表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

泡沫のトロイメライ 3

プラネタリウムの場所に着く。

「今思ったら、プラネタリウムって説明してくれんじゃねえの。この星座がーとか」

「まあそうだけどー」

いちいちうるさいなーと笑顔で言われる。

「ちゃんと話したの、久し振りな気分だ」

「そうだね。あのマンションのこと覚えてる?」

「マンション?ああ、ニンゲンモドキのやつか?」

祈梨がより一層笑顔になる。

「そう!覚えてたんだ!」

記憶能力皆無扱いか。

「まあ、小四の時のことだからなー。けど覚えてる覚えてる」

「あれ、結局なんだったの?高城が確かめに行った時見たの」

「あれ、言ってなかったっけ。あれはカカシっぽいもんだ。マンションに鳥が近づかないようにするための」

祈梨はガックリと肩を落とす。

「なーんだ。がっかり」

意外と会話が弾んだ。

「最近どうなの、病院。まだ通ったりしてるのか?」

祈梨が甲乙つけ難い顔をする。

「通ってるよ。まぁ……たまーにだけどね」

「そうか。あの時悪戯っぽいこと言って悪かったな」

俺が謝ると、クスクスと祈梨は笑い始めた。

「なんだよ、失礼なやつ」

「ごめんごめん。だってらしくないからさ。あとそんなこと言うと思わなかったし」

「あ、そろそろ始まる感じ?」

擬似的な夜空が煌き出し、不思議な感じがした。何万何億光年と光は孤独で宇宙を走り続け、やっと地球へ到達する。それを一秒や其処らの光を見るのは、違和感を感じた。

「あ、あれ夏の大三角形だ」

「デネブ、ベテルギウス、リゲルだっけ」

「デネブ、アルタイル、ベガだ。

それどっちかというとオリオン座の方が近くねえか?」

「うるさいなー。というか、なんだかんだで知ってるじゃん」

「有名なのは知ってるだけ。他は知らないよ」

そろそろベテルギウスは大爆発する。いや、もう既に爆発しているかもしれない。記憶によると、今地球に届いている赤い光は南北朝時代の頃の光だったっけ。ベテルギウス大爆発は地球を一日中照らすとも言われている。

プラネタリウムなら、そういうの見たかったなと冗談めいたことを考えつつ、俺はプラネタリウムには興味が無いことに気付いた。

溜息を一つ吐き、椅子の背もたれに凭れかかる。何作っかなー、ここで何か得ないとな、かと言ってプラネタリウム作るのも興味ないし。

参考までに祈梨に聞こうと思い、祈梨の方を向く。

声が、出なくなった。

彼女の瞳の中に映る星々に声が吸い取られるかのように。

綺羅綺羅光る瞳の星は、幻想的で、儚く消えそうだった。

「どうしたの?こっち見て」

本当の夜空のように美しい目に魅せられる。

「あ、いや。や、やっぱ何にもねえよ。話したいこと忘れた」

「そっか。思い出したら、話してね」

「ああ」

思い出しても、話すことなんてない。

なぜなら、もう決心したからだ。


自由時間はあっという間に終わり、さっさとバスに戻る。すると、新一は既にバスに乗っていた。

「まこっちゃん、なんかさっきと違って良い顔してるねー。奥さんとキスでもした?」

奥さんのことはきっと祈梨のことであろう。

「んなわけあるか。でもデートした、奥さんじゃないけど」

「はぁ!?お前らが!?」

新一が素っ頓狂な声を上げる。

「少しは静かにしたらどうだ。バスだぞ、バス」

「そうか。なら良かった。実は俺のところにも祈梨は来たんでなー。でも断った。適当な場所でブラブラして寝てた」

遠足時に寝る奴がおるか!……じゃなくて!

「待て、何がだ?」

新一の表情は今まで見たことがなかった顔だった。清々しい。でも悲しそうだ。

「何がってなんだ?」

「断ったって」

「あいつは、きっと俺なんかと歩き回りたくないんだよ。だから俺は断ったのさー。俺よりもっと行きたい人がいるって。

まあ本人達が気付いてるかどうか知らないが、俺には口を出す気はないし、気付くまで見守るだけだよ。じゃあまたおやすみ」

新一は席を出来るだけ倒して、目を閉じる。

「おやすみってな、言ってる意味がよくわからんぞ」

新一から返事が返ってくることはなかった。



思い立って、新一にメールしてみることにした。

「久し振り。元気にしてたか?俺は祈梨の母さんに呼ばれて地元に戻ることになったんだが、何か起こったのか?」といった旨のメールを送る。

すると案外すぐに返事が来た。

『何かあったって、何もないけど。今更?まあ今からちょっと忙しいから行った後またメールくれ』という返事が返ってきた。

きっとこうは言うものの、何か隠し事があるのに違いない。



あれから一週間ぐらい経つ間に色々なことを始めた。まずは部長に相談し、部長は俺の案に激しく賛同してくれた。そして、ある程度の道具を買い、美術室で作業に取り掛かった。この作品の発表は、文化祭にすることに決定した。

「よっ、若造、また来てやったぞ!廃部になったのによく働くねー。ワタシモミナライタイヨ」

水鳥先輩がまた遊びに来た。

「先輩、見習うつもりないの見え見え」

「エー、バレター?」

「あ、先輩、これからこの教室立ち入り禁止なんでよろしくっす」

「え、なんで!?」

先輩のことを気にせずドアを閉めてから、鍵を閉める。

先輩がドアをバンバンしているが気にしない。

「お前もやるようになったな」

そういって部長に笑われる。

「そりゃあ、ここからは暴れそうな先輩を部屋に入れたら、危ないじゃないっすか。暴れられたら困るっすよ。それに先輩にも、見て欲しいものですから。今これの事を知ると、きっと届くものも届かないです」

「高城、お前男だな」

「女と思ってたんですか!?」

部長は戸惑いつつ、苦笑いして言う。

「いや、そういうことじゃない」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ