43 第一王子アレクセイ視点〜 そして王へ
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
昔から父に、褒められたり触れられたことは無かった。王太子である父。王太子妃である母。そしてその息子である自分。
確かに王家は特殊だったが、抱き上げもしないのが普通の事なのか。従兄弟であるジェイドの家族を見ていつも不思議に思っていた。
出来が良ければそれは当たり前で、何か失敗をしてしまうと激しく叱られた。
――あの人は、私の出来が悪いと激しく怒り。
私が人より秀でた一面を見せると苦々しい顔をした。
母が違う弟がいる事は知っていたが、会う機会はなかった。公式の場でしか家族が揃うこともなく、母以外とは滅多に顔を合わせることもなかった。
あれはいつだっただろうか。
幼い頃の自分の誕生日か――父の誕生日だったか。
特別な日にどうしても会いたくなって、私は自分に充てられた宮殿から飛び出して、父に会いに行った。
普段は通らない道を走り抜け、一番高い建物を目指して草むらも、花壇も通り抜けて真っ直ぐ目指して行った。
――そこで、滅多に顔を合わせない父の弟、第二王子の叔父が宰相と会話をしていた。
『陛下は、貴方に期待しているのです……。王太子は、資質に問題があると。人を虐げて喜ぶ王を誰が求めるでしょう。だから未だに退位も出来ない』
(王太子……父上の事か?)
そうなのか。そうだったのか。
自分の価値観がボロボロとこぼれ落ちた瞬間だった。
自分の世界の中心だった父は、他人からは暗愚として見られている。そんな事実は知らなかった……。
『誰が聞いているか分からない、こんな場所でそんな事を言ってはいけません。既に王太子である兄に逆らって何になるでしょう?余計に国を傾けるだけです』
『ですが……!あの方の浪費も、臣下や民への態度も問題視されています!お願いします、どうか陛下とお話だけでも……!』
叔父は周りを気にして、相手を黙らせてから言った。
『大丈夫。国を司る頭がよく働かなければ、手足が上手く動けばいい。勝手に動けない様に他で上手く誘導すればいい』
そう言った叔父の方が父よりも王に相応しい。
きっと陛下もそうお考えなのだろう。
今思えば、気分屋で嫉妬深い父は果たして立派な国王になるだろうか。
いいや、無理だろう。臣下の忠言すら聞かずに好き勝手する筈だ。
その日からの私の価値観はガラッと変わった。
父を、俗物としてしか見られなくなり。
代わって叔父を慕うようになった。
そんな態度が余計に気に食わなかったのだろう。
私はあからさまに父から嫌われ、第二王子を優遇しだしたという。
(やはり父は王の器ではない。叔父上が王になればいい)
それが無理でも、父が王になったらすぐに自分が継げる準備をしなければ。
あの人に何年も国を任せたら、きっとそう遠くないうちに乱れてしまう。そこ迄ではないとしても王の権威は確実に落ちる。
冷遇されながらも、勉学に励み。同年代、更には上の年代との交流を重ねた。
信じられる優秀な側近を集めなければ。
◇◇◇
そんなある日。
十歳の時に、叔父が死んだと聞かされた。
父と叔父と側近の少数で、狩りに出掛けた際の事故だったという。
崖下に誤って落ち、更には死亡は確認したが下に降りる道がなく、連れて帰れなかったと陛下に報告していた。
嘘だな。自身の手で殺したのだろう。
陛下が退位を渋っていたからか。
彼の周りの評判が、自分よりも上だったからか。
ただ単に、気に食わなかった――なんて可能性すらある。
その日から陛下は、病を患って床につくことが多くなった。近々、王太子が玉座に就くだろうと誰もが考えた。
――せめて叔父がここに居てくれたら。
私が成人して父を退位させるまでに数年、最低でも八年生きていてくれたら。
だが、終わった事を考えても仕方がない。
父に疎まれている私は即位するのも困難な状況になるだろう。
どうにか地盤を固めなくては。
弟が優秀ならそれでもいい。
だが、叔父が死んでから側妃の動きが怪しい。
何事もなければいいが、隣国の元王女だ。
警戒して損は無いだろう。
十五歳になった時に、最大の後ろ盾であるベルンスト公爵と従兄弟達が視察中の馬車の事故で亡くなったと連絡が入った。
これはバランスが崩れる事態だ。力を付けてきた、新興貴族と、隣国との関係が深い貴族の集まりである第二王子派が私を追い落としに掛かるだろう。
更には、新しく就いたベルンスト公爵が第二王子を支持すると表明してしまった。
それからの私の苦労は思い出したくもない程だ。
中立の立場を崩さない者を説得し、窮地に追いやられている派閥の者を何とか抑え。
常に自身の優秀さをアピールしながらの闘いだった。
そのバランスを崩してくれたのは、またベルンスト公爵家だった。
従兄弟が生きて、私に協力を求めに来たのだ。
『市井生活をしながら当主殺害の証拠を集めたから手伝ってほしい。最短で叔父を追い落とし、自分がその座に就く』と。
有り難い申し出だった。
こちらとしても、今やベルンストは頭痛の種であり、厄介そのものだったのだ。
この従兄弟の性格も昔から知っている。意外と義理堅く、権力欲とは無縁だ。
弱点さえも知っている。いつも妹を大切にしていた。
そして、その一切の迷いのない瞳が気に入った。
だが市井で公爵の証拠なんて集まるだろうか?
不思議に思い、私の持つ諜報員に調べさせてみた。
そこで知った面白い事実に私は声を上げて笑った。
――『彼』だったのだ。
従兄弟を手助けして、証拠を集め、ここまで育て上げたのは『彼』だった。
これで盤上はひっくり返る。いや、無理にでも覆してみせる。こんな幸運は二度とないかもしれない。
「お陰で随分と従兄弟どのに嫌われちゃったけれどね」
確かに利用した所はあるが、それだけでは無かったというのに。
再会出来た嬉しさもあった筈だがどうにも上手く伝わらなかったみたいだ。
そして今、あの男は王ではない。
名を呼ばれることもなく、
命令を下すこともなく、
ただ生かされているだけの存在だ。
――それ以上の罰が、他にあるだろうか。
私の改善点はこういう所かな。
優秀ゆえに人の心が無いと思われている。
そんな事は断じてないというのに。効率的に動くとこうなってしまうだけだ。
私にだって感情はある。従兄弟には性格が悪いと言われているが。それは否定しない。
『慈悲深く優秀で、時に非情な決断を下す王』
幼い頃の理想に近づくにはまだまだ遠いようだ。
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