泡沫のトロイメライ 3
プラネタリウムの場所に着く。
「今思ったら、プラネタリウムって説明してくれんじゃねえの。この星座がーとか」
「まあそうだけどー」
いちいちうるさいなーと笑顔で言われる。
「ちゃんと話したの、久し振りな気分だ」
「そうだね。あのマンションのこと覚えてる?」
「マンション?ああ、ニンゲンモドキのやつか?」
祈梨がより一層笑顔になる。
「そう!覚えてたんだ!」
記憶能力皆無扱いか。
「まあ、小四の時のことだからなー。けど覚えてる覚えてる」
「あれ、結局なんだったの?高城が確かめに行った時見たの」
「あれ、言ってなかったっけ。あれはカカシっぽいもんだ。マンションに鳥が近づかないようにするための」
祈梨はガックリと肩を落とす。
「なーんだ。がっかり」
意外と会話が弾んだ。
「最近どうなの、病院。まだ通ったりしてるのか?」
祈梨が甲乙つけ難い顔をする。
「通ってるよ。まぁ……たまーにだけどね」
「そうか。あの時悪戯っぽいこと言って悪かったな」
俺が謝ると、クスクスと祈梨は笑い始めた。
「なんだよ、失礼なやつ」
「ごめんごめん。だってらしくないからさ。あとそんなこと言うと思わなかったし」
「あ、そろそろ始まる感じ?」
擬似的な夜空が煌き出し、不思議な感じがした。何万何億光年と光は孤独で宇宙を走り続け、やっと地球へ到達する。それを一秒や其処らの光を見るのは、違和感を感じた。
「あ、あれ夏の大三角形だ」
「デネブ、ベテルギウス、リゲルだっけ」
「デネブ、アルタイル、ベガだ。
それどっちかというとオリオン座の方が近くねえか?」
「うるさいなー。というか、なんだかんだで知ってるじゃん」
「有名なのは知ってるだけ。他は知らないよ」
そろそろベテルギウスは大爆発する。いや、もう既に爆発しているかもしれない。記憶によると、今地球に届いている赤い光は南北朝時代の頃の光だったっけ。ベテルギウス大爆発は地球を一日中照らすとも言われている。
プラネタリウムなら、そういうの見たかったなと冗談めいたことを考えつつ、俺はプラネタリウムには興味が無いことに気付いた。
溜息を一つ吐き、椅子の背もたれに凭れかかる。何作っかなー、ここで何か得ないとな、かと言ってプラネタリウム作るのも興味ないし。
参考までに祈梨に聞こうと思い、祈梨の方を向く。
声が、出なくなった。
彼女の瞳の中に映る星々に声が吸い取られるかのように。
綺羅綺羅光る瞳の星は、幻想的で、儚く消えそうだった。
「どうしたの?こっち見て」
本当の夜空のように美しい目に魅せられる。
「あ、いや。や、やっぱ何にもねえよ。話したいこと忘れた」
「そっか。思い出したら、話してね」
「ああ」
思い出しても、話すことなんてない。
なぜなら、もう決心したからだ。
自由時間はあっという間に終わり、さっさとバスに戻る。すると、新一は既にバスに乗っていた。
「まこっちゃん、なんかさっきと違って良い顔してるねー。奥さんとキスでもした?」
奥さんのことはきっと祈梨のことであろう。
「んなわけあるか。でもデートした、奥さんじゃないけど」
「はぁ!?お前らが!?」
新一が素っ頓狂な声を上げる。
「少しは静かにしたらどうだ。バスだぞ、バス」
「そうか。なら良かった。実は俺のところにも祈梨は来たんでなー。でも断った。適当な場所でブラブラして寝てた」
遠足時に寝る奴がおるか!……じゃなくて!
「待て、何がだ?」
新一の表情は今まで見たことがなかった顔だった。清々しい。でも悲しそうだ。
「何がってなんだ?」
「断ったって」
「あいつは、きっと俺なんかと歩き回りたくないんだよ。だから俺は断ったのさー。俺よりもっと行きたい人がいるって。
まあ本人達が気付いてるかどうか知らないが、俺には口を出す気はないし、気付くまで見守るだけだよ。じゃあまたおやすみ」
新一は席を出来るだけ倒して、目を閉じる。
「おやすみってな、言ってる意味がよくわからんぞ」
新一から返事が返ってくることはなかった。
思い立って、新一にメールしてみることにした。
「久し振り。元気にしてたか?俺は祈梨の母さんに呼ばれて地元に戻ることになったんだが、何か起こったのか?」といった旨のメールを送る。
すると案外すぐに返事が来た。
『何かあったって、何もないけど。今更?まあ今からちょっと忙しいから行った後またメールくれ』という返事が返ってきた。
きっとこうは言うものの、何か隠し事があるのに違いない。
あれから一週間ぐらい経つ間に色々なことを始めた。まずは部長に相談し、部長は俺の案に激しく賛同してくれた。そして、ある程度の道具を買い、美術室で作業に取り掛かった。この作品の発表は、文化祭にすることに決定した。
「よっ、若造、また来てやったぞ!廃部になったのによく働くねー。ワタシモミナライタイヨ」
水鳥先輩がまた遊びに来た。
「先輩、見習うつもりないの見え見え」
「エー、バレター?」
「あ、先輩、これからこの教室立ち入り禁止なんでよろしくっす」
「え、なんで!?」
先輩のことを気にせずドアを閉めてから、鍵を閉める。
先輩がドアをバンバンしているが気にしない。
「お前もやるようになったな」
そういって部長に笑われる。
「そりゃあ、ここからは暴れそうな先輩を部屋に入れたら、危ないじゃないっすか。暴れられたら困るっすよ。それに先輩にも、見て欲しいものですから。今これの事を知ると、きっと届くものも届かないです」
「高城、お前男だな」
「女と思ってたんですか!?」
部長は戸惑いつつ、苦笑いして言う。
「いや、そういうことじゃない」