33 ネイムレス②
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「お久しぶりです、レイアス。劇場内では大変でしたね」
「ええ、ありがとうございます。お久しぶりです」
黒髪に顔全体を覆う銀の仮面。
『名前のない男』、情報ギルドのジェイドの協力者。そして、下で働いていたレイアスさえも数回しか会ったこともない相手。
「なかなか会えないので、直接伝えられなかったけれど、あの時ジェイドと僕を助けてくれてありがとうございました」
レイアスが深々と礼をする。
ネイムレスはそれに、頷きながら言葉を返す。
「前にも言ったでしょう。私は君達の『将来性』に投資したと。さぁ、そちらのお嬢様方を紹介して下さい」
『将来性』に投資?
ジェイドの本来の肩書きを知っていたから助けたのかしら。ならば何故、今までそれを利用しようとしなかったの?
「初めてお会いします。ルフィーナ・セイムズです。ジェイドから少しだけ聞き及んでいます」
一歩前に出てレイアスに並んで挨拶とお礼をする。
甘く見られては駄目だ。
見透かされている気がする。
「クロエ・ベルンストです。はじめまして。兄がお世話になりました」
クロエが続いて挨拶する。
――レイアスが言っていたじゃない。
彼にとってジェイドとクロエは特別だと。
見極めろ。
『彼』の表情を。――仮面で分からないけれど。
味方になり得る人物なのか違うのか、見極めないとジェイドを助けられない――。
「そんなに身構えないで大丈夫ですよ。どうぞお座り下さい」
「ええ、ありがとう……」
彼に促され私とクロエは席についたが、レイアスは立ったままだった。
(ここに来て、全部私に任せる気じゃないでしょうね!?)
でも仕方がない。これは私に関わる問題なんだから。
ジェイドを取り戻す――その為に自分で動かなければ。
「ジェイドがここでお世話になっていたと聞いています。ありがとうございました。でも――何故私達に会ってくれたんですか?滅多に会える方ではないと聞いています」
――そう。先走っては足元を見られるかもしれない。
こちらがすぐに頼み込むと、不利な状況になるかもしれない。相手のテリトリーで、呼び出されているこの状況で余裕をなくしたらきっと手玉に取られる。
「まずは、そちらのお話から聞きたいと思いますわ。私達に何かご用があるからこんな所に呼び出してくださったんでしょう?」
緊張するな。余裕を見せなければ。
慣れた笑顔で首を傾げる。
「先にご用件をお伺いしますわ。私達に何かご要求があるのでしょうか?」
強気でいかなきゃ、この空気にのまれてしまう。
そんな私の虚勢なんて通じない相手だろうけれども。
「そうですね。何から話しましょうか。まずは、彼の現状ですかね。翡翠の君は、ある意味第一王子に匿われている状態です」
匿われている?身代わりのために囚われているのではなく?――何故第一王子の行動を断言出来るのか。
「彼の行動力は知っているでしょう?幼い彼が、自分の力で復讐を成し遂げた。何故、今回の劇場の火事が起きたのか。考えてみましたか?」
「それは、考えました……が、私には答えが見えてきません。ジェイドと側妃様に因縁でも?彼女が犯人だとしても、直前に怪しい動きをしすぎて逆に分からなくなるんです」
そう。普通は自分の犯行は隠すものだ。
でなければ相手を挑発している。
――挑発?ジェイドを?
「ジェイドの自滅を狙っているのでしょうか……」
「少なくとも第一王子はそう考えているという事です」
第一王子の方は、彼に情があったとしても結局は王族。優秀な方だと聞いているから、個人的な感情より国を優先するだろう。
それでも違和感は残る。
それは側妃の考えだ。
自ら、ジェイドの前に出てまで憎まれ、そして直接狙われる役を演るなんて?普通は他の誰かにやらせそうなものだ。
「側妃様は、まるでジェイドに憎まれるのを望んでいるみたい……」
思わず、呟いた独り言。
それを聞いたネイムレスが目の前で拍手をした。
――は?
いきなり何?今のが正解だって事?
「なんの真似でしょうか。今の発言に対してですか?」
「流石は翡翠の君が大切にしている姫君だ」
「それはありがとうございます。――何故側妃様や殿下の考えが分かっているようにお話を進めるのでしょう?」
ジェイドの恩人で、味方になり得る人物なのに全てが疑わしい。王族とも繋がりがあるのだろうか。
「いえ、あくまでも全体像を見ただけの『私の予想』にしか留まりません」
――回りくどい喋り方をする人ね。疲れるわ……。
まるで舞台の俳優のような大袈裟な身振りね。
「要は、第一王子はジェイドの敵ではなく、側妃様はジェイドを何らかの形で挑発して自滅させたがっているって事でいいですか?勿論、『貴方の予想』では」
仮面って厄介ね。表情も読めないし、この人の態度もよくわからないわ!
レイアスは口を挟んで来ないし、クロエは……。
クロエは態度が変ね。
会う直前まではあんなに緊張して構えていた筈なのに、今は何かを考え込んでいる。
「そういう思惑は今は置いておいて、ジェイドが心配なんです!彼が本当に反逆者になってしまうのを止めたい」
「ええ、私も同じです」
そう言って、彼は両手を広げた。
いちいち芝居がかった仕草ね、本当に嘘くさい。
「この情報ギルド『鴉』は彼の為にあるのです」
「え?」
クロエもレイアスも初耳みたいだ。
二人ともそれぞれ驚いている。いや、レイアスも知らなかったのか。
「元々、我々はベルンスト公爵家の諜報機関だったのです。裏の人間と繋がりを持ち、陰から制御する為に作られたのがこの情報ギルド『鴉』です」
――おお。いや、情報ギルド自体を知らなかったから驚き方が分からないわ。
でも、成る程。
だからジェイドの味方になってくれるのね。
「じゃあ!何故五年前の事故が防げなかったの!?」
クロエが大声でネイムレスに問いかけた。
五年前の事故、それはクロエ達の両親の……。
「あれは――。申し訳ありません。我々の失態です。前公爵に味方する『鴉』のメンバーも居たので、その混乱に乗じて、あの事態を起こされたのです」
クロエに深々と頭を下げるその姿には、彼の悔恨も伺える。
「クロエ、後で詳しい話を聞けばいいわ。……ネイムレス、私は第一王子を信用していません。取り敢えず、ジェイドと接触したいんです」
彼女の気持ちもわかるが、時間もない。
ジェイドの行動も分からない。
第一王子が唆すかもしれない。
側妃が自作自演で罪を仕立て上げるかもしれない。
「どうにか、彼に会う方法はありますか?」
「その為にお呼びしたのです。翡翠の君をお救い下さい」
「だから、どうやって?」
気障ったらしい。回りくどい。ズバッと結論を言ってくれない。面倒な人ね、本当に!
「第一王子から私に接触したいと散々お誘い頂いております。きっと、彼の本当の目的は『私』でしょう」
「貴方に協力者になってもらいたいから、王宮に匿われているのね?彼が側妃の罠に掛かって酷い目に遭っては居ないのね?」
安心した。
もし不当な扱いを受けていたらどうしようか不安だった。この際、冤罪を着せて彼を消そうとするのではないか――その考えが頭を離れなかったのだ。
「ええ、監獄から自力で脱出してアレクセイ殿下のもとに辿り着いたようです。流石は私が育てた諜報員です」
「監獄ーー!?」
「兄は監獄に入れられてたの!」
あまりにも強引過ぎる、その予想以上に酷い状況に私達は声を上げた。まさか現公爵を、只の疑いで即刻牢獄に入れるとは思わないじゃない!
「まずは、側妃の自作自演を明らかにしないといけませんね」
「それこそ絶対に認めないでしょう?」
「後は、あの劇場の火事について調べていきましょう。既に、あの火事で生き残った関係者の中で怪しい人物に当たりをつけています」
「――!そうよ、もし側妃の仕業なら罪を償わせないと……!」
あの日の地獄を作り出したのが彼女なら、捕まるのはジェイドじゃない。
沢山の人が亡くなったのだ。
あの火事こそ、しっかり調べる必要がある筈だ。
◇◇◇
彼女達三人を見送った後――。
ずっと黙り込んで、こちらを見ているクロエを思い出した。
(クロエ嬢は気付いたかもしれないな……。ジェイドも気付かない振りをしていただけだった)
双子が幼い頃に王宮で会ったことがある。
あの時とは違う立場で、挨拶されたものだ。
だが、あの時『殺された』自分はただの『名前のない男』。
――側妃オーガスタ。
隣国から和平の人質同然に送られて来た一六歳の少女を思い出す。
まだまだ純粋で無知な、ただの少女だった。
当時は何の権力も持っていなく、彼女の周りはとても厳しい環境だった。
侮られないように、高慢に。
傷つけられないように、徐々に周りを籠絡する術を学び。
――何故ここまで、歪んでしまったのか。
そんな事は分かりきっている。周囲の悪意に染まっていったのだ。
それはこの国の罪でもある。
過去に彼女を救えなかった、逃げ出した自分の罪でもあるのだ――。
だから、アレクセイ殿下に会う。
とにかく、ジェイドは大恩ある人の息子だ。
こんな強制的な罠に掛かったまま見過ごせない。
過去と向き合う時が来たのかもしれない。
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