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泡沫のトロイメライ 5

「じゃあ滝口、どっか行こうぜ」

俺は祈梨と約束して、一緒に回ることにしていた。美術室は基本的に誰も来ないと踏み、放置しておいた。

「私は美術室に、行きたいな!」

そう、彼女はまだ知らない。プラネタリウムを作ったということを。しかし、美術室にて展示をしている事を知っている彼女は、行きたがっているのだ。

「さ!どこ行きたい?演劇かな?」

祈梨は頬を膨らませる。いつか見た光景だな。

「バーカ。だからモテないんだよ!」

「それ以上言うな。俺はモテないことを言われると死ぬ体質なんだ」

「はい、モテないモテない」

ワシは死んだ。

「そこまで行って欲しくないなら、んーとね、甘いもの食べたい!」



「わーい!甘いものいっぱい!」

手に持っているのは、綿菓子、りんご飴、チョコバナナ。そして、俺が持たされているのは、パフェ。流石に引くレベル。正直、悪いけどこの時だけは隣に居たくないな、と思っていた。

そして、新一からはストーカーされていた。後で懲らしめておいたのは、また別の話だが。

「本当幸せそうに食うな」

これだけ幸せそうに食べるのだ。これらを売った店の人達に嫉妬してしまいそうになる。

「ふふーん。いいでしょ。食べたい?あげないけどねー」

「喧嘩売ってんの?買うよ?」

「おらおら。やんのか〜」

口でおらおら言っているだけの祈梨と片手が空いてる俺とでは、俺が間違いなく圧勝だろうが。

「綿菓子、ほっぺに付いてるぞー」

「取って!」

「彼氏じゃあるまいに」

「貴方はね〜彼氏じゃないよ〜下僕だよ〜」

無駄に五七五の旋律で言われる。何故か、みやびさを全く感じない。

「本気で俺に喧嘩売ってる?」

「冗談ガ通ジナイトハ、マダマダネー」

謎に外国人風に答えられる。それがかえって俺を呆れさせた。

「じゃあ次何処行きたい?」

「美術室」

「それ以外」

「なんで行っちゃ駄目なのさ!」

「最後に連れてくから……」

そう言うと、祈梨は目の前に餌が置いてある犬のような瞳をした。やっぱり小動物だ。

「じゃあねー、お化け屋敷!」

「なんでカップルが行きそうなトップテンのうち一位に入ってそうな所を選ぶんだよ……また新ちゃんにいじられるぞ」

「ケチ!行ってもいいじゃん……」

小動物が拗ねる。このいじらしい顔が苦手だ。俺の心を思いのままに揺さぶる。

「……仕方ないなぁ」

「よしゃ!」

祈梨が俺の手を強く握り、引っ張って走る。全力で走ってる割に、俺は本気で走らずとも、彼女の速さに合わせることが出来た。

「怪我すんぞ〜」

「平気平気」

いつになく、彼女が笑顔に見える。何もなくとも、こんなに笑顔なのだ。俺がプラネタリウムを作る必要があったのか。

「着いた!」

小動物はご主人様が投げたボールを取ってきたように、幸せそうにしている。俺は他人を装い、列に並ぶ。しかし、手は繋いだまま。手を繋いだ事を意識してしまった俺が悪いのだ。

「高城〜。実はびびってんじゃないの〜?」

「な、なんでだよ!」

「心拍数速いから」

俺は黙り込む。きっと顔は真っ赤だ。彼女に顔を見られまいとそっぽを向く。祈梨はふふーんとしてやったりという感じだった。

「よし、私達の番!」

あれ、こいつ、怖いの苦手だったような。

案の定、怖いのが苦手だった。入ってからというもの、俺の背中に隠れ続ける。ヒッという恐怖に怯えた声を室内に響かせ、俺の背中で小動物の腕がピクピクと動いている。

「ワッ」

なんとなく後ろの小動物をからかう。

「ヒッ!ちょっ、ちょっと高城!あんたお化けじゃないのに脅かさないでよ!」

バシッと背中を叩かれる。お化けは叩かないのに、俺は叩くとは何と理不尽な。

「高城、ありがとね。付き合ってくれて」

「付き添い料金貰うから、安心しなー」

また叩かれる。俺は下僕か。

「変な事言わなかったら、理想の彼氏なのになー」

「……ッ」

「今喜んだでしょー」

祈梨はニコニコして言う。

「置いてくぞ、バカ」

「やだ!バカじゃない!ヒッ」

「そろそろ出口だなー」

祈梨は急に俺の背中から離れ、出口に向かって走る。

「……あーあ」

そう、出口が近いからといっても、まだお化けはいるに決まっている。思った通り自爆した。

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