39 明け方、怖い夜が終わった私達
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
さっきまでの物凄い音に耳を塞いで縮こまっているしか出来なかった私。
――終わった?終わったの?ジェイドと敵が二人で倒れ込む所を見て目を閉じてしまった。
それまでは余りにも速すぎて目が追いつかなかった。
「ルフィーナ様、もう大丈夫。こっちこっち!」
レイアスが手で呼んでいるから恐る恐る立ち上がって周りを見渡した。
相手は既に縛り上げられているらしく、ジェイドだけが床に寝転んでいた。
「うううぅぅ!ジェイド!ねぇ、生きてる!?なんであんな無茶ばかりな戦い方するのー!?」
「ごめん、ちょっと情けないかも……。相手の方が思っていた以上に強くてギリギリだった。はぁ。良かった、生きてる」
慌てて駆け寄り、彼の頭を膝に乗せて全身を確認してみる。良かった、無事みたいだわ。
大きな怪我は無さそうだけれどそれでも傷だらけだ。
「大丈夫だよ。何とかなったみたいだ。夜明けと同時にアレクセイ殿下が来てくれる。怖い夜はもう終わったよ」
彼の、力が抜けた声を聞いてようやく安心できた。
良かった。本当に良かった。
こんな暴力に晒されるなんて、物凄く理不尽な世界だ。ジェイドとレイアスがそれに慣れている事がとても辛い事に感じる。
「はぁ~。それより、せっかくの見せ場だったのにね。情けなさすぎて」
「何言ってるのよ。どこが情けないのかしら?私の大切な翡翠はどんな場所でも一番だわ」
どんな事情があっても許してはいけない。
私の大切な人達を傷つけて壊そうとした人を許しては駄目だ。
彼みたいに活躍も出来ない私が偉そうに言える事じゃないけれど。絶対に許さない。
ジェイドとクロエを狙い、他の人を沢山傷つけてきた人を。どんな事情があっても許したくもない。
「眉間に皺が寄ってるよ。珍しく難しいことでも考えてる?お嬢様」
「ちょっと。人が決心している時に――」
「物凄くキスしたい。いい?お嬢様」
優しく微笑んで、私の頬にそっと触れる。うん。やっぱり私のジェイドが一番素敵だわ……。
「レイアス、クロエの様子を見てきてくれるか?結構臆病だから、気を晴らしてやって」
ジェイドが、側に居たレイアスに声を掛けた。
追い払うつもりだろう。
それに応じる声も聞こえたが――。
私はクロエの名前を聞いて、我に返り心配で仕方なくなった。
そうだ。ただでさえクロエは夜が怖いのに――!
またこんな目に遭うなんて!どれだけ恐ろしかっただろう。さっきまでお互いに震えて抱きしめ合っていたのに。私の薄情者!
しかも、ジェイドが心配で慰めてもあげなかったなんて!
「クロエーー!ごめん、大丈夫?泣いてない?もう怖くないよ!全部終わったよ!」
パッと立ち上がり、クロエに向かって走っていく。
後ろで、ゴンッ!と音がしたが気にしていられない。震えているかもしれない彼女を慰めなければ!
「お嬢様ーー!怖かったですね!うぅぅ、またお嬢様がギュッとしてくれるから大丈夫です」
「うん、そうだね。怖かったよね。もう大丈夫だよ。約束してた通りに二人で旅行に行こうね」
私にしがみついて来るクロエが可哀想で、お互いにその場所が馴染みすぎていて。
私は後ろの二人の会話が聞こえていなかった。
◇◇◇
「ルフィーナ様って、随分と君の扱いが適当だよね」
「言うなよ……。傷つくだろ」
「クロエって随分と強かになったね。今、君の顔を見てドヤって顔してたよ」
「言うなよ。妹に嫉妬したくなるだろ」
◇◇◇
明け方になり、ジェイドが言った通りにアレクセイ殿下が公爵邸に騎士達を連れて突入してきた。
「敵の捕縛を!被害者はいるか!?怪我人を集めろ、手当てをする!公爵と令嬢の無事を確認しろ!」
アレクセイ殿下の指示で次々と縛られて連れていかれたり、山積みにされてるのは遺体か――。
本当に殺しに来ていたんだ。
今更ながらに震えが走る。ジェイド達が居なかったら私達も――。
使用人棟には被害が無く、庭で十数人の暗殺者が死んでいたという。その中でも数人の生き残りが尋問にかけられる事になった。
その中には、側妃の護衛騎士もいた。
アレクセイ殿下は、この襲撃事件を世間に公表し、現在『英雄』と謳われている公爵の襲撃事件を重く見ていることを明らかにした。
しかし、襲撃に関わった第四近衛部隊については言及しなかった。
これについては仕方がないのかもしれないけれど、やっぱり権力者の狡い所が垣間見える。
「君がジェイドの婚約者だね。従兄弟のアレクセイだ。彼とは親友みたいな間柄だから、これからもよろしく頼むよ」
そんなアレクセイ殿下に、気軽に話しかけられてとても驚いてしまった。慌てて挨拶を返す。
「お初にお目に掛かり光栄です。ルフィーナ・セイムズと申します」
「そんなに固くならなくていいよ?もう親戚みたいな間柄だし。きっと長い付き合いになるからね?」
「ルフィーナ、君の好きな小説の王子とは違うからね。腹黒で利己的で人を人とも思ってないからね」
隣では、ジェイドが嫌そうに舌打ちしてから、小声で話しかけてくる。
こらーー!私の印象も悪くなるでしょうが!
「ジェイドもお疲れ様。いやー、従兄弟どのは優秀で素晴らしいね!ここまでの成果を出してくれるとは嬉しい誤算だ」
「お褒めに預かり光栄です。人質に囮役まで出来る、最高の人材でしょう?」
それは褒めていない気がするわ。アレクセイ殿下はとても癖が強い方みたいね……。
それに応じるジェイドの辛辣な言葉!
従兄弟だからよね?気の置けない仲ってやつなのよね??
でも、公爵邸襲撃の情報が既にあったのなら助けてくれても良かった。きっと本当に囮にして公爵暗殺未遂の容疑を固めるつもりだったのね……。
ジェイドが愚痴をこぼす理由の一端が垣間見えた瞬間だった――。
「エマ!メアリー!良かった、二人とも無事だったのね!」
こちらの被害状況は詳しく教えてくれなかったが、エマとメアリーに再会出来た。いつもは使用人として一線を引いていた彼女達も、生き残った高揚感からか私に抱きついて無事を確認し合った。
「ルフィーナ様とクロエ様もご無事で良かったです!」
「ええ。ずっと心配だったんですよ」
メアリーは力強く、エマは優しく労ってくれた。
後の事はアレクセイ殿下とジェイドが処理するという。私達の戦いは、ここで終わったようだった。
「クロエ!夜が明けたわよ!これからはいつも通りの明るくて楽しい一日が始まるといいわよね」
「ええ、お嬢様。――旅行の件は絶対の絶対に約束ですよ?」
二人で顔を見合わせて微笑み合う。
でも、頑張ってくれたジェイドとレイアスにもお礼を言わなくては。何かご褒美をあげなくちゃね。
レイアスは散々フラグを立てていたから、それを叶えて更にボーナスを追加ね。
ジェイドは――。きっと自分から強請ってくる気がするわ。ご期待に添えられるか分からないけど、沢山甘やかしてあげよう。二人きりで。
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