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 村居淳哉むらいじゅんや


 私や〝あの人〟とは、もう七年……八年にもなる付き合いだ。小学校のころから、今――高校生になった今でも、仲が良い。

 私と、〝あの人〟と、淳哉――昔からの仲良しトリオ。他にも、小学校時代や中学校時代に仲が良かった人は沢山いるけど、今までずっと連絡を取り合っているのは淳哉や数人だけだ。そのことを非情だとは思わない。そういう風に、交わって、離れて、絡み合って、剥がれる、それが人生なのだ、と。高校三年の小娘ながらに生意気に考えるのだ。


 その中で一緒にいるのは、とても貴重な存在だ。

 淳哉は、私にとってそういう存在なのだ。


「……悪いこと、しちゃった」


 とぼとぼと、あてもなく歩く。街中を人々が進んでいく。その中には何らかの目的がある人もいるし、私と同じように何もなくさまよっている人もいるのだろう。


「私だって、学校サボってふらふらすることもあるのに」


 時間の無駄だ、なんて。

 まるで自分が、時間を惜しみなく十全に使っているかのような台詞。少なくとも私が言える言葉ではなかった。

 自分がこの場を去るのに、正当な理由があるかのように振舞って。

 淳哉が悪いことなんて、何もないのに。


 そんな私が、私は嫌いだ。嫌いになっていく。


 はあ、と一つため息を吐いた。

 どうしよう。


 学校はサボったから、今更戻るなんて出来ない。厚顔無恥のふりをして入ればどうということないのだろうが、今じゃ先生の小言を聞いていられる気分じゃない。それに、家にも帰れない。母は専業主婦だから、家にいるだろう。趣味のブログ更新をしていたり、夕飯の準備をしたりしているはず。

 友達はみんな勉強中だろうし。


 つまり、私の居場所はこの街しかないということだ。

 そういうわけで私は人々の雑踏にまぎれて歩いているということだ。


 無為に、無意義に。


 そんな私を見て。人々はこう思っているだろう。こんなマジメに見える子が、何で昼間からこんなとこにいるのだろう。見た目とは裏腹に、不良っぽいのだろうか。……とか。

 そういった好奇の視線を感じた。

 その目にさらされるのが嫌で、足は自然と人並みの外側へと向かっていく。どこにも行けない私が身を寄せた街の、さらにその隅っこが、私のいられる世界だ。


「…………」

 しばらく歩いて、公園に着いた。それが目的で歩いていたわけではなく、たださまよっていたら着いただけのことだけども。

 青いベンチに座る。座り心地は、所詮公園のレベルだ。

 小さな遊具が数個、そしてそのおくには再び人通りと、無機質な街並み。それを、ぼーっと眺める。


 幼い頃、蟻が地面を蠢くのをじっと見るのが好きだったことを思い出した。


「はぁ……」

 またため息が口をついて出る。そういえば、ため息は無意識的に感情を調節する作用があると聞いたことがある。だけど私は、まったく気分が変わった気がしない。もっとため息を吐いていればいいのだろうか。情報自体がガセな気がしないでもない。


 別に何の目的もなくこんなところでぼんやりしているわけではない。

 淳哉の言っていたことが本当だとは思っていない。でも……でも。それが本当なら。


 もう一度、〝あの人〟に会えるなら。

 ずっと、これからも一緒にいられるなら。


 私は、どんなくだらないことも試そうとするだろう。


 人の往来を眺めているのだって、本当はそんな希望的観測があるからだった。

 でも…………本当は。


「――――っ!」

 言ってしまったら、考えてしまったら、私自身の根底が揺るぎそうなことが頭に浮かぼうとしたとき。まさにそのときだ。

 思わず立ち上がって、絶句した。


 そんな、馬鹿な。

 そんな、馬鹿なことがあるか。


 流れてゆく人の中に、一人。男にしては長い髪は後ろで小さく一つに結んでいる。細身な体は儚げさをも醸し出して。愁いを帯びた瞳は、寂しげに映った。

 服装は普通の男子高校生が休みの日に着ていそうな、無難な外出用のもの。


 彼《、》が、振り向く。

 優しかった双眸と、目が合った。すぐに視線を戻して、波に紛れていく。

 胸が早鐘をうって、息が苦しい。あらゆる感情が暴発しそうになって、それを抑えるために口をふさいだ。


 自然と、足が前を向く。右、左、右……勝手に前に進んでいく。


 あの顔は――間違いない!


 〝あの人〟だ!


 気付けば私は、全力で駆け出していた。

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