38 ジェイド視点〜 側妃の護衛騎士と対決
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
部屋を移動し、また警戒する。
後ろからシーツでグルグル巻きにされたクロエを抱き上げてレイアスが付いてきた。
後で二人を迎えに行こうと思っていたが、手間が省けた。気が利く奴だ。
正直、側妃の側近が自ら襲撃に参加するかは五分五分だと思っている。
そして公爵家が襲撃された時点で、アレクセイにも連絡が入っている筈だ。持ちこたえれば、襲撃者と共に裏で動いている人間の蛮行が白日に晒されることになる。
レイアスは見事に「黒い狼」を屠ってくれた。
泥を被りながら、それを啜りながら生き永らえてきた俺達に、反撃されてさぞ悔しい事だろう。
所詮は上からお膳立てされた舞台で、活躍しているだけだ。
(この場に側妃のお気に入りが居れば完璧なんだが……)
どうだろうか。来るだろうか?外のギルド員には、それらしき人物は見逃して屋敷に通すように伝えている。
そうなれば『公爵家を襲撃して、暗殺しようとした疑い』をかけてやる。
廊下に響く微かな金属音でそれが確信に変わった。
今度は、俺がレイアスの前に立つ。
扉の正面に陣取り、剣を最小限に振るえるように中段に構える。
もし、本当に奴が来たらこの剣で受けるのは無謀だ。
体格が違いすぎる。
レイアスみたいには楽しめないが、久々の戦闘に血が湧き上がり、自分の心臓の音が頭に響く。
――最悪、汚い手段は色々と用意はしているけどね。
根っからの騎士なら、正攻法で倒さないと心から敗北を認めない。
来い。早く来いよ。
外の空気で大体わかるんだよ。
後ろでレイアスも警戒している。
秘密裏の襲撃の筈なのに、鎧の音が微かに響く。
暗殺者ではあり得ない。
フルアーマーでは無いだろうが……。鎧が厄介かもしれない。狭い部屋の中では、騎士の長剣は不利だが――。細身の剣から、叩き切る大振りの剣に持ち替えた。
一撃の力技で来るか?
素早い動きで、巧みな剣技で来るか。その両方か。
まぁ、あの大柄な体格だと大体の予想がつくが。
側妃が出してきた貴重な手持ちのカードだ。相当の実力者だとも聞いた事がある。
――俺よりも強い奴だと思っておいた方がいい。
しかし俺の大切な物を狙うって考えに腹が立つ。
どいつもこいつも、他人を利用する事しか考えない。
見返してやる。後悔させてやる。
誰に手を出したか身を以て知ってもらおうじゃないか。
次々とドアを開けて探している音。
扉に注意する。目の前に敵が立つ気配がする。
来るか。向こうにもこちらの気配が伝わっている筈だ。
――すると、次の瞬間には物凄い音と共に扉に斜めに切れ目が走った。
もう一回剣撃が加えられ、その威力で扉の破片が吹っ飛んでいく。そして扉の取っ手や蝶番が外れてこちら側に破片が転がる。
(……な!この馬鹿力が!)
隙間から覗けるその顔には見覚えがある。
まさしく側妃の側近だ。鎧を着込んではいるが、やはり目立つからか最小限に抑えている。
扉に蹴りを入れて、こちらに入ろうとする相手に横から剣を振るう。右腹を狙ったそれは簡単に防がれるが。
後ろに下がる選択肢は無い!
相手が押し返し、こちらの剣を上に飛ばそうと更に力を入れた所で手首の力を抜いて受け流す。身体を反転させ、首元へ剣を振るう。
――が、その太刀を敵は腕で受け止めた。
くそ!この距離で――!?
普通なら致命傷だ。
だが、不安がずっと晴れない。
流石に甘くないだろう。だが、装甲があるとはいえダメージは与えた筈だ。
一瞬後。相手の殺気が増幅した。
来る!
最小の動作で俺の喉元から顔面を狙って突きが繰り出された。
ギリギリで、相手の剣を避ける。
動作が最小で読みにくい!
返す刀で敵の肩口をまた狙う。
多少、効果があったか、相手の意識が自身の剣に向かった。
その隙に、受け止められた剣を回転させ下から斬り上げ顎を狙う――!
寸前で、身体を仰け反らせた相手は傷を負いながらも致命傷を受けていない。
駄目だ!相手も接近戦に慣れている!甘く見すぎた結果がこれだ。
(くそ、かすっただけだ!でも殺しては意味がない!)
体勢を崩しながらも、敵は右手だけでこちらを突き刺すべく、剣を繰り出してくる。
――この体勢でも剣撃を!
ギリギリで体を反らし避けられた。先程の攻撃は危なかった。……死ぬかもしれない。
相手が体勢を崩している、その足を更に狙って蹴りを入れるが、上から振り下ろされる剣――!
ヤバい……!
――ギィーンッ!
激しく打ち付けられる二つの剣。
片手で、体勢を崩しながらもこの重さ。
こっちは両手を使ってるってのに――!
(くそ!やっぱり正攻法じゃ無理がある!)
受け止めた剣を滑らして、無理やり下から斜めに斬り上げる。
間合いを取らずに畳み掛ける!
入り口近くだと壁が邪魔で、相手は大振りな攻撃が制限されている、筈なのに。
――今、この場所でしか勝てない相手だ。
切り上げた剣を翻して肩口から斜めに切り下ろし。
俺は勢いを殺さずに、そのまま相手に激突して押し倒した。しかし、余裕も無い。
――そして、重い!
この時点で、俺は本能的に悟っていた。
実力差がありすぎる。
このまま続けても、俺が死ぬだけだ。
二人で床に倒れ込む。
倒れたまま動けないように全体重を掛けて胸に乗り掛かり首元に剣を突き付けた。
だが、相手の降参なんて聞いていられない。
「レイアス!」
そのまま声を上げる。倒れ込んでも、相手は剣を手放してはいない。このまま刺されたら意味がない。
「了解!」
俺は首元に剣を突きつけたまま、レイアスに声を掛けた。既に動いていたのだろう彼が、相手から剣を奪い、更には自身の剣で敵の足を斬りつける。
その間、敵の空いた両腕が俺を何度も殴ろうとしてくる。左手は最初のダメージからか殆ど威力は無いが――。
懐からナイフを取り出し、両の腕に思い切り突き刺す。
「ぐっ……!」
「悪いね。女を人質に取るために襲撃する奴をまともに相手するのが馬鹿らしくなった。それに流石の実力者だな。普通にやったら勝ち目がない」
「じゃあ、僕は足を潰しちゃうね」
俺が首元に剣を突きつけている間にレイアスが何度も足を斬りつけている。いくら防具があってもあれではもう歩けないだろう。
「もういい。死なれたら困るって言ったろう」
「はいはい。結構危なかったじゃん。任せて後悔する所だったよ」
確かに危なかった。ここまで強いのなら何故側妃の護衛騎士なんかやっているのか。
――あんな女の為に。ここまで鍛えた剣をこんな所で振るうなんて馬鹿げている。
「なあ。これからお前の本格的な尋問が始まるんだけど――その前に聞いてもいいか?」
相手の答えなんて期待してもいないが。流石に疑問に思っても仕方がないだろう。
「なんであの女の為に命を賭ける?何故あの女の命令で動くんだ?」
「……お前達に言っても理解出来ないだろう。尋問されるくらいなら――」
「おっと、自決なんてさせない」
その口にナイフの柄を突っ込む。
舌を噛むつもりだったか、毒を仕込んでいたか。
だが、せっかく苦労して捕まえた獲物だ。
使える所は余すことなく利用しないと勿体ないじゃないか。
「安心していいよ。『媚薬』みたいな薬がこの国にも存在しているから。主に自白させる為に使うんだが、お前は裁判に掛ける為にちゃんと調整してくれる筈だ」
もうすぐ夜が明ける時間帯だろう。
アレクセイが騎士団を連れてやってくる。
――ああ、疲れた。
レイアスが居なかったら本当に危なかった。
ちょっとくらい良い所を見せたかったのに格好悪いな。
彼女たちを安心させなきゃいけないのに――。
(はぁ、やっぱり。最後まで格好つかないわ、俺 )
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