第四話 暗黒騎士、異世界から逃走を始める
ラヴィリンスは逃げ出したくなった
英雄と呼ばれ最強の魔力と剣技を持つ全盛期のラヴィリンスの強さは継承されているが、命懸けの死闘をよく考えると出来ない。
逃走を図る事にした
世話になったエンリケに前世時代の事を全て話した
異世界で戦う事が恐れている事を全て・・・・包み隠さず・・・・
ふと思った
ドラゴン退治に行くと言ってシャイラスと遠出稽古という理由ならば魔女ミティシは納得するだろう
逃げる事に本気で考えるのだったが・・・・
「どうだ、アイネスよ。カルティシアは住みやすいだろう?」
アイネスは腕を組みながら、静かにうなずいた。
「……そうね。悪くないわ」
お、デレた?
「私があなたの弟子を残虐なオークだと思って攻撃したのは間違いだった」
素直に謝った!?
北方の戦闘民族、意外と話が通じる!
俺は思わず胸を撫で下ろした。
「わかってくれればそれでいい」
マジでそれだけでいい。
もう斬首とかしたくないし
ちら、とシャクラスを見る。
当の本人は、薪を抱えながらそわそわしている。
目が合うと逸らす。
思春期か。
俺は小声でミティシに言った。
「なあ、これさ……」
「なによ」
「いい感じじゃない?」
「なにが」
「いや、ほら。アイネスとシャクラス」
ミティシは無言で俺を見る。
冷たい。
きっと俺が斬首が出来ないほど根性なしだという魂の選別に失敗した事を悔やんでいるんだろうな
それなら武将とかの魂をラヴィリンスに蘇生すればよかったのに
書類選考下手くそな魔女ですなぁ・・・
俺は続ける。
「シャクラスはいい男だろう? 素直で真面目で努力家。将来有望株」
「何言ってるのよ」
俺はシャクラスの師匠だ
アイネスを実際に暮らしてみていい奴だった
頼む。
頼むから仲良くなってくれ。
元オーク狩りと元被害者が和解して、恋に落ちて、北方とカルティシアが友好関係――
完璧なハッピーエンドじゃないか。
俺はもう、戦いたくない。
……いやマジで。
本音を言えば逃げたい。
できれば今すぐ。
できれば静かに。
できれば誰にもバレずに。
――待てよ?
今の俺、ラヴィリンスの魔力持ち。
わりと強大。
逃げ切れるんじゃね?
それだ。
逃げよう。
どうせならシャクラスも連れていけばいい。
ミティシに捕まったら、
「遠出して稽古してました」
って言い訳すればいい!
完璧じゃないか!?
それだ!!
「シャクラス」
庭で剣技の鍛錬をしている弟子に声をかける。
「お前、カルティシアの外の世界は見たことがあるか?」
剣を止め、汗を拭いながら振り向く。
「いえ、ありませんね」
よし、食いついた。
俺はもったいぶって呟いた。
「……ドラゴン」
そうだ。
異世界といえばドラゴンだろ。
いるかどうか知らんけど。
ドラゴン退治に行くってことにして、
そのまま遠方へフェードアウト。
ミティシよ。
あとは任せた。
「え? ドラゴンですか?」
食いつき良すぎ。
「そうだ。ドラゴンを退治に行くぞ」
いない可能性もあるけどな。
「強敵を倒すことで、お前の力は飛躍的に伸びる」
それっぽいことを言う。
指導者ムーブ完璧。
「いいですね!」
シャクラスの目が輝いた。
「ラヴィリンス様の足を引っ張らないよう、従者として同行します!」
チョロいな!?
いや、素直でいい子なんだけど!
内心では土下座したい。
(ごめん、俺ただ逃げたいだけなんだ……)
ルージュとかいうおっかない魔女と本気で戦うとか無理。
あの紫オーラ思い出すだけで胃が痛い。
だが――
一応、根回しは必要だ。
エンリケだけには話しておこう。
「ラヴィリンス様、どうなさいました?」
俺は観念した。
異世界の不満。
突然暗黒騎士にされたこと。
戦う覚悟がまだないこと。
そもそも俺の中身は、英雄でも覇者でもないこと。
全部、吐き出した。
「……俺、戦える人格じゃないんだ」
沈黙。
エンリケは静かに俺を見る。
「ラヴィリンス様。逃げたいのですか?」
核心ストレート。
「……うん」
子供か俺は。
少しの間を置いて、
エンリケはふっと微笑んだ。
「それでいいのでは?」
「え?」
予想外の返答。
「逃げたいと思えるのは、生きたいと思っている証です」
「ラヴィリンス様は、前の英雄とは違います」
「私はあなたを腰抜けとは思いません。逃げるなら逃げたほうがいいです あなたは戦いたくないのでしょう」
「逃げるご判断はいいと思います。あなたの生き方なのですから」
……やめろ。
そういう優しいこと言うの。
決意が鈍るだろ。
「ですが」
エンリケは続ける。
「本当に逃げるのであれば、戻ってくる覚悟もお持ちください」
「あなたが戻ってきた時に私達がいるとは限りません」
刺さる。
めちゃくちゃ刺さる。
俺は空を見上げた。
ドラゴン討伐(仮)逃亡計画。
果たしてこれは、
戦略的撤退か。
それともただの現実逃避か。
敵もいねーのに敵前逃亡か・・・
裏切り者だよな・・・
「……とりあえず、準備だけする」
「はい」
遠くでシャクラスが素振りを続けている。
弟子を連れて逃げる暗黒騎士。
字面だけ見れば完全に悪役。
それでも俺は――
まだ、戦う覚悟ができていなかった。
スペック的には俺の方が断然強いのに突然敵に襲われたら
弟子のシャクラスが守ってくれるという人任せな安心感があった
「我々が遠出中に敵が襲ってきたらどうしますか」
言葉が詰まった
「安心しろ トーテム魔法でいつでもすぐに帰れるようにしている」
「そんな便利な魔法あるんですかね 聞いたことありませんよ」
鋭いな・・・。
「と、とりあえず村から出るぞ 外の世界を見てみたいのだ」
「そうですね ラヴィリンス様はずっとこの村で引きこもり状態ですもんね」
そうそう
村から出たらすぐに強大な魔力を感じた
ミティシちゃん早いよ
「逃げ出すのね」
もうこうなったら本心をぶつけよう
「ごめん 俺は戦えない」
ミティシの目を見ると泣いている
あ・・・泣かしちゃった
「私の身勝手であなたをこの世界に連れてきてしまったから」
「ミティシ様 ラヴィリンス様はドラゴン退治に行くのです。逃げてなどはいませんよ」
黙れ弟子よ・・・
「ミティシ様 シャクラスよ」
エンリケが登場した
「ラヴィリンス様は突然この世界に来た事に戸惑いを感じています」
「ラヴィリンス様を追い詰めるのはよくないことです。彼は彼なりに苦悩していて私に本音を話してくれたのですから。無理に引き止めるのは彼にプレッシャーを与えてしまいますよ」
「お前それでも英雄なのかよ」
っち
アイネスまでも便乗しやがって
お前そもそも敵だったろうが
「英雄ラヴィリンスが逃げるなんてだっせーな」
「何が暗黒騎士だよ びびりやがって」
お前の命を救ってやった恩はどこにいったんだ
「シャイラス こっちに来い こんな逃げようとする腰抜けを師匠なんて呼ぶなよ」
うわぁ・・・
俺孤立するじゃん
「師匠 ドラゴン退治に行くというのは嘘なんですか?」
このままじゃ異世界で暮らしていけない
「私は試したのだ 私の力を頼りすぎているお前らの反応を見たかった」
やけくそだ
「なるほど」
「本気で心配しました 私はあなたの試しに見事に引っかかりました」
エンリケに話した事は本音だったけど戻るしかないな
「アイネス お前はこれから仲間として迎え入れよう」
俺にこれだけ言うならお前も戦えよ
「ミティシさ こんな頼りない英雄様で本当にいいのか?」
アイネスって毒舌すぎない?
「もう逃げないと思わないで」
わかったよ
もう逃げないっ
「ふふふふ 私が逃げると本気で思ったのか?お前が憧れた英雄ラヴィリンスを信じないのか?」
逃走に失敗したがカッコ悪いところは見せたくはない
いくら英雄ラヴィリンスの力を継承したとはいえ、中身は根性がない31歳の社畜でスポーツが苦手でゲームが趣味な前世
逃げ出す勇気を持って逃走を計画する。
メンタルはボロボロ
テレビゲームの世界ではなく異世界で今後戦う事を考えてると怖い
弟子のシャイラスにとっさに口に出たのはドラゴン退治という口実で逃げ出そうとするも・・・




