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偏見

作者: 伊ノ舟 出海

暴力・犯罪的な表現があります。


薄暗い取調室。

ドナルド警部が問いかける。


「ジョニー。今度こそはお前が犯人なんだな?」


『今度こそは』という単語をドナルド警部は妙に強調した。というのも、ドナルド警部にはかつてジョニーを行きずりの強盗犯と誤認して検挙してしまったという苦い経験があったからである。


「ジョニー……。」


とドナルド警部が低く唸った。

その右手にはジョニーに関する一連の情報が記された書類が握られている。


「お前は眼鏡屋襲撃の現行犯で検挙されたが、もともとは人間の両眼を傷つける凶悪連続傷害犯として指名手配されていた。そうだな?」


確認の問い掛けだった。


「ああ。」


ジョニーは素直に答える。


「人間の両眼を傷つけたり、眼鏡屋を襲撃したり……おまえの犯行は全て人間の眼と関係しているようだが、何のためにそんな馬鹿げた犯行を繰り返していたんだ? 傷害なら腹でも構わんし、襲撃は宝石店と決まっているだろう?」


ドナルド警部は思いのままを口にした。

書記官からの冷たい一瞥。

ほどなく、『後半部はさすがに人道的なセリフではなかった』とドナルド警部は反省した。


「で、お前は何の為に犯行を繰り返していたんだ?』


気を取り直してドナルド警部が問い掛けた。


「……人間には視力がある。それが諸悪の根源なんだ。」


ジョニーは言った。


「かつて俺が誤認逮捕された時、逮捕の決め手となったのは目撃者と名乗る女の証言だったろ? 後で仲間内から聞かされた。俺の無罪が発覚した時のその女の弁解ってのが笑えたね。『その男の人相があんまりにも悪かったから犯人だと思ったんですぅ』だ? とんだ偏見じゃねぇか。裕福で恵まれた人間ほど人を外見で判断しやがる。車に接触しそうになったガキも、階段を踏み外しそうになったババアも。こっちは善意で助けてやってるのに『恩着せがましく金を要求するんだろう』なんて偏見で俺を見やがる。視力なんてもんがあるばっかりに人間は偏見を持つんだ。俺はそう思った。だから人間の両眼を傷つけ、眼鏡屋を襲撃したんだ。」


ジョニーはそう力説した。

右手の書類に目を落とし、ドナルド警部が苦笑する。

ジョニー=ハザード ―― 視力、両眼ともに『2.0』。

他人の視力を憎んだジョニー。

その視力はあまりにも不条理だった。


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