宴会
「では、これより入団試験の決起集会を行う。みんなの健闘を祈り、乾杯」
「カンパーイ!」
シャムの号令から一斉にグラスをぶつけ合う中、アイリーンは一人複雑な思いで席に座っていた。
この決起集会に参加しているのは自分を含めて二十二人。その内ドラゴネットのメンバーはわずか六人しかいなかった。
「昼から酒盛りなんて贅沢だな」
「はい、ツマミが来たぞー」
「あ、ママカリサラダこっちに回してくださーい」
「おい、いきなりヒルゼンは無いだろ。昼なのはわかってるがヘビー過ぎるぞ!」
もちろんドラゴネット全員がここに来ているわけではない。しかしかつてフェゾンで五本の指に入る、と言われていた名門がたった数ヶ月でここまで落ちぶれてしまっていることに、アイリーンは何とも言えない哀れみを覚えていた。
「どーしたの、アイちゃん。暗いよー? 今のうちに組んどくかもしれない相手と仲よくしておかないとー」
酒が入って上機嫌になっているのか、エミリアがアイリーンの肩を持って揺さぶって離れていく。すると向かいに座っていた青年が気を回したのか、アイリーンに話しかけた。
「エミリアちゃんの言う通りだぞ。……そうだお前の武器はなんなんだよ。俺は大剣使ってるんだけど」
「基本は魔導銃です」
「銃?」
青年の目が険しくなり、声も不機嫌そうな声色になる。しかしそれに動揺するなくアイリーンはグラスの中にある酒をチビチビ飲みながら補足する。
「刻印型じゃなくて鋳造型ですけどね」
「なんだチャカの方か。ビックリしたよ」
チャカーーすぐにダメになることからつけられた鋳造型の銃の蔑称をつぶやいた後、青年の顔は再び柔和な物に戻った。
「あ、そうだ。自己紹介がまだだったな。俺の名前はセマカ。Eランクでフリーの狩人だ。ヨロシク」
自分の名前を言った青年は座り続けながら身を乗り出してアイリーンに手を差し出した。アイリーンはその手を真顔ではあるもののしっかりと握り返した。
「アイリーンです、まだシャーセでは無いですけどよろしくお願いします」
「シャーセじゃない?」
セマカはアイリーンの自己紹介に顔を顰めると手を離して、品定めするような目つきになった。
「お前、歳は?」
「十八になったばかりです」
「出身は?」
「コンアメドです」
「田舎だな……。なんでこれまでシャーセ登録をしてなかった?」
「単に金が無かったからですよ。登録のためにわざわざ金かけて遠出するなんて馬鹿げてますから。それにギルドに所属してなきゃシャーセは食っていけないらしいですし」
「そうかいそうかい」
セマカは表情を崩さずに何度も頷き、自分のグラスに一口つけた後アイリーンを睨みつけながら言った。
「言っておくが、フリーが儲からないっていうのは嘘だ。確かにギルドに入っているのと入ってないのでは選べる依頼の量は違うが、ちゃんと毎日請けて、酒や武器に余計な金をかけてなければ充分に生活できる」
「そうなんですか」
「そういう事実を知らないで自分の想像だけで物事を判断するなんて……お前、やる気あんのか?」
挑発するようなセマカからの問いかけに、アイリーンはママカリサラダを頬張りながら呟いた。
「じゃあ、撃つ度に弾とかを買い直さなきゃいけない銃を使いたい人はフリーじゃやってられないですね」
「てめっ……」
「はいはい、セマカどうしたのー?」
アイリーンの難癖をつけるような反応に思わず立ち上がったセマカへ不穏な空気を察したナザリアが声をかける。その声をきっかけに会話が止み、周りの人の視線がセマカへと集中した。
出鼻をくじかれる形になったセマカは周りに聞こえるように大きく舌打ちすると、荒っぽく席に座り直した。
「おい、あの言い方は無かったんじゃないか?」
それからしばらくして会話が戻り出した頃、右隣にいた別の青年がセマカに聞こえないように小声で話しかける。するとアイリーンはヒルゼンをすすりながら淡々と答えた。
「なんでですか。あの人が勝手に『鋳造型を使っているなら実戦では使わない』って思い込んだのが悪いんですよ。銃を使ってる人は近接武器を使う人の二三倍は余裕で使うことになる、っていうのは周りの人から恐ろしいくらいに聞いてきましたから」
ちなみに「周りの人」というのはジボワールに来店する客達のことである。アイリーンは店の手伝いをしながらも、しっかり自分の行く先のことについて調べていたのだ。
「ならなんでそのことを言わなかったんだ?」
少し責めるような問いかけに、アイリーンは少し困ったような笑みを浮かべながら答えた。
「だって言っても仕方ないじゃないですか。初対面の相手に対してバカに出来る所を見つけようとしている相手と仲良くしたくないですし」
「確かにそうかもしれないけどさ……」
青年は未だに憮然としているセマカと平然としているアイリーンを見て、これから起こるであろう出来事を想像して苦笑いを浮かべた。