復讐
「……来やがったな」
シャムの耳は森の奥から、自然には起こりえない轟音が響いてくるのをしっかりと捉えていた。
寄りかかっていた木の幹から体を起こすと彼はゆっくりと腰に差していた剣の柄に手をかけた。そしておもむろに引き抜くと、刃はすぐそばの茂みから飛び出してきたコーガの首をとらえた。
何が起きたのかわからないまま息を絶たれたであろうコーガの頭と体は離れながらゆっくりと地面に崩れ落ち……る前にさらに巨大なオーガによって踏みつぶされた。
「ワンテンポ早かったか」
足を斬って体勢を崩させ、とどめをさすつもりだったシャムは舌打ちすると次々と頭の上へと落ちてくる枝葉から剣を持ってない方の腕で顔をかばいながらオーガの後を追った。
しかしシャムはただ追うのではなく、途中からオーガが作った道の脇、元々あった道へとそれた。
オーガの進む方向は木々を薙ぎ払いながらの一直線だが、そのまま直進しているといくらオーガの怪力でも壊せないであろう岩壁が姿を現すのだ。
おそらくオーガは自分を襲ってきたハンターが後ろから追ってきていると早合点しているので、後退することなく岩壁に沿って方向を変えるだろう……というのがシャムの読みだった。そうなればオーガの後を追うよりも前から作られていた、距離の短い道を選ぶのは当然であった。
「と、なるとたぶんあそこを通過してくると思うんだよね」
シャムは誰にも届かない独り言をつぶやきながら剣を鞘の中に戻し、その時を待った。
それからしばらく経ち、いつまでたっても来ないオーガを待つことに若干飽きながらシャムが大あくびをしていると、突然大きな銃声が近くで轟いた。それもオーガが来るであろう方向から。
シャムは慌てて音のしたほうへと駆け出した。
オーガに銃を使えるような脳はないしそもそもそんな装備を持っているという報告はなかった、つまり今の銃声は同業者が撃った物。下手すれば自分たちの獲物を他人にとられてしまうことも指していた。
仲間たちが弱らせてくれた獲物をみすみす逃すわけにはいかない、その念が自然とシャムの歩調を早めさせていた。その間にも銃声は何度も轟いている。適当に乱射しているのではなく、狙い定めて撃っているような等間隔で。
シャムは不謹慎ながらも、オーガが銃使いを倒すかそいつから逃げ切ることを願った。
しかし現実は非情だった。シャムがオーガの姿を視認したとき、すでにオーガは白目をむいてひれふしていた。息をしてないのは明らかだった。
シャムはとっさに周りをぐるりと見渡し、オーガを倒した者を探した。そして凍りついた。
そこには、死んだと報告されたはずの受験者が半死半生の状態で立っていたからだ。硝煙を発している銃を片手に持ちながら。