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理由

「ごめんなさいね、ビックリさせちゃって」

「い、いえ。ずいぶんと可愛らしい息子さんで……」

「ふふふ。本人は男らしくない、って嫌がってるんですけどね?」

 扉に「準備中」と書かれた看板がかけられ、昼食時の喧騒が無くなったジボワールのテラス席に腰かけていた女性は食後のティータイムをアイリーンの母親とゆったり過ごしていた。

 ちなみに現在の話題は「アイリーンの見た目がどれだけ女の子らしいか」という本人が聞いていたら激怒しかねない物だった。

「そうなんですか。しかし……いくらなんでもメイド服を着させるのはちょっとやり過ぎじゃないかしら」

「そうなんだけどね、あの子があの格好をして接客してるのとしてないので比べると、多い時は三倍くらい売り上げが変わっちゃうのよ。お客さんからの評判も良いし」

「そ、そうなんですか……」

 ある意味恐ろしい統計を聞かされた女性がひいていると下から噂の人物の声が聞こえてきた。

「お待たせしました」

 テラス席につながる階段を上がってきたアイリーンは先ほどのメイド服からポロシャツとズボンといったラフな男物の服に着替えていた。

 しかしそれでも男性にしては小柄な体型に大きくパッチリとした目と可愛らしく整った顔立ちもあって「男装の麗人」と言われても反論出来ない容姿だった。

「……どうしました?」

 アイリーンがじっと自分のことを見つめてくる女性に戸惑いながら話しかけると女性は不思議そうに首を傾げた。

「いや、こうして服を替えると確かに男の子ね……ちゃんと下もあるし」

「どういう意味ですかそれは」

 女性の答えに機嫌を損ねたのか、顔をしかめたアイリーンは向かいの席に座った。それに合わせてアイリーンの母親は自分の分の茶器を持って下へ降りていった。

 母親の姿が台所へ消えたのを見届けたアイリーンは女性に改めて話しかけた。

「で……何の御用ですか?」

「この紋様に見覚えはあるかしら?」

 そう唐突に言って女性はあのカードをテーブルの上においた。それに刻まれた模様を見たアイリーンは「あっ」と小さな声を出した。

「やっぱり知っているようね」

「いや、うちで前働いていた人がこのギルドに入れた、って嬉しそうに報告してたので、それで」

 女性はその反応に満足そうに頷いた。しかし対するアイリーンは嫌そうな表情を浮かべながら囁いた。

「……もしかして、その先輩が何かやらかしたんですか? それでしたらこちらに文句を言われても……」

「違うわ。私はあなたに用があるの」

 女性は息継ぎのためにか、飲み物を一回口にふくんでから口を開いた。

「私はあなたに『ドラゴネット』へ参加して欲しいと思ってここまで来たの」

「参加して……え、俺をですか?」

 その申し出が意外だったのか、アイリーンは目を丸くした。

「……まさかそのためにわざわざアンデルソンからここまで来られたんですか?」

 アンデルソンとはラプラスグランドと唯一陸で繋がっている国であるフェゾンの北東にある街で、ここアンハメドとはほぼ対角線上に位置している。

 つまりここまで来るのはいくら馬車を使っていたとはいえ、かなりの重労働なのである。

「もちろん。どこのギルドだって無所属の逸材がいればどんなに遠い場所でも飛んで捕まえに行くわ。それがプロ根性という物よ」

「そうなんですか」

 力強く断言した女性にアイリーンは冷めた反応を返した。

「あれ、そこは素直に喜ぶべきじゃないの? 褒めてるのよ?」

 その反応が不満だったのか、女性が眉間にしわを寄せる。アイリーンは女性から視線を逸らすと耳の上あたりをかきながら独り言のようにつぶやいた。

「いや、ドラゴネットといえばフェゾンの中で五本の指に入るほどの有名ギルドですよね。それほどのギルドならこんな片田舎の、どこのギルドにも声がかかってない十八の行き遅れをわざわざ取りに来なくても、同じくらいの実力を持っている人が向こうからたくさん来るはずです。となると何か裏があるとしか思えなくて」

 アイリーンの意見を最後まで聞いた女性は険しい表情を崩さずに黙り込み、会話が途切れた。

 しばらくすると女性は小さく舌打ちすると諦めたようにため息を吐いた。

「……そう簡単には頷いてくれないか。分かったわ、どうせ黙っていてもすぐに知ることになるでしょうし、本当の所を話してあげるわ。後で文句言われても面倒くさいし」

 女性は背もたれに体をあずけると険しい表情のまま話し出した。

「あなたが知っているようにドラゴネットはフェゾンでも指折りのギルドよ。ただ、つい最近ギルド内で揉め事があってね」

「揉め事?」

「ええ。この間うちのリーダーが引退して、引き継ぎ人事が発表されたのよ。そのことに対して一部のメンバーが抗議を起こしてね」

「リーダーが決めたことに、ですか?」

 アイリーンが信じられない、と言わんばかりの呆れた表情を見せる。女性はテーブルに右肘を置くとそのまま自分の右目を手で隠した。

「ええ。普通なら独立を勧めるか問答無用で戦力外通告を叩きつけるだけで済む問題なんだけど……抗議を起こした奴が面倒くさい身分の奴だったの」

「面倒くさい身分? 有名な貴族の三男坊とかですか?」

 アイリーンの予想に女性は感心したように何度も小さく頷いた。

「近いわね。抗議を起こしたのはドラゴネットを興した家の子だったの。元々ドラゴネットはオノリオ家、っていう貴族の血縁者で運営されていたギルドでね、前の前のリーダーもその出なの」

「前の前の、ということは現在は違う」

「ええ。年月が経った今はオノリオ家だけで存続することが出来なくなって関係無い人でも入れるようになったの。でもリーダーは大きな問題がない限り、オノリオ家から出来るだけ選ぶようにしているわ」

「そうですね。いくら創業者の一族の出だったとしても問題行動が多かったり、経験が少なかったりしたらリーダー職は務まりませんからね」

「そうなのよ……なのにあのバカは」

 アイリーンが適当に相槌を打っていると女性は頭を抱え始めた。その様子を見てアイリーンは顔をこわばらせた。

「……まさか、その人ってリーダーに適さな」

「そのまさかよ。まだギルドに入って二・三年のペーペーで、行く先々では問題ばかり起こして先輩や依頼主に迷惑をかけまくってる。……ヤツが起こした問題行動、話そうか?」

「いえ、結構です」

「そう」

 女性は話す気満々だったのか、アイリーンに断られた途端、残念そうな表情を見せた。しかしそんな表情を見せたのも一瞬で、すぐに元の険しい表情へ戻った。

「とにかく、あれはリーダーに確実に適さない人材なのよ。なのにあのバカは『このギルドはそもそもオノリオ家の物なんだから俺がリーダーにならないのはおかしい』って。でもそいつの父親……前の前のリーダーに恩義があるから、って真っ向から否定したり怒ってくれる人が少なくて。結局それでのぼせあがって『俺の言うことが分からないバカ共が率いるドラゴネットはドラゴネットではない』ってほとんどのメンバーを巻き込む形で独立しやがったの」

 ドラゴネットに起きた出来事を一気に話し上げた女性は険しい表情から一転して疲れた顔を見せた。

「結果、今までドラゴネットに来ていた依頼と人材のほとんどを新興ギルドに奪われる形になって、ドラゴネットは崩壊寸前なのよ」

 女性から語られた惨状に、アイリーンは愕然とするしかなかった。

「……父親は止めなかったんですか? その、息子の暴走を」

「生きていたら止めてくれたでしょうね。そもそも前のリーダーが就任したのはその人が依頼中に死んだことによる緊急人事だったから」

「そうだったんですか……」

 再び二人の間に微妙な空気が流れ始める。そんな中、アイリーンの母親が新しい茶器を持って上がってきた。

「はい、アイ。お茶持ってきたわよ」

「あ、ありがと」

「それと……どうぞ」

 アイリーンの母親は女性の前に野イチゴのタルトを出した。それを見た女性は困惑した様子で、降りていこうとするアイリーンの母親に声をかけた。

「あの、私もうデザートはいただいてますが……」

「最近旬なんです、よかったら召し上がってくださいな。疲れてる時は甘い物を食べた方が良いですからね」

 そうウインクしながら答えたアイリーンの母親は再び台所へと消えていった。

 取り残された格好となった女性は一瞬戸惑った様子を見せたが、開き直ったのかすぐにタルトの攻略を始めた。

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