42 決着、そして側妃オーガスタの最期
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
第一王子アレクセイは数々の違法な薬物等の禁制品を国内に流入した証拠を突きつけて、レクシビル公爵以下、第二王子派の貴族の粛清を開始した。
彼の追求は凄まじく、隣国に逃げようとする者も捕らえ次々と処刑台に送った。
彼の温情で、直接的に関わっていない家族は貴族籍を抜くに留まらせ、特に未婚女性や未成年は修道院や教会に籍を置く事も許したのだ。
側妃オーガスタについては、彼女の護衛騎士がベルンスト公爵邸に襲撃した事について厳しく追求した。
劇場の火事についても同様に、証人と目撃者を用意して、その騎士と側妃の侍女が関わっていた事を理由に、側妃の罪を明らかにしていった。
特に劇場の火事については他の貴族家の追求と厳重な罰を与える事を求める声が大きかった。
あの場で亡くなったのは、女性や子供が多かったのだ。
側妃に対しての怨嗟の声は国中に広がった。
高位貴族は毒杯を賜わり。
下位貴族や平民は斬首という罰を受け、側妃オーガスタは生涯幽閉と毒杯の選択を迫られ、毒杯を選んだという話だった。
そして、彼女の息子――ジュリアスは。
継承権を剥奪の上、平民になるか、追放か、蟄居を選ばされる事になった。
第一王子アレクセイは第四近衛部隊の公爵家への投入と、弟王子殺害の証拠を王に突きつけ、無理やり廃位させ、自らが国王となった。
これは秘密裏に行われたが、貴族の中でも、国王に近い者が数人同時に息子に爵位を譲り、領地に帰ったことから密やかに噂として残った。
◇◇◇
裁判でわたくしの罪が暴かれ、投獄されて一週間が経った。
もっともっと復讐したかったけれど。
せめて、この国の王だけでも道連れにしたかったけれど――。
「わたくしは、負けてしまったのね。何も果たせずに、無駄な犠牲だけを増やしても肝心の復讐すら成し遂げられないなんて」
やはり最期に考えるのはあの人の事なのか。
初めて、当時の第二王子ラインハルトに出会った光景を思い出す。
まだ十五歳で幼さが残る、少し頼りなさそうな少年だった。
その時の、わたくしは母国に売られて傷ついて、更には嫁ぐ為に来たこの国にも受け入れて貰えなくていつも肩肘を張っていた。
そんな時には、何故か隣に座り勝手に話し出すラインハルト。この人と婚約話が進んでいると聞いていた。
正直、王太子は苦手だったから少し安心したのだ。
それが、当時の王太子の気に障ったのか。
もしくは他人の物を欲しがる性質のせいだったのか。
彼の目についてしまったわたくしは、無理やり部屋に連れ込まれ、彼の側室として嫁ぐことになってしまった。
あの日、どれ程の絶望を味わった事か。
でも息子も生まれ穏やかな日々を過ごす内に憎しみは薄れていった。
既に王太子の興味はわたくしと息子には無く、放置されていたのも有り難かった。
偶に会えるラインハルト殿下とは、会話すら出来なくなったけれど、彼と息子がこの国にわたくしを繋ぎ止めてくれていた気がした。
――ある日の王室主催のパーティーで彼と話した会話した事があった。
『幸せになれましたか?貴女がこの国に少しでも居心地の良さを感じられていたらいいのですが――』
ずっと心配してくれていた。
数ヵ月だけ婚約話が出ただけの、短い親交だったのに。
彼はずっと案じてくれていたのだ。
この国でずっと、彼だけがわたくしを心配して気遣ってくれる人だった。
『ええ。最近は幸せを感じますよ。もう心配しなくても大丈夫ですわ』
『それは、本当に良かったです。これからも貴女の幸福を祈っております』
少しの強がりと、でも穏やかに流れる空気に浸って、わたくしはそう答えた。
そう。穏やかな月の光の下で、またそんな束の間の安らぎを得られたのだ。
彼がきっと心の支えでいてくれる。
それだけで良かったのに――。
憎しみが再燃したのは、ラインハルトが死んだと聞かされた後からだった。
瞬時に殺されたのだと思った。
私の夫を名乗るあの男が手を下したと悟った。
優しく、権力争いを望まない、聡明な人だったのに。
彼を殺した夫と、それを見て見ぬ振りをするこの国が憎かった。
何事も無かったように、そこに彼が最初から存在していなかったかのように忘れた振りを続ける周囲を憎んだ。
「貴方を殺した国王とこんな運命を憎むわ」
――でも、そうね。
私はきっと『終わり』を求めていたのだろう。
だからこそ、自分の力で復讐を成し遂げたベルンスト公爵が羨ましく。そして私を終わらせてくれる存在だと思ったのかもしれない。
なんて自分勝手で迷惑な存在だったのだろう。
何人もの人間を死に導く稀代の悪女。
私にぴったりな名前ね――。
それでも毒杯を受け取った時に。
ラインハルトの事を考えると思っていた瞬間に思い出したのは――。
幼い息子の笑顔だった。
『狡くて最低な母親だったわね』
私は、復讐に囚われて……一番近くにある大切なものにすら――。
◇◇◇
オーガスタが独房で毒薬を飲んで、息絶えたと伝えられた。
その報告はアレクセイの執務室で二人が会話をしていた時に訪れた。
「最期に会わなくてよかったんですか?」
「いいんですよ。もうお互いに過去のことです。今更亡霊が出て来た所で何の意味も無い」
「本当は恨み言を聞くのが怖かったんじゃないですか?」
アレクセイは優秀だが、人の繊細さや機微に疎い。
周りが上手く機能して回っているならそれでいい。
所詮は国王なんてものは普通の神経では出来ないものなのかもしれない。
「それで、元第二王子ジュリアスのことなんだけれども。我が従兄弟殿が我儘を言い出しましてね。追放刑の後は貴方に預けたいそうです」
――そう。親の罪を子ども世代が償う必要はない。
「いいですよ。これでも身寄りの無い子どもを何度か受け入れてきた経験がありますから」
「それならいいんですけれど。利用されないように徹底的に経歴を消して、死んだことにしてくれたら嬉しいですかね。それが出来たら私は関与しません。一応弟だったわけですしね」
そう言ってアレクセイは叔父では無く『ネイムレス』に問うた。
「私の代では、『鴉』は目となり飛び回ってくれるのかな?」
「これが本題ですね。愚問です。貴方様の治世が少しでも良くなるように『鴉』は『アレクセイ』陛下に忠誠を誓いましょう」
「それでいい。私の次の代がまた暗愚になると困るからな」
そう。『鴉』は人を選ぶ。
『黒い狼』のように絶対的に王に忠誠を尽くすのではなく。自分が仕えるに値する人物に力を貸すのだ。
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