29 ルフィーナが目覚める前日〜 ジェイド視点②
ちょっと戦闘シーンに自信が無いんですが……。
ジェイドが頑張ってるなぁ〜位の感じでフワッとサラッと読んで下さると嬉しいです。
レイアスに後を任せ、強制的に王宮の馬車に乗せられて連れて来られたこの場所は、想像通りというべきか。
通されたのは王宮から外れた場所にある離宮の地下牢だった。石造りの冷たい空気に、染み付いた血の匂い。
普通は、貴族の容疑者ならばただ王宮の一室に軟禁されて監視されるだけだろう。
これでは、既に罪が確定した犯罪者だ。
――やっぱり嵌められたか。
「こちらへどうぞお入り下さい。後ほど尋問が行われます。それまでの時間、お寛ぎください」
(ちくしょう。ここで終わりか?こんな場所で尋問ね……)
容疑者として尋問という体だからか、まだ鎖で繋がれてもいないが、それも今だけだろう。
先刻、国王から褒賞を賜った人物を裁判も無しに地下牢へ。
そもそも、王宮に呼び出された時点で逃れられなかったのかもしれない。
まともじゃないな。これから行われるのは非合法な尋問か監禁か。
一応ベルンスト公爵家は王国の重鎮だ。
それを、側妃の毒殺『未遂容疑』で地下牢に入れるとは、これが世間に明るみになれば醜聞なんかでは収まらない。
――国王も絡んでいるのだろうか。
(これだから、誰も信じられない)
ルフィーナ。彼女は目覚めただろうか。
クロエは、また無理をしてないだろうか。
暗く冷たい石の上に座って色々と考える。
彼女達はレイアスに頼んだから大丈夫だ。
何かあれば、『ネイムレス』に連絡するようにも伝えてある。
(まぁ、素直に俺がここで拷問されて罪を認めると思っているのが笑えるけどね)
身体検査はされていない。
ぱっと見で剣を持っていないからと甘い事だ。
暗い地下牢の狭い廊下では囲まれる心配もない。
しかも有難いことに椅子に縛り付けられてもいない。
こちらを舐めて油断しているのか、独断で俺を牢に入れた事実を広めたくないのか――。
どっちにしろ、見張りの人数も少ない。
――甘く見てくれて有り難いね。
まずは、ここを開けなくては。
諜報活動をしていた経験が身を助けてくれる。
こんな古臭い牢獄にいれるからだ、どいつもこいつも古臭い錠前の惰弱性を知らない。
作りが簡単で何処も似た物を使っているから――。
靴底に仕込んでいた、細い金属製の道具。
そして、小型の仕込みナイフ。
命を狙われる状況が多い事から、この二つだけは身につけていたのが幸いした。
それらを取り出して細い金属を錠前に差し込む。
なるべく音を立てずに――。見張りの動きに気をつけながら。
何度か中を引っ掛ける様に動かすと、ガチャリ、と音を立てて開いた。
後はここを脱出するだけだ。
とにかく時間が無さそうだ。
――通路の奥と出入り口の前に見張りが二人。
どうせ脱走はすぐに気付かれるから、出入り口だけ目指す。外に何人居るか知らないが、何も出来ないまま拷問を受けるなんて御免だ。
心の中で数を数える。
いち、に、さん――!
牢の扉を思い切り開けて、入り口まで走り寄る。相手が動揺している間に露出している顔、その両目を狙い斬りつける。
鎧を着込んでいても、顔を出していては意味はない。
戦場ではないから仕方はないが。王宮の兵士は見栄えを重視しすぎだ。
――だから甘いんだよ!
「ぎゃぁぁぁ!!」
目を斬りつけられた兵士は絶叫するが、構っていられない。
ここは少しでも早く動かないと命取りになる。
早く脱出しなければ……!
(誰が尋問に来るか知らないが、もっと兵を連れてくる恐れがある)
扉に手を掛けるとやはり。出入り口自体もさっきと同じ様な古臭い鍵だった。
ただの貴族のお坊ちゃんなら、通じたかも……なっ!
すぐ後ろまで走り寄って剣を振り上げたそいつの横腹を蹴って真横の壁に叩きつける。
その衝撃で取り落とした剣を拾い。
そして、剣を横に一閃して同じ様に兵士の視力を奪う。狭い牢獄内に悲鳴が響いた。
だが、生憎と拷問用なんだろう?
声は外までは届かない。
――よし、殺してはいないな。
後で反逆の証拠にでもされたら面倒だ。
既にこの状況では遅すぎるかもしれないが……。
手に持った剣を振ってみる。質はあまり良くないようだが十分だ。仕込みナイフを元の位置に戻し、倒れて絶叫している兵士二人の顔を剣の柄で殴り気絶させた。
服装も変えたい所だが、あまり時間はないだろう。
(途中で使用人か兵士から奪えばいいか)
地下牢の扉をさっきの要領で開けて階段を駆け上がる。
地上に出たら、身を隠す場所があればいいが……。
さっき連れてこられた時に見た、小振りな林がいいだろう。俺が居ないことに気付かれると捜索されるだろうから、誰かに――。
そう考えた時に、利害が一致している唯一の人物が思い浮かんだ。
馬車を止め、『第一王子』からの命令だからと連れてこられた。
公爵を拘束して、すぐに牢獄に入れる程その権力は強くない。
秘密裏に動くなら、まずその名を出す愚か者は居ない。わざと不信感を煽ったのだろう。
(仕方がない。アレクセイを頼るしかないか)
彼の宮殿には顔見知りも数人居る。
ここからだと――。
東の方向だな。急ごう。
このまま、黙って反逆罪で処刑なんて。
俺の性に合わないんだよ!
まだ残っていた兵が後ろから斬り掛かってくるが、横に避けながら斬りつける。
離宮で人通りも少なく、庭園も荒れているのが幸いした。
だから相手もここを選んだのだろうが――。
――好き勝手やっていると反撃されるって事も覚えておけ!
従兄弟、アレクセイ。
側妃と対立している第一王子。王妃の実子で血統も素晴らしく、優秀で判断力に優れ、時に非情な王子。
しかし彼は王に疎まれている。
本当に厄介な事態だ。
愚王が、どれだけ周りに迷惑をかければ気が済むのか。
――弟殺しだけでは気が済まないのか。
当時はまだ王子だった彼が、優秀な実の弟を殺した話は有名だ。ただ、貴族の誰もが口を閉ざすしか無かっただけのこと。
事故として処理されたという話だが、また実の息子でも――俺にも繰り返そうとしているのか。
◇◇◇
人影を避けながら、アレクセイの宮殿に向かう途中――。
大勢の気配を感じて咄嗟に身を隠す。
やはり。
国王レオナルドに忠誠を誓う、第四近衛部隊の服装だ。黒い騎士服。――黒い狼。
彼らが進む先には俺が囚われていた離宮。
本当なら、このまま王宮から脱出した方が無難かもしれないが。
国王が絡んでいるなら、国の何処に居ても同じだ。
アレクセイに助けを求めても無駄かもしれない。
だが、運命を共同している仲でもある。
彼らが第一王子を廃し、第二王子に国を譲れば彼と俺は何らかの罪で消される可能性が高い。
(ははは、いや今現在消されそうだけどな)
幾ら、ベルンストとセイムズが手を組んで第一王子についたとしても、ここまで直接的に手を下してくるとは考えもしなかった。
第二王子派に国王が付いているから、ここまで強気な手段に出られるのか。
だが、不当な手段で俺を投獄した彼らは騒ぎようがないだろう。
そこに俺は居ない筈なのだから。
しかし、国王が絡んでいるからこそアレクセイに頼るのが無難か。
俺を差し出しても、彼と王妃に未来は無い。
味方を失うだけで将来的には自分も同じ道を辿ることを知っているだろう。
また一か八かの賭けになる。
(あぁ、もう!ルフィーナの侍従役を演っていた時がどんなに幸せだったか!)
俺の今後は見通しがつかない。
せめて早く目を覚まして、こんな権力争いから逃げ出してクロエと幸せになって欲しい。
レイアスの奴は信頼している。だが『ネイムレス』――。彼は動いてくれるだろうか。
出来るところまでやってみるしかない。
俺を裁判も無しに牢獄に拘束する権利は国王にも無いんだ。
そんな事をしたら貴族の誰もが反発するだろう。
ここはやはり、アレクセイに助力して愚王を廃してもらうしかないな――。
◇◇◇
(ここを過ぎれば、アレクセイの宮殿だ)
見知った顔は、執事長か、アレクセイの側近が確実か。
いきなり駆け込んでも大丈夫だろうか。
この返り血を浴びた姿でも、身分さえ証明すればいいかもしれない。
彼らは秘密裏に少数で処理したかった筈なので、人目に付くのは避けたい筈だが……。
「流石は市井育ちのベルンスト公だ。情報が入って救出に向かう前にここまで来ているなんて感服致します」
こちらに向かって来ている気配に身構えていたが、見知った顔なので警戒をといていた。
「久しぶりだな、ワグナス」
第一王子アレクセイの側近、護衛騎士のワグナス。実直な性格で、王子が自ら選んだ人材だ。こいつなら……。
「ご無事で何よりでございます。王子殿下がお待ちです。直ちに参りましょう」
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