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「今日、〝あいつ〟を見たんだ」
開口一番に淳哉が言ったのは、そんな言葉だった。
「嘘じゃない。本当に見た。街中をふらついていたら、いたんだ」
私が疑ったのを見てか、説得するように続ける。だけど私は、彼の言うことを完全に信用することが出来ない。
「そんなわけないじゃない。だって」
「本当だ!」
いきなり淳哉が叫んだ。周りにいた客は何事かと訝しげに私たちを見る。いたたまれなくなったのか、淳哉はゆっくりと視線を下げた。
平日の真昼間、某有名ファストフード店の中は客もまばらだ。学生服を着た二人組というだけでも人目を引いた。だって、今は授業の真っ最中の時間帯だ。
「……悪い」
「別に、そんな」言ったきり、淳哉は何も話さない。沈黙を避けるために続けた。「それより、今日呼んだのって、それを話すため?」
「そうだよ」
「何で、見たの?」
「何でって……言ったじゃないか。適当にふらついていたら、〝あいつ〟を見かけたんだ。見間違いかと思って追いかけたけど、捕まえられなかった」
「そう……」
説明してくれた淳哉に、私は生返事しか返せなかった。
「じゃあ淳哉は、今日も学校行かずに、いろいろとふらついていたんだ?」
「そうだけど?」
私は何も言わずに、立ち上がった。荷物を肩に担ぐ。
「私はね。淳哉みたいに暇じゃないの。話があるってメールが来たから、わざわざ授業をサボってここに来た。そうしたら、そんなことを聞かされて。そんなんだったら来ないほうが良かった」
何かに突き動かされるように、言葉を紡ぐ。淳哉は呆気にとられたようだった。
「もう三年生なんだから、私たち……時間の無駄だった、帰る」
淳哉が何かを言おうとしていたが、遮るように踵を返す。そのまま扉を開けて、出て行く。周りの客はひそひそと何かを話していた。
「……いるわけないじゃない」
遠い。
遠すぎて、見えない。
顔も、体も。
「だって、〝あの人〟はもう死んだんだから――」
その呟きは、誰に聞かれることもなく、開けた扉からさまよい出ていった。