44 猫救出前の段取り
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「レイアス、『鴉』に行くぞ。ネイムレスに連絡を」
「えぇ?今から?――何か計画変更?それとも不測の事態が起きた?」
部屋のソファで寝そべっていたレイアスが気怠げに聞いてきた。
「ああ、俺のお嬢様がちょっと前に気取った奴を気に入ったからね。目の前で不幸になると彼女の心に居座りそうなんだ。だから、目の前から完全に消さないと」
「意味がわからないけど。無茶を言っているのはわかるよ?」
「いいから、早く。時間が足りない、これからは時間との勝負だ」
レイアスの相手をしている時間がない。
とにかく急がなければ。
「あと、ネイムレスに会ったら俺は王宮に忍び込んでくる。お前と話し合う時間も無いからな」
「あ〜、はいはい。ネイムレスに隠し通路の地図を持ってこいって頼むの?」
「詳細は、彼本人に伝える。あまり深く首を突っ込むと、それが胴から離れるぞ。物理的に」
レイアスは両手をあげて話を変えた。
「わかった。やめとく。ジェイド程頭がイカレてないからね。じゃあ、連絡員に当たってみる……けど。陛下の許可はあるんだよね?」
「一応はな。でも、責任は俺が取る形になるからアレクセイは関与しないよ」
途端に嫌そうな顔をするレイアス。両手を上げて首を振る。
「僕は、お留守番したいな」
「お前だって、陛下の側近候補だろう」
「いや、本当にお断りしたいんだけど」
◇◇◇
数ある『鴉』の拠点の一つに通された俺は、彼に本題を切り出した。
「ネイムレス、元第二王子を消したい」
「相変わらずいきなりですね。計画通りにいけばそのまま追放ですけれど?」
「まぁ、その通りなんだが。でも可能だろう?――十年前と同じ方法でいいんですよ、元王弟殿下。継承権を失った元王子が『誰か』に助けられて生きていくんです」
昔、生前の父から聞いたことがあった十年前の継承争い。今の陛下と当時の第二王子の政争。
第二王子は謎の死を遂げ、第一王子が玉座に着いた。
当時から貴族達に囁かれたらしい。
『ベルンスト公爵家が邪魔な王子を消した』と。
時代の違いはあれ、ベルンスト家は王家の剣として時にその権力や武力を行使してきた。
父が俺をこのギルドに連れてきた時に、『ネイムレス』と名乗った彼を見た時に繋がった事実。
このギルドは、実は王家が後ろ盾なのだと。
こうやって、幅広く活動する裏ギルドを通じて、国が情報を操作して、管理をしてきたという事だ。
だから裏社会で幅広く活動していても摘発されていない。
ある程度の事は見逃されている。
国の闇であり、生命線でもあるが、しかし知られてはいけないこの最大の秘密――。
そして、その首領は現在、『元王族』のネイムレスだ。
「元王弟殿下はこの状況をどうすればいいと思いますか?隣国から薬を流入して儲ける国賊は見せしめにしましょう。徹底的に、悪として憎まれるように罰しましょう」
そう。徹底的にやれと我が従兄弟の命令だ。
不正をするなら、命を賭けろ。気付かれないなんて馬鹿な夢をみるな、と。処刑台の上で素晴らしい夢をみろと。
高位貴族の処刑は反発があるので法律上無理だが、下位の貴族や平民の彼らは自身の死を見世物にされる。同じ立場の貴族や富裕層、更には商会ギルドにはいい薬になるだろう。
「だが、その者たちが飼っている、『世間知らずで籠の中にいる高貴な猫』は、一緒に殺して埋めてしまえばいいでしょうか。一匹では餌も取れない、何も出来ない猫も同様に?」
少なからずでも、彼に同情が集まるのは良くない。
同情させるなら違う形で。
王家にも利する悲劇で。
だが、追放されて忘れ去られるだけの存在なら……。
「まぁ、普通はそうですね。厄介な世話は誰もしたくないものですよ。――しかし、君の言い回しは気に食わないですね。誰に対しての当てこすりでしょうか?」
――同じ状況だからですよ、『元王弟殿下』。貴方だって父に助けられてここに居る。彼に自分を重ねて同情もしているでしょうに。
「だが美しい生き物には悲劇的な終わりが、国民の涙を誘う悲劇が一番似合うのでは?徹底的に利用され、なのに、飼い主だった者の手によって死ぬ――とかね」
彼は皮肉げにそう言った。
彼の時代も今の状況と似ていた。
周りに勝手に担ぎ上げられた王子。
それを救ったのが父だった。
だから、彼はあの時に何もかもを失った俺達に手を差し伸べてくれたのだ。
今代も第二王子という存在を悲劇的に殺してしまおう。
既に利用価値の欠片も無いが。
誰の脅威にもならないように、世の中に忘れ去られるように。
「ふふふ。まぁ大丈夫でしょう。――でも貴方はずっと私の事に気づいていない振りを続けていたのに。やはり彼女の為に?」
「まぁ、ほとんどは俺の為ですよ」
「そうですか。では手順を確認しましょうか?」
そう言って、彼は机を指でトントンと叩きながら説明を始めた。
「まぁ、貴方のことだからアレクセイ陛下にも許可は取ってあるのでしょう?」
「ええ。せっかく助けた後に暗殺でもされたら面子が潰れるので」
――王弟殿下は顔の判別も付かないほどの死に際だったと言われている。父が死体を用意したのは話で聞いていた。
「明日の朝、彼が馬車で辺境に捨てられたらすぐに保護しましょう。秘密裏に後をつけていきます。何なら、賊に襲われて亡くなった事にしましょうか。彼に似た死体があると悲劇的ですね」
「それは流石に、殿下に頼みすぎですね。遺体の準備だけでも時間が足りないでしょう?」
その言葉を聞いて、ネイムレスは心外だと言うように片眉をあげた。
「おや、忘れたのですか?あなたも一時的に諜報員をしていたのだから。このギルドの大体の規模くらいはわかるでしょう?」
ああ。国中を網羅していると言っても余りあるだろうね。このギルドは悪用を防ぐ為に、自分で主を選ぶ。
前王の時代はまぁ、ご察しだ。ベルンストを継いだ叔父も暗愚な王も選ばなかった『鴉』は、俺を見込んで育ててくれたというわけだ。
「ただ、そうですね、第二王子の説得をお願いします。私とは縁が無かったので顔が利かないんです」
俺も数回しか会ったことがない。
だが、彼女は話したがるだろう。厄介なほどに慈悲深く可愛らしいお嬢様なら。
「それが無理なら本当に死ぬことになるだけだ。俺のお嬢様が彼を説得でもすればイチコロなんじゃないですか?目の前で本人が拒否するなら、彼女も納得してくれるでしょう」
「あぁ、それと。私はネイムレスです。今後は二度と間違えないでくださいね?公爵閣下」
――『元王族』との会話はこれで終わりだと、ネイムレスに釘を差される。
「わかったよ。じゃあ、宜しく頼む。報酬の話は時間が無いから後払いで」
「そこは大丈夫そうですけれどね。我が国の太陽は慈悲深く、そして意外と純粋ですから」
「どういう意味だ、それ。気弱だってこと?」
「口に出してはいけない言葉ですよ、閣下。あえて言うなら、完璧主義のロマンティストでしょうか」
完璧主義なのはわかる。人にも求める厄介なやつだ。だか、ロマンティストねぇ。
一番似合わない言葉の様な気がするが……。
人間は一面だけ見てもわからないものだしな。
「では時間が足りないから、俺はすぐに動く。サポートに少しギルドメンバーをつけてくれ」
大事な事だから一応付け加える。
有能な彼なら心配ないだろうが、念の為だ。
「素人の女性も連れて行くから。相当な実力者を頼む」
「畏まりました、閣下。準備が出来たら公爵邸へ派遣します」
「ああ、よろしく頼む」
ああ、そういえば――。
「ルフィーナが随分と世話になったみたいだな。彼女に会ってくれたと聞いた」
「ええ。行動力があって、ちゃんと自分の手札が少ない事も理解しながらも諦めない、素晴らしいお嬢様ですね」
そうだけれども。
お前に言われるとむず痒いな。
そう。俺のお嬢様は誰に言われなくても素晴らしいんだよ!
「じゃあ、すぐに用意を頼む。今夜中に動きたい。素人の女性も連れて行くから、相当な実力者を頼む」
「畏まりました、閣下。準備が出来たら公爵邸へ派遣します」
この時には既にアレクセイから話を聞いていたのに知らない振りをするネイムレスです。彼は必要以上に他人に干渉しません。
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