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会議

 その夜。ドラゴネット入団試験受験生達はギルドスペースと呼ばれる建物の中にある予約制の大広間に集められていた。

「これより、入団試験の概要を説明する。今回の依頼はこのヴィエオラ周辺の森に大量発生したコーガの討伐だ」

 シャムは床に座り込む受験生全体を見回しながら黒板に貼り付けられた地図に赤鉛筆で大きな円を描いた。

「試験では四組に分かれてもらう。各班には一人ずつドラゴネットのメンバーを監督として同行させる。今夜キャンプを張るここでは俺とナザリアが待機しているから、完全にコーガの群れを討伐したか緊急事態が発生した時にはここに戻ってくること。あとコーガやそれ以外の魔獣と遭遇しなかった場合でも試験の採点には影響はないから心配しないこと。俺からの説明は以上だ。わからない所はあるか?」

 森と平原を表す色の境界線に赤丸をつけながらシャムが問いかける。反応は無かった。

 受験生達の沈黙に安心したように頷くと、シャムは黒板の真下に置いていた箱を持ち上げ、振りながら言った。

「じゃあ、これから班分けを行う。この箱の中に入っているくじを引いたら、それに塗られている色と同じ色の旗を持っているメンバーの前に並んでくれ。あとはそいつが説明してくれるから」

 受験生が続々と立ち上がり、シャムの前に一列に並んでいき次々にくじを引いていく。アイリーンがひいたのは黄色のくじだった。

 黄色の旗を掲げるスキンヘッドで大柄な見た目の男の元に向かおうとすると背後から不機嫌そうな声がかけられた。

「おい素人。どこに行こうとしてんだ?」

「黄色の所ですが?」

 アイリーンは一切振り向かずに答えた。相手もアイリーンの見つめる先から大体は分かっていたのだろう。舌打ちしながらアイリーンを追い抜き、男の前に腰を下ろした。

 近くにいたくないと思ったのか、アイリーンは別の人が並んだのを待ってから列に並んだ。

「よし、これから作戦を説明するから円になってくれ」

 男が手招きをしながら自分の列の受験生を誘導する。アイリーン達がその指示に従って円になると男は自分のバッグから黒板に貼り付けられた物よりも小さい地図を取り出して中心に置いた。

「とりあえず、まずは我々の持ち場を説明するぞ。我々は本部から出てしばらく森に沿って西に向かい、ここら辺にある卵みたいな形をした岩がある道から突入する。あとは出くわしたコーガやその他害獣を狩り続ける。以上だ。何か質問はあるか?」

 全員が首を横に振る。その反応を見て、男は満足そうに頷いた。

「よし、みんな物分かりが良くて嬉しいぞ。では自己紹介だ。俺の名前はグローリア。Dランクの魔導書使いだ、しっかり採点していくからな」

 グローリアはそう言うと右横に座っていた青年に向かって顎をしゃくった。

 黒く少しくせっけのある短髪で中肉中背、まだ本番ではないというのに革製の鎧を身につけた青年はグローリアを見た後胡座を崩し、片膝を立てた状態で自己紹介を始めた。

「セマカだ。今はフリー。Eランクの槍使いだ」

「マルティです。横のパピヨンと『シェルドッグ』というギルドを組んでます。Gランクで、グローリアさんと同じ魔導書使いです」

「パピヨンです、所属は……マルティが言ってくれたから割愛します。Fランクで、弓を使ってます」

「アイリーン。所属は無し、Hランクの銃使いです。よろしくお願いします」

 間にいた金髪ボブカットでワンピースを着た小柄な女性と茶髪で髪を後ろでくくったタンクトップの気の強そうな長身の女性、そしてアイリーンの自己紹介が終わった所で、グローリアは小さな声で唸り始めた。

「どうされましたか?」

「ん? いや……あまりにも後衛のメンバーが揃ってしまった、と思ってな。この陣営だとコーガの注目が皆セマカに集まってしまいかねないからな」

 心配したアイリーンが声をかけるとグローリアは苦笑しながら自分の頭をかいた。するとセマカは胸を張りながら断言した。

「別に注目されても、全部この槍で蹴散らしてやりますよ」

「しかしな。もし入団試験で死者を出てしまうと……」

 しかしグローリアの表情は優れない。

 おそらく、今の状況で非所属者の死者を出せば、監督者であるドラゴネットが責められる。それが原因でドラゴネットへの入団希望者が減ってしまったら……というのがグローリアの頭の中をぐるぐると回っているのだろう。

 そんな煮え切らないグローリアに向かって緑色の部隊の監督者だったエミリアが声をかけた。

「あのさ、前衛がいないんだったらアイちゃんに任せればいいよ。アイちゃん、並のハンマーなら余裕で振り回れるから」

「うぇっ?」

「本当かい、アイリーン君」

 突然の指摘に驚きの声を上げたアイリーンにグローリアが詰め寄る。アイリーンは申し訳なさそうにこめかみの所をかいた。

「いや、子供の頃少し扱っていた、ってだけでそこまで上手くは……」

「どれくらいの重さのやつを使っていた?」

「えーと……最後に使っていたのは……確かウォーレンズハンマーだったかな……」

 記憶を遡りながら答えたアイリーンに、グローリアは嬉しそうに頷いた。

「そうか!ウォーレンズハンマーを使えるならそれなりの実力を持っているな! よし、それじゃあ今回は銃ではなくハンマーを使って戦ってくれ!」

「えっ」

 グローリアの命令にアイリーンだけでなくセマカからも戸惑いの声が上がる。しかしグローリアは全く気にしなかった。

「大丈夫だ! メンバー数は少ないが武器の量は充分に揃っているから心配することはない! あ、もちろんブランクがあるということで採点は少しだけ甘めにしておくから」

 そう笑顔で言うグローリアにアイリーンは唖然としながら口をパクパクするしかなかった。

 そんなアイリーンの姿を見て、セマカは苦々しげに一回舌打ちをした後に思案する顔になり……不敵な笑みを浮かべた。

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