もやすしかないごみ :約1500文字
「えっ」
おれは思わず声を漏らした。町内のスーパー。家近くの店よりもずっと大きく、品揃えも豊富だ。ここなら確実にあるだろう。歩くのは健康にいいしな、と意気揚々と家を出てきたのだが……。
「どれだ……?」
おれは棚の前で呆然と立ち尽くした。
妻からごみ袋を買ってくるよう頼まれたのだが、並んでいる商品の種類が思った以上に多いのだ。サイズについては迷わなくていい。一番大きいのを買ってきてくれと言われたから簡単だ。だが……。
「『もやすしかないごみ用』……?」
目を向けた黄色いごみ袋にはそう書かれていた。
どういうことだ。燃やす以外に処分方法がないもの専用という意味なのか。たとえば、ええと……段ボールとか新聞紙は入れちゃいけないのか。あれは資源ごみだよな。
生ごみやティッシュ、割り箸とかならいいのか。いや、でもそれは普通の『もえるごみ』だよな……。わざわざ『もやすしかない』と限定しているということは、それとは別に当てはまるものがあるのではないか……。
おれは腕を組んで唸った。普段、ごみ出しは妻に任せきりなので、こういう分類はまるでわからないのだ。
とりあえず他の袋も見てみるか。おれはそう考え、隣の袋に視線を移した。
「『ちょっともえるごみ』……?」
ちょっと……? ちょっととはなんだ。細かいもの専用ということか。鉛筆の削りカスとかレシートとか……。いや、一応燃えはするが燃えにくいごみのことを言っているのかもしれん。ううむ、わからん……。
「『よくもえるごみ』……?」
そう言われてもわからんて。よく燃える……ティッシュとかか? それとも油切りに使った新聞紙とか……。
「『もえるべきごみ』……?」
燃えるべき……。普通の生ごみといったい何が違うんだ。テレビやネットでおかしなことを言ったやつのことか……?
「『もやさなければいけないごみ』」
なんだか使命感に燃えているような響きだ。ネズミや害虫とかか。あるいは自分にとって都合の悪い証拠のことか……。
「『どちらかというともえてもいいごみ』」
曖昧だな。整理用か? ちょっと捨てるには惜しいけど、別に取っておくほどのものではない、みたいな微妙なもの用か。
「『もえそうでもえないごみ』」
……ああ、燃えないごみか。いや、回りくどいな。
「『もやしてももやさなくてもいいごみ』」
いや、どっちなんだ。判断がつかないときのためのごみ袋か?
「『もやすとめんどうなごみ』」
面倒……妻の持ち物とかだろうか。そういえば前に、勝手に捨てて四日ほど口を利いてもらえなかったことがあったな。あれは確かに面倒なことになった。
「『もやしたことがあるようなごみ』」
あー、あるな。あれどこにやったかな。あ、捨てたんだっけ……って思い出せなくなるときが最近よくある気がする。……いや、だからなんなんだ。
「『できればもやしたくないごみ』」
これも整理用か。新聞の切り抜きとか、大事なコレクションは取っておきたいなあ。
「『ねんいりにもやしたいごみ』」
日記とかエロ本とかだろうか……。
「『もえたいごみ』」
ごみの気持ちはわからんて。
「『もえているごみ』」
……もう燃えているじゃないか。
ああ、似たような文字を延々と見続けたせいか、だんだん目がしょぼしょぼしてきた。
もういいか……。もし間違えていたら、そのときは大人しく叱られよう。
おれは棚から適当に一袋掴み取って、レジへ向かった。
◇ ◇ ◇
「おかえりー」
「ああ……うん……」
家に帰ると、リビングのほうから妻がパタパタとスリッパを鳴らしながら歩み寄ってきた。
おれは俯き加減のままスーパーの袋を差し出した。
「その、実はよくわからなくてさ……」
「ああ」
妻は袋の中を覗き込むと笑みを浮かべた。どうやら正解だったらしい。おれはほっと胸を撫で下ろした。
「なんでもよかったのに」
そう言って妻は袋からごみ袋を一枚取り出し、おれの頭に被せた。




