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第01話 プロローグ

 異世界転移ものが書きたくて書きました。

 

 一人称で進める物語は初めて書きます。

 色々つたない文章ですが、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 冬もたけなわをすぎた。

 大学も無事合格し、後は自由登校という名の消化試合を残すだけの高校生活。

 そんな中、俺こと藤堂(とうどう) 恭弥(きょうや)は本校舎の屋上で人を待っていた。

 

 まだ受験を控えている生徒や、合格発表を控えている生徒も多く、三年生で登校している生徒は殆どいない。

 普段であれば、俺も受験勉強で減らしていた鍛錬を埋めるかのように、自宅の道場や世話になっている警察の道場へ籠もって登校はしていない。

 ましてや今は授業中であり、少し寒さも和らいできたとはいえ外は寒い。

 この学校では屋上へ自由に出入りできるよう開放されているが、今現在ここにいるのは俺だけだ。

 

 ギィ

 と、金属がきしむような音と共に待ち人が姿を現す。

 

「お待たせしちゃったかな?」

 

 やってきたのは、冬の弱い陽光でも輝く綺麗な髪をサイドポニーテールにまとめた少女だ。

 つり目がちで凜とした面差しは、身内のひいき目を差し引いて見ても美少女であることに疑いはない。

 (ちまた)に溢れるアイドルとは違い、フォトショで修正する必要が一切ない。

 彼女こと(みなみ) 咲良(さくら)と俺との関係を一言で説明すると、「高校入学時に再会した幼なじみ」だ。

 

 はじめは気がつかず、不機嫌にさせてしまったが、

「年下の女の子だと思っていたら、その実早生まれで同じ学年だった。似ているとは思ったが、年下だと思っていたので本人だとは思わなかった」

 と正直に謝ったら割とすぐに機嫌は直ったのだった。

 

 今となってはこうして気軽に話せる仲というわけだ。

 ちなみに、四月からは同じ大学に通うことになっている。

 

「いや、時間通りだ。待ち合わせで早く来るってのは俺が好きでやっているだけだからな。気にすることはない」

「そう? それならいいんだけど」

 

 と言って、ふんわりと笑う。

 美人なのにきつい印象がないのは、こういうところが原因だろう。

 

「で? こんなところに呼び出して何か用なのか? 話があるなら、(うち)に来れば良かったのに。どうせ誰もいないわけだし」

 

 現在、俺は一人暮らしだ。

 一人暮らしの男の家に年頃の娘が……というのはあるかもしれないが、そこは幼なじみの気やすさだ。

 何度となく(うち)には遊びに来ている。

 

 俺の両親は俺がまだ四歳の頃に事故で他界しており、それ以降は古武術を伝える祖父(じいさん)と二人で暮らしていたが、そのじいさんも俺が高校に入ると同時に他界した。

 それ以降は、じいさんから習った古武術の鍛錬をしながら(ひと)りで暮らしてきた。

 

 幸いというのか、両親は多少の財産を(のこ)してくれたし、保険金も下りた。

 しかも、両親の保険金は手つかずのまま残っており、じいさんはじいさんで警察や自衛隊の外部指導者として招かれたり、剣舞は人間国宝に指定されるほどであったため、国内だけではなく海外で剣舞を披露したりと、そこでも遺産という名の資金が増えた。

 

 現状、金銭的には一切苦労していないのはありがたいことだ。

 相続者が俺だけだったため、未成年の内は弁護士が資産の管理をしてくれている。

 

 こうして、学費の心配をすることなく大学に進学できるのも両親とじいさんのおかげだ。

 

 ちなみに、じいさんの伝える古武術は元は一つの流派だが、扱う技術が多すぎて一般に教導しやすいように便宜的に流派を分けている。

 ・剣術・武器術

 ・居合術

 ・柔術

 ・棒術・捕縛術

 ・活殺術

 の五流派はすべて別々に教導されている。

 

 実際はそれぞれの技術には共通するところがあり、一つ修めれば他の技術も習得しやすくはなっている。

 また、活殺術だけは一般には存在すら秘密にされている技術で、じいさんの流派では“氣”と呼ばれている世間一般的には眉唾な技術を扱う。

 俺は両親が亡くなってじいさんに引き取られてから、四歳の頃からじいさんが亡くなるまでの間ひたすら技術をたたき込まれた。

 平和な日本で人を効率よく殺す技が必要かどうかはしらないが、伝統芸能の一種だと思えば悪くはなかった。

 

 以前父さんが言っていたように、これだけで食べていくのは不可能だとしても。

 

「恭弥の家か……まぁ、それでも良かったんだけど、雰囲気って大事かと思って」

「何の話だ?」

「これからする話に関係あることだよ」

 

 咲良の話は要領の得ないものだったが、俺の疑問を解消することはなくまるで踊るように鉄柵に駆け寄った。

 

「……で? 話って何なんだ?」

「もうっ、こういうのは雰囲気が大事なんだって。あとっ、勢いとか!」

 

 怒らせてしまったらしい。

 一体どこが地雷だったのだろうか?

 

「うだうだ悩むなんて私らしくない! ――私、南咲良は藤堂恭弥のことがす――」

 と、気合一発いれて何かを言いかけた咲良の台詞に重なるように、大きな地震が俺たちを襲った。

 

「きゃあっ!」

 

 慌てて咲良の手を取ろうとした俺の手は(むな)しく空を切る。

 そして、俺の目には鉄柵ごと外に放り出される咲良の姿が、スローモーションのように映る。

 揺れ続ける地面に内心で舌打ちをしながら、咲良に向かい突貫。何とか空中で咲良を抱えそのまま屋上へと投げ戻す。

 逆に俺はそのまま屋上の外へと投げ出された。

 6Fの高さではあるが幸いにして下は芝生だ。

 さすがに6Fからの飛び降り経験はないが、五点着地や高所からの飛び降り訓練は何度か行なっている。

 うまくいけば無傷。そうでなくても死ぬことはないだろう。そう考えつつ着地の姿勢を整える。

 咲良が何か叫んでいるのを遠くに聞きながら、俺は――

 

 白い光に包まれ――

 ――意識を失った。

 

 

 

 †

 

 

 

 気がつくと小さなレストランの中にいた。

 覚悟をしていた衝撃も落下ダメージもない。

 意識を失っていたような気がするが、倒れていないので気のせいだろう。

 それとは別に、五点着地のために姿勢を作っていたおかげでバランスを崩しそうになったが、それは持ち前の運動能力で何とか持ち直す。

 

 何だ? ここは?

 見覚えがないレストラン?

 いや、このレストランは……

 

 今、俺がいるこのレストランは生前両親が経営していたレストランだった。

 父さんもじいさんから古武術を習ってはいたが、「今時、武術では食べていけない」とレストランの経営を始めたのだ。

 地元の食材をうまく利用したレストランで、なかなかに繁盛していたように思う。

 両親の事故は、その食材の買い出しの途中で起こったのだった。

 

「やあ、恭弥。久しぶりだね」

 

 奥の厨房から顔を見せたのは死んだはずの両親だった。

 年を重ねた様子はなく遺影の中の姿そのままだ。

 両親がここにいるってことは……

 

「父さんに、母さん……? そうか。俺は死んだのか……」

 

 着地に失敗したのだろうか? 記憶にないのが悔しい。

 

「いや、恭弥は死んでないよ? ちょっと緊急だったからね、無理矢理ここに来てもらったんだ」

「屋上から落ちたのを助けてくれたってことか?」

「いやいや、恭弥ならあれくらい怪我一つすることなく助かってたと思うよ。ここに呼んだのは別な理由だよ」

 

 父さんが言うには、両親二人は死後俺の守護霊として見守ってくれていたそうだ。

 とはいえ、余程のことがない限り力を使って助けるようなことはしないらしい。

 助けるにしてもそれとなく助ける形になる。

 それが、今回こんな目立つ形で俺と顔を合わせているのは、着地の瞬間に俺を包み込んだ白い光。それに問題があったらしい。

 

「つまり、異世界召喚の魔法だよ。無理矢理他の世界から人を呼び出して、隷属させる魔法みたいだね」

「隷属って、穏やかじゃないな」

「そうだね。隷属の状態になると、主人の命令には逆らえなくなるみたいだね。逆らおうとすると、激痛が走るようになっている。幾ら恭弥が強くとも、一切逆らえないね。これじゃあ」

「なるほど。それで助けてくれたのか。ありがとう」

「いや、助けるってのは……申し訳ないけど無理なんだ。僕ら守護霊は霊の中でも格の高い神霊に属する存在だけど、力そのものは弱いからね。次元の壁を無理矢理破るような力を、周りに影響がないように無効化するのはさすがに無理があるね」

 

 ええっ!? じゃあ、俺奴隷化決定!?

 いや、あらかじめ心構えができている分だけマシと思えばいいのか。

 

「とはいえ、これでも神霊だからね。異世界に飛ばされるのはしょうがないとしても、異世界召喚の魔法を改変して、多少マシな状況にはできるよ」

「少なくとも、隷属の術式は母さんたちが別な術式に変えておくから、安心してね」

「ありがとう、父さん、母さん」

「といっても、僕らができることは少ないんだけどね。隷属の術式を書き換えて、あっちの世界で生活するのに便利そうな力を付与することと、召喚される場所をずらすくらいかな。時間もないしそれが手一杯だ。申し訳ないけどね」

 

 たしかに、幾ら隷属の術式がないとはいえ、別世界から人を拉致して奴隷にしようなんて奴らがまともなはずはない。

 可能なら召喚場所をずらしてもらうのは必要不可欠だろう。

 

「こっちからだと、詳しい向こうの様子は見ることができないんだけど、魔力を持った生物が跋扈(ばっこ)するような、ちょっと危険な世界みたいね。

 まぁ、剣と魔法の世界といえば少しは楽しそうな感じはするんだけど」

 

 そうだった。母さんは、父さんとレストランを経営する傍らゲームプログラマーでもあったのだった。

 仕事が先か、はたまた趣味が先かはわからないが、よくゲームをやっていたような記憶がある。

 とはいえ、俺自身幼かったせいで、「今にして思えばRPGをよくやっていたな」って程度にしか思い出せないが。

 

 それにしても……魔法か。

 こうして死んだはずの両親と話しているって時点で十分ファンタジーだが、異世界召喚の魔法と呼ぶくらいだから、それ以外にも利用されている魔法もあるのだろう。

 

 じいさんから習った技に活術というのがある。

 体内の氣を使って傷を治したり、身体能力を向上させたりといった技なのだが、眉唾な技ではなく、実際に効果のあるれっきとした技術なのだ。

 そういった意味では、別世界で魔法なんてものが存在していても不思議ではないのだろう。

 

「さて、そろそろ時間だね」

 

 と、父さんの言葉通りに、俺の身体は(うっす)らと透け始めていた。

 

「何だか気味が悪いな」

「本当なら、一瞬で転送しちゃうんだけどね。時間を引き延ばしながら、術式を書き換えてるから。ちょっとばかり怖いかもしれないけど……。そこは我慢だね。とりあえず、何人か人が固まってる場所の近くに飛ばすから、後は臨機応変に頑張るんだよ」

「私たちは恭弥について()くことはできないから、これで本当にお別れね」

 

 母さんが寂しそうに笑う。

 俺としては四歳から一切会っていなかった両親ではあるが、母さんはずっと見守ってくれていたわけだ。

 感覚に違いがあるのも仕方がないだろう。

 決して俺が冷徹なわけではないと思う。

 死んだと思っていた両親と、少しの間だったがこうしてまた話せたことに今は感謝をしよう。

 そう思いながら、徐々に薄れていく感覚に身を任せた。

 

 

 

 †

 

 

 

「行ったみたいだね」

「ええ。ここからもうひとがんばりね。壁を越えて向こうに定着するまでが勝負よ」

「しかし、あちらの世界に適応するために身体を作り直すなんて乱暴な術式だね……まぁ、そのおかげであれこれ手を加えることができるんだけど」

「元々の術式でも、あちらに召喚された時点で身体能力も魔力もかなり強化されるみたいだし、隷属の保険が必要なのも納得ね。それよりも、魔法の存在しない地球で、氣という形で魔力を扱っていた恭弥の魔力がどうなるのか……。それを考えるとちょっと怖いわね」

「だからといって、隷属術式も、こうして誘拐そのものな魔法も、人道的にどうかと思うけどね。さて、僕らの可愛い息子のために頑張ろうじゃないか」

「そうね、私たちの存在をかけても」

「とはいえ、母さんの趣味のおかげで、僕が介入できる余地は少ないけどね。まぁ、あの子は見取り稽古がうまかったからね。何とか容量内に収まりそうだよ」

「そうねぇ。あの子自身の容量は問題ないのだけど、これ以上は術式が壊れてしまうわ」

「存在の半分だけ転送されるなんてことにならないように慎重に頼むよ」

「わかっているわよ。ブランクはあるけど、これでも優秀だったんだから」

 

 そうして、息子を見送った若い男女の声だけが、シンとしたレストランの中に響くのだった。

 

 

 

 

 本日四話投稿予定です。

 推敲を終え次第順次投稿していきます。

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