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再会

「いやー、驚きました。まさか二回に分けて運送してくるなんて。ユーシスさんも悪いことしますねぇ」

 そう御者に笑顔で話しかけているのはヴィエオラにある菓子屋「キビツヒコ」の店主である。その後ろでは荷台に大量に乗せられたニジュセイキ入りの箱を若い従業員達が二人一組になって次々と慌ただしく店内に運び入れていた。

 フェゾンとラプラスグランドの国境にある関所町・ヴィエオラに着くまでこれといったアクシデントは無く、アイリーン達は木箱のせいで狭くなった荷台の上で夜通しゴロゴロしているだけだった。

「個人的には、あなたの実力を見るために何かが襲いかかってきてくれた方が良かったんだけど」

「そうですねー」

「おいお二人さん。何不吉なこと言ってんだい」

 荷台に腰掛けながら不適切なことを話す二人の頭に、店主との会話から戻ってきた御者からのゲンコツが炸裂する。

 頭を押さえながら振り返った女性の前に突き出されたのは黄土色の袋だった。

「……これは?」

「何言ってんだ、今回の依頼の代金だよ。ほら、受け取れ」

「それにしては膨らみ過ぎだと思うけど……」

 女性が怪訝な表情を浮かべながら受け取った袋の口を開き、荷台の上にぶちまける。中から出てきた銅色の硬貨を数えた女性は目を疑った。

「何これ。これで本当に三割?」

「そのまさかだよ。太っ腹だなー、あの工場長は」

 女性と御者が呆れた様子で話している中、アイリーンは女性の後ろから報酬を覗き込み「ウチのバイトの一ヶ月分だ……」と白目になりながらつぶやいた。

「これで三割ってことはその、ジャックだっけ? そいつのせいであの工場火の車になってるんじゃないの?」

「いや、あそこはそれなりに顧客がいるんでそういう事態にはなってはないはずです」

 女性からの疑問にアイリーンが頭を押さえながら否定するも、当の本人は険しい表情を見せていた。

「でも一回でここまでの量を出してたとは……。帰ったら本気で辞めさせるように言わないと」

 アイリーンの決意の一言に女性は意地の悪い笑みを浮かべながら指摘した。

「あら、『帰ったら』ってことは合格する自信が無いのかしら?」

「そういうつもりで言ってないです」

 うろたえる素振りも見せず、毅然と答えるアイリーンの様子に女性は満足そうに頷き、立ち上がった。

「さ、さっさと仲間と合流するとしますか」

「え? アンデルソンまで行かないんですか?」

 意外そうに驚くアイリーンに対して、女性は悲しげな表情を浮かべながら言った。

「今は仕事を選べるほど余裕が無いのよ……。行くわよ」

 スタスタと歩き出した女性をアイリーンはすぐに追おうとしたが、思い出したように立ち止まり御者に頭を下げた。

「あ、ありがとうございました」

「いいんだよ。またのご利用お待ちしてるぜ」

 御者が気分良さげに答えると、アイリーンはすれ違う人にぶつからないように気をつけながら走り出し、女性に追いついた。

「あの、次はどちらに行くんですか?」

「とりあえず他の皆と合流するわ。まだ全員は集まってないと思うけど」

 そう言うと女性は明るい表通りから薄汚れた裏路地へと入っていった。

 身なりがきたない人や乱雑に置かれた粗大ゴミの横を通り抜けていった先には行き止まりがあり、壁には地味な見た目の扉が一つだけついていた。

「さ、ここよ」

 女性によって扉が開かれると外見からは想像つかないほど小洒落た内装の料理店が広がっていた。中に入ったアイリーンは物珍しげに店内を見回した。

「へぇ……こんな所にこんな店が……」

「ええ。知る人ぞ知る名店なのよ」

「おおい、ナザリアー。こっちだこっち」

 声がした方を見ると、テーブル席で猫耳を生やした黒髪の青年が微笑しながら手を振っていた。

 女性は青年の元に寄ると、アイリーンを手招きしてから青年の方を見た。

「紹介するわ、うちの現リーダーのシャムよ」

「シャムだ。よろしくな、アイリーン君」

「あ、よろしくお願いします」

 アイリーンは青年(シャム)から差し出された肉球の生えた手を恐縮しながら握った。

「ところでシャム、他の皆は?」

「ああ、ナザリアが一番乗りだよ。それとエミ……」

「アイちゃーん‼︎」

「くはっ」

 女性(ナザリア)からの問いかけにシャムが答えようとした瞬間、アイリーンは後ろから誰かに飛びつかれて変な声を出してしまった。

「いやー、久しぶりだね! 二年ぶりぐらいかな? アイちゃん全然変わってないね、それどころかさらに可愛くなったんじゃない?」

「……エミリア。久しぶりの再会で嬉しいのは分かるけど、後ろから突撃してくるのはやめてくれ……。心臓に悪い……」

 アイリーンは飛びついてきた小柄な金髪ポニーテールの少女に苦情をぶつけたが、当の本人は全く気にせずアイリーンの背中に頬ずりさせていた。

「……盛り上がってるわね」

「……そうだな」

 そんな様子をシャムとナザリアは引きつった笑みを浮かべながら眺めていた。

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