無音だけど。

 【水魔術】と比べると、【風魔術】の温度の可変幅は大きい。

 上は、140度くらいまではいける。

 中学のときに技術家庭でドライヤーを作らされたときに習った情報によると、温風は約100度くらいだそうなので、限界値より少し抑えめで発動させる。

 櫛を買い忘れたので、手ぐしでなでつけながら、乾かしていく。

 だんだんと、銀髪が手触りの良いさらさら感を取り戻していく。

 イリスの表情は見えないが、どうやら気持ちが良さそうだ。

 耳は垂れ下がり、しっぽも下に垂れゆっくりと左右に揺れている。

 

 さらさら、さらさら。

 

 ――と、イリスの髪は長く思ったよりボリュームがあったため、乾かすのに時間がかかってしまった。

「イリス、乾かし終わったぞ?」

 が、返事がない。

 いつの間にか、寝てしまったようだ。

 

「しょうがないな……」

 

 俺は、小さく寝息を立てるイリスをベッドに運ぶと、隣のベッドに潜り込み早々に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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