46 高貴な猫を助けた後は〜デートに行きましょう!
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
一端、ここで物語を締めようと思います。
細かいエピソードはその都度上げていく予定です。
「今晩は殿下。いい夜ですね」
粗末な部屋に一人、元王子が小さなベッドに座り込んでいた。似つかわしくない。側妃によく似た美貌でブルネットの髪色、赤味がかった瞳。
「公爵。やはり君が殺しに来るのか。まぁ、無駄な足掻きをする前に処分したほうが無難だよね」
既に全てを諦めているのか、投げやりにジェイドと私を見た。
私はそんな彼に、そっと声をかける。
「ジュリアス殿下。あなたの選択を聞きに来たんです。平民として追放刑を選ぶと聞きました」
「うん、もし行き倒れるとしても最期に見る景色はこことは違うものを見てから死にたいんだ」
大部分は死ぬ確率というか、他人に利用されてしまう未来が窺えるけれど……。
――まあ、元王子様だから平民になったら確実に死ぬと思ってるのね。視野が狭い。
「名前を捨てる。身分を捨てる。そこで何も残っていない貴方に聞きに来た。ある人が貴方の面倒を見たいと申し出ている」
目の前のジュリアス様は俯いて答えない。意に介さずにジェイドは続ける。
「平民生活は貴方にとっては想像以上に辛い未来が待っている。でも、それを救いたいという人が居るんだ」
「因みに、私も名前を捨てて大事なものだけを守って生きています。まぁ、何故か公爵閣下の婚約者になっていますが。生きていれば、その手にいつの間にか大切なものが握りしめられていますよ?」
私もゆっくりと話しかける。焦っては駄目だ。彼に敵ではないと分かってもらわなくては。
「あの日、キャンパスに描かせていた人々。怪我で足を無くした男性。日銭を稼ぐ娼婦。貴方にはどう見えましたか?憧れました?あれがこれからの貴方の日々です」
高貴な教育しか受けていない十八歳の彼に、彼の想像したようなお綺麗な死に際は訪れないだろう。
「自分を心配してくれる人が居るって、ほぼ奇跡に近いです。そして奇跡はすぐに消えてしまう。貴方にとってはどうですか?その奇跡は無駄ですか」
彼は黙って動かない。
彼の心境は彼にしか分からない。最初から無理強いをするつもりはなかった。
ただ、彼に選択肢をあげたかっただけだ。
「きっと辛い道かもしれません。身内を見捨てるのは大変かもしれません。彼らを本当に自分の大切な物だと思うなら一緒に堕ちればいいと思います」
私は絶対に選ばない選択だけれど。
それは他の人にとっては譲れない価値観なのかもしれない。
彼にとっての価値観はどうだろうか――。
私の言葉を聞いていたジェイドが、ジュリアス様に話しかけた。
「でも、自分が大切だと思うなら。他にも大切な物があるならば、自分で選択肢を選べる時が来たならば、逃してはいけない。それが幸せな事だと知っているでしょう。我々は」
「ああ。そうだね……。もし選べるなら私は――」
ジュリアス様は一度目を閉じて――。
しっかりと前を向いて話し出した。
「あの風景を実際に見てみたい。他にも心惹かれる風景画がいっぱいあるんだよ。このまま死ぬんじゃなく、その沢山の景色を見てみたいんだ」
芸術を愛し、平民のありのままの姿をスケッチさせていた元第二王子。きっと、その生き方のほうが似合っている。
「決まりましたね。――では、計画をお話します。陛下には話が通っています。十分注意して計画通りに動いてください」
ジェイドが私達に詳しい計画を話し出した。
◇◇◇
明け方になり公爵邸についた私達。
しかし、これから王城から追放される彼の誘拐をしなければいけない。ここからは、本職の方たちに任せるらしい。
「今度は随分と小綺麗な猫を助けたわね!ネイムレスが直々に面倒見るんでしょう?実質、貴方の部下になるの?ジェイド」
「こらこらお嬢様。デートは家に帰るまで。じゃないと、事故に遭っちゃうよ?小綺麗な猫だろうが、猫は猫でしょう。あの意気地なしが男に見えましたか?」
――答えを間違えてはいけない質問ね。
「猫は猫でしょう。私は最近は犬派なのよ。私に甘えてくる、懐っこいくせに物凄く番犬として優秀なワンちゃんのせいで他は目に入らないわ」
「……ぐ。それは何の例えでしょうか、お嬢様?」
ふふん。教えてあげないけれどね。
「誘拐はネイムレスに任せておけば問題無いのよね?」
「ええ、下手に俺達が関わったほうが足がつく可能性があるんで、大人しく待っていましょう」
秘密通路を抜けている私達。
私はジェイドに抱き上げられながら言った。
「ありがとうジェイド。前に、第二王子に会った後に夜中に泣いていた事を覚えててくれたのね」
「うん。それはね。罪悪感ほど厄介なものはないし、君はすぐに弱いものに同情しちゃうからね」
確かに、あの夜にジェイドに色々と甘えてしまったけれど。やっぱり心の中まで読まれてる。
「有り難いけど、勘違いしないでよね!」
「え?」
「あの時に、確かに私は第二王子に同情したけれど納得して諦めた!私の人生で諦められなかったのは貴方達の事だけなんだからね!」
これだけは言っておかないと。
すぐ拗ねちゃうのよね。フリの場合もあるけれど、この前だけは本当に拗ねていたし。
「うん、大丈夫。全部知ってるよ。全部クロエのためだったんだよね?クロエに『怪我をして死んでいく』子猫を見せたくなかったんでしょう」
血が苦手なクロエ。
今回の襲撃後もそのせいで、今も夜に魘されていると聞く。
「そ、そこまで考えてないわよ。あの時は助ける方法がなかっただけよ」
ジェイドは意味深に笑っている。
見透かされているようで恥ずかしい!
無理やりに話を変える。
「ジュリアスはどうやって育てるつもりなのかしら。やっぱり顔を活かしたハニートラップ?意外と嵌りそうだけれど」
「うーーん。まぁ、身体能力重視の仕事は出来ないけれど、ネイムレスの補佐官だっていい訳だし。何とでもなるよ」
成る程。事務仕事もあるわよね。彼には諜報員は務まらなそう。
「そっか。何だか雰囲気似ているものね、ネイムレスとジュリアス様のあの二人」
「それは闇が深いから、触れたくないけれど……でも、側妃と『彼』は所謂そういう関係では無かったはずだよ」
明日、元第二王子が身分剥奪の上に追放されて。
その後、間を置くことなく高位貴族にも毒杯が渡るだろう。
市民に対する見せしめの為に、隣国と通じた平民や下位貴族は処刑台で見世物にされる。
新王アレクセイの時代は粛清と共に始まった。
「ねぇ、辺境伯家のお義母様が急遽王都に来れなかった理由って……」
「でも、無事にアレクセイが王になったから暫くは大丈夫だと思うよ。向こうも計画の立て直しを迫られているだろうからね」
そうか。アレクセイ殿下が失脚したと同時か直後に戦争を仕掛ける予定だったのかもしれない。
それをアレクセイ陛下やジェイドは把握していたのか。
きっと廃位した王も、人知れず毒を盛られて『病死』させられるだろう。
新陛下の即位には必要のない王家の醜聞だ。
全て闇に葬って、アレクセイ陛下は進んでいくのだろう。
まだまだ色々と大変なのね。
側近になったジェイドも忙しい日々が暫く続くのだろう。
「ねぇ、お嬢様。この前のご褒美はお気に召しました?」
「ひぇっ!い、いいいいきなり何!?」
「今回も、物凄く頑張ったんですけれど。前回と同じか、もう少しだけ進んだご褒美が欲しいなぁ」
あれより進んだご褒美!?
「それは、クロエと相談の上で後で連絡するわ!」
「クロエに話しちゃうんですか?お嬢様は恥ずかしくないんですかね」
「ぴええぇぇ!誰か!こいつの暴走を止めてーー!」
後ろから抱きしめられて、首元と耳もとにキスをされる。もう!最近のジェイドは調子に乗りすぎよ!
でも、私の大好きな大好きな翡翠。私の心まで奪って離さないその輝きはきっとずっと側に居てくれるはずだ。
「このまま、本当のデートに行かない?ロマンチックな丘とか朝日が綺麗に見える場所とか定番じゃない」
「お嬢様は随分と無茶を言う……。うーん、じゃあ取り敢えず高い所に登ってみましょうか!」
「ええ、いいわね!でも絶対に離さないでよ」
「当たり前じゃないですか、俺のお嬢様」
段々と夜が明けて明るくなって来た空の下で、ジェイドに抱えられて私は声を上げて笑った。
「愛してるわよ、可愛いワンちゃんなジェイド!」
ここで一旦完結します。
ここまで沢山の方に読んでもらえたのは奇跡だと思っています。皆様のご評価のおかげでした。
いつも、読んで下さる方、ブクマしてくださる方、ご評価してくださる方、リアクションしてくださる全ての方に支えられています。
ありがとうございます!本当に励みになっています。
ここまでお付き合い下さりありがとうございました!




