プロローグ 始まりは唐突に
俺は今、家でネットを使って面白いフリーゲームでもないかと探していた。
ちなみに俺は一浪している浪人生だ。とはいっても、もう大学受験は終わり、結果は合格だったのだが。
浪人していた時はゲームに全く手がつけられなかったため、オンラインゲームなどは少し居心地が悪い。何か他に楽しめるものがあればいいな、と思っての行動だった。もちろん、結果は期待していない。
しかし、俺はそこで偶然にも、とあるダウンロードソフトを発見した。
それの名前は、『頂上決戦! 勇者たちと魔王たちの大乱闘!』という、何とも俺好みのタイトルだった。
俺はすぐに、そのソフトをパソコンに落とし、そして起動した。
起動した後、他のフリーゲームとは違う、実に面白そうなことが起きた。
『あなたは魔王と戦う勇気がありますか?
YES/NO』
質問だった。フィールドや街を少しずつ移動していく背景の中に、黒い文字でハッキリと、それが表示された。
俺は質問の意味を理解しかねた。タイトルからして魔王と戦うような内容だと分かるのに、どうして最初にそんなことを訊ねられたのか。
特別な意味があっての質問なのか、あるいはありのままの意味なのか。
だが、どのような意味であろうと俺の答えは決まっていた。「YES」だ。強い魔王と戦うからこそ、RPGは面白いのだ。
『あなたはどのような武器が好きですか?』
次の質問がすぐに表示された。
この質問は、もしかしてゲームのチュートリアルのようなもので、これによって初期設定が決まるのではないだろうか?
そう考えた時、少しこの質問には悩んだ。ポピュラーに剣でいくべきか、あるいは(俺の中では)最強の武器の素手でいくべきか。
五分ほど悩んで、俺は結果的に素手(拳・無手)というものを選択した。
『あなたは人類以外の種を嫌いますか?
YES/NO』
ファンタジーの世界だから、獣人が居たりして差別でもあるのだろうか?
とりあえず、「NO」を押しておいた。
『あなたは魔物を理由なく虐殺しますか?
YES/NO』
……妙に引っ掛かる言い方だな。
一体これが何を表しているのか。俺には分からない。
俺は「NO」を選んだ。何故なら、魔物も生き物だ。無闇に殺しては、俺が天国にいけなくなる。
『あなたは誰かに依頼された場合、害無き魔物を倒しますか?
YES/NO』
これには即答で「いいえ」を選択する。害が無ければ、例え依頼だとしても攻撃しようとは思わない。自分の生死に関わるのならまだしも、他人の為に万に一つのイベントフラグを折ろうとは思わない。
『あなたの仲間に魔王が加わるとします。あなたはそれを受け入れますか?
YES/NO』
大歓迎! 迷わず「YES」を押した。
てか、このゲームは魔王を仲間に出来たりするのか? ちょっとわくわくしてきたぞ。
『あなたはどの種族が好きですか?』
と、そこで種族の一覧が出てきた。
とりあえず、一つしか選べないのかどうかを調べるために二個以上にチェックを入れると……出来た。
なら、無駄に嫌いな種族とか作らず、全部好きでいいか。
俺は全ての種族にチェックを付けて、一番下にある「完了」をクリックした。
『あなたは進化システムが好きですか?
YES/NO』
某ポケットからモンスターが出てくるアニメとかゲームとか大好物です。
これも迷わず「YES」を選択。
『最強の矛(攻撃力)と最強の盾(防御力)。あなたはどちらが好きですか?』
これには少し悩む。
恐らくこれは、攻撃型か防御型を選べということだ。
自分で攻撃して爽快感を得るならここで攻撃力を選ぶべきだろう。
しかし、これは仮にも魔王を仲間に出来るゲームだ。
信用出来る壁役が居ない以上、自分が壁役になる方がいいのでは?
そう考えて、今度は十分ほど悩み、結果はバランスを考えて「最強の盾(防御力)」を選択した。
『あなたは何の為に力を使いますか?
1.敵を圧倒、討伐するための矛として。
2.誰かを守る盾として。
3.何者にも自分を拘束することは出来ない証明として。』
これは、どうしたものか。
先ほどは攻撃型か防御型かを選択したから、今度は細かいステータスの設定を決めるためのものだろうか? それとも成長するステータスポイントに影響があるのか。
俺は真剣に考える。
もし、自分が守る力しかないただ防御バカだったとき。俺は魔王に対抗できるだろうか、と。特に、仲間が居なくても力を発揮できるかどうか。
それを考えると、1の選択肢が一番堅実に見える。しかし、初期設定で防御特化なのに、成長で攻撃特化になってしまったなんて事が有り得そうで、本来のスタイルが完全に失われそうなのが怖い。
ならば、当たり障りのない3が正解かもしれない。
俺は悩んだ結果、3を選択した。
『あなたは魔物や他種族を仲間に入れたいと思いますか?
YES/NO』
それは大いに思う。迷うことなく「YES」を選択。
『あなたは人間を敵視しますか?
YES/NO』
いや、人間を敵視する理由が無い。これにはすぐに「NO」を選択した。
『あなたは魔物、魔族、魔王、獣人、亜人、人間……などの、全ての種族との共存、平和を望みますか?
YES/NO』
これは理想論だ。人間ですら人種が大まかに三つに分かれて、多少の差別意識が生まれているというのに……。
だが、そんな世界があればいいなと、俺は心の中で思っている。
全てが共和し、共存する世界。それはきっと、とても輝かしい世界になることだろう。
理想論ではあるのだが、否定はしない。
むしろ、俺は追い求めきれない理想論の方が好きだ。
俺はこの質問に「YES」と答えた。
『自分も仲間も敵わない相手と対峙した場合、あなたならどうしますか?
1.戦わない。降伏し、命乞いをする。
2.戦わない。戦場から速やかに撤退し、次の戦いに備える。
3.それでも戦う。最後まで諦めず、知略と戦術の限りを尽くし、そこまでしてもダメであるなら、新たな発想、愚策、悪手であっても利用し、形振りを構わず勝利をつかむまで行動を続ける。』
これは、最後の選択肢だけ長すぎやしないだろうか。
意図的に、3番を選ばせるようにされている気がするのだが……。
そして、1番と2番は俺自身の考えとして受け入れたくないものがある。
何故なら、自分も仲間も敵わないのだから、命乞いをしても、逃亡しても無駄だと思うのだ。少なくとも、自由か命のどちらかを失うことになる。
無様に命乞いをする、あるいは逃走するくらいなら……俺は、最後まで戦う方に可能性を賭けたいと思う。
それこそが、俺には一番可能性の高い選択肢に見えるから。
俺は3番を選択した。
『最後の質問です。あなたの名前は?』
と、そこだけ入力式となっていた。
名前は――俺の、本名でいいだろう。みたところ、フリーゲームだし。
――荒川龍一。
それが俺の本名だ。
打ち込んで「完了」をクリックする。
そして、長く続いた質問は、ようやく終わりを迎えた。
『本格的に起動を開始します。ようこそ、私たちの世界へ』
しかし、この時はまだ知らなかった。
まさかこのソフトが、ネット小説のようなテンプレの、異世界召喚するための媒体だったなんて。
そして俺は思い知ることになる。
異世界なんてものは、誰もが理想とするものではないことを。
あの『ようこそ』のメッセージが開いたところで、俺の視界はホワイトアウトした。
目を開けるのも辛いほどの白い閃光に、俺は思わず目を瞑る。
しばらくして、閃光が止んだことでようやく目を開けた時――
「……え?」
俺の周りには、魔法使いが身に着けるローブみたいなものを着た者が数十名と、頭に王冠を被った、如何にも「ワシが王だ!」とでも言いたげに玉座に座った、王らしきおっさんが居たのだった。
俺はこの状況に、一言だけ言いたい。
――どうしてこうなった!?
※一部修正を行いました。
修正点↓
質問の一部の回答を YES/NO という選択に変更しました。
『あなたは害無き魔物を倒しますか?』
↓に変更
『あなたは誰かに依頼された場合、害無き魔物を倒しますか?
YES/NO』
他、細かい部分を修正いたしました。