32 ネイムレス
よくあるゆるふわ設定です。
ご都合主義でも温かい目で読んで下さると嬉しいです。
「治安が悪いから気をつけて。絶対に僕から離れないでね。後はあまりキョロキョロしない事、特にルフィーナ様!」
レイアスから案内された場所は、色街――。
所謂、娼館が多く建ち並ぶ所だった。
夜の風俗街は想像以上に活気があって驚いてしまう。
「色々な拠点があってさ。今回はここを指定されたんだ」
出発直前に、着替えろと言われた理由がこれなのか。
私とクロエは肌の露出が高い、娼婦を真似た格好をしている。
「ほら、バレない様に二人とも僕の腕に絡みついて」
「はいはい。それでダーリン、その『彼』に何を話せばいいかしら。素直にジェイドを助けてくださいってお願いするのが無難なの?」
彼の腕にしがみつき、これからの流れを相談してみた。人柄も何も知らない相手にどう対応したら効果的なのか。
「それが、僕にもさっぱりわからない。でも、呼び出しがあったんだから向こうも話があるって事だよ。まずは向こうの話を聞くのがいいかもね」
「あんたとジェイドは面識があるんじゃないの?」
クロエも腕を絡ませながら質問している。クロエの方が胸が大きくて、衣装が似合ってセクシーだ。……嫉妬なんてしていない。絶対にだ。
「僕が実際に会ったのなんて一度か二度くらいだよ。後は連絡役とのやり取りだけだった。ジェイドだって数回しか会ったことない筈だよ」
幼いジェイドを助けてくれ、諜報員として雇っていたギルドのボス――。
どんな人なのかしら。
「本当に謎の人物ね。物凄い犯罪者で国に追われているとかかしら」
「どうでしょうね。それなら、ジェイドと私を助ける意味がわかりません。それに、何故ジェイドはそのギルドの存在を知っていたのかも謎です」
レイアスは、そこで足を止め、目の前の建物を見上げて言った。
「さあ、ハニーたち。今夜はここで思う存分に動いてみようか」
ダサい。レイアス、それはモテないわ。ジェイドの方がもう少し上手く言った気がする。
そこは少し寂れた雰囲気の場所だった。
目立つ所もなく、人の出入りも少ない、儲かりそうもない娼館。
「これ、オーナーに渡してきてくれるかな。呼び出されたんだけどね?レディにはあまりいい環境じゃないから早めにお願いね」
入り口に立っていた客待ちの娼婦に何かを渡している。
それを見た彼女の雰囲気が変わり、頷いて扉を開けて私達を中に招き入れる。
「いいわ。取り敢えず、普通客の部屋に通すからそこで待ってて」
大サロンでは刺激的な女性が並んで座って寛いでいる。
――うわ!ほぼ裸じゃない!
その女性達の前で、貴族か富裕層の男性が見定めているようだ。
レイアスは娼館内をあまり見せたくないようで、私達の腰を強く抱き、その頭を自分の身体に押し付けて足早に歩いていく。
――これは私達の視界を塞いでくれているのよね。
「レイアスが気遣ってくれているわ」
「意外と常識はあるんですよ、あれでも」
クロエと私が囁き合う声が聞こえたらしく。
少し拗ねた口調で聞いてきた。
「君達、僕をなんだと思ってるのさ」
「ただの昔馴染みね」
「もう身内扱いだって言ったじゃない。従兄弟(仮)よ」
少し彼の肩が下がった気がする。まぁ、ただの演技だって分かってるんだけれど。
「嬉しいのか嬉しくないのか、わからない微妙なお言葉をどうも」
目の前を歩いていた彼女が立ち止まり、親指でその部屋を示す。
「じゃあ、素敵な夜をお過ごしくださいね」
うん。早く部屋に入りたい。何故廊下でも絡み合う必要があるのか。いや、そういう場所だから仕方がない。
「じゃあ、言われた通りに素敵な夜を過ごしましょう」
レイアスとクロエに声を掛けた。
ここからが本番だ。でも、私一人じゃない。
実は頼りになるレイアスがいる。
いつも通りにクロエも側に居てくれる。
私達は、その扉を開けて入っていった。
◇◇◇
「うわ~……」
小さな部屋の中心に大きなベッドが置いてあるだけ。
後は鏡台と小さな机がある。
お風呂なんかは、やっぱり高級な所にしか付いていないのね。
「お嬢様、危険ですから私の後ろに居てくださいね。小説では、ああいう軽薄な男は二面性を持っているんですから」
「……クロエ。僕たち兄妹みたいに育ったよね。酷い、流石にひどい……」
「可愛らしいお嬢様を見て豹変するジェイドが身近に居るから警戒するのよ」
レイアスに対してもジェイドに対しても容赦ないわね、流石はクロエ。
取りあえずはここで待っていたらいいのよね?
キョロキョロと辺りを見回すと、何やらオイルの瓶がある。あれは何かしら、変な形をした――。
「ルフィーナ様。あまり色々と見ているとジェイドに告げ口しますよ」
「ぴっ……!」
――何をよ!何もしてないじゃない!
興味があっただけよ!
その時、ノックの音がした。扉じゃなくて、奥の壁から?
レイアスが慎重に声をかける。
「……今は、忙しい。約束でもあったかな?」
「ええ。約束通りですよ。貴方なら仕掛けが分かるでしょうレイアス」
まだ警戒は解かないで、彼は私達を後ろに下がらせる。
そして木材で出来た壁を触り、鏡台近くで止まった。
「これだな」
比較的大きな鏡台を横にずらし、後ろの隠し扉を開いた。
その扉の先は地下に下りる薄暗い階段があり、その出口には更に部屋があった。応接室の様に大きなテーブルと椅子が用意されている。
そこに座っている、顔を仮面で隠した男――。
私とクロエはお互いに頷き合った。
「行きましょうか」
「はい、お嬢様。いつもみたいにガツン!とやってください」
それは物理的なことでは無いのよね。口で言い負かせと??
前から思っていたけれど、クロエの私に対する期待値が高すぎる……。
『ざまぁ』の次は『ガツン!』か……。
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